化け物の方が本体なタイプの美少女傀儡遣い   作:どこかの誰かのneonさん

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第6話

 つい、つい、つい、と。

 糸を引く。

 糸を手繰り寄せて引っ張った先にあるのはアリスちゃん。

 大切な人形なのでしっかりと回収してから帰らなくてはならない。

 まあ、一番自分の安全を期するのならばぶっちゃけアリスちゃんをその場に放置して逃げるのが一番なんだけれども、それをすると人間そっくりな人形を放置する事になるので結果的に自分の身が危ない可能性がある。

 可能性として残るかもしれない禍根を断つという意味もあるし、更に言ってしまうと俺も俺でアリスちゃんには思い入れがあるのだ。

 作るのにも結構苦労したからね。

 

 そんなこんなで糸を引っ張る感覚でアリスちゃんを村の外へと連れてくる。

 ……引っ張るとは言うものの勿論それは比喩であり、アリスちゃん自身はちゃんと歩いてここまでやってきている。

 しっかりと気配を消しているし、今の俺ならば伝説の傭兵にすらなれるかもしれない。

 いや、それで実際に伝説の傭兵になるのはアリスちゃんだし、銃撃が飛び交う戦場に大切なアリスちゃんを放置するとか正気の沙汰ではないと思う。

 やはり人形の一番の使い方と言えば愛でる事だからね。

 

 そんなこんなしているうちにアリスちゃんのスニーキングミッションは終了。

 村の外までやってきてしまえばあとはこっちのものである。

 今なら姿を見られる事もないし、アリスちゃんに急いでこっちに来てもらう。

 とはいえアリスちゃんは小柄なのでそこまで素早く移動する事は出来ないし、いっその事本当に糸でずりずり引っ張って――いや、それだとアリスちゃんが傷ついちゃうな。

 だとすると自分で直接迎えに行って回収するのが一番かなー……

 

 

 

 

 

「アリスちゃん!」

 

 ……????

 

 おっとぉ、なんでここにいるんだいビアンカ氏?

 俺のスニーキングミッションは成功したと思っていたのだけど、実はそう思っていたのは俺だけでどこかしらのタイミングで気づかれていた、とか?

 ヤバくね?

 これアリスちゃん大ピンチじゃね?

 実際、このタイミングで息を潜めて誰にも気づかれないように気を付けながら村を出るなんて明らかに訳知りムーブだったし、そうでなくてもアリスちゃんは彼らにとっては怪しさ満載な存在だった。

 魔物に追われてやってきた記憶喪失の少女。

 これはもう完全に怪し過ぎだし、全身くまなく調査されてしまう。

 具体的に言うと、このままいくと最悪アリスちゃんが実は人間じゃなくて人形だって事がバレるし、そうなったらスクラップ待ったなしである。

 ……スクラップになるのは、百歩譲っても良いとしよう。

 大切な人形が壊されるのは本当にいやだけど、この際だから良いとする。

 だけど「人形を操る魔物がいる」という情報が知られるのは困る。

 この世界の人間の情報網がどうなっているのか具体的には知れていないけれども、情報を与えないに越した事はないのだ。

 

 しかしこの状況、アリスちゃんをどうにかして回収して撤収しないといけない訳だが、それをやすやすと許してくれるビアンカ氏ではないだろう。

 S級冒険者が実際どれほどの実力かは、具体的には分からない。

 とにかく凄い事は分かっている、多分剣の一振りで俺は死にそう。

 俺とビアンカ氏との間にいまだ距離がある事、それはメリットでありデメリットである。

 アリスちゃんと距離がある、回収するためには近づかないといけないけど、その近くにはビアンカ氏がいる。

 俺は今のところそこにはいない。

 ……そうなってくると、アリスちゃんを使ってビアンカ氏を何とかするのが一番?

 

 

  ◆

 

 

 彼女の身に何かが起きている事はうすうす感づいていた。

 そもそもアリス自体があの正体不明な魔物に追われる形で姿を現した、その時に魔物があっさりと身を引いた時点で違和感を覚えていた。

 まるでそうする事が予定通りだったかのような、あるいは魔物自体が、アリスが村へ逃げ込む事を想定していたかのような。

 そして少女のあの瞳。

 いまだ目を覚まさない冒険者達を見て、恐怖でもない感情を帯びた瞳。

 

 アリスは、もしかすると魔物自体が疑似餌として都合よく利用している存在なのではないか?

 あるいは彼女を通じて村から情報を得ているのではないか?

 

 ……勿論、これらはすべて直感に過ぎないとビアンカは思う。

 それでも、それを信じてきたからこそ今の彼女はいる。

 

 そして今、村の外にアリスとビアンカは二人きりでいる。

 振り返ったアリスは、どうやらビアンカの事に気づいていたらしい。

 

(……もしかして)

 

 そもそも、この状況自体が目的――では、流石にないか。

 自身が現れる事を想定していた、あるいは既に自分が追っていた事に気づいていたか。

 多分、後者だろう。

 自分の想像があっているのならば、彼女と魔物との間には何かしらの繋がりがある。

 とすると、

 

(今も、見られてる)

 

 そうなると、アリスを救い出すためにはまずあの魔物を出し抜かねばならない。

 剣に手は出さない。

 あくまで、今は敵意を見せない。

 そうしたらすべてが台無しになってしまう。

 あの魔物がどういった行動に移るのか、自分は大丈夫でもアリスを守り切れる自信がない。

 さて。

 

(どうする……?)

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