ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

80 / 80

ナッソーS(3歳以上・牝 GⅠ)

馬番馬名アルファベット負担重量ゲート番前走オッズ
1チェスターライラックCHESTER LILAC561kg2ミドルトンS/225/1
2シールペルデュCIRE PERDUE461kg6コリーダ賞/18/1
3シーファイアSEA FIRE461kg5プリティポリーS/19/4
4ミンスターハープMINSTER HARP357kg3英オークス/13/1
5リンガスマイセッサRENGASMAISESSA357kg4日オークス/16/1
6ロズメアグレイスROSMEA GRACE357kg1愛オークス/15/1
7ウィスパリングローWHISPERING ROW357kg7リブルスデールS/112/1




水たまりにはハンカチを敷いて

 

 雨は一晩中降り続いた。

 朝の段階で馬場発表は当然のSoft()となっており、コースのみならず、芝生の観客エリアもぬかるみが目立つようになっていた。

 グロリアス・グッドウッド開催3日目はレディース・デイとなっており、主役は華やかに着飾った女性たちである。

 今どき1800年代のように、裾が大きく広がったフープスカートを履く人などまずいないが、それでもゲインズバラ・ハットやファシネーターなど、大きな髪飾りは、雨をしのぐテントの下ではややスペースを浪費することになった。

 それでも、音楽に合わせて踊るステップも、シャンパングラスの傾きも止まることはない。

 

 色香と華やぎが漂う雰囲気の中、中途半端に背伸びをして着飾ったもののやはりチグハグ感が否めず、最終的に学校の卒業式を髣髴とさせる、フォーマルではあるが地味な服装に落ち着いたのが谷地一家である。

 せめて妻と娘が着物を着てくれば話は早かったのだが、プロのスタイリストを呼ぶ時間もなく、着付けが出来そうにもないので断念した。

 あまり表立ってエンクロージャー内を歩き回れる恰好ではなかったので、今日は家族でレストランに直行していたのである。

 

 もともと谷地自身、レディース・デイの催しにはあまり興味がなかった。

 主役が女性たちということもあり、全体的にフェミニズム的な慈善活動を匂わせる面が強く、すでにGⅠを連勝している谷地は、「ノブレス・オブリージュ」の標的にされがちだったのである。

 まだこれが日本の女性や子供たちに向けたチャリティーであればそこまで抵抗がなかったのだが、どこの国の誰に恩恵が行くのかわからないチャリティーイベントには参加するつもりはない。

 獲得賞金の寄付など、鐚一文供出するつもりはなく、全額その腕に抱えて日本に持ち帰る心づもりであった。

 

 昼どきに現れてレストランに直行した谷地一家と同じように、リンガスマイセッサの始動もスローであった。

 サセックスSを勝利して堂々と帰ってきたシビアレコードにすっかり見惚れてしまい、夜が更けるまでテンションが高い状態で、若干睡眠リズムが狂っていたのである。

 結果、朝寝坊をしたリンガスマイセッサは予定より4時間遅れた朝9時ごろから朝食や曳き運動、ブラッシングなど、朝支度を行った。

 それでも決めるときは決めるのが令嬢の嗜み。

 馬運車に乗せられたときには毛艶も綺麗に整っており、鬣と尻尾のアクセサリーも忘れない。

 何をやらかすか分からないので、一応仮面(メンコ)とホライゾネットを着けてパドックに踏み入れた。

 

 その姿を見た谷地が不服そうに、タンタンと杖を地面に打ち付けた。

「せめてホライゾネットは外しませんか。見た目が悪すぎる」

 レースでは外すメンコなので頭絡の上から被せられており、当然、頭絡に装着されているチークピーシーズにも被っているわけで、ボコボコと歪な形に膨らんでいるのである。

「暴れるかもしれませんよ?」

「仮面舞踏会ならまだしも目隠しはないでしょうよ。奴隷じゃあるまいし」

 仕方なく井野が周回中のリンガスマイセッサに駆けよって、中村厩務員に、外せ、と指示をした。

 

 メンコが外されると、パドックを楽しんでいる群衆から、おお、と声が漏れるほど見事に左右対称な剣型の流星が姿を現す。

 リンガスマイセッサは一度小さく鬣の水を飛ばしたあと、首をスッと下ろして周回を再開した。

 今日は前を歩くミンスターハープに嫌がらせをする余裕はない。

 ド派手に着飾った女性たちに群がるパパラッチたちのカメラをもう一度、こちらに向けさせなければならなかったからだ。

 首は低く伏し目がちながら、鬣と尻尾のリボンは見えやすい高さに保ち、雨音にかき消されないように蹄鉄を鳴らしながら周回を重ねている。

 

 ここまですれば、ベストターンドアウト賞は確実で、リンガスマイセッサから離れられない中村厩務員に替わり井野が3日連続の表彰を受けている間に、進藤が谷地のもとに歩いてきた。

「進藤君、任せたからね」

 はい……、と、進藤が雨にかき消されそうなほど小さく返事をした。

「リンガスは相変わらず身嗜みには神経質だからね。前だろうが外だろうが、泥被らない方がいいかもしれないね」

「外……。外ですか……」

 

 周回を止めたリンガスマイセッサが進藤の方に歩み寄ってくると、谷地に向かってシッシッ、とばかりに尻尾を振り回した。

「オーナーは蝿ですか」

 表彰式を終えた井野が笑いながら戻って来たが、井野も、フン、と鼻を鳴らして顔を背けられている。

「センセイ、今日、どうすればいいんですか」

 ずっと下を向いていた進藤が、吐きそうな顔で井野を見上げた。

「乗りたいように乗れ。でなきゃ、走りたいように走らせろ」

 リンガスマイセッサが、早く乗りなさい、とばかりに、進藤の肩に顔を乗せた。

 

 雨が降る馬場に出てゴールポストを通過した後、コースを逆走し、スタート地点に向かう。

 スタート地点は8の字コースの頂点にある引き込み線なので、ほとんどコースを丸々戻るようなものだった。

 進藤はリンガスマイセッサの口向きだけを操作し、複雑なコースを間違わないように誘導するだけで自由に歩かせた。

 するとリンガスマイセッサは前に馬がいない位置を選んで歩いていく。

 やはり泥をかぶらない場所を選びたいようだと、進藤は確信した。

 ゲートまで残り400mという辺りから軽く走らせてみたが、さほど走りづらそうという感触はない。

(勝手に好きなところを走ってもらおうか)

 輪乗りが始まるまでずっと考え込んでいた進藤が、ついに結論を出した。

 

 馬主や調教師らが観戦する関係者席はゴールポストのほぼ正面、リッチモンド・エンクロージャー・エリアにある。

 当然、こちらからではスタート地点が見えない。

 それだけでなく、雨によって視界が短くなっており、肉眼では残り2ハロン地点ほどまでしか見えない状態で、結局スタートから最後の仕掛けどころまでほとんどをターフビジョンに頼らなければならなかった。

 

「団子はきついですね。マコがまたやらかす」

「ラビットらしい馬もいませんし、欧州競馬はコレだから」

 井野のボヤきに、谷地もターフビジョンを見上げながら言った。

 大抵ペースメーカーは戦績を見れば一目瞭然なのだが、今年の出走馬は皆前走が最低でもGⅡクラスであり、順調にステップレースを消化してきたような実績馬がそろっている。

 また、ペースメーカーを置こうにも、牝馬ではタイムを作るような絶妙な競馬をこなせるような馬は少なく、そもそもそういう馬は普通に強い。

 

 ゲートが開くと、やはり誰も押し上げる様子はなく、騎手は皆、腰を浮かせている。

 右回りコースではあるが、トップベンドのコーナーに入るまで常に緩い左カーブとなるコースなので、そこまで位置取り争いが激化するわけでもなく、ほぼ全馬が枠なりで進む。

 そんな中、馬場の真ん中からスーッとリンガスマイセッサがリードを取っていった。

「マジかよぉ」

 ターフビジョンを見上げる井野は両手で頭を抱えた。

「いやあ……そう来ましたか」

 谷地も口をゆがめて笑う。

 井野はこれでリンガスマイセッサに変な癖がついてしまったら、今後の調教をどうしようかと既に胃が痛くなってきている。

 

 リンガスマイセッサは最初の下り坂でどんどんリードを広げ、反対に上り坂ではリードが少しずつ詰まっていく。

 進藤はとくに促したわけでもなかったが、スタートからの下り坂でリンガスマイセッサが止まらなかったのでそのまま行かせたのだ。

 先頭ならば泥被りも気にならないので、下手にここから馬群に埋めるより馬なりでいいと切り替え、必死にコース形状を思い出していた。

 

 どこで息を入れるか、どこで手前を替えさせるか。

 前に上田騎手が、ジェルディサヴォアで逃げる時に考えていることを教えてくれた。

 なお実際はジェルディサヴォアが全て勝手にやっているので、手前を替えさせる技術については大したことはない。

 リンガスマイセッサは下りの時は大飛び、上りではピッチを使い分けるタイプである。

 だが当然、脚の回転数を上げればスタミナを消耗する。

「ロー、ロー、ロー……」

 上りに入ったところで、進藤がゆっくりと声を出しながら、リズムに合わせてリンガスマイセッサの顔の横でムチを軽く振り、音を出した。

 リンガスマイセッサは下り坂で伸ばした歩幅を無理に詰めず、坂を登っていく。

 当然、ペースは落ち、6馬身ほどあったリードがコーナーに差し掛かる辺りでは2馬身ぐらいまで縮まっていた。

 

 スタンドではまだ馬の姿は見えないものの、観客はターフビジョンを指さしてざわついている。

 本命でもないリンガスマイセッサの逃げは大した関心事ではないが、急な右コーナーに差し掛かる辺りでシーファイアが進出を開始し、内枠スタートだったミンスターハープとロズメアグレイスの英愛オークス馬が外に持ち出せず、不利を受けつつ窮屈な姿勢でコーナーを通過する羽目になっていた。

「おお、勝負に出たね進藤君」

 谷地が感嘆の声を上げた。

 ちょうどコーナーが一番急なところでカメラが正面から捉え、リンガスマイセッサが他の馬より明らかに深く内側に馬体を傾けているのが見て取れた。

 

 コーナーに差し掛かる直前、進藤が軽く手綱を引くと、リンガスマイセッサの歩幅が小さくなる。

 急な右コーナーに差し掛かると同時に、手前が自動的に右に替わり、馬体が内に傾く。

 それでも遠心力によって、少しずつ内ラチから離れていった。

(もう少し寄せないと)

 進藤が重心をさらに右に移動させ、リンガスマイセッサの馬体の傾きがさらに深くなる。

 手綱を短く握り替え、リンガスマイセッサの首に張り付くようにしながら懸命にバランスを保った。

 ダートの小回りコースで特訓を積んだ上田とジェルディサヴォアのように20°を超えるまでは倒せないが、それでも17°程度まで馬体が傾き、得意のコーナーワークで最短距離を進みながら下りのコーナーを曲がり切る。

 ペースは緩めたままだったが、最短距離でコーナーを進んだことにより、外に振られた後続勢とのリードが少し広がった。

 

 直線に入ってもまだレースは半分を終えた程度で、4ハロンは残っている。

 しかし直線に入るか入らないかのタイミングで、進藤の手が少しずつ動き、ペースを上げ始めた。

(もう一度リードが欲しい)

と、進藤は手綱を目いっぱいに詰め、リンガスマイセッサと意思疎通を図った。

 リンガスマイセッサの頭絡には鼻革がないので、ハミが緩いままだと反応がワンテンポ遅れる恐れあったからだ。

 実際は進藤が乗っているのなら心配は無用で、リンガスマイセッサは微妙な力加減でも反応してくれる。

 手前を替える隙を与えず、コーナーを処理した右手前のまま、右にヨレながら加速する。

 グロリアス・グッドウッド開催の折り返しとなる3日目は、内回りコースと合流してすぐ、残り3ハロンほどの地点からオープンストレッチが始まるので、右側に余裕ができるのだ。

 

 リードはまた4馬身ほどに広がっており、グリーンレーンが開いた瞬間、進藤がグッと手綱を引き、重心を左に寄せた。

 リンガスマイセッサの顔が急に跳ね上がり急ブレーキがかかると、手前が左に替わった。

 大飛びの馬はスタミナの消費が抑えられる反面、緩やかなリズムで脚を目いっぱい伸ばして走るため、テンポが一定になりやすく、手前替えに手間取る傾向がある。

 手前を替えるにはリズムを半歩ずらす必要があり、その不快感と、バランスを崩す恐怖心とで手前がなかなか替わらないのだ。

 しかし進藤が急に手綱を引いたことで、伸びきっていた歩幅がまた小さくなり、その衝撃で手前を替えることに成功した。

 

 リンガスマイセッサは急減速をし、そして後続勢はペースを上げてきているので、当然リードは一気に縮まる。

 本命のシーファイアは荒れが少ない外目に進路を取り、インコースに閉じ込められていたロズメアグレイスは一気にオープンストレッチに潜り込んで加速を始めた。

 英オークス馬のミンスターハープはちょうどリンガスマイセッサの後ろにいたこともあって、急減速に追突しかけ、手綱を引く羽目になってしまった。

 シールペルデュは重い馬場を苦にする様子もなく、シーファイアの後ろからじりじりとペースを上げ始めていた。

 

 リンガスマイセッサはまだ先頭を走っているが、ミドルの女王シーファイアが一気に加速し、リンガスマイセッサとの差が2馬身を切るまで迫っている。

 いよいよ観客もターフビジョンを頼らずに攻防が見えるようになり、一気に歓声が上がる。

 進藤が急に手綱を引いたときは、故障発生かとスタンドが一瞬ざわついたが、すぐに関心はその後ろに移っていた。

 同じくして谷地と井野もターフビジョンを見上げる顔が強張ったが、進藤がまた追い始めたのを見て、井野はまだ心配そうにレースを見つめ、谷地はパナマ帽を外すと、つばを握りしめた。

 

 リンガスマイセッサが再加速するまで時間はかからなかった。

 ニューマーケットでジェルディサヴォアらと練習した下りのペースアップは順調で、半ハロン足らずでもう一度脚が伸びきり、トップスピードに乗る。

 進藤はまだムチを入れない。

 操縦性が高いのもあるが、コーナーと残り3ハロンで息を入れたとはいえ、加速と減速を繰り返している以上、最後に脚が上がる可能性が高かったからだ。

 最後の追い比べに向けて、ムチの回数を抑えておかなければならなかった。

 

 外から伸びてくるシーファイアの気配だけでなく、反対側の右後方からロズメアグレイスの息遣いとムチの音が聞こえてくる。

 進藤は挟まれるのは嫌だったが、それでも、ジェルディサヴォアのようにオープンストレッチを支配できない理由があった。

 グッドウッド競馬場の残り1ハロン。

 それまで長い下り坂だったコースが、平坦に戻るのだ。

 長いこと下り坂で勢いづき、楽に走っていた馬たちにとって、最後に迎える平坦は上り坂を駆け上がるのと同じくらい苦しい。

 下り坂でペースが上がっている以上スタミナはどんどん削られており、既に極限に達している中、自力で最後の1ハロンを戦わなければならないのだ。

 

 リンガスマイセッサが最後の1ハロンに差し掛かる。

 急に脚が重くなったかのように歩幅が小さくなるその瞬間、進藤は一発、左ムチを入れた。

 リンガスマイセッサの馬体が右に跳ね、手前がもう一度、右に替わる。

 進藤は急いで右後方を確認し、ロズメアグレイスまでまだ距離があることを確認した。

 最後の右手前。

 ステイゴールド血統特有の右ササり癖はしっかりリンガスマイセッサにも受け継がれており、再三の加速と共に、オープンストレッチに突っ込むようにササる。

 大外から急襲するシーファイアから離れてゆき、ロズメアグレイスとミンスターハープがしめたとばかりにリンガスマイセッサの外に進路を切り替えた。

 進藤はムチを右手に持ち替え、ラチに激突しないよう懸命にムチを入れた――。

 

<発走時刻が近づいてまいりました。グッドウッド競馬場、芝の2000m戦。牝馬限定のGⅠ、ナッソーS。

日本からは、3歳オークス馬、リンガスマイセッサ1頭が参戦。

火曜日から5日間に渡って行われるグロリアス・グッドウッド・ミーティングですが、その中でGⅠは3レース。

初日のグッドウッドCではジェルディサヴォア、昨日行われたサセックスステークスではシビアレコードがそれぞれ勝利を収め、現在日本馬2連勝中。

ここを勝って、日本馬によるGⅠ完全制覇となるか、リンガスマイセッサ。

鞍上は昨日サセックスSを勝利した2年目進藤誠紅。

 

ゲート入りは順調に進んでいるようです。

リンガスマイセッサは4番ゲートにすでに収まって、最後1番ゲート、アイルランドのオークス馬ロズメアグレイス。収まりました。

 

スタートしました。

リンガスマイセッサもいいスタートを切りました。6番ロズメアグレイスが少し遅れたでしょうか。

注目の先行争いですが、リンガスマイセッサ行きますか。リードを2馬身ぐらい取って先頭を走ります。

後ろには4番のミンスターハープ、外側に3番のシーファイア、これが1番人気。

6番のロズメアグレイスがインコース、2番のシールペルデュ。

その後ろは1馬身離れて1番のチェスターライラック、最後方は7番ウィスパリングローで長い上り坂を各馬が上っていきます。

 

4番日本のリンガスマイセッサ、結局単騎先頭に立ちまして3馬身から4馬身のリードで逃げます。

2番手集団は少し固まって、3番シーファイア、6番のロズメアグレイス、シールペルデュ。

その後ろは2馬身ぐらい開きまして、7番ウィスパリングロー、チェスターライラックが最後方。

 

外回りのコースに入って行きます。

リンガスマイセッサ先頭で、シーファイア2番手。

インコースには2頭、ミンスターハープとロズメアグレイス。イギリスとアイルランドのオークス馬が並んで、その後ろ外目にシールペルデュ。

後方2頭は離れました。ウィスパリングローとチェスターライラック。

 

最終コーナーの中間点、ここから坂の下り。

最内インコース、リンガスマイセッサ。加速しながら3番のシーファイア。シールペルデュが続いて、内にロズメアグレイスとミンスターハープ。

長い長い直線に出てまいります。

リンガスマイセッサ、リードが詰まって1馬身から2馬身のリードに変わる。

外から並びかけようという3番のシーファイア、さらには2番シールペルデュ。

内は4番ミンスターハープと6番ロズメアグレイス。

 

残り3ハロンというところ、オープンストレッチが開く。

リンガスマイセッサ、進藤誠紅手が動いてもう一度突き放していくか4馬身のリード。

追ってくるシーファイア、インコース潜り込んでロズメアグレイス、大外からはシールペルデュ。

リンガスマイセッサ、一気に迫ってくる3番シーファイア、内からロズメアグレイス、このあたりちょっとごちゃついている。ミンスターハープは進路を探して残り2ハロン、最後の攻防。

ロズメアグレイス、ミンスターハープ。そして外からシールペルデュが追い込んでくる。

リンガスマイセッサに、迫るシーファイア、ミンスターハープはちょっと苦しいか。

 

残り1ハロンの標識。

シーファイア先頭替わるかどうか。リンガスマイセッサ頑張る頑張る。外に切り替えたロズメアグレイス。大外から脚を伸ばすシールペルデュ。

リンガスマイセッサ懸命に頑張って二枚腰。シーファイアにムチが飛んでいるが、ロズメアグレイス、外シールペルデュが2番手争いに加わってくる。

リンガスマイセッサ、シールペルデュ、ロズメアグレイス。

リンガスマイセッサ、先頭。粘った、ゴールイン!逃げ切りです。

 

吠えた進藤誠紅、右手を突き上げて、2日続けてのGⅠ連勝。そしてグロリアス・グッドウッド、日本勢3勝目はGⅠ完全制覇!

最後はフランスのシールペルデュの追撃をしのいで、3ヵ国の3歳オークス馬最先着。日本の女王は、世界の女王となりました>

 

 脚はいっぱいいっぱいでもスタミナにはまだ余裕があったリンガスマイセッサは、ゴール後、ペースを落とせばすぐ息が入り、尻尾が軽く左右に揺れるほど上機嫌だ。

 進藤から上限いっぱいの6回ムチをもらい、最後まで泥も被らず、英仏愛のお嬢様達を一蹴し、フラッシュライトを浴びているのだから、最高の社交界デビューとなった。

 

 一方の進藤。

 ゴールの瞬間、彼にしては珍しく馬上で立ち上がってのガッツポーズを見せたが、リンガスマイセッサを止めて轡を返し、谷地らが待っているであろうウイナーズサークルの方に視線をやった瞬間から強烈な胃の痛みに襲われていた。

 このナッソーSをもってグロリアス・グッドウッドの騎乗は終わりだが、シャワーを浴びてニューマーケットに帰れるかと言えばそういうわけでもなく、GⅠ3つのうち2つを勝利した騎手として、今日の夜から最終日まであちこちのパーティーに連れまわされるのが確定していたからである。

 救いがあるとすれば3つのレース全てが谷地・井野陣営であるから、祝勝会の主役は進藤ではなく谷地になるということだ。

 ただし、昨年も谷地が主役級だったのに、後ろでコソコソとしていた進藤の襟首をつかんで現地の調教師の前に引っ張り出した前歴があるので、今年はハミと頭絡を付けてでも前面に押し出そうとするだろう。

 それになにより、進藤はまだ19歳なので、一応イギリスでは飲酒は出来るものの、日本での評判を考慮するとまだ酒を飲めず、肩身が狭い思いをするのは確定であった。

 

 

【全スポWeb】投稿日時:2038年7月30日 1時46分

~リンガスマイセッサ、雨のナッソーS逃げ切りV 日本勢がグロリアス・グッドウッドGⅠ完全制覇~

 

 現地時間29日、英国グッドウッド競馬場で行われた牝馬限定GⅠナッソーSは、日本から遠征した3歳牝馬リンガスマイセッサが逃げ切り勝ちを収めた。鞍上は前日のサセックスSをシビアレコードで制した進藤誠紅騎手。初日のグッドウッドCをジェルディサヴォアが勝っており、これで日本勢はグロリアス・グッドウッドで行われるGⅠ3競走をすべて制した。

 

 雨の影響で馬場は重。馬群の中央から自然に先手を取ったリンガスマイセッサは、序盤は3馬身から4馬身ほどのリードを保ち、1番人気のシーファイアと英オークス馬ミンスターハープが並んで追う形に。

残り2ハロンを過ぎたところで後続に差を詰められたリンガスマイセッサはそこから再加速。最後の1ハロンではやや内にヨレながらも粘り込み、ゴール前で強襲したシールペルデュをクビ差退けた。

 

勝ち時計は2分09秒8。上がり3ハロン(※推定)は36秒9。

 

進藤誠紅騎手のコメント

「逃げるつもりで出していったわけではなかったです。リンが走りやすいところを選んでくれて、結果的に先頭になりました。最後にヨレるのはいつものことなので、そこは気をつけていましたね。昨日に続いてGⅠを勝てたのは信じられないですし、レコードとリンに感謝したいです」

 

井野叶偉調教師のコメント

「雨で馬場も悪かったですし、この馬は泥を被るのを嫌がるところがあるので、結果的には一番きれいな形になったと思います。途中でヒヤッとする場面もありましたが、最後まで折り合っていました。(今後については)あとは日本に帰ります。三冠もかかっていますし」

 

____

 

 

 昨年は経験と勝利数を積むためにと祝勝会に参加した現地の調教師によってリングフィールド競馬場のレースに乗せてもらった進藤だが、今年は急いで勝ち星を積む必要はなく、ゆっくりイギリス観光でもして帰ろうと思っていた。

 だが当然、グロリアス・グッドウッド開催でGⅠを2勝した“トップジョッキー”をヒルストン調教師がみすみす日本に帰してくれるわけがない。

 翌週、グレートヤーマス競馬場で行われた平場のハンデ戦などに自厩舎の馬5頭を出走させ、そのうち3頭に進藤、2頭に上田を乗せた。

 普段であればリーディング上位の騎手からは見向きもされない厩舎が無条件でGⅠ騎手を使えるのだから、たとえ調整不足の馬であっても馬房の扉を全て開け放し、まとめてヤーマス競馬場に連れてきたのだった。

 

 ヤーマス競馬場はニューマーケットから見て東に60マイルほどの海沿いにあり、新潟競馬場を拡大したような、綺麗な楕円形でコーナーは急角度ながら最終直線が5ハロンもあるというシンプルだが大胆な形状をしている。

 瞬発力勝負になるが、ここで行われるレースはほとんどが小頭数の平場戦だ。

 力の差がはっきりしているので、最後の1ハロンを過ぎれば大抵勝負ありとなる。

 

 進藤にとっては、ナッソーSでリンガスマイセッサと見せたコーナーワークと、シビアレコードとの瞬発力勝負の復習をしつつ、初めての競馬場を経験するいい機会であった。

 なにより低級レースで1日をつぶすことで社交場に出なくてよくなったのは渡りに船なのだ。

 最初のレースは馬の仕上がりが悪かったこともあり4着で終えると、2戦目の直線マイルレースではきっちり差し切り勝ちを収める。

 3戦目はヒルストン厩舎の馬でワンツー決着となった。

 直線が長すぎる競馬場では先行勢は不利だが、コーナーワークと息を入れるタイミングの技術だけは進藤より上田の方が優れており、6頭中5番人気の馬でまんまと逃げ切られてしまったのだった。

 





次回は7/5(日)に
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