「あかね!あかね!しっかりしろ!大丈夫か!」
「…う、ここは…」
心の闇の世界に最初に飛び込んだ時、姫さんは気を一瞬失っていた。
2回目からは慣れたのか大丈夫だったが、最初はそういうものなのかもしれない。
あねさんはこの世界に入った衝撃で気を失ってしまった。
俺が周囲を警戒しつつ、姫さんがあねさんを起こす。
「……あ!ご、ごめんなさい!私気を失って!!」
「大丈夫だあかね」
「周囲に気配はねえよ。少し落ち着くまで休むとするか」
「ううん!もう大丈夫!!」
立ち上がりあねさんが深呼吸を数回。
それで気を取り直したようだ。
なかなかどうして、肝の座った女である。
「アクアくんから聞いてたとおりだ…本当に誰も人がいなくなるんだね。周囲の建物とかは同じなのに、黒い闇だけが濃く世界を覆い尽くしてる…」
周囲を観察し、そう評する。
これで3回目で慣れたが、まあ不思議な世界だよなあホントに。
「本当に大丈夫かあかね。多分、この後しばらくすると戦闘になる可能性が高い。無理だけはするなよ」
「だな。あっちに多数の人以外の気配を感じる。まあ間違いなく戦闘にはなるだろうぜ」
「……うん、もう大丈夫。ちゃんと覚悟して来てるからね」
俺達の目をしっかりと見てあねさんがそう言った。
しっかりとした意志の強い瞳。
確かに、これなら大丈夫だろう。
「…わかった。行こう、案内頼むぞオーガ」
「おう任せとけや」
そう言って俺先頭で気配を感じる方向に3人で向かう。
しばらく3人で怪しい空間を歩くと…
「オーガくんがたくさんいる…」
「まじ?俺あんなふうに見えてるの?ショックだなあ」
そこには、無数のオニがいた。
昔話で出てくるような、コテコテのオニ。
2本角の恐ろしい赤ら顔。
巨大な身体に、金棒まで持っている。
「…変に同族意識とか持つなよオーガ。手心加えるとお前が危険だぞ」
「手心?加える訳ねーじゃん。むしろ俺みたいな奴が相手なら逆に叩きのめしたくて昂るわ。思いっきり殴ってもそんな簡単に死なないだろうし」
「うーん、発想が完全に修羅の国の人だなあオーガくんは」
「がはは!あんま褒めないでくれよあねさん」
「褒めてはないぞバカオーガ」
そんな事を話していると、オニの群れがこちらに気付く。
ヤツラは、俺達を見るとニヤッと笑い。
「…やっぱお前の親戚だろアレ…」
「はっはー!気分はわかるぜテメエら!んじゃ、遊ぶとすっかぁ!」
こちらに向けて全員で突撃してくる!!
「ペルソナ!蹂躙するぜシュテンドウジ!!」
『鬼神楽』
身体能力強化し、オニの群れに飛び込む!!
「ペルソナ!行くぞアスクレピオス!!」
『ラクカジャ』
「まだだ!もう一つ!!」
『マハタルンダ!!』
姫さんが俺に防御力アップのバフを、敵には攻撃力ダウンのデバフをかける!
そして…
「…お願い、私に力を貸して!ムーサ!!」
あねさんが、手に注射器を出現させる。
そして、その注射器を自分の細く美しい首筋に叩きつけた!!
「ペルソナ!!」
『マハブフーラ!!』
強力な冷気の刃が、オニの群れに襲いかかる!!
氷の嵐。
氷刃がオニの身体を切り裂き、凍らせて動きを鈍らせる!!
「はっはー見事だぜあねさん!!」
そこに俺が飛び込んだ。
「オラオラオラオラ!!!抵抗してみろやこのクソオニどもがあ!!!」
傷つき動きを鈍らせたオニ達に、拳で肘で蹴りで膝で徹底的にトドメを刺していく。
「オーガくん!そこを離れて!」
「おうよ!」
あねさんの声を合図に、後方に下がる。
「エレメントチェンジ!9人のムーサ!!」
『マハジオンガ!!』
あねさんは今度は雷の波を放ち、敵全体を攻撃する。
「オーガ!」
『タルカジャ!!』
姫さんは今度は俺に攻撃力アップのバフをかける。
「行け!オーガ!!」
「いい連携じゃないの!楽しくなってきたぜえ!!」
あねさんの電撃でダメージを受け、痺れた敵全体を追撃する!
『鬼神楽!!』
「はっはー!皆殺しだぁー!!!」
「…うーんこれじゃオーガくんのがよっぽどオニみたいだね」
そんな声が聞こえた気がした。
聞こえないフリをして楽しい楽しい殲滅戦を続けました。
まる
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
しばらくそれを続けると、近辺のオニを全て倒したようだ。
「大丈夫かあかね?」
「うん、大丈夫だよ。少し疲れたけどダメージは受けてないし」
「オーガお前は一応回復しとくぞ」
「うん、大丈夫だよ。少しダメージ受けたけど楽しかったし」
「やかましい」
姫さんの回復魔法で俺の傷を治す。
オニはそこそこの数がおり、そこに飛び込んで戦っていたのでそこそこダメージは受けていた。
バフもありそんな酷い事にはならなかったが。
「…オーガくん本当に大丈夫?なんか金棒でボコボコ殴られてた気が…」
「大丈夫大丈夫!アドレナリン出てるとあんま痛み感じないし」
「えええ…そ、そういう事じゃないと思うけど…」
「あかね、慣れろ。コイツはもうそういうオーガだと思った方が色々楽だぞ」
「アクアくんの言ってたオーガがオーガしてるオーガムーブってこれかあ…」
まあ実際は攻撃食らうにも致命傷やら急所は避けて受けるようにしてるから問題ない。
致命傷や急所避ければいいってもんじゃないだろ?
とは以前姫さんには言われたが、そのうち言われなくなったので多分これでいいんだろうきっと。
「さて、回復も終わったし次はメインディッシュかな」
「前回までの流れだとそうだな」
一番大きなステージ。
そちらの方から強い気配を感じる。
「あかね、おそらく次がボスとの戦いになる。準備はいいか?」
「…大丈夫!行こう!」
「よし、なら行くか。あっちだぜお二人さん」
そして、3人で大きなステージへと移動する。
歩くことしばらく…
「…いたな」
そこには、一際大きく、濃く黒い闇を身体から発する1人の男がステージに立っていた。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
黒く、暗い闇を全身にまといながら、男は1人絶望の言葉を吐き続ける。
「毎回ライブもイベントも参加した。チェキも何回も何枚も撮った。グッズはたくさん買ったし、投げ銭だってたくさんしてきた。毎回イベントで会うたびに、君はあんなにも喜んでくれていたのに…僕も、それだけでよかったのに……」
男は1人、絶望の涙を流しながら。
「だけど…なんで…なんでなんだ!!なんなんだよあの男は!!SNSでの心のこもってない謝罪文!急な卒業発表!妊娠してるってウワサまで!裏切りだ!!完全な裏切りだ!!こんなの許せるわけない!許せるわけない!許されて良い訳あるか!!!」
「…なーんとなく何が起こってるか全部わかってしまったなあ…」
「…そうだね、もう全部聞かなくてもいい気がする…」
「…………」
「姫さん?どした?」
「…いや、何でもない」
どうも姫さんの様子がおかしい気がする。
大丈夫か?
「憎い憎い憎い憎い憎い殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…」
「気持ちはわからんでもないが、それで誰かを殺すのは完全にやり過ぎだ」
「そうだね。この人はここで私達が止めてあげないと!」
「…ああ、そうだな!」
パンっ!
姫さんは、自分の両の頬をピシャリと叩いた。
「俺はもう大丈夫だ。行くぞ!」
その目を見て、俺は安心する。
ああ、切り替えたな、と。
そして姫さんが宣言する。
「さあ、心のオペを始めよう」
「俺が切り」
「俺が治す」
男の全身から、とてつもない量の闇が噴き出す。
そして闇の中から、オニが姿を現した。
「憎い憎い憎い憎い…」
闇の青鬼
倒すべき心の闇が、その怨念とともに怪物の形を取り現れた。