転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」   作:鳩胸な鴨

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本編では割と仲良し神竜軍だけど、邪竜世界の神竜軍は神竜様の見てないところでギスギスしてると思う

続かない(鋼の意志)


神ならざる竜

死んだ直後、世界が滅んだ。

 

いや、これでも頑張ったんだ。

誰に向けるでもなく言い訳を並べ、弁解しようとする影がどことわからぬ森林で揺らめく。

その影が形取るのは、深い青。

腰にまで伸びる青い髪。穢れを許さない純白のドレス。作り物のように整った顔立ち。

隔絶した容姿を誇る少女は独り言を続ける。

 

転生したら邪竜の章のエレオス大陸だった。

 

エレオス大陸。大人気ストラテジーゲーム作品の一つ、「ファイアーエムブレムエンゲージ」の舞台となる大陸である。

その特色を明文化するならば、宗教が価値観の中心となった世界。

大半の民は世界を守護した英雄たる神竜を崇め、一部の民が恩義ある邪竜を崇める。

そのためか、各国が堅持する権威も神竜、および邪竜に付随する。

 

「紋章士」。異界の英雄の情報を統合し、顕現した存在。

彼らの力は竜の呼び声に呼応して発現する。

彼らが宿る装飾品は国宝であり、抑止力でもある。

英雄らの力はあまりにも強すぎた。

国家間で決定的な不和をもたらすほどに。

その管理者たる神竜の意見も気にせず、所有権を主張して憚らないほどに。

 

彼女が転生した世界は、「本来辿るべき歴史」のネガであった。

要するに、「ファイアーエムブレムエンゲージの限りなくバッドエンドに近いトゥルーエンド」を迎える世界だったのだ。

 

無論、彼女は足掻いた。

どう足掻いても死ぬ。なんなら世界が取り返しのつかないレベルで滅びる。

そのことを知っていたからこそ、各国の人間に協力を呼びかけた。

が、しかし。馬の耳に念仏であった。

仮にも神の言葉なんだからちゃんと聞けよ。いや、人の子の自由なんだけどさ、世界滅ぶ瀬戸際なんだわ。

ギスギスと不和を醸し出す行軍で士気など上がるはずもなく、彼女は死亡コースを爆速で突き進んだ。

 

結果。邪竜と相打ちとなって死んだ。エレオスに住まう大半の人間もろとも。

 

一番献身的だった者が敵対関係にあるはずの邪竜の縁者ってどういうことだ。

そんな文句を抱えながら、彼女はそれっぽい遺言を残して死んだ。

ただ、死んでからの方が大変だった。

 

死んだ連中全てが蘇ったのだ。

 

否。蘇ったわけではない。動く屍…異形兵として、国の営みを繰り広げ始めたのだ。

死の世界。決定的な歪み。

その下手人である邪竜の子は、拠り所と感情の矛盾に苦しむことになる。

これではあまりに救いがない。

そう考えた彼女は、辿るべき歴史がそうしたように、異界で大躍進を遂げている自分を呼び寄せた。

ソレを最後に、神竜は完全に世から消えた。

消えたはずだったのだ。

 

それがどうして、こんな森の中に無造作に放られているのか。

 

何故に「紋章士」が纏う青い炎が自分を中心に揺らいでいるのか。

何故、この青々とした草原に埋もれるように置かれた指輪から離れられないのか。

悶々と考えるも、一向に答えは出ない。

せめて誰か通りがからないものか。

…いや、ここが自分のいた世界なら、誰も通りがかることはない。

唯一残った邪竜の子らも、回復のために千年の時を聖地で過ごしているのだから。

罰。そう、これは世界を救えなかった自分への罰なのだ。

そう考えると納得できる……わけがない。

 

どう足掻いても詰みな世界に放り込んでおいて救えなかったら罰とかどんだけ傲慢なんだクソッタレ!!

 

だが、そこは神竜。心中で叫びこそすれ、努めて冷静に状況を俯瞰する。

生えている雑草、揺れる木々。それらを見てはっきり言える。

どれも見たことがないのだ。

滅びて植生が変わったのか。

ならば、数万年後には新たな人類でも誕生しているかもしれない。気長に待てば、指輪を拾ってくれる誰かが現れるだろう。

 

……それまで死ぬほど暇だという事実を無視すれば。

 

『誰かーーーッ!!

助けてくださーーーい!!』

 

狂う。狂ってしまう。

いくら血生臭い世界を生き抜いた神竜とはいえ、その中身は手持ち無沙汰にネット小説を読み漁るような一般人。

娯楽に満ちた世界を知っているが故に、何もない苦痛が彼女を苦しめた。

と、そんな折だった。

1人の人影がこの場を通りがかったのは。

 

『あっ!そこの人ーッ!この指輪拾ってくださーい!あー行かないで!ちょーっと手に取ってくれるだけでいいんです!あっ、そうだ!パンツあげます!神竜のパンツですよ!?親衛隊にすら見せたことのないパンツです!あ、それともおっぱいですか!?結構柔らかいんですよこれ!ほら、たぷんたぷん揺れてるでしょ、ほら!…あーもーわかりました全部脱ぎます!土下座でもセックスでも何でもしますお願い待ってぇぇえええ!!置いてかないでぇぇええええっ!!』

 

もうプライドもへったくれもなかった。

神どころか女として最低限の尊厳すらも投げ捨て、通りすがる人を呼び止めようとする神竜。

と。そんな願いが届いたのだろうか。

それとももっと別の理由だろうか。

その人影はゆっくりと振り返り、落ちていた指輪を覗き込んだ。

 

「指輪…?」

『ありがとうございま…、えッ、日本人?』

 

礼を言おうとして、違和感に気づく。

はて。エレオス大陸に日本人特有の顔立ちをした美人がいただろうか。

大陸外からの受け入れはあったが、それにしては服装が奇天烈だ。

持っている武器も刀ではないし、感じる気配も人のソレとはまた違う。

…まさか、ここは異界なのだろうか。

そんな疑問に至った矢先、覗き込んだ女性の手が指輪に伸びる。

青の宝石があしらわれた指輪。母ルミエルより継承の祝い品として贈られた、何の変哲もない指輪だったもの。

女性の指がソレに触れた、その時。

 

《告・個体名「シズエ・イザワ」が「絆炎(ばんえん)の指輪」を獲得しました。紋章士契約に移ります》

「ん?」

 

やけに抑揚のない、機械的な音声が響いた。

……あれ?紋章士に契約とか必要だっけ?自分が呼べば普通に出てきてくれたような気がするんだが。

そんな疑問を解消するより先、先ほどの音声が再び響く。

 

《成功しました。

ユニークスキル「紋章ノ加護(エムブレム)」を獲得しました》

「…………へっ???」

『えっ…と。見えてますか…?』

 

愕然とする女性に恐る恐る問いかける神竜。

と。彼女はこちらを見て、愕然と唇を震わせた。

 

「あ、あなたは…?」

『初めまして、シズさん。えっと、紋章士リュールと申します』

 

物語の歯車がズレた音がした。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「あ、新たな紋章士の指輪…!?」

「紋章士ってなんだ?」

「し、失礼。驚いてしまいまして…」

 

響いた「世界の言葉」とやらに疑問を抱き、近場にいたゴブリン…リグルドに問いかける。

まだまだ知らないことだらけなのだ。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というからな。

反応を見るにものすごく常識的な知識らしい。聞いたことをちょっと後悔した。

 

「異世界より人間が召喚され、兵力として運用される…というのはご存知であるかと。

紋章士も似たようなものではあるのですが、彼らの場合は少々特異な存在でして」

「異世界が関わるのは変わらないんだろ?何が違うんだ?」

 

異世界人、自分みたいなスライムの他に別カテゴリがあったのか。

ヴェルドラからは「異世界人は珍しくない」とだけ聞いたくらいだし、おんなじようなものなのかも。

そんな俺の疑問は的を外れていたようで、リグルドの目に信じられないようなものを見るかのような眼光が一瞬混じった。

しょうがないじゃん。スライム一年生なんだから。

 

「紋章士とは、異世界の英雄の情報が指輪に集積し意思を持った最上位精霊。

その英雄が扱うとされた力であれば、その全てを十全に再現することができるのです」

「それだけ聞くとすごいけど、異世界人とあまり変わらないような気が…」

「無論、それだけではございません。

彼らは契約者と融合(エンゲージ)することで、その力を貸し出すことができるのです」

「なにそのロマン仕様!!」

 

是非とも契約してみたい。伝説の勇者にしか使えない武器とか使ってみたい。

俺もエクスカリバーとか叫んでみたい。ゲイボルグでもいい。

ワクワクが膨らむ要素ばかり詰め込んでるな、紋章士。

 

「ですが、完全な契約を果たすには、紋章士が己の身を契約者に許す必要があります。

契約者を見極めるための試練は、どれも熾烈を極めると聞きます。

その試練で一国が滅びた…という伝説すらあるほどで…」

「お、やっぱりそういうのもあるのね…。

紋章士の指輪って幾つくらいあるんだ?」

 

相当なレアアイテムだろう。

世界の言葉が響いた直後の皆の慌てっぷりから見て、数はそんなにないと見た。

 

「判明しているだけでも6つ。

その中で『絆炎の指輪』というものは存在しませんでした」

「つまり…、完全新種ってこと!?」

 

くぁー!羨ましい!

ロマンあるなぁ。スライムでも認めてくれるかなぁ。ジュラの森をそこらじゅう跳ね回れば見つかるかな。

俺もカッコいい名前の指輪欲しい。

心にはいつだって中学2年生の自分がいる。

…契約しても、スライムの体で武器を振るえるかと言われるとちょっと…いや、相当不安だが。

 

「そのうちの一つは大鬼族が有しております。

名は『時の縁の指輪』。紋章士に認められた者は今のところおりません」

「へー…。是が非でも取りに行くやつとかいそうだな」

「はっはっはっ。誰も眠れる竜の尾を踏み抜くような真似は致しますまい」

 

なるほど。侵略に際して認められるパターンもあるわけか。

扱いとしては戦略兵器みたいなモンなんだろうか。

しかし、会ってみたい。契約とまでは行かなくとも、ちょっと挨拶とかしてみたい。

男の子は英雄という単語に弱いのだ。

……もうそんな歳じゃないけど、スライム一年生ってことで許してほしい。

誰に向けたかもわからない弁明を吐き、俺は発展していく街の視察に戻った。

 

運命の出会いまであと少し。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

時は少し進み、シズと英雄の間にそれなりの絆が芽生えた頃。

英雄は寝静まったシズと融合(エンゲージ)し、その体の中を巡る。

断りは入れなかったが、事後承諾でも構わないだろう。

そんなことを思いつつ、英雄は眼前に佇む異形を前に口を開く。

 

『私は世界を救えませんでした。

どう足掻こうと、その事実だけは変わりません』

 

英雄は無力を嘆いた。

神を名乗るに相応しい力はあった。最愛の母を殺した邪竜へと立ち向かう勇気もあった。

託された者として。神竜として。人を導く者として。

漏れ出そうになる文句を噛み殺し、本気で世界を救おうと努めた。

 

しかし、現実はどこまでも非情だ。

 

信仰を元にまとめ上げたはいいものの、どこまでも相容れなかったのだろう。

集った仲間はいがみ合い続け、残らず殺された。

神竜は残った邪竜の神子と共に、世界を殺し尽くした邪竜を討ち、倒れた。

無念だった。何が起きるか知っていたのに、手遅れになってしまった。

四の翼。邪竜の神子の生き残り。屍人により繰り返される戦乱。

手元に残った何もかもを別の世界の自分に押し付け、朽ち果てた。

 

『私は誰も救えなかった。私は神として成すべきを成せなかった。

羨ましかった。誰かを救っていたあなたが。

許せなかった。なにも救えなかった自分が』

 

爆炎が舞い散る。

肌が焦げる感覚を懐かしく思いながら、神竜は笑う。

 

『でも、今は嬉しく思うのです。

何も救えぬ神が初めて救う命。

それがあなたで良かったと』

 

人を救う神となれる。

母に誇れる竜となれる。

その歓喜を胸に、神竜は剣を抜いた。

 

『出ていきなさい、イフリート。

その席は私が貰います』

 

構えた剣が鳴る。

名は「オリゴルディア」。異形の者を打ち砕くべく顕現した神器。

向けられた爆炎を引き裂き、神竜が駆け出した。




紋章士…ファイアーエムブレムエンゲージに登場する指輪や腕輪に宿る異世界の英雄。神竜の祈りか邪竜の呪文によって目覚め、装着者にその力を授ける。絆を深めるごとに授ける力が多くなる。この転スラ世界では最上位精霊として君臨する。精霊としての核は指輪の宝石部。

紋章士リュール…邪竜の章の舞台となる世界の神竜。世界も家族も救えなかった負け犬。邪竜は倒したものの、相打ちとなって死亡。その情報が異世界の指輪へと集積し、紋章士となった。1000年もの間信仰対象として祭り上げられていたので政務に詳しい。孤独がトラウマで、人を呼び止めるためなら簡単に尊厳を投げ捨てる。

シズ…拾った指輪で命拾いした人。戦乱を経験した者同士意気投合し、着実に絆を深めている。

リムル…心に中学二年生を飼っている。紋章士を顕現する呪文があると聞いてテンションが上がった。
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