闇の青鬼を倒し元の世界に戻った俺達は、このイベントの運営に連絡し男を預かってもらった。
男は憑き物が落ちたような穏やかな顔で、救護室へと運ばれて行った。
「…じゃ、今日はここまでかな?」
「ああ、すまなかったなあかね。急に呼び出したりして」
「大丈夫だよ!2人の力になれて良かった!これからも遠慮なく声かけてね!」
そう言ってくれたあかねを最寄り駅まで見送る。
「ジャリとお嬢ちゃんのライブだっけ?一応俺も応援だけしとくかな。行かないと行けないでジャリが煩そうだし」
「おし、ならば2人でヲタ芸でもやるか」
「いいぜ面白そうだし。2人でいいの?俺頑張れば3人くらいに分身できるけど」
一瞬、3人に分身したオーガと俺でキレキレのヲタ芸をしている光景を想像してしまう。
「…お前がそれやるとステージより目立っちゃうからダメだろ…個人的にはめっちゃ見てみたいが…」
「がはは」
「全く…」
オーガと2人でB小町のライブのステージまで移動する。
メムのおかげだろうが、人はそこそこに入っているようだ。
「けっこー人いんじゃん、ガラガラだったらどーしよかと思ってたけど」
「だな。そこそこ人が入っていて良かった」
オーガも同じ事を考えていたようだ。
YouTube中心に活動はしていたが、実際のステージにまで人が来るかは別問題。
ガラガラなら可哀想だとも思っていたが、少しホッとする。
ふと、有馬の事を考える。
結局、上手く仲直り出来なかった彼女。
俺だって人生2度目だ。
彼女が俺に抱いている淡い気持ちにはなんとなく気づいている。
その上で、俺は仕事上の恋人をあかねにお願いしていた。
「…俺もけっこうクズだよな」
「そーか?まぁあまり趣味は良くないと思うけどまだ真っ当だろ」
「…オーガの尺度でフォローされてもなあ」
「俺よりたち悪い奴なんぞなんぼでもいるだろ。そーゆーの踏まえて姫さんは真面目過ぎると思うぞー。趣味は悪いけど」
「…めっちゃ言うじゃねえか」
オーガはくっくっくと笑いながら。
「僕ちん2人とも大好きっす!3人で付き合いましょうって一回言ってみたら?」
「言わねえよ。なんだそりゃ」
「んー短期的に上手くまとまりそうなアイデアってとこかな」
「お前他人事だと思って」
がははとオーガは笑い。
「まあ、学生の恋愛で一々細かいこと真面目に考え過ぎなくてもいーじゃんよ姫さん。好きなら好きで付き合って。嫌いになったら別れて。好きになれるかもって相手と付き合って。やっぱ違うなら別れればいーだろ?」
「そらそうだが…」
…まあ、一理はある。
それを選ばないのは俺の恋愛に対する真面目さと、後は罪悪感が原因だろう。
俺は復讐を忘れ、年相応の恋愛や、役者として演じる事を楽しんでもいいのだろうか?
心の奥深くで、その問はいつも俺の心を苦しめている。
これは、心の病だ。
決して闇ではないと思う。
治し方も、治療方法もわからない、心の病。
「ん?どしたん姫さん?もしや怒った?」
「まさか?今さらこれくらいでお前に腹立てたりするかよオーガ。ちょっとした医者の不養生ってとこだ」
「そーかい。まあ、お大事にとは言っとくぜ」
「ああ」
オーガは細かい事は何も聞いてこない。
昔からコイツはそういうやつだった。
悔しいが、コイツのそういう所に助けられているのは自覚している。
「なあ?」
「ん?」
「もし俺が2人と同時につきあってみたいって言ったらどうする?」
「どうもしねえよ。頑張ってな、って言うくらい」
「そうだな」
「あ、でもよ」
オーガがそこでふと真面目な顔になり。
「エロい事する時は気をつけろよ。男1で女2はかなり男側忙しいぞ。順番とか気にする子達っぽいし。エロい事するのはそれぞれ一対一でやるのがいーと思う」
「心配事はそこなのかバカオーガ…」
「いやマジだって。大変忙しいのよ男のが人数少ないと!」
「俺達はアイドルのフェスで一体何の話をしているのか…」
まあ、話題を振った俺が悪いのかもしれないが。
そしてB小町のライブが始まる。
いいライブだと思う。
だけど、どこか有馬に元気が無いような、そんな気がする。
「…行くぞ、ヲタ芸は覚えたなオーガ」
「おうよ!ばっちりばっちり」
だから、オーガと2人でアイツを励ましてやろう。
ルビーも、メムも。
皆頑張れ。
ライブを楽しめ。
ライブの最中、一瞬有馬と目が合った気がする。
アイツは、俺に向かって指差した気がする。
「…まさかな」
ヲタ芸してるオタクあるあるだ。
ライブ中の推しの子と、一瞬目が合った気がするなんてのはさ。