転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
『ドワルゴンの後ろ盾があるとはいえ、テンペストを承認する国がそれだけというのは弱すぎますね。
このままのスピードで発展すれば、近々挙兵されることは間違い無いかと』
「淡々と『戦争起きまーす』って説明されるのってこんなにも胃に悪いんだね」
ドワルゴンの王…ガゼル・ドワルゴからの承認を受け、この街が「ジュラ・テンペスト連邦国」として動き出し、数日。
淡々と予見される危機を告げるリュールに、俺はへにょりと脱力した。
無くなったはずの胃袋がめちゃくちゃ痛い。
これが幻肢痛か。
スライム姿でげんなりする俺に、リュールは天井を見てため息をついた。
『ここを要塞化することも考えたんですよ。
しかし、明らかに外敵を警戒する姿勢を取ると、余計にちょっかい出されますからね。
要塞は崩れる時はあっという間ですし』
「そ、それは…ちょっとな…。
友好的な魔物の街ってコンセプトだし、検問や砦以外はあんまり置きたくない」
『それはそれで正解なんですが…。
中に入られたらどうしようもなく弱いですよ、現時点だと』
「ベニマルやランガもいるし、大丈夫だと思うが…」
住人の進化は済んでるのだから、そこまで警戒する必要はないように思える。
俺の想定を見抜いたのだろう。
リュールは露骨に眉を顰め、首を横に振った。
『魔物の力を弱める結界があるとシズから聞きましたし、備えておくに越したことはありません。
まずは結界の発生や攻撃を未然に防ぐ策を考えましょう』
「うげっ…。そんなんあるの…?」
「スライムさんはもうちょっとこっちについてお勉強した方がいいと思うな…」
「ゔっ…。だ、大賢者さんいるからいいもん」
シズさんの指摘に、俺は苦し紛れに返す。
そうだ。俺には聞けばなんでも教えてくれる、天下の大賢者さんが付いてるんだ。
俺が呟くと、リュールがシズさんの体へと入り、彼女の体を動かした。
「え、ちょっと、リュール…?」
「おわ、わわわっ」
むんず、と掴まれる。
これ、シオン並の力入ってない…?
だらだらと冷や汗を垂らす俺に、髪が深い青に染まったシズさんが万力のような力を込めた。
「みぎゃーーーーーーッ!?!?」
「次そんな戯けたことを言ってみなさい。
天日干しにして野晒しにしますからね」
「助けてーーーッ!!
干物にされるーーーーッ!!!」
俺が叫ぶも、しぃん、と静寂が返るのみ。
魔力感知すると、扉の奥で数名が覗いていることがわかった。
アイツら、リュールが怖くて隠れてるな?
俺の自堕落なスライムライフはどこへ…。
そんな泣き言が溢れそうになった、その時だった。
「お取り込み中失礼します、リムル様、リュール様」
「ソウエイ…、どうかした…?」
リュールに引き伸ばされ、げんなりとしながらもソウエイに問う。
と。ソウエイはいつものように表情を変えず、淡々と告げた。
「魔王ミリム・ナーヴァ、及びその従者がお見えになっております。
いかがいたしましょう?」
「魔王…?」
何故だろうか。面倒くさい予感がした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「初めまして、ジュラ・テンペスト連邦国の皆々様。わたくし、魔王ミリムの従者を務めております、ヴェイルと申します。
ほら、ミリム。きちんと挨拶なさい」
「は、はじめましてなの…、は、はじめま…。
ゔー…。なんで魔王である私が遜る必要があるのだ…?」
すんごい尻に敷かれてる魔王が来た。
白と黒のグラデーションがかかる髪色の少女…ヴェイルが、その冷淡な瞳を主人であろう魔王ミリムに向ける。
魔王ミリムが「ぴっ」と悲鳴を上げるや否や、その細い手が彼女のこめかみを掴んだ。
「ぎゃーっ!?痛い、痛いのだー!?」
「あなたの可哀想な脳みそじゃわからないかもしれませんが、これは外交。
『面白そうだから遊びに行ってくるー!』…なんて気軽さでやっていいことじゃないんですよ…?」
「わ、わかった、わかったのだ!
ちゃんとするから、神経に魔力を流し込むのやめるのだだだだだだた!?
わ、わかりました!!ちゃんとします!!」
既視感がすごい。
俺も側から見たらこんなだったのかな、などと思いつつ、指輪に話しかけるシズさんの方を見やった。
「リュール、急に引っ込んでどうしたの?」
『いや、その、申し訳なさで顔を合わせづらいというかなんというか…』
「リュールがどうかしたのか?」
「それが、あの従者さんの顔を見た途端、急に引っ込んじゃって…」
珍しく弱々しい声色のリュールに、シズさんと俺が訝しげに眉を顰める。
と。魔王ミリムに折檻を終えたヴェイルがこちらへと頭を下げた。
「お見苦しいところをお見せしました。
ミリムは『自分が圧倒的に上』という立場でしか他者と接したことがない故、こういう場で粗相を働きがちなのです」
「そ、それはいいんだけどさ…。
大丈夫なの?相手、破壊者って異名もある危険な魔王なのだけど…」
「ええ。この脳足りんにはいい薬でしょう」
口の悪さがリュールと一緒だ。
姉妹じゃなかろうか、と訝しみながらも、俺は彼女に挨拶を返した。
「挨拶が遅れて申し訳ない。
俺がこのジュラ・テンペスト連邦国の王、リムル=テンペストだ。以後、よろしく」
「えっと、王室相談役補佐のシズエ・イザワです。シズとお呼びください」
「リムルさんに…、シズさんですね。
本日は急な訪問、失礼しました。
ことの顛末を説明いたしますと、ウチのバカ魔王が『面白そうな奴らがいる』と勝手に領地を飛び出したのを私が追いかけ、ここに辿り着いた…というのが全容となります」
結構キッチリしてるなぁ。
魔王と聞いて結構身構えていたんだが、そこまで警戒する必要はなかったか。
さんざっぱらこき下ろされて涙目になる魔王ミリムに親近感を抱いていると、ヴェイルの瞳が、キッ、と鋭くなった。
「ミリム!!ごめんなさいは!!??」
「はいっ!!ごめんなさい!!!」
「私にじゃありません、ここの人たちにです!!あなたが急に来たら現地の人が腰を抜かすと何度言えばわかるんですか!?」
「び、ビビる方がわる…」
「向こう10年、お食事はピーマンだけでいいとミッドレイに…」
「………………はい、ごめんなさい」
絵面がイタズラして母に叱られる子供のそれだ。微笑ましさがある。
…罰のスケールがおかしいけど。
ざわめく皆を抑え、俺は眉間に皺を寄せたヴェイルを宥めた。
「ま、まあまあ。何事もなかったんで大丈夫だよ。長旅で疲れただろうし、ウチの国を案内するよ」
「寛大な処置、感謝いたします。ほら、ミリムも」
「……あ、ありがとう、ございます」
うわー、心から嫌そう。
こういうときはあれだ。美味しい特産品でも渡して機嫌を取るべきだろう。
我ながら名案だ。
そんなことを思いつつ、俺は手元に蜂蜜が入った瓶を取り出した。
「ウチの特産品の蜂蜜だ。
良かったら食べてくれ」
「…………!!」
ヴェイルの目が明らかに輝き出した。
と。そんな彼女の反応を見てか、ミリムがひったくるように俺から瓶を受け取る。
そのまま流れるように中身を開き、一緒に差し出したスプーン…ではなく、そのまま指で蜂蜜を掬い取った。
「あー…むっ…………。
………これは私のなのだ」
「あっ…、ず、ずるいですよミリム!!
私も!私も一口!!」
「なにをー!人のものを欲しがるのはみっともないって言ってたではないか!」
「ぐ…!こういう時にだけ頭を回して…!」
きゃいきゃいと揉み合う2人を微笑ましく見ていると、隠れていたリュールがため息をついた。
『…………間違いありません。私の知るヴェイルです』
……口の悪さ、ここからだな。
そんな確信が俺たちの間によぎった。
ヴェイル…口調と佇まいは丁寧ながらも中身は割と幼児寄り。死後、転スラ世界に竜族として転生し、ミリムの側近兼友人としてブレーキを踏んでいる。ミリムの弱点。
ミリム・ナーヴァ…尻に敷かれてる系魔王。ある程度の好き勝手は許されてるが、やりすぎると年単位でご飯が嫌いな野菜になる