転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
「……私たち、留守番でよかったのかな」
『本拠地ですからね。
留守にするわけにもいきません』
蜥蜴人族を襲撃した豚頭帝の討伐へと向かったリムルがいるであろう方角に、シズが心配そうに顔を歪める。
救援の要請を受けて馳せ参じる決断の早さは褒め称えるべきだろう。
…その戦法が「兵の質に物を言わせての作戦」でなければ。
見るからに不機嫌なリュールに対し、シズが恐る恐る問いかける。
「その、こっちの戦は勝手が違うから…」
『なにも違いません。動かす兵力に火力が増しただけです』
「リュールならどうしたの?」
『数での不利はわかりきっています。
頭さえ潰せばいいという勝利条件なら、やりようはいくらでもあります。
部隊から切り離し、袋叩きにする。弓や魔法で遠くから飽和攻撃を喰らわせる。なんなら豚頭族の死体をいくつか拝借し、そのガワを使って紛れ込み闇討ちとかも…』
「最後のはやりすぎじゃないかな!?」
良心に欠けた戦法だ。
鬼畜極まるリュールの作戦に愕然とするも、彼女は何がおかしいのかわからず、首を傾げた。
『エレオスではよくありましたよ?
例えば…1000年くらい前、母さん…前神竜王ルミエルが邪竜を封じた直後に結構大規模な戦争が起きたんです。
その原因がまさに背乗りと言いますか。
極寒の国イルシオンが隣国である砂漠の国ソルム軍のフリをして自国にある集落を壊滅させ、「攻撃されたー」って反撃した上での侵攻の正当性を主張したことでして…』
「道徳倫理欠けすぎてない!?!?」
『当時は邪竜ソンブルが大暴れしてたせいで旱魃やら異常気象やらなんやらが立て続けに起こったんです。
結果、各国で食糧となる穀物や果実のほとんどが歴史的な不作でした。
そんな食糧危機にある中での開戦でしたからもう大混乱も大混乱で…』
あの時は過労死しかけました、としみじみするリュールにドン引きするシズ。
と。リュールは何かに気付いたのか、ふと声を漏らした。
『ああ、そう考えると豚頭族の侵攻に通ずるものがありますね。
此度の戦乱も飢饉が原因でしょうし』
「そうなの?」
『まず資源を活かす産業文化や加工文化、貨幣や外交といった信頼を基盤にした文化すら根付いていなかった魔物の生活圏で起きた侵攻ですからね。
支配域を広げることで得られるメリットなんて、食料資源の確保くらいです』
「………政治家みたい」
『冗談でもやめてください。自死したくなるので』
「せめて裁判官で」と付け足すリュールに、シズは苦笑を浮かべる。
政治家呼ばわりは気に入らないらしい。
やってることはそんなに変わらないだろうに、と呆れながら、シズは彼女に問いかけた。
「…豚頭族はどうなるんだろうね」
『頭は殺されるでしょうが、生き残った彼らはリムルさんが受け入れてしまうでしょうね』
「……なんでそう思うの?」
『私も、そうしたことがあるもので』
思い出すのは、父の元から逃げ延びてきた邪竜の子2人。
邪竜に故郷を滅ぼされた従者を宥め、母と共に彼女らを迎え入れた時の記憶。
その片割れがいずれ世界を滅ぼすと知りながら、彼女はそれを見捨てることをしなかった。
後悔は死ぬほどしたが、その選択だけは悔いなかった。
できれば自分が救ってあげたかったものだ。
…いや、彼らを救うために呼んだ彼も自分だったか。
我ながらややこしい事態にしたな、と思いつつ、リュールは薄く笑った。
『リムルさんのことです。
どうせ大した策もなく、豚頭族をこき使って街を発展させるつもりでしょう。
帰ってくるまで、防衛策でも練りましょうか』
「リュールって、スライムさんのこと好きだよね…」
『ええ。同じ、考えなしの愚か者ですから』
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……まーじで祀り上げられたんだけど…」
『提案者である上に、トレイニーさんに認められる実力者ですからね。
弱肉強食が社会構図の基盤にある魔物からすれば、あなた以外が盟主になれば怒涛のように文句が飛びますよ』
ガビルの親族をはじめとした蜥蜴人族、ベニマルたち大鬼族…もとい鬼人たち、森の管理者であるトレイニーさん、そして俺を交えた会議を終え、数日。
ようやくやるべきことを終えた俺は、日本出身が固まった部屋にて深いため息をつく。
俺はジュラの森の盟主なんてやるつもりはなかったのだが、周囲の圧に負けてつい引き受けてしまった。
嘆く俺にリュールの正論が飛ぶ。
意味ないだろと思っていた統治の授業がとうとうに役に立つ時がきたのかも。
そんなことを思っていると、リュールが机に広げた街の完成図を指差す。
『愚痴ってる暇はないですよ。
物見櫓と防衛を兼ねた砦を設けるので、その設備や人員について定めますよ』
「まずは生活基盤を整えてからでも…」
『侵攻されて死人が出てもいいというならお好きにどうぞ?』
「…………はい」
へにゃ、と少しばかり溶ける俺。
相談役になってから、俺に対する容赦がなくなってきた気がする。
そんなことを思っていると、ベレスがおずおずとリュールに語りかけた。
『リムルも強くなったし、ちょっと心配しすぎじゃないかな…』
『シズ。私が警戒する理由を教えてあげなさい』
「うん。ルミナス教の教えだね」
『宗教の話題やめて。ストレスで爆発する』
神祖とかいうスキル持ってるのに?
腹が痛む機能などないはずなのに、腹を抑えて蹲るベレス。
前世で何があったのだろうか。
俺とシズさんが心配を向けるも、リュールは「必要なので聞きなさい」と切り捨てた。
「ルミナス教の教えには『魔物との取引を禁ずる』とあるの。
これは解釈次第によっては、侵攻理由として正当なものと主張できる。
ここが発展することで不利益を被る国があれば、最悪…というか、確実にそうなる…んじゃないかなー…って…」
「なんだそれ!?」
大同盟組んじゃった時点で詰みじゃん!?
言い淀むシズさんに絶叫する俺。
完全に頭から抜けてた。この世界にもあるんだよな、宗教。
魔物に対する価値観をもう少し把握しとくべきだった。
というか、事前に教えてくれよ!!
シズさんに視線を向けると、「ごめん、言いづらくて…」と頭を下げられた。
なら仕方ない。許してあげよう。
そんなことを思いつつ、俺はリュールに声をかけた。
「よし、砦は作っておこうか」
『駐屯地にされそうなところも把握しておきましょう。
争いは起こさないに越したことはありません』
『………魔道砲台』
『ベニマルさんたちが使ったら確実にリーサルウェポンになりますね。採用です。
あとは…、「指導者」のスキルで住人に遠距離魔法を習得させましょう。ベレスさんの世界にある「メティオ」や「サンダーストーム」なら、接敵することなく殲滅も可能ですし』
『あとは火計用の爆薬だね。たくさん用意しないと』
「却下!!却下却下!!!
ぜっっったい却下だそんなもん!!!!」
ダメだ、コイツら。セーブしないと大同盟が虐殺国家になりかねない。
戦争に頭が慣れすぎて、道徳倫理がまるで機能していない2人を前に、俺とシズさんは疲れ切ったため息をついた。
ヴェイルの力も受け継いでるので、敵将の遺体を使って異形兵を作り、敵陣を混乱させる策も可能な模様