転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
『帰ってきましたよ愛しの我が家!!』
「お、おう…。すごい喜びようだな…」
けぷっ、と出るはずもないゲップをかまし、喜ぶリュールに呆れをこぼす。
なんてことはない。俺のスキル…「捕食者」の効果を説明したところ、リュールが「ぜひ食べてほしいものがある」と精霊…イフリートを出したのだ。
なんでもこの精霊、元々はシズさんに宿っていたらしく、精神を蝕む猛毒となっていたらしい。
それをリュールが対処したところ、イフリートが生きる檻となっていたシズさんから叩き出され、自由を得てしまったのだとか。
紋章士の指輪に放り込んだはいいものの、紋章士からすればあまり面白い事態ではなく、どうしたものかと頭を悩ませていたそう。
喜んで指輪に入っては出るリュールに、俺とシズさんは笑みを向ける。
「助けになったなら良かったよ!」
『ありがとうございます!
あー…、忘れてた文明の香りがする…』
「その中、どうなってんの?」
『よくある1LDKです。娯楽要素は全部取っ払われてますが、向こうの世界のベッドとかカーペットとかありますよ』
「おぉー。なんか快適そう」
『暇ですけどね。できることなんて、気まぐれに寝ころぶくらいです』
それでも羨ましい。
ここの寝床は藁がガサガサしてて、あんまり肌に合わないんだよな。
向こうのベッドと枕が恋しい。すごく。
ドワーフたちに作ってもらおうかな。設計図と材料さえあれば行けるだろうし。
「ベッドに、カーペット…。
向こうの世界は豊かになってるんだね」
『ええ。…政治家が私腹肥やして用途が不明瞭な税を徴収しまくってるのが不満ですが』
「あ、あはは…。私はちょっと、共感しづらいかなー…」
『ああ、欲しがりません勝つまではとかいうバカみたいなスローガン掲げてた時代の人でしたっけ。
ジリ貧でーすと自己紹介してるようなものですよね、アレ』
「すっげぇ毒吐くなお前…」
シズさんの顔がすごいことになってる。
助走つけてぶん殴るどころの騒ぎじゃないもんな。馬乗りになってボコボコにされて井戸に捨てられるレベルの暴言だもんな。
俺たちが微妙な視線を向けるも、リュールは悪びれることなく胸を張った。
『私、政治家大っ嫌いですもん。本当に碌な奴がいませんよ、政治家貴族連中は。
この1000年の間、どれだけ苦渋と辛酸を舐めさせられたか…!
こっちが貸し出してるのに私物化するな!我が物顔で腕輪使って戦争始めるな!こっちは許可してないですよ嘘つくな!仲裁する立場の面倒臭さを考えろこの野郎!!』
「………苦労したんだな…」
「なんでも元いた世界では最大規模の信仰対象で、国家間の仲を取り持ったりしてたみたい」
「法皇かよ…」
宗教が政治に介入してもいいのだろうか。
…いや、あんまり日本と同じ価値観で物事を考えない方がいいのかも。
苦い記憶に荒ぶるリュールを前に苦笑していると、落ち着いた彼女が俺に目を向けた。
『……すみません、取り乱しました。政治と聞くとどうしても抑えきれない怒りが…』
「何があったんだよ前世で…」
『聞きますか?』
「楽しくなさそうだから聞かない…」
『何にも言った覚えがないのに隣国を聖敵認定して侵攻開始したバカ王がいてですね。各国に親交の証として預けてた神器を勝手に使ってたものだから、無関係なこっちにもクレーム入って、方々の対応に追われることに…』
「あーあーあーあー!!
きーきーたーくーなーいー!!」
ゼネコン時代を思い出しかねない苦労話はやめてくれ。俺に効く。
神というのも楽じゃないらしい。
そんなことを思っていると、リュールの顔に真剣なものが混じった。
『言っておきますが、あなたにとっては他人事じゃないですからね』
「へ?どゆこと?」
王になる気とかさらさら無いんだけど。
そう言いたげな瞳をしていたのだろう。リュールの目が明らかに呆れを放った。
『この村の代表は間違いなくあなたです、リムルさん。違いますか?』
「違わないな。正直、不本意だけど」
『そして、あなたはこの村を発展させようと考えている。
自分の住む場所ですからね。あれが欲しい、これが欲しい、よし作ろうとなってドワーフたちを呼び込んだのでしょう?』
「う、うん」
すごい読まれてる。
俺が内心で冷や汗をかくのも気にせず、リュールは語り始めた。
『発展は人を呼びます。…いえ、この場合は魔物でしょうか。まあ、なんにせよ人口は増えるわけです。
そうなると、あなたは近いうちに建国を迫られるでしょう』
「そう、かも…?」
『かもじゃありません。発展を目指すなら確実にそうなります』
「言い切るなぁ…。経験あるのか?」
『ええ。そうして生まれた小国が潰されたのを見たことがあるので』
肝が冷えた。
つまるところ、俺たちは今、出る杭になろうとしてるってわけか。
易々と叩かれるつもりはないが、どこかで戦乱が起きる可能性は高い。
俺の戦慄を気にせず、リュールは話を続けた。
『リムルさん。みんな仲良くというあなたの考えは素晴らしいものだと思います。
生活を素晴らしいものにしたい。ついでにみんなと仲良くしよう。
そんなふうにできたら、どれほど素晴らしいことでしょうか。
…しかし、誰しもがそう思っているわけではない。それだけは肝に銘じておくべきです』
「………わかった」
1000年も政治に携わっていた人からの忠告だ。ありがたく受け取っておこう。
正直なところ、自分が国を作るなんて想像できないけれど。
前世は普通のサラリーマンだぞ、俺。それが王様なんて、スライム云々を抜きにしても格好つかないんじゃなかろうか。
そんなことを思っていると、シズさんがふと声を漏らす。
「……となると…。スライムさん、いつか魔王になっちゃうかもね。
この世界だと、王にも力が必要だから」
「ほぉー…。スライムが魔王かぁ…」
『格好つかないですね』
おいこら。
…しかし、魔王か。なかなかに夢がある。
道端で初エンカウントする雑魚からの大躍進。キングなスライムも嫉妬するだろう。
…もし魔王になれば、シズさんが探しているという魔王にも近づけるだろうか。
いや、でもまんまるぷるぷるな魔王か…。うん。威厳に欠ける。
そんなことを思っていると、リュールが思いついたように口を開いた。
『あ、そうだ。格好がつくように、人に近い肉体を作りましょうか?』
「そんなことできんの!?」
『ええ。一宿一飯の恩です。
それに…、ずっとスライムのままだとナメられますからね。確実に』
「ゔ」
痛いとこ突いてくるなぁ。いざという時は妖気を少し解放すればいいだろう。
俺がそんな言い訳をしていると、リュールの眼前に鎧姿の女性が現れる。
顔に生気はないが、間違いない。シズさんの顔だ。
シズさんもそれを見て気づいたのか、頬を染めてリュールに問うた。
「……私そっくりなのはなんで?」
『人体を作るとか初めてですから、モデルをそのまま使ってみました』
「それなのに自信満々に提案したの!?」
『母様は防衛戦力としてよく作ってたんですけど、私はあんまり好まなかったんですよ。
ほら、顔に生気がまるで無いじゃないですか。なんか不気味で』
「それに体力削るんですよね、これ」と呟くリュール。
その瞳は俺に向けられている。
シズさんを見やると、同じように目線が合った。
俺は彼女らに礼を言うと、生まれたばかりの肉体を体の中に取り込んだ。
邪竜の章のギスギスっぷりを千年味わってきたため、めちゃくちゃ荒んでる