「おーい!姫さーん!いるかー?!」
「…声がでかい。いるから静かにしろバカオーガ…」
時刻は放課後、夕暮れ時。
俺の通う中学校。
大きな声が廊下の方から響いてくる。
ヤレヤレだ…
教室の席を立ち、大きな声の方に向かう。
「お、いるじゃん姫さんよ。いるなら返事返してくれや」
「うるさい。オマエみたいな大声出せるかバカ」
廊下に出ると、目の前の巨漢から声をかけられる。
俺、星野アクアを『姫さん』と気安く呼ぶこの男。
中学3年にして2メートルを超える筋骨隆々な巨漢。
鬼のような強面。
鬼島凰牙太郎。
通称オーガである。
「きゃー!!星野君と鬼島君よー!!」
「我が中学が誇る美人と野獣の名コンビ!」
「姫×鬼!」
「は!何言ってんの!!鬼×姫!」
「テメエこそふざけんなや!姫×鬼に決まってんだろゴラァ!!」
「ああん!!鬼×姫だぶっ飛ばすぞゴラァ!!!」
2人で並んで廊下を歩くと、そんな女生徒達の声がチラホラ聞こえてくる。
…だからコイツと2人で校内歩くのは嫌なんだ…
「がっはっは!まあ相も変わらす賑やかなこった。俺と姫さんが歩いてるのなんていつもの事だろうによ」
「オマエもオマエだ。あの声の連中が俺達でどんな想像をしてるか知らない訳でもないだろ?よくそんな普通にいられるなオイ」
「…ふむ…それは確かに」
そう言うとオーガは俺達をそっちのけで掴み合いの乱闘を始めていた女生徒らに向かって
「俺達を想像で使うなら、なんつーか肖像権というか利用料みたいなもんがあってしかるべきだよな?あん?」
オーガの声。
それを聞き、乱闘していた女生徒達がピタッと動きを一瞬止める。
特に荒立てている声ではないが、その鍛えられた長身と強面から発するその声はそこそこ威圧感のあるもののはずだが…
「「「「委細承知!!!ここに貢ぎ物のおにぎりが!!!!」」」」
ダッ!と走り寄って来た女生徒達が、オーガに大量のおにぎりの入ったビニール袋を渡す。
「うむ、続けてよし」
「うむじゃねえよ…」
オマエは食い物貰えれば許すのか…いや、許すよな。コイツはそーいうヤツだった…
ヨッシャー続きは部室でやるぞー!!
創作意欲があるうちに描くわよー!!
と乱闘しながら去る女生徒達を横目に、もらったばかりのおにぎりを早速食べ始めるオーガ。
「そうは言ってもな姫さんよ」
「なんだよ?」
「連中。ほっといてもどーせ勝手に描くんだぜ。それなら貰えるもん貰っといた方が特だろよ」
「それはそうだが…」
チラっと女生徒達を見る。
オーガの言葉が聞こえていたのか?
女生徒達は皆でこちらに向けてサムズアップを決めてきた。
「な」
「全く…」
デカい口で次々とおにぎりを一口で頬張るオーガと廊下を歩く。
「その理屈で言うと、俺への貢ぎ物はないんだが?」
「俺へのバイト代の支払いにいれとけよ。その分サービスするからよ」
「全く…ちゃっかりしてる」
そう、俺はオーガにバイトをたまに依頼する。
芸能界の闇には、暴力団やら半グレという暴力を持つ存在が潜んでいる。
そういう相手とのいざという時の備えとして、オーガを俺は利用していた。
古流武術…もはやそれは古流武術というよりはウルトラ古流武術というか?もしくはスーパー古流武術というべきトンデモ武術を習得しているコイツは、ボディガードとして非常に有能だった。
本人も武者修行の一環のつもりらしく「いーけど飯は奢れよ」の報酬程度で付き合ってくれるのでありがたい。
ただし、この男めちゃくちゃ食うので、決して安上がりでは無いのが悩みのタネなのだが…
「…で、今日はなんだっけか?」
「ルビーをスカウトしたグループの1人に、逆に俺がスカウトをかける。その付き添いだ。何もないとは思うが念の為にな」
「…あーあのジャリね…相変わらずシスコンだね姫さんは」
「うるせぇ。黙っておにぎり食ってろ」
「もう食い終わってるよ」
「…相変わらずオーガ…オマエは色々おかしい…」
「がっはっは!そらお互い様々だろうよ姫さん!まさか妹が心配だからってわざわざこんな手の込んだことするのなんて姫さんくらいだろうぜ!!」
「ふん…」
オーガの言うこともわかる。最もな話だ。
だが、それでも俺は妹を…ルビーを芸能界には関わらせるつもりはない。
アイの…母の悲劇。
そんな悲劇がありうる場所に、妹を踏み込ませてたまるものか。
「…さっ、行くぞ。着替えは持ってきてるから、そこらのトイレで着替えてそのグループが今日活動している駅の方に向かう。悪いが、荷物は持っててくれ」
「あいよりょーかい」
そして、2人で学校を出て最寄り駅へと向かった。
目当ての駅に着くとトイレで着替え、荷物をオーガに渡し街を歩く。
ターゲットは今日、この付近でライブをやっているハズだ。
スカウトする相手の目星はつけている。
チェキなどでもイケメンとそれ以外で反応が違うと評判のその子。
こういう時、自分の武器を最大限に活用していく。
…そして、上手くスカウトは成功した。
あとはウチの…苺プロの事務所で話を聞くとしよう。
「…ん?」
ふと、スマホが振動した気がした。
おかしいな?
俺のスマホを入れてるポケットからではない?
思い当たるのは、お守り代わりにもっている、アイのスマホ?
それが振動した?
…いや、まさかな?
電源は切っている。
気の所為だろう。
「どうしましたか?」
「…いや、なんでもないよゴメンゴメン。さっ、事務所に案内するね」
「はーい♥」
わからない事を考えるのは後だ。
今は、この子に集中しなければ。
俺は彼女を案内し、苺プロの事務所に向かった。