「ディア!!」
「…お?」
後ろの姫さんがなんかしているのは気配で察してはいた。
姫さんは頭が抜群に良い。
この状況を不利にしなければなんでも良かったのだが…
「はっはー!まさかここにきて回復魔法習得とは!やっぱオマエといると飽きないぜ姫さんよ!」
ディアだがなんだかわからない。しかし、その効果はハッキリとわかる。
俺の負傷が、敵の攻撃による負傷がどんどん癒えていた!
この不思議な世界!
敵が放つ攻撃魔法!
そして姫さんは回復魔法と来たもんだ!!
「飽きねえ!飽きねえぜホント!!全く!全くこの世界は楽しいことだらけじゃねえか!!!」
「ぎゃあああ!」
「ゆ、ゆるして!!!」
回復し、痛みのない体で暴れまわる!
蹴りも突きも全て十全!
過不足無し!敵の身体をえぐって消滅させていく!!
だが、それだけに許せない!
「何でだ!」
「は?」
何でだ!
「何で!俺はこんなにも弱い!!!」
「「「「「「「は?」」」」」」」
「は?」
目の前の敵。後ろの姫さんの声が重なる。
不思議そうな声。
何言ってんだよ?
俺こんなにも弱いじゃねえか!!
「姫さんの助けがなきゃ俺はコイツラ1人で蹂躙出来ねえんだぜ!!許せねえ!!許せねえよ!!何で俺はこんなにも弱いんだ!!!!」
「えええええ…」
「「「「「ええええええ…」」」」」
「力が…力が足りねえよ!足りなさ過ぎる!力だ!力が欲しい!!まだまだ俺は強くなれる!まだ俺が全力だしても足りない世界があるってわかったんだ!こんな嬉しい事あるか!足りねえよ!!まだまだもっと強くならなくちゃいけねえじゃねえか!」
「…オーガ…真面目にオマエは生まれる時代を500年くらい間違えてると思う…」
「戦国時代に生まれてたらってか!知ってら!そんな事はよ!!違うだろ!今だよ!俺は今だよ!今俺は力が足りねえよ!もっと強くなりてえんだよ俺は!!!」
『その言葉、確かに聞き届けたぞ、今世の鬼よ』
「………お?」
どこか、体の深い所…心の奥底から体全てを震わす、力に溢れた声が聞こえる。
暴力への歓喜。
その声が。
『我は汝、汝は我。我は汝の心の海からいでし者』
「…ああ、わかるぜわかるぜ!俺にはわかるぜ!俺の中のもう1人の俺よ!!!!」
『ならば細かな問答などもはや不要!!我が名を呼べ、もう1人の我よ!!!』
その声と共に、心の力が俺の掌に集まる!!
手には、不思議な注射器!!
「おおおお!!!!ペルソナ!!!!!」
俺は、それを首筋に叩きつけた!!!
「蹂躙するぜシュテンドウジ!!!!」
その言葉と共に、俺の背後が光輝く!!
そこから凶悪な力を持つ、巨大な鬼が顕現していた。
酒呑童子。
日本三大妖怪に数えられる強力な妖怪!
体の内から、圧倒的な力が溢れ出る!!!
「鬼神楽!!!」
超強化された身体能力が、俺の身体と意識を更に加速させる!!!
「「「「ぎゃあああ!!!!!」」」」
俺はその力でこの場全ての敵に飛びかかり、全ての敵を蹂躙した。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「無事かオーガ?ケガがあったら治すけど」
「ああ、ちょい頼むわ」
「ディア」
全ての敵を倒した事を確認し、姫さんが近寄ってくる。
俺に回復魔法をかけながら。
「とりあえず不思議な事が続いているが、まだ解決してないって事でいいな」
そう確認してくる。
その通りだった。
敵は倒したが、まだこの異常な世界は元に戻っていない。
「姫さん。とびきり大きな気配があっちにまだあるんだ。多分、そこがこの世界の中心だと思う」
俺は、感じていた事を姫さんに伝える。
「…ゲーム的な意見を言うと、その中心に行けばこのゲームはクリア出来る事になるな」
少し考えながら、姫さんがそう言う。
まあ、よくあるゲームならそうなるだろう。
異世界に来て攻撃魔法を見て回復魔法を見ての俺達だ。
むしろそう考えるのが自然というものだ。
「よっしゃ!行こうぜ姫さん!難しい話は生き残って元の世界に戻ってからだ!まずはこのゲームをクリアしてからだろ?」
「それはそうだが…オマエ楽しみすぎだバカオーガ…」
「はっ!あったりまえだろ!こんな楽しいことそうそうないぜ!」
「全く…わかった、行くぞオーガ」
「おうよ姫さん!」
そうして、俺達はゲームのクリアポイントらしき場所へ向かう。
しばらく歩き…
「…あれは、ららさん?」
「ん?ああ、さっきの子か」
そこには、闇を纏った1人の少女がいた。
「憎い…憎い憎い…運営も憎いしあの子も憎いしスカウトしてきたイケメンも憎いし私の体だけ利用したアイツらも憎い…」
闇を、体から吐き出す地下アイドルの少女。
彼女は、憎しみを…心の闇を吐き出し続けていた。
「地下アイドル頑張ってたけど、ウザい客も憎い。キモい客も憎い。枕営業強要するヤツも憎い。枕しても大して仕事くれないヤツも憎い…ああ…全てが憎い憎い憎い…」
「うーむ…なんつーか、俺とか一般人が思う地下アイドルの闇のフルコース食べてきましたみたいな感じなのねこの子…」
「地下アイドルの闇の総決算って感じだな…」
今も世界に呪詛を撒き散らす彼女。
間違いない。
「この子が、この世界の中心だぜ」
「…………」
黙る姫さん。
わかってるんだろ?
この子を何とかすれば、俺達は元の世界に戻れるって事が。
殺すか?倒すか?
…もしくは、他の何かで。
悩む姫さん。
悩めばいい。
元々これは姫さんの案件だ。
結論が何であれ、俺はその決断に従うつもりである。
悩む、悩む姫さん。
すると…
『汝は、本来は癒す者。多くの人を癒したいという願いを胸に秘めたる者であろう』
「アスクレピオス?」
姫さんの背後から、先ほどのペルソナが出現する。
『癒したいのであろう?ならば、その心のままに振る舞えばいい。傷ついた心を癒やし、彼女を助けるのだ』
「アスクレピオス…しかし…」
『我は医療の神。心の治療であれ、汝が望むならば為すであろう。汝は、自分の望む通りにすれば良い』
すなわち
『傷ついた心を治すか?それとも壊すか?汝が決めるのだ』
と
「アスクレピオス…教えてくれ。もしまだ間に合うのならば…俺は、彼女の心を治してあげたい」
姫さんは、自分のペルソナに向かい。
「治し方を…彼女の心の治し方を教えてくれ!」
そう、強く断言した。
『汝の心の深奥から来たる願い、確かに聞き届けた』
アスクレピオスは、
『まず、彼女の心の闇を祓う。心の闇を切り裂き、除き、打ち倒せ!そして、傷ついた心を汝が癒すのだ。見よ!!!!』
そうしてアスクレピオスが指差す先に、闇が一つの形を、一つの闇の化け物を生み出していた。
闇をまとった、アイドル!
闇のセイレーン。
黒き歌姫。
先程の地下アイドルの少女が、闇のボスキャラとして出現していた。
アスクレピオスは言う。
あの闇の怪物を打倒し、その後に治すのだと!
「マハザンマ!!!」
「ぐ!!」
「うわあ!!!」
彼女の歌声が、闇の風の刃となり俺たちを襲う!!
「オーガ無事か!ディア!」
「大丈夫だぜ姫さん!とりあえず、アレを俺様が倒せば良いんだな!!!」
「ああ!思いっきりやれオーガ!!どれだけオマエが敵をボロボロにしても、俺が絶対治してやる!!!」
「は!いい覚悟じゃねえか姫さん!!!」
敵を!闇の歌姫を見据えて俺達が宣言する。
「ならば!俺が奴を切る!」
「そして、俺が奴を治す!」
姫さんが決意を固めたのだ。
ならば、俺も決断するべきだろう。
「シュテンドウジ!!」
『おうよ!!!』
自らのペルソナを召喚する。
「切り裂くぜ。全力でいく」
対人格闘では絶対に使わない技。
ウチの流派の禁じ手。
それを、ここで使う。
「隠し剣 鬼の爪」
縮地で、闇のセイレーンの元に超スピードで飛び込む。
ペルソナで超強化した指の刃。
刀よりも切れる、凶悪な十本の指。
その指で、闇と、闇を形作る全てを切り裂いた。
手応えは、あった。
さあ、あとは姫さん。
アクア、次はお前の番だぜ。
まあ、心配はしてないけどな。
「サマリカーム」
アクアの、よく通る声が響く。
光が、溢れた。
この闇の世界に、光が。
心の闇で生まれた世界に、アクアの癒しの力が広がっていくのを感じる。
癒しの力が、俺が切り裂いた地下アイドルの心を治していく。
同時、周囲の闇が薄れていくのを感じた。
長い夜がどうやら終わるようだ。
闇が去り、穏やかな顔をした地下アイドルの少女がそこにいた。
同時、周囲の闇が完全に晴れた。
そこらに倒れているヤンキー達。
「…どうやら、よくわからんが、元の世界に戻れたって事でいいのかこれは?」
誰も答えてくれない。
ただ、不思議とカラスが鳴いていた。
まるで、お前の言う通りだ、とでも言うかのように。