転生神竜「何も救えなかった負け犬なのに英雄扱いされた」 作:鳩胸な鴨
「素晴らしい街ですね。
発展途上の経済都市としては理想的かと」
「その口元ですんごいエンジョイしてるのは伝わったよ」
「…………失礼」
ミリムたちとマブダチになり、暫くの滞在を許して数日。
ファルムスやユーラザニアなど、さまざまな国の使者を捌き終えた俺に、ヴェイルの賞賛が飛ぶ。
…甘味類の食べかすで頬を汚しながら。
威厳がない、と判断した俺の指摘に顔を赤くさせ、それらを手で拭う。
彼女は咳払いすると、その鋭い瞳を俺に向けた。
「…ただ、牙城としては少し弱いかと。
ここは出没する魔物と木々が自然の防壁となっていた地域ですし、こう切り開いてしまっては、攻めてくださいと自己紹介してるようなものです」
「そこなんだよなぁ…。ミリムの領地はどんな風に防衛してるんだ?」
「……恥ずかしい話、あの地域は国家として機能していません。
わたくしがある程度の治世を任されてはおりますが、防衛策、および産業の発展に統治者が口うるさく…」
「それ、ミリムじゃないのか?」
「バカにまともな政治ができるわけないじゃないですか」
納得しかできない反論だ。
「ひどいのだ!」と叫ぶミリムに「嫌だったら真面目に座学に取り組みなさい」と返すヴェイル。
子どもらしく、勉強が嫌なのだろう。
うげ、と顔を歪め逡巡し、ミリムはバカの汚名を受け入れた。
それでいいのか、魔王よ。
「このバカを祀っている神官の頂点に座しているのがミッドレイという者なのですが…、これがまた偏屈な男でして。
己の肉体を鍛えることこそ最大の防衛策だの、自然の恵みをそのまま享受することこそが至高であるだの…」
「た、大変なんだな…」
「ええ。出てくる食事は生野菜か殺菌のためだけに下味もつけず焼いた肉や魚のみ。
神官としては優秀なのですが、統治者にはまるで向きません」
下味のついてない肉か。想像しただけでげんなりする。臭みがすごいだろうな。
魚は脂が乗っているならいいが、それでも塩を抜いたのはキツい。
上京したての安アパート暮らしだった俺の方がよっぽどいい食生活してたぞ。
…タレで煮詰めたもやしとかだったけど。
食べ終えた皿を置き、茶を啜るヴェイル。
彼女は息を吐くと、俺に涙ながらの笑みを向けた。
「その点、この国は素晴らしい。本当に。
こういった甘味なんてもう1000年ぶりで…」
「……これも食うか?」
「これは…、水饅頭…というものですか?」
「ここだとリムル様饅頭って名前なんだよ」
「ふむ。………これ、どのくらいで痛みます?」
「割とすぐに痛むな、残念ながら…」
「残念です…」
もきゅもきゅと差し出した水饅頭を頬張り、しょぼくれるヴェイル。
長持ちする甘味をシュナに作ってもらおう。
羨ましそうにヴェイルを見つめるミリムにも同じものを渡し、俺は彼女らに問いかける。
「俺としては国交を結びたかったんだが…、大丈夫そう?」
「願ってもない話ですが…、最低限、魔王と同等の力を持った方がよろしいでしょう。
バカ…失礼。ミリムが『マブダチ』と認定されたからと言って、その下が納得するかは別問題ですから」
「訂正が遅すぎるのだ!!」
「ごめんなさい、バカをバカと呼び慣れているので」
「バカって言った方がバカなのだ!!」
「そのセリフはバカが自分を慰めるために吐くものですよ」
「う、ゔぅ…。ヴェイルがいじめるぅう…」
核兵器レベルの危険物と認識されてる魔王なのに、やけに扱い慣れてるなぁ。
きゃいきゃいと喧嘩する2人を尻目に、俺はシズさんへと目を向けた。
「シズさん、彼女は?」
「暫く出ないって」
「……そんな気まずい関係なの?」
「その…、邪竜と戦ってる時、彼女に庇ってもらったみたいで…」
「あー…」
そういえば、リュールは邪竜と戦って死んだんだったか。
庇ってもらった直後に死んだとなれば、気まずさのあまり会いたくないのも頷けるか。
そんなことを思っていると、ミリムが俺の体を突いた。
「ん?どうした?」
「その二つ、紋章士の指輪か?」
「そ、そうだけど…、よくわかったな?」
「このミリム・アイに見破れぬものなどないのだ!ヴェイルも持ってるし…あだっ!?」
すぱこぉん、と音を立て、ミリムの頭が下がる。
ヴェイルはその胸ぐらを掴むと、ずいっ、と彼女の睨め付けた。
「国防に関わる話題ですので、よそでは控えなさいと言ったでしょう…?」
「で、でも、マブダチ…」
「友達に肛門を見せるバカが居ますか?」
「……………ごめんなさい」
肛門と同じって言われたぞ、お前ら。
薬指に座す指輪を見やると、なんとも言えない唸り声が聞こえた気がした。
「申し訳ありません、不躾な質問をして」
「あ、いや、いいんだ」
「紋章士のことを聞き回るつもりなどありません。どうかご容赦ください」
「ほ、ほんとに。気にしてないから」
どっちかというと会わせてあげたい。
邪竜との最終決戦にまで同行していたということは、彼女はリュールにとっても大事な仲間のはず。
俺は切り出そうとするも、リュールの恨み節が聞こえた気がして、話題を逸らす。
「も、紋章士ってそんなに危険なのか?」
「国を狙う理由にはなるかと。
出る杭を叩くと同時に、紋章士という絶大な力も手に入れる…。
紋章士の指輪があると公表した以上、そういった野心を持つ者が現れるでしょう」
「そ、そんなにか…」
やばい。ヨウムたちに見せたの失敗だったかも。
抑止力になればいいな、程度で紋章士の情報開示を提案したが、リュールとベレスがすんごい顔してた理由がわかった。
リスクを冒してでも取りに行く価値があるということか。
リュールの世界だと、紋章士の指輪を全て集めれば、世界を滅ぼせる程の絶大な力が得られるという。
こっちの世界でもそうなのだろうか。
俺が疑問に思った、まさにその時。
「盟主様、ご報告申し上げます」
俺の目の前に、新たな面倒ごとが立ちはだかった。