時間も深夜になる頃にも関わらずビルの屋上で2人の男が話している。
片方はスーツケースを持った20代なるかならないかほどのスーツを着た青年でもう片方はキッチリとスーツを着た青年とは反対にヨレヨレのスーツを来ており、顔には濃い隈が目立つ、年齢が40代ほどに見えるの中年男性だった。
「本当によろしいんですか?」
「ああ、もう疲れたんだ」
「これから先のすべての幸せを捨ててしまう事になっても?」
青年の問いに中年の男性はただ首を横に振るだけだった。
「差し出がましいことを申しました。申し訳ございません」
青年は中年の男性に頭を下げる。
「いや、いいんだ。それより早く案内をしてくれ」
「・・・では、案内致します」
そう言って青年は、ビルの屋上の扉を開ける。呼吸するだけで酔っ払ってしまいそうな程、強烈なアルコールの匂いが周辺に充満する。
「すごいな、ここにいるだけで酔いそうだ。まあ、きっとそれがいいんだろうな」
「もし、帰りたくなればいつでも私にお声がけください」
「そんなことはないと思うけど、ありがとう」
「いえ、お気になさらないでください。では、いってらっしゃいませ、この街は貴方を歓迎いたします」
青年は中年の男性に向かって恭しく礼をする。
中年の男性は持っていたカバンを地面に放り投げ扉を潜る。
中年の男性が扉を潜ったのを確認すると青年は扉を閉める。
あれだけ充満していたアルコールの匂いが嘘であったかのように一瞬で消える。
突如、青年の頭上に一枚の封筒が出現する。その封筒は重力に従いながらヒラリと不規則な動きで青年の前の地面に落ちる。
青年は不思議に思いその封筒を拾い確かめる。
その封筒の表面には、妙に達筆な字で『案内人殿へ』と書かれていた。
「これは?」
不思議に思いながらも案内人はその手紙を開封する。入っていたのは一枚のカード。そのカードにはこう書かれてあった。
『悩み多し異彩を持つ少年少女に告げる
その才能ギフトを試す事を望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
「私は、少年というような歳ではないと思うのですが?」
突如、世界が一変する。
身一つで案内人は、上空四千メートルの自由落下を強いられる。
ジンだけではない、他にも3人の男女と一匹の三毛猫が空に投げ出されている。
眼下に広がるのは地球上のどこにもないであろう景色。
案内人は今の状況を忘れ、その景色に魅入る。
そして、気がつけば案内人の体は水面に叩きつけられていた。
要注意団体-酩酊街
・異世界に存在する
・一日中、雪が降っている常夜の街。常にお酒の匂いが漂っている。
・来るもの拒まず、去る者追わずな場所。
・「酩酊」「忘却」「停滞」を理念としている街
・攻撃性はなく、忘れられたものがたどり着く場所
・酩酊街の住人は毎日ただ酒をのみ、騒ぎ、陶酔と安らぎの日々を過ごす。ただ、ひたすらに享楽と酩酊に溺れ、ぼんやりとした幸福に浸り続ける。
・酩酊街に行く方法は2つ、一つは、世界中の全員から自分の存在を忘れられること。もう一つは酩酊街に繋がる道を案内してくれる案内人に案内をお願いすること。