転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
『ふむふむ…、これが「この世界」の紋章士の指輪ですか』
人の体を手に入れ、数日。
少し前に壊滅の憂き目に遭った大鬼族の盛大な誤解を解き終えた俺のそばに、しばらく村に腰を落ち着けることを決めたシズさんとリュールが姿を見せる。
彼女らの視線の先にあるのは、大鬼族の若様が薬指に収めた黒の指輪。
まじまじとそれを見つめるリュールに、俺は妖気を隠す目的でシズさんから借りていた仮面を返し、問いかける。
「この世界の?」
『紋章士は各世界に散らばってるんです。
私の世界にも7人いました』
「基本的には7人なのか」
『あ、いえ。男の私がいる世界は13人です』
「倍近いじゃん。……男のリュール?」
『そこはツッコまないでください。説明が面倒くさいので』
「あ、うん」
そう言われると気になるんだが。
あれかな。並行同位体とかいうの。
親戚の子たちと見ていたウルトラマンで、そんな感じの便利造語があった気がする。
しかし、問い詰めようにもコイツ、面倒を徹底的に嫌うんだよな…。
シズさんのお願いでも、避けられる面倒は極力避けると聞くし。
英雄って皆こんな感じなのか、などと思っていると、リュールが大鬼族の皆へと目を向けた。
『では、目覚めさせてみましょうか』
「で、できるのか!?そんなことが…!?」
『はい。少しお借りしますね』
赤の大鬼族から指輪を受け取るリュール。
彼女はそれを包み込むように手を合わせ、どこかへと祈りを捧げる。
瞬間。ぶわっ、と青の炎が舞い散り、黒の鎧に身を包んだ女性が降り立った。
『………この百鬼夜行はなに?』
「おお…!これが、里の紋章士様…!」
えっちだ!!太ももが!!すごく!!!
感激している大鬼族の皆には悪いが、それでも男としては思わずにはいられない。
困惑を見せる女性は視線を右往左往させ、ふとリュールを見つめる。
『神竜リュール…?
私、エレオスに来たの…?』
「あれ?知り合いなのか?」
『いえ、面識はありませんよ』
『ごめんなさい、こっちが一方的に知ってるだけ。紋章士として目覚めたばかりだから、なにがなんだかわかんなくて…』
結構有名人なのかな。
目が据わり始めたリュールから目を逸らし、俺はいつもの挨拶をかます。
「オレはリムル=テンペスト!
ぷるぷる、わるいスライムじゃないよ!」
『……なるほどね。こちらこそ初めまして。
私は雪月の紋章士ベレス。生前は士官学校の教師をしていた』
なんか思っていた反応と違う。
けど、なんとなくわかった。彼女も俺たちと同郷か。
確信を胸に俺は浮かんだ疑問を彼女にぶつける。
「士官学校の先生が英雄…?」
『いろいろあったの。…ようやく解放されたと思ったらこれか』
哀愁を纏い、ため息をつく女性…ベレス。
彼女もまた戦乱に巻き込まれた1人なのか。
ベレスは平伏する大鬼族へと目を向け、ゆっくりと屈んだ。
『……で、君たちが私を拾った人?』
「いえ。紋章士様を見つけたのは、儂の祖父です。もう数百年も前ですが…、この時を待ち侘びておりました」
『長寿種か…。それは…、辛いことを聞いてしまった』
「いえ。それはもう割り切っておりますが…」
『…………何があった?』
表情の変化を読み取ったのだろう。
ベレスが問いかけると、赤の大鬼族がぽつぽつと語り始める。
里が滅んでしまったこと。
紋章士の指輪だけは守ろうと、親や仲間たちに逃がされたこと。
這々の体で逃げ延びた先で、ベレスが目覚めたこと。
その全てを聞き終えたベレスは申し訳なさそうに眉を顰め、深々と頭を下げた。
『……ごめんなさい。
そんな時に目覚めることができなくて』
「い、いえ…。そのようなことは…」
『繕わなくてもいい。肝心な時に役に立たなかった。その事実は変わらない』
「違う、違うのです…!
我らが、我らが至らぬばかりに…、我らが弱いばかりに…!」
互いが互いに譲らない謝罪合戦。
重苦しい空気が漂う中、俺はぷるんと震え、間に入った。
「はい、懺悔大会おしまい!これからのことについては、皆で考えよっか!」
両者が目を丸くする。
しばし考え、互いにそうするべきだと思ってくれたのだろう。
ゆっくりと頷く彼らを前に、俺は安堵の息をついた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『リュールも転生者だったんだ』
『ええ。ここにいる4人は皆同郷ですし、遠慮はいりませんよ』
大鬼族とこれからのことを相談した夜。
庵に集まった俺は、新たに加入した転生者仲間…ベレスに問いかける。
「ベレスの前世はどんな感じだったんだ?」
『何回も戦乱の歴史を繰り返してた。
ハッピーエンドを掴み取ろうとして頑張ったけど、無理だった。
育てた生徒の断末魔に耳が慣れて10ループしたくらいでようやくループが終わって…』
「……紋章士ってこんな辛い境遇のやつばっかなのか?」
『英雄ですからね。
皆、戦乱の悲劇に見舞われていますよ』
英雄の称号って血生臭いものなんだなぁ。
…いや、当然か。英雄と呼ばれるに相応しい武勲を成したってことだもんな。
互いに遠い目をする2人に冷や汗を垂らしていると、シズが問いかけた。
「やっぱり私、ここを拠点にしようかな」
「シズさん?魔王レオンを探すんじゃ…」
「それはそうなんだけど…、スライムさんはもうすぐ大きな戦いに出向くんでしょ?
これを乗り切っても、面倒ごとはたくさんあると思うし…、イフリートを食べてくれたお礼ってことで手伝わせてくれないかな?」
「そりゃ願ってもないが…、いいのか?」
「うん。それに…、リュールさんがほっとけないって顔してるから」
言って、シズさんはリュールへと目を向けた。
『ええ。このスライム野郎、めちゃくちゃ見通し甘いのが腹立って』
「そ、そんなに…?」
『じゃあ聞きますが。「人類を害すな」なんて命令を敷いて、向こう側から攻撃してきたらどうするんですか。
反撃すら許さないって言ってるのと同義ですよ、それ。間違いなく死人が出ます』
「そ、それは…、ほらっ!ドワルゴンとかいろんな国からちょっとずつ認めてもらって…」
『潰しますよ』
ガチトーンだ!!!
こめかみに青筋まで浮かべ、本気で怒るリュールを前にシズさんとベレスが唖然とした表情を見せる。
『こんなんだっけ、神竜リュールって…』
「1000年も政務に携わって、ちょっと性格が捻くれたって聞いたよ」
『……それにあんなセリフ吐くなんて度胸あるね、あのスライム』
「い、いいじゃんかよぉ夢見たってぇ!!」
『見過ぎだって言ってんです。統治についてみっ…ちり指南しますから覚悟しなさい』
「う、うえーん!助けてシズえもーん!!」
「ごめん、無理かな…」
こうして、この村に厳しく毒舌な相談役が就任したのだった。
紋章士ベレス…転生して何度も戦乱の歴史をループしたベレス。その数なんと100近く。どれだけハッピーエンドに近い結末に終わろうと即座にループ入って発狂。心がポッキリ折れた段階で紋章士となった。