「つるぎ役を務めさせていただきます『苺プロ』所属有馬かなです」
「同じく『苺プロ』所属星野アクア。刀鬼役を務めさせて頂きます」
今日は劇の主要メンバーの顔合わせ。
有馬と挨拶しスタジオに入る。
そこにはすでに多くの人達がいた。
どうやら、俺達は最後の方に来てしまったようだ。
ガチャ、と音がして俺達の背後の入り口ドアが開き男が入ってくる。
「皆早いねー。まだ10分前なのに。揃ったみたいだから紹介始めちゃおっか。ボクの名前は雷田。この公演の総合責任者」
雷田さんの挨拶とともに、その場のメンバー達が順番に自己紹介をしていく。
あかねがひらひらとこちらに手を振ってきたので軽く会釈して返しておく。
隣で有馬の小さな舌打ちの音が聞こえた気がする。
気の所為と思っておく。
「まぁ良いか。姫川大輝。よろ」
劇団ララライの看板役者。
月9主演俳優
帝国演劇賞
最優秀男優賞
流石に格の違いというか、雰囲気の違いといったものを感じてしまった。
全員の紹介が終わると、そのまま本読みもやる事になった。
少し準備時間を取り、それから行う事に決まる。
「アクアくんおひさ」
あかねがこちらに近づき話しかけてくる。
「おひさって言っても時々アリバイ作りで会ってるだろ」
「それはそうだけど、またお仕事で会えるのが嬉しくて…『今ガチ』の時は迷惑かけっぱなしだったから…」
そんな事もあったな。もう大分昔の気になるから不思議なもんだ。
「舞台は私の本業だし、ここでは私がアクアくんの助けになるよ」
それゃありがたい。
頼れるものは頼りにさせてもらう。
そうして2人で本読みの練習を始めた。
有馬のジトッとした視線を感じた気がする。
気の所為という事にしておこう。
2人で内容を軽くおさらいしていく。
そして本読みも軽く行う。
「有馬との共演はラストの数シーンだけか」
「かなちゃんと仲良いみたいだもんね。今日も一緒に来てたし。共演シーン少なくて残念だったね…」
「いや逆。あいつは演技の話になると熱が籠もり過ぎて怖いから
な」
出番ズレてる方が楽である正直。
そんなことを話す。
あかねも演技が好きだから無限に演技については話せるという。
だが勘弁してくれ。
そんなのはよっぽど演技に情熱持ってる奴だけが出来ることだ。
「…情熱無いの?」
「無いよ」
俺にとって演技は手段だ。
アイの真実に近づく為の、ただの道具に過ぎない。
今回は劇団ララライの代表、金田一敏郎。
この男に近づく為の手段だ。
「うふふふ」
「…なんだよ急に」
俺の言葉を聞き、あかねは不思議な笑みを浮かべる。
「オーガくんの言ってた通りだね」
「…あのバカオーガ何言ったんだ今度は…」
「『姫さんは演技好きじゃないとか情熱無いとかって言うだろうけど、それただの照れ隠しだからガンガン巻き込んでやれよ!』って言ってたよオーガくん」
「流石期待の若手女優…オーガの真似もなかなか特徴捉えてるな…」
「えへへ。まあオーガくんは個性の塊みたいなものだからね」
「ここに居ないのに存在感強すぎなんだよなあのバカオーガは…」
そうして演出が戻ってきて、本読みが始まった。
全員がまずは無難に本読みを行う。
最初という事もあり、まずは無難な演技。
そこに異質が、混じる。
姫川だ。
一気に場を全て持って行く。
圧倒的な存在感。
そして姫川に触発され、有馬も。
突如2人が凄まじい演技を始めた。
この場には多くの役者がいる。
だが、そんな事にはなんの意味も無かった。
姫川と有馬。
この2人が、今日は全て持っていってしまった。
圧倒的な敗北感。
そうして、その日は終わった。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「俺が姫さんに殺陣の指導?かまわんけどよ」
「頼む」
学校の昼休み。
いつもの中庭のベンチ。
少し肌寒くなってきた。
そろそろ外はしんどいなあ、なんて話しながらのオーガとの会話。
「珍しいじゃん。荒事以外で俺にこんな頼み事するなんて」
「そうだな。だが、出来ることは全部やっておかないと劇で埋もれてしまいそうでな」
オーガに殺陣の指導をお願いする。
わざとらしくなく、かつ説得力があり見栄えがするような、そんな演技。
性格やら何やらで問題は多数あるが、少なくともコイツは武術に関してだけはトコトン真摯である。
心の闇の中での戦い。
この凶悪な強面と巨体に似合わない、美しさすら感じる洗練された身のこなしを思い出す。
当然、一朝一夕でアレが出来るとは思わない。
だが、少しでも近づけるなら努力の価値はある。
「んじゃ、放課後はウチの道場で早速練習すっか」
「ああ、頼む。明日以降はまた相談して日程を決めよう」
「おーりょーかい」
そこでオーガは強面をくしゃっと歪めて笑う。
怖いのに、不思議と愛嬌のある笑顔。
「演技楽しんでるよーで何よりだな姫さんよ」
「うっせ。あかねに余計なこと言いやがって」
「がはは」
「全く…」
そうして忙しい日々が過ぎていく。
忙しいけれど、充実した日々。
それは、急に崩れる事になる。
今回の劇。
原作者と、脚本家。
めちゃくちゃ揉めた。
漂う不穏な空気。
ポケットから、振動が伝わってくる。
アイの、スマホだ。
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どうやら、今回の劇も一筋縄では行かなくなったようだ。