4つの大きな水飛沫が舞い上がってしばらく、4人は湖から上がった。
少年と少女はあからさまに不機嫌な顔をして不満をこぼす。
「信じられないわ! 問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだ、クソッタレ。石の中にでも呼び出された方がまだマシだ」
「・・・・・・・・。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
二人の男女はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞る。同じように服を絞る隣で三毛猫が全身をを震わせて水を弾く。耀は服を絞りながら、
「此処・・・・・どこだろう?」
「さあな。世界の端っぽいのが見えたし、どこぞの大亀も背中じゃねえか?」
耀のつぶやきに十六夜が答える。何にせよ彼らの知らない場所であることは確かだった。
適当に服を絞り終えた十六夜が軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻き上げ、
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」
「そうだけど、まずオマエって呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて。それで、そっちの猫を抱いた貴女は?」
「・・・・・・・春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。次に、野蛮で凶暴そうなそこのあなたは?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「……説明書を用意してくれたら考えるわ」
「マジかよ、なら今度作っとくから覚悟しとけ」
二人の間に火花が散る。
「それで最後に、さっきから一言も喋ってないスーツを着ている貴方は?」
3人の視線は湖から上がってからずっとスーツケースの中身を確認している案内人に向けられる。
「そうですね・・・・・。私のことは案内人とでもお呼びください」
「案内人?私たちはちゃんと本名を名乗ったのよ。貴方もちゃんと名乗るのが礼儀ではないかしら」
「申し訳ございません。名前は忘れてしまったのです」
「記憶喪失ってことか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが・・・・・。申し訳ございません」
案内人は本当に申し訳なさそうに謝罪する
「い、いえ!事情も知らずに、ごめんなさい」
「お気になさらないでください。私のことは気軽に案内人とお呼びくだされば幸いです」
そんな話をしている4人を物陰から見ていた黒うさぎは思う、
(うわぁ・・・・・なんか問題児ばっかりみたいですねぇ。スーツの方は大丈夫なのでしょうか?)
黒うさぎはこれから先のことを考え、ため息を吐くのだった
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
十六夜は苛立たしげに言う。
「確かに、案内をする人かがいてもいい気がしますね」
「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」
「・・・・・・・。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」
(全くです)
黒うさぎはこっそりツッコミを入れた。
ふと十六夜がため息交じりに呟く。
「仕方がねえな。こうなったらそこに隠れている奴にでも話を聞くか?」
物陰に隠れていた黒うさぎの心臓が掴まれたように飛び跳ねた。
四人の視線が黒ウサギに集まる
「なんだ、貴方も気づいていたの」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいていたんだろ」
「まあ、少し見えていらっしゃいましたので」
「風上に立たれてたら嫌でも分かる」
「へえ、面白いなお前」
軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。四人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠もった冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。
「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「申し訳ございません」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝気は買いです。まあ、扱いにくいのは難点ですけど)
黒ウサギがおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている。と、耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲づかむ。
「えい」
「フギャ!」
力いっぱい引っ張った。
「ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる技」
「自由にも程があります!」
「へえ?このうさ耳って本物なのか?」
今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。
「・・・・・・・・。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待っ!」
今度は飛鳥が左から。左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。その光景を案内人は、せめてもの仕返しとして止めずに黙って見守っていた。