「やっほ鬼くん」
「おーフーさんか」
ここはいつもの学校のいつものベンチ。
1人で貢ぎ物のおにぎりを食べていると、フーさんが話しかけてきて。
「アクアさんは一緒じゃないんだ?」
「あー姫さんならお嬢ちゃん誘って飯に行ったよ」
「ふーん……黒川さんと別れてから結構一緒にいるの見るよねあの2人」
「かもな。妬けるかい?」
「まさか」
そう言いながらフーさんはベンチに腰掛ける。
「私は推しとは一定の距離を保ちたいタイプだからね。たまに鬼くんとかとご飯一緒くらいがちょうどいいかな」
「そっか」
「それに、アクアさんが別れてから狙ってる子も多いしね。あんまり2人で一緒にいて変に勘ぐられるのはごめんかな」
「まあ顔も良くてモデルやっててネットTVも出演して劇団にも所属してる。苺プロでも売れっ子だからな姫さんは」
そらモテても不思議ではない。
「あの番組面白いよね……毎回色々ギリギリの所攻めてくスタイル……後アクアさんの心を抉る一声が最高……」
「……フーさんでその様子だと順調にファンが増えてるみてーだな。何より何よりさ」
「おっと……何か意味深な感じ?」
「さてね?特に深い意味はないかもよ」
「どうだかね。まあ深くは聞かないけど」
実際、姫さんはドンドン仕事を増やしていっている。
先ほど言ったモデル、TV出演、劇団ララライの舞台。
今度はドラマにも出演するそうだ。
順調。
そう順調だった。
友人として祝福するべきだろう。
「……さて、私はそろそろ行くね」
「おう。またなフーさん」
そうして俺達は別れた。
あの宮崎以来、姫さんは変わった。
恋愛に積極的になり、仕事にも積極的になり、医者の勉強も積極的だ。
そして、復讐も。
劇団ララライの過去の資料を調べに調べ尽くした姫さん。
『多分、俺が復讐する相手が見つかった』
いつだったか冷たい目をした姫さんにそう言われた事を思い出す。
色々な危険に慣れている俺ですら、心を冷やされるようなその冷たい瞳。
そして姫さんは1人の男の名を口にした。
カミキヒカル
劇団ララライのOB。
神木プロダクション及び株式会社メディアEYESの代表取締役。
ホームページに掲載されている代表取締役の写真を見た時は、思わずゴクリと息を飲んだ。
「姫さんにそっくりなんだよなあ………」
姫さん的にはしっかりと遺伝子検査等をして特定するつもりらしいが、俺からすれば顔だけで十分な証拠としか思えない。
姫さんもそんな事はわかっているのだろうけど。
ちゃんと科学的な証拠も突きつけるつもりなんだろう。
姫さんは復讐の相手を見定めた。
後はプロセスだ。
その為に姫さんは今色々な事をしている。
芸能界での存在感を高めているのもその一環だろう。
考えるのは俺の仕事じゃないから聞かないが。
「退屈させるなよ相棒」
そう、それだけだ。
俺にとって大切な事はそれだけなのだから。
「あ!!バカ鬼!!!」
「ん?ジャリかどうした?」
騒がしい声が聞こえたのでそちらを向くと、やはり騒がしい奴がやって来た。
姫さんの妹のジャリだ。
「おにぎり1個もーらい!!!」
こちらに断るよりも早くおにぎりを取ると、ジャリはベンチに座り、
「最近……お兄ちゃんが先輩とあかねちゃん両方に手を出し過ぎ問題について」
「手を出す?確かまだ手は出してねえだろ?」
デート誘うくらいの筈だぞ。
「……出してたら殺すし軽蔑するし、何でバカ鬼が私よりその辺詳しいのかもムカつくけど……」
はむはむと、おにぎりを食べながら、
「……なんかお兄ちゃん変わった。うん、宮崎辺りからスゴイ変わった気がする」
「そーかよ」
「良い変化かもしれないけど、何だか置いてきぼりにされたみたいで嫌だなあ」
「……別に妹なんだから、置いてきぼりな訳ねーだろ」
なお実際は置いてきぼりである。
その辺を察してはいるのか?ジャリはコチラをじっと見て、
「……ムカつく。ムカつくけどさ。アンタはちゃんとお兄ちゃんと一緒にいてよね」
「まーな、そのつもりだよ」
「後、今のお兄ちゃんの先輩とあかねちゃんへの態度は絶対バカ鬼の悪影響受けた結果だから、アンタからも辞めるよう言ってよね」
「それは知らん」
そこは俺が関知する領域ではない。
姫さんが決めた事だ。
姫さんが幸せになり、2人も幸せにすると。そう決めた事だ。
ならば姫さんと後の2人。3人での問題だろう。
「忙しいことだね全く」
恋に、そして復讐に。
姫さんは、忙しい。
でも生き急いでいる程でもない。
姫さんから聞いた計画だと、そろそろジャブがてら仕掛ける頃だ。
芸能界で存在感を見せ始めた姫さん。
神木プロダクションとも絡む機会は増えるだろうしな。