ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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スプリングS(3歳牡/牝 GⅡ)


3歳時
いざクラシック戦線へ


 

 調教の出来は上々だった。

 1週前追い切りではウッドコースを単走で流すだけで4Fを54秒前半、最終では少し追われて52秒台前半に乗せた。

 アキさんを乗せて終い11秒台だが皐月賞も睨んで一息の仕上がりになった。

 調教後の馬体検査ではだいぶ体重が増えていたが、前走のアイビーSではガレて-4kgだったことを考えると+10kgでは大して上積みはないのかもしれない。

 

「センセイ、ここは勝ちに行っていいんですか?」

 井野調教師(センセイ)が馬上のアキさんに向かって頷いた。

「後々のことを考えるとここは賞金が欲しい。もし加算できなかったら福島か京都に行く羽目になるからな」

 

 重賞での2着はなかなかデカいのだ。

 降級制度がとうの昔に撤廃され、重賞2着の経験が一度でもあれば3歳GⅠではそうそう除外の対象にはならなくなった。

 重賞クラスを1つでも勝つと、人気の秋の天皇賞やジャパンカップにはさすがに足りないが春の天皇賞なら十分出られる賞金額となる。

 というかそもそも多額の賞金をもつ有力馬は春の天皇賞には来ず、近年は当たり前のように頭数割れしているから収得賞金などほとんど問題にならないのだが。

 

 井野調教師の話では今回も俺は穴馬になる予想だ。

 実績がイマイチであるのに加えて、美浦に帰ってきてから一本も坂路をこなしていないからだ。

 追い切りではそこそこのタイムだったとはいえ一流馬に分類されるにはまだ遅い。

 しかもひたすら単走なのであまりポジティブなデータはないと馴染みの記者(寺尾さん)から聞いたようだ。

 

 ちなみにその記者は俺に単勝5万突っ込む予定らしい。

 

 

 

~今週の重賞〈スプリングS〉~

……

………

⑥ジェルディサヴォア

アイビーSでは逃げ粘っての5着だが上位馬とは力差を感じた。陣営は皐月賞を見据えて賞金加算をしたいところ。直線の短い中山では有利かもしれないが、余裕を残した仕上げで坂路追いはなし。

………

……

関東調査班代表・友沢

 

 

 

 やはり重賞となると盛り上がりが違う。

 といっても先述した通り、スプリングSは穴場なのでまあこんなもんか、という感想だ。

 馬体重も+10kgの488kgで出走にこぎつけられたが、パドックのオッズ表を見ると単勝20.5倍で14頭中8番人気だった。

 これは勝たねばならないと一層気合が入るが、パドック周回はなるべくやる気が見えないようにダラダラと歩いた。

 号令がかけられ、アキさんこと上田秋信(うえだ あきのぶ)騎手が背中に跨った時にはオッズはさらに上がって21.1倍になっていた。

 

「おいコウヘイ、ジェルやる気ないのか?」

「いや、パドックに入るまではもうちょっとキビキビしてたんスけどね……」

 地下馬道に向かう中、コウヘイとアキさんがひそひそと話していた。

 一応演技なのだが、実績ない馬がやったら味方にも余計な心配をかけるだけだった。

「ああ、また詰まってやがる」

 アキさんが手綱を引いて止めた。

「若い馬は大体止まりますからね。さっさと行ってしまうジェルがおかしいんですわ」

 

 ここ数日天候がすこぶるよかったので、今日の馬場状態はパンパンの良である。

 もっと水を撒いてくれていた方が走りやすいのだが、昼の間に撒いても午後3時も過ぎればカラカラになっている。

「ラチ沿いの荒れ具合はあんまり気にならんか」

 アキさんが俺を内外まんべんなく歩かせて歩様を確認している。

 最内も躓くような穴はなく、これぐらいなら十分走り切れる。

 うっかりここで怪我などしたら大変であるから、おそらく井野センセイは少し外を回って欲しいと思っているだろうな。

 

 

<中山競馬場第11競走、皐月賞トライアル、スプリングステークスGⅡ。

14頭の出走各馬枠入りは順調です。1番人気ゲームジャッカル、すでに7番ゲートの中。これから偶数番号枠入り、3番人気ショウリノビシュ、10番ゲート……収まります。

最後は14番アズサコンダクター、ゲートに収まりました。係員が離れます……スタートしました!>

 

 

 完璧なタイミングでゲートを出た、と思った次の瞬間、フッと前脚が空を切るのを感じた。

 アキさんのタイミングが合わず重心が後ろにずれ、ややアオったのだ。

 

(マジかよ!)

 

 慌てて踏み込もうとするのをグッと堪える。

 無理やり重心を前に倒すとアキさんが激しく前方に吹っ飛ばされて落馬してしまうのだ。

 

 一呼吸遅れてアキさんが手綱をしごく。

 気持ちはわかるが手遅れだ。

 中山1800mはスタートしてすぐ内回りの1コーナーに入る。

 加速距離がないのと最初の急な上り坂でそこまでペースは上がらないが、無理をすれば坂の頂上から下りに変わる2コーナーで膨れてしまう。

 アキさんも諦めて中段7番手につけた。

 やや外目であるのだが、何とかポジションをキープできたため1番人気の奴がさらに外に取り残されていた。おそらく向こう正面で俺の後ろに下がるだろう。

 

 ペースはやはりスローだ。

 どの陣営も先手は俺だと目星をつけていただろうし、結局ハナの譲り合いの末、最初の3Fは36秒9。

 向こう正面に入るとアキさんの手綱に力が入った。

 終始外目だがこれぐらいロスした方が距離はちょうどいいし、3コーナーをアウトインアウトで回れる。

 

 1番人気の奴は俺の後ろに付いて我慢させるつもりだろうがそうはさせない。

 一気にペースを上げ、先団の外までポジションを上げた。

 後ろのアホはつられてペースを上げてしまい、さらに手前替えに失敗したらしく3コーナーで口を割りながら一気に膨れた。

 

(いっちょ荒らしてやる)

 

 差し競馬と考えれば完璧な位置取りだったのではないだろうか。

 さすがに4コーナーでは外に膨れたが、直線入り口では内外離れて先頭に並びかけた。

 アキさんが左ムチを入れてくるが、3,4コーナーをずっと右手前で走っていたので直線で左手前に替えてしまっている。

 もう外には誰もいないから左にもたれても問題はない。

 

 

〈先頭1番ミツバアモネアに外からジェルディサヴォア並びかけて4コーナーから直線、300を切って、先頭変わって6番のジェルディサヴォア。内で頑張るミツバアネモア。

それを交わして5番ピーキーシルバー2番手。内に潜り込んで14番の、アズサコンダクターが3番手争いに加わってくるが、押し切った6番ジェルディサヴォア先頭ゴールイン!

2着は5番のピーキーシルバー。3番手争い接戦となりましたが、わずかに内、1番ミツバアネモア逃げ粘ったように見えます。

着順掲示板1着7番ジェルディサヴォア、2着5番ピーキーシルバーと揚がって、3着争い写真判定です。確定までお待ちください〉

 

 

 上位人気3頭が複勝圏外だ。

 2着に入った5番のピーキーシルバーが最後いい脚を使ってくれたので着差は1馬身未満である。

 これなら皐月賞でもオッズは美味しくなるだろう。

 

「アキさん、おめでとうございます」

 後検量を終えてコウヘイが曳き綱を付けると、ウイナーズサークルに誘導してくれた。

 GⅡというだけあって新馬勝ちの時よりさすがに人は多い。そして長い。

 

「――そうですね、出遅れてしまったので初めて中盤での位置取りだったのですが、コーナーを上手く回ってくれましたね」

 

 なーんか出遅れは俺の調教不十分が原因だと言ってるような?別にゲート難じゃないぞ。アンタのタイミングが合わなかったんだよ。

 当然谷地オーナーも井野調教師も口取り式に参加していた。

 井野調教師はアキさんの騎乗に言いたいことがあるようだったが、オーナーは満足そうだ。

 

「これで3つ行けますね」

「そうですね。皐月の結果を見てからダービーでいいですか?」

「それでいいですよ。ただどうであっても菊花賞は必ず出してくださいね」

 最終の12Rはアキさんの騎乗予定はない(というより今日に至ってはスプリングSの1鞍だけである)ので、谷地オーナーの車で美浦まで送ってもらうようだ。

 帰りに酒の一杯でもおごってもらえることだろう。

 

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