転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
『という次第で、このようにイフリートを叩き出したのですが…』
「なにしてんの!?!?」
運命の出会いを果たす日の朝。
ズタボロの状態で首元を掴まれたイフリートを前に、素っ頓狂な声を上げるシズ。
寝てる間に何があった。
ぐるぐると思考がめぐるも、ふと違和感に気づく。
「……あれ?老化が始まらない…?」
『私がシンクロしました。
無論、意思を奪うといったような真似はしないのでご安心を』
「すっごい雑に助けられた気がする…」
『そうですか?』
もう少しドラマチックであって欲しかった。
長年の悩みがこうもあっさり解決されたことが腑に落ちないのだろう。
渋い顔を晒し、シズは神竜に問うた。
「イフリートはどうするの?」
手元に置いている仮面に施された効果により、イフリートはその猛威を抑えられてきた。
しかし、それはシズがイフリートを宿し、仮面を装着していたから為せたこと。
体から叩き出されたが故、イフリートは自由になってしまった。
シズの危惧に対し、神竜は「心配いりません」と微笑んだ。
『私が封じておきます。
腕輪はありますか?』
「ないよそんなの」
『腕輪を持ち歩かない…!?』
「どこに衝撃を受けてるの…?」
バカな。エレオスは願掛けとして腕輪を持ち歩く人間でいっぱいだったぞ。
愕然とするリュールに呆れを向け、シズは軽く身支度を整える。
「んー…、あっ。このイヤリングとかでもいい?
ちょっと奮発して買ったの」
『無理ですね、これ。
何か力が宿ってる感じがします』
「そういうのもわかるんだ」
『追い出せないこともないんですが、イフリートのように精神を蝕むといった実害がなければ、その手は取りたくないんですよね…。
なんの落ち度もない者を都合が悪いから出てけと追い出すなんて、人としてどうかと…』
「ひ、人…なのかな…?」
やけに人間臭い精霊だなぁ。
…いや。異世界の英雄の情報が意思を持った存在だから、人間に近い価値観を持っているだけなのかも。
そんなことを思いつつ、不満そうに神竜の手にぶら下がるイフリートを見やる。
「…一緒に置いておくことはできないかな?」
『無理ですね。シズが爆発します。ぼーんと』
「爆発!?!?」
『私、結構情報量あるみたいで。
無理やり詰め込むと、シズの魂がオーバーフローして爆発四散する可能性が…』
「………ものすごくまずいってことは伝わったよ…」
別にそれでもいいかも、と言いかけるも、すんでのところで止める。
と。自身を呼ぶ同行者の声が響いた。
『……ホントどうします、これ?』
「…………この指輪の中とか行ける?」
『女の子の住処にこんな得体の知れないモノを入れろと!?』
「ご、ごめん…」
『いいですよ』
「…………」
いいんかい。
先ほどの剣幕を霧散させ、あっけらかんと言い放つ神竜に体勢を崩すシズ。
神竜は手に握ったイフリートを指輪に放り込み、シズの体へと入った。
「あれ?今日は指輪じゃないの?」
『2人だと狭いんですよ。一人暮らしには丁度いいんですけど』
「そんな物件みたいな感じなんだ…」
『他の紋章士がどうかは知りませんけど、私のは前々世の自室に似てますね。
娯楽要素全部取っ払われてますが』
あれだけあった漫画やラノベ、ゲームに玩具が軒並み消えていると知った時のテンションの下がりようと言ったら。
油に塗れて剣でも磨いておけというお告げなのだろうか。
今はこうして、ゲームのようなシステムが敷かれている世界を側で見守ることだけが唯一の娯楽である。
前世も今世も難儀な人生だな、などと思いつつ、神竜はシズに問いかける。
『……その、怒っていますか?
勝手な真似をしたことを』
「少しね。相談はして欲しかったかも」
『すみません。起きている間にやると、シズを巻き込みかねなかったので…』
「進んで1人でやろうとするの、悪い癖だと思うな」
「私が言えた話じゃないけど」と付け足し、彼女が外へと出る。
話し相手のいなくなった神竜はため息を吐き、久方ぶりに感じる青い空を見やった。
『………1人でなんでもできたらよかったのですが』
♦︎♦︎♦︎♦︎
「それが紋章士の指輪なのか?」
時は少し進み。
同郷だという運命の人…シズさんと共に故郷の話に花を咲かせていたところ、俺はふと思い出して彼女に問うた。
彼女の指に煌めく指輪。
大賢者が『紋章士の指輪』と言っていたのだから間違いない。
俺がキラッキラした瞳で問うと、彼女は笑みを返した。
「うん。紋章士さんも日本の人だったんだよ」
「おぉー!!織田信長とか!?」
「あはは…。そう言うのじゃないかな…。
元は日本人で、一回転生して死んだんだって」
「ほうほう…」
それで英雄と呼ばれるなんてすごいなぁ。
俺は今を楽しく生きるので精一杯だ。
そんなことを思っていると、シズさんが胸に手を当てた。
「リュールさん、出てきて」
ぶわっ、と溢れる青の炎。
熱を持たないそれにパチクリと目を丸くしていると、眼前に少女が降り立つ。
深い青。うねるように伸びる髪。
その少女が目を開くと、髪と同じように青く染まった瞳が俺を捉えた。
『初めまして、リムル=テンペストさん。
紋章士リュールと申します』
「ぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよ!」
『配合素材行きですね』
「!?!?」
ベスか?それともボックスか?できればドラゴスライムのがいいな。
戦慄を覚える俺に「冗談です」と少女は笑った。
リュール様はモンスターズしかやったことない派閥