化け物の方が本体なタイプの美少女傀儡遣い   作:どこかの誰かのneonさん

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第7話

 アリスは人形である。

 ……少なくともその魔物にとってはそれ以上の意味はない。

 

 

  ◆

 

 

「び。ビアンカさん、その……?」

 

 誤魔化す。

 その一択でしかない。

 ていうか俺の勝利条件は第一として「俺が生き延びる」事で、そしてアリスちゃんに関しては今後の生存確率を上げるために回収しなくてはならない。

 アリスちゃんは現状俺に関する一番の秘密と言っても過言ではない。

 ていうか俺自身が俺の事をあまりよく分かっていないというのが正しいのかもだけれども、とにかく彼女の事を持っていかれて調べられるととても困るのだ。

 

「……アリスちゃん、一人で村から出た事は怒らないから。今はとにかく帰ろう」

 

 そしてビアンカ氏に関しては、彼女はまだアリスちゃんが人形である事について気づいていない、いや、現状では気づくはずもないのだが。

 とはいえ俺という魔物との関係性についてはほぼ確信しているのだろう。

 そうでなければこのタイミングでこっそり抜け出してきていたはずのアリスちゃんに気づくとは思えないし、だからここでアリスちゃんを確保されるのはアウト。

 いやまあ、直接的な死には繋がらないけれども前提として魔物と人間は相容れない存在であるこの世界でどういう魔物であるのかって事を知られるってのは弱点を露わにするって事な訳だし。

 

 ただ、なんていうか現在は別の意味で困っていた。

 ビアンカ氏、あからさまに怪しいっていうか間違いなく怪しんでいる相手であろうアリスちゃんと相対しているというのにも関わらず剣を持っていない。

 剣の柄にすら手を置いていないというのは、アリスちゃんを怖がらせないようにしているって事なのだろう。

 おおよそ、現状の元凶は魔物である俺ただ一人なのでアリスちゃんはそれに利用されているだけみたいに考えているのかもだけど、そういう想像が出来てしまうからこそ非常に困ってしまう。

 アリスちゃんは人形だって事を知っているのは俺だけなのだから仕方がないのだけれども、だからこそ気まずい。

 

「え、えっと……」

 

 どうしたもんか。

 相手は俺に対しては魔物としての対処をするだろうけれども、アリスちゃんに対してはあくまで人間として対処しようとしている。

 最初からアリスちゃんを使って人間を騙そうとしている俺ではあったが、それでも罪悪感が湧いてくる。

 いや、違うんすよ俺はただこの世界の人間の事を知りたくて、あわよくば仲良くなりたって交流もしてみたいなー、なんてそんな風に思ってただけなんすよ。

 

「わ、私は――」

 

 若干、アリスちゃんを操作する手が躊躇に揺れてしまう。

 そして、まさにそれを見計らったかのようなタイミングだった。

 

「アリスちゃん、ごめん!」

 

 ザシュッ!!!!

 まさに神業、見惚れるほどに。

 いつの間にか剣の柄に置かれていた手、一瞬にして引き抜かれた剣は――アリスちゃんと俺とを繋ぐ糸をすべて切断していた。

 え、マジ?

 思わず呆然としてしまったが、しかし次の瞬間それどころではない事に気づいてしまう。

 アリスちゃんはこの時点で操作する事が出来なくなった。

 それはビアンカ氏にとっては「俺からの解放」と思う事だろう。

 ならば次に彼女がとる行動は一つ、つまり俺への直接的な攻撃だろう。

 まさか一瞬にして状況の主導権を握られるとは思ってもみなかった、完全に油断した。

 アリスちゃんが命綱だったけど、なんだかんだアリスちゃんがいるからこそいきなり状況が動くとは思ってもいなかったのだ。

 こうなったら、この場でじっとしていたらあとは直接的な死が待っているだけである。

 ……そのまま死を待つわけにはいかない、アリスちゃんが回収されてしまったのでもう俺が人形を操る魔物だって事はバレてしまっただろうけど。

 俺は、自分の出来る限りの速度で踵を返し、ただひたすらその場を後にし脱兎のごとく逃げ始めるのだった。

 

 

  ◆

 

 

 ――棺の中には一人の少女が眠っている。

 その少女の名前は……少なくとも少女は自らを「アリス」と名乗っていた。

 それ以外の事をビアンカは知らない、だから棺にはそう書くしかなかった。

 

「……」

 

 黙祷。

 仲間の死を見る事は初めてではない。

 ただ、守るべき相手と思っていた「人」が死ぬのを見るのは、正直、初めてかもしれない。

 

 そうして彼女は村の近くにある墓地に埋葬された。

 ……魔物に利用され、最後はあっけなく息を引き取ったアリスに対し様々な人が同情的だった。

 きっと魔物の手によって蹂躙されてきたであろう彼女の身をこれ以上良いようにする事は出来ないという配慮のため、彼女の遺骸は手付かずな状態で棺の中に収められた。

 

 

「ビアンカさん」

「……以上が、リラルドで起きた顛末よ」

 

 ギルドの女性に報告をしたビアンカはその場を後にしようとするが、その前に「これからどうするのですか?」という質問に対し一度だけ歩を止めた。

 そして言う。

 

「私は――あの魔物について調べようと思う」

 

 顛末とは言ったものの、今回の「事件」にはまだ不明な事が多い。

 そしてその中心にいるであろう、あの魔物。

 その魔物の正体を、探らなくてはならない。

 

 

「絶対に殺す」




本来の予定だとアリスちゃん爆弾(仮)みたいなストーリー展開だったのですが、よくよく考えなくてもそれは流石に主人公があれだと判断したので変更していました。
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