今回はレース前までのお話です。例によって記者たちが駄弁ってますが。
| 1 | 1 | セイクリッドレイン | 牡3 | 差し | ―――― | 三輪 | 神戸新聞杯9 | 家賃高い |
| 2 | ブライトエルデ | 牡3 | 差し | ―――― | 伊丹 | 神戸新聞杯6 | 長いかも | |
| 2 | 3 | バロックシティ | 牡3 | 先行 | ――△― | 杉谷 | セントライト記念4 | 妙味ある |
| 4 | トゥモローアビオン | 牡3 | 差し | △▲―― | ロメロ | 神戸新聞杯4 | 名手託す | |
| 3 | 5 | フォルテグリム | 牡3 | 先行 | ―――― | 大迫 | 神戸新聞杯7 | 息入れば |
| 6 | ノヴァルクス | 牡3 | 差し | ―△―― | 早川 | 神戸新聞杯5 | GⅡ実績 | |
| 4 | 7 | エーデルシュヴァル | 牡3 | 差し | ▲―▲△ | 渋谷 | 神戸新聞杯2 | 猛追魅力 |
| 8 | リンガスマイセッサ | 牝3 | 差し | △△◎▲ | 進藤 | ナッソーS1着 | 斤量活す | |
| 5 | 9 | アルカディオス | 牡3 | 先行 | ―――― | 江川 | セントライト記念5 | 前残りで |
| 10 | アストラヴェイル | 牡3 | 先行 | ◎◎○◎ | ルードルフ | 神戸新聞杯1 | 三冠射程 | |
| 6 | 11 | ヴァルザリオン | 牡3 | 逃げ | ○△△○ | 西垣 | セントライト記念1 | 菊譲らず |
| 12 | カルデラソード | 牡3 | 先行 | △――△ | 中村優 | セントライト記念2 | 虎視眈々 | |
| 7 | 13 | オービットクラウン | 牡3 | 差し | ―――― | 戸木 | セントライト記念6 | やや不足 |
| 14 | テンペストロード | 牡3 | 先行 | ―△―△ | 柳 | 神戸新聞杯3 | 三列目に | |
| 15 | リヴァースケイル | 牡3 | 差し | ―――― | 東山 | セントライト記念7 | 力量薄く | |
| 8 | 16 | レグルスハート | 牡3 | 先行 | ―――― | 桐島 | 神戸新聞杯8 | 連までは |
| 17 | ロングアコード | 牡3 | 差し | ―○△― | 波田 | セントライト記念3 | 止まらぬ | |
| 18 | シルヴァンリッジ | 牡3 | 追込 | ―――― | 柚瀬 | 神戸新聞杯10 | 大穴狙う |
1番人気 10番 アストラヴェイル 1,9倍
2番人気 11番 ヴァルザリオン 4,3倍
3番人気 8番 リンガスマイセッサ 5,1倍
4番人気 7番 エーデルシュヴァル 10,8倍
5番人気 4番 トゥモローアビオン 14,6倍
6番人気 17番 ロングアコード 17,9倍
7番人気 12番 カルデラソード 21,4倍
8番人気 14番 テンペストロード 24,8倍
9番人気 6番 ノヴァルクス 31,6倍
10番人気 3番 バロックシティ 38,7倍
11番人気 2番 ブライトエルデ 47,5倍
12番人気 9番 アルカディオス 54,2倍
13番人気 5番 フォルテグリム 68,9倍
14番人気 13番 オービットクラウン 82,6倍
15番人気 16番 レグルスハート 96,4倍
16番人気 15番 リヴァースケイル 118,7倍
17番人気 1番 セイクリッドレイン 146,3倍
18番人気 18番 シルヴァンリッジ 189,5倍
リンガスマイセッサの最終追い切りは相変わらず無茶苦茶なタイムを刻んだ。
シビアレコードが恐怖を感じて逃げ、その弱々しい姿に喰い付こうとするリンガスマイセッサ。
Dコースの向正面からペースが上がっていき、調教スタンド前のゴール地点を過ぎたあと、コースから逃げ出すようにシビアレコードが馬場の外に出たところでようやく止まった。
「ほらこうなったでしょ。なんでレコードと併せたんスか」
スタンドで井野調教師と並んで追い切りを眺めていた全スポの寺尾記者が、呆れたように言った。
「普通この時期なら
「だから年中発情娘なんでしょリンガスは。ジェルもまだ帰ってきてないんスから、どうなっても知りませんよ」
流石に年中ということはないが、それでも、ライトコントロールもされていない外厩の自然放牧下で、2月末の帰厩の際には馬運車の中をフェロモンで埋め尽くすほど発情していたのだから、並の馬より発情期が長いのは間違いない。
一通りシビアレコードを追い回し、あとちょっとで捕まえられそうなところで逃げられたリンガスは無念そうな目をしていたが、少なくともソエの影響はまるで感じられないぐらいキレは戻っていた。
【全スポ】2038年10月21日 13:24
〜(天皇賞秋)1週前追い切り情報 レコード11.0秒もドタバタ〜
天皇賞・秋に出走予定のシビアレコード(牡4・井野)が美浦Dコース(ウッド)で1週前追い切りに臨んだ。
菊花賞に出走予定のリンガスマイセッサ(牝3・同)の最終追い切りに併走し2馬身先行。5F 64.1-11.0の加速ラップを刻んだが、実際はリンガスマイセッサに煽られる形で、最後は半馬身まで詰められた。
井野師は「まあいいや。最終(追い切り)では考える」と多くは語らず。
____
関西では18年ぶりの三冠に向けて気運が高まり、京都競馬場にはアストラヴェイルの写真がデカデカと貼られている。
栗東トレセンにもマスコミが出たり入ったりを繰り返しており、記者室は久々の賑わいであった。
全スポ西日本大阪本社の六角は記者室の混雑を避け、愛駿寮の割り当てられた自室で、アンテナスポーツの堤記者と共に
「やっとやで。三冠や。腑抜けた去年の奴らとは格が違うで」
楽しそうに堤が発泡酒を呷りながら、グリーンチャンネルを点けた。
「あれ、北見やん。JRA公式チャンネルの予想コーナーに出るなんて偉なったもんやな」
「あない広く出すとかアホやん。アストラから流すんやったら3頭以上選んだらガミやで」
いつも角突き合わせて特注馬を割り出す3人だが、今回はお互いの記事は発刊されるまで読んでいない。
菊花賞の本命は当然、3冠がかかる関西のアストラヴェイルであり、古馬戦線のように関東馬の侵略に対抗すべく関西馬の軸馬を見つけ出す必要がないからだ。
1列目は決まっているので、2〜3列目の選出はお互い、競馬記者の腕の見せ所となっている。
堤が、ツマミの袋の下に敷かれている全スポの新聞に目をやった。
「
「シビレコの尻追っかけるのに必死なんやて。またマ××ベタベタにしよったんで、落ち着くまで洗えへんって、残業やって、井野の厩務員が泣いとったで」
牝馬の後ろに牡馬を立たせないというのは競馬界だけでなく畜産界では常識だが、シビアレコードとリンガスマイセッサに限っては前後を逆にしなければならなかった。
六角の下ネタも、妻子持ちで風俗通いもとっくにやめていた堤には刺さらなかったようだ。
堤はつまらん、と言い捨てながら、柿ピーを女優の写真がデカデカと載っている芸能面のページにザーッと移し、全スポの菊花賞特集のページを取り上げた。
「おいピーナッツのカス落とすなや。俺が掃除せなアカンねん」
六角が文句を言っても、堤は明日でええやろ、と、コラムを読みながらピーナッツを口に放り込んだ。
「多分やけど、なんか企んでるで。井野……いや、谷地の
堤はそう呟くと、スマホを開き、記者仲間に電話をかけた。
「堤や。エノキン、今栗東おるよな?325号室に来てや。酒もツマミもあるさけ」
「誰呼んだん」
堤が電話を切ると、グリーンチャンネルの音量を戻しながら六角が聞いた。
「『競馬館』の
「『馬伯楽』ちゃうんか。あんたらの系列やろ?沢辺とか
「俺あいつら嫌いやねん」
堤は手元の空き缶を握り潰した。
「谷地の兄ちゃんが伯楽とバチバチやってる時だけは谷地応援しとるわ」
2人は暫くテレビに見入っていた。
「
六角が寝っ転がりながら鼻で笑った。
リヴァースケイルは六角も堤も真っ先に消した馬である。
「テンペストロードはロクさんも名前挙げとったやろ?神戸(新聞杯)組は狙ってもええって。印ついてへんなあ?」
堤が全スポの馬柱を見ながら言った。
「上3頭は堅いっちゅうねん。ヴァルザリオンと、良くてエーデルシュヴァルまでや」
ドアがノックされ、大きなリュックを背負った榎田記者がのそのそと入ってきた。
「おー、エノキン、待ってたわ。
「早えわ。どうも六角さん、初めまして。競馬館の榎田です」
榎田は六角に名刺を差し出すと、リュックから何本かのビール缶と、追加で買ってきた菓子の袋を畳に置いた。
「なんや、ええの買ってきたやん。秋華賞儲けたんか?」
コンビニで買ってきたばかりでキンキンに冷えたヱビスビールの缶を取り出し、堤が羨ましそうに軽く振った。
「その前や。南部杯でドカーン」
「嘘やろ、グランチャージ取ったの」
「セッツガバメントから流したから運よく引っかかっただけやけどな。なんでセッツが5番人気まで落ちてたのか分からんわ」
喋りながら、榎田がちゃぶ台の上にパソコンとタブレットを並べ、電源を入れた。
「で、何が見たいんやっけ?」
「リンガスの追い切りや。映像あるか?」
榎田が、ほれ、と動画を再生した。
グリーンチャンネルやJRA公式サイトで公開されている追い切り動画と違い、ウォーミングアップから馬場を出るまですべてが収められている。
「見てみぃ。オークスの時と同じや」
堤がスペースキーをタンと叩き、動画を一時停止した。
「最後の周回の前にシビレコが少し加速して2馬身つける。そのあとペースが一気に上がるんや」
「せやな。それは
「で?」
六角が先を促すと、堤がスマホを開いてオークスの際の追い切りデータを呼び出した。
「今回はオークスの時より加速がゆったりしとるけど、シビレコが急に煽られたんは同じ。こん
「わざとか?」
堤は小さく頷くと、残っていたビールを飲み干した。
「つうか六角さん、向こうからネタ入ってきてないんか?」
榎田が六角を小突いた。
「競馬グラフの向こうの奴から聞いたけど、この後もリンガスはシビレコにベッタリやて。朝運動もレコードの後ろ歩かせてるんやで」
「ウチはアストラ一面で行くって決めてから、向こうのデスクも寺尾も、勝手にせえ言うて電話一本も寄こさんからな」
「ウチらの見立てはちゃうで。競馬館も競馬グラフも、探当ニュースもリンガス優勢や。枠もアストラの2つ内や。別周申請もしてへんからな。パドックから荒れるでえ――」
【競馬館】~菊花賞分析~
無敗の3冠を阻む者は現れるか。無敗の2冠馬が前哨戦も勝利して菊花賞に臨んだ場合は4戦3勝2着1回。
アストラヴェイルはしがらきでの放牧を早めに切り上げ、栗東で坂路とウッドを織り交ぜながら折り合い強化で隙を見せず。
しかし本誌の◎は2冠牝馬リンガスマイセッサに打つ。スタミナを要求されるナッソーSでも距離不足を感じさせ、オークスの距離でようやく解き放たれた走り。徹底マークをしつつもレースを作ることができる高いステイヤー素質を見た。
アストラヴェイルは勿論○印は外せない。以下末脚魅力のエーデルシュヴァル、外回り得意の逃げ馬ヴァルザリオンも。
____
日曜日は当日券の販売は当然なし。
午後にもなれば、まだ2勝クラスの特別戦にも関わらず、パドックも上段まで埋まるようになった。
既にレースも観ず、パドックの最前列をキープしているファンも多い。
第10レースのカノープスSが終わり、パドックビジョンに華やかな演出とともに“菊花賞”の文字が躍り、いよいよ出走馬がパドックに姿を現す。
テレビカメラもファンのカメラも、10番目の入場となる2冠馬アストラヴェイルを待っている。
その前に入場した2冠牝馬リンガスマイセッサは、入場時一斉にカメラが向いていることに気分が良くなったが、シャッター音が聞こえず、1歩前に踏み出してもカメラがついてこないことに気づくとたちまち機嫌が悪くなっていた。
そしていよいよアストラヴェイルの入場とともに、一斉にシャッター音が鳴る。
中にはワザとか消し忘れか、フラッシュライトを光らせたファンも何人かいた。
そのカメラに写されたのは、ゼッケンの下が真っ白に染まったアストラヴェイルだった。
酷い発汗も気になるところだが、最前列でカメラを構えていたファンは、アストラヴェイルの股間から生えている“3本目の脚“をハッキリ写真に撮ってしまった。
よく見るとアストラヴェイルだけでなく、その前を歩くアルカディオスも、馬っ気を出していた。
それを見たライトなファンはゲラゲラ笑ったが、ちょっと競馬を覚えてきたファンは絶望し、馬券師は急いでスマホや競馬新聞を取り出すと必死に新たな軸馬を探した。
そして常にインターネット上の掲示板で意見を交わしている掲示板の住民、馬主席にいる馬主、記者席にいる競馬記者、とりわけ全スポ西日本の六角と堺スポの北見らが、一斉に叫んだ。
「井野の野郎、やりやがった!」
と。
常に女――いや、
ましてやアルカディオスとアストラヴェイルは、それをまともに浴びている。
周回を重ねるうちに、パドックの直線部分ではなくコーナー側から見ている人は、リンガスマイセッサの股間もうっすらと汚れていることに気が付いた。
こうなるとリンガスマイセッサのフケも気になるところではあるが、彼女は寺尾記者から“年中発情娘”と不名誉な称号を貰ったように、シビアレコードといつも一緒に行動し、且つ鞍上が進藤騎手に固定されている以上、年がら年中常にフケた状態でレースをこなしているのだから何も心配がなかった。
「マコ、ゲートインまでが正念場だ。他の牡どもに蹴りを入れるのは好きにやらせといていいから、その時に落ちないようにしろ」
「いいんですか?」
「そうなれば近づけた相手が悪い。こっちに制裁は来ないからな。万が一リンガスが
現役中にうっかり種付けをしたりされてしまった場合は即日登録抹消となる。
しかもリンガスマイセッサは今なおフケているので、ジャストミートの確率は上がっている状態だ。
調教師側も管理責任を問われ、制裁を課されることになるが、この場合牡馬側を管理する調教師や、騎手のほうがはるかに重くなる。
たとえ井野が発情期を狙って出走させたといくら周りが騒ごうと、それを立証することはできまい。
悠々とパドックを歩くリンガスマイセッサとは裏腹に、チャカつきながら馬っ気を出してパドックから出ていく牡馬達には、厳粛なクラシック最終戦の雰囲気はまるでなかった。
レースシーンもほとんど書けているので、書ききり次第、折を見て投稿します。
冒頭からレース後まで全部書いていたら12,000文字ぐらい行きそうだったので、分割しました。
下ネタ大好きな関西系の記者のトークに、シビアレコードの匂い嗅いではフケっているリンガスマイセッサの追い切りが加わると収拾つかなくなる。