キヴォトスの時計塔 作:Laplaaaaaaaaaaaace
おかえりなさい、そして……おはようございます、狩人様。今、私は時計塔にて監禁中でございます。……じゃない!そんなことがあって堪るか!
あの後不貞腐れて眠ってから、そこそこの時間が過ぎた。と言っても、時計盤は動かないので時刻を特定することは不可能なんだけれど。
時計盤から差し込む光で、朝か夜かを判断してる。2、3日が過ぎた辺りで絶望したのでやめた。もしかしたらを狙って時計盤を潜り抜けようとしたけど、謎の障壁に阻まれたうえ、下は見えなかった。奈落だ。
漁村へと通じる道は奈落に、中庭に通じる扉はビクともしない。脱出手段無し!
それにしても……何日経ったか分からないけどこの身体、空腹感と喉の渇きが無い。何も食べずに生きて行けるのだろうか。本編のマリアは既に死んでいるから理解できるんだけど、今の私の肉体はどうなんだろう。生きているのか死んでいるのかも分からない。
あれ以降、本は何も文字を刻まない。というか、ピクリとも動いてくれない。本をサイドテーブルの上に戻したはいいけれど、何も進展なし。
あれか、もう声が人形ちゃん寄りになっているなら人形ちゃんの真似でもして遊ぼうかな。時計盤に向かって祈りでも捧げてみようか*1。
「夢の月のフローラ。小さな彼ら、そして古い意志の漂い」
「どうか、狩人様を癒し、守ってください」
「優しい目覚めの先ぶれと、なりますように……」
このセリフは確かレアセリフだったはず。現実の『捨てられた古工房』で拾える『古い狩人の遺骨』があるお墓で、人形ちゃんが誰かに祈りを捧げている。そのセリフを代用したんだけれど……
今この状況で祈って欲しいのは私に対してだし、本当に優しい目覚めの先ぶれになってほしい。寝ても起きても目が覚めるのは『狩人の夢』でもなく自室のベッドの上でもなく、このこの部屋にぽつんと置いてある椅子の上。
……残念ながら、私には優しい目覚めはないらしい。優しい目覚めや有意な目覚めを祈る者としての、枷なのだろうか。
「……退屈」
ぽす、と椅子に腰かけて、足を組む。その形は時計塔のマリアその人。でも、正確に言えば時計塔のマリアではなく、彼女に似て非なる者。似非マリアである。
何日閉じ込められるんだろう。何週間、何か月。……もしくは、何年?考えるだけで、嫌になる。これなら悪夢の世界に囚われる方がマシだ。狩人も来ないし、実験棟の患者もいない。
本当にただ一人、風が吹き抜ける音を聞いて、過ごしているだけ。ミレニアムかどこかの学校がドローンなり何なり飛ばして、探ってくれないものか*4。
はあ、
椅子から立ち上がって、落葉でも振り回そうかな。……と思ったら、バサッ!と勢いよく本が開いた。ペンが浮かび上がり、文字を刻むのは、最初のページの下段。
資格を持つべき者
そして、秘匿を破りし者
全ては定められた。終着を変えし者
時は、近い
以前と同様に、本とペンはテーブルの上に落ちる。全てが、定められた?何を言っているんだコイツは。資格を持つべき者、秘匿を破りし者。
それに、終着を変えし者って……先生が、いる?この世界に?……いやいや、いくら何でも急すぎる。ちょっと待って、一旦要約タイムを挟もう。
ええと、資格を持つべき者と秘匿を破りし者。多分両方先生の事を指してはいるんだろうけど、先生となればアロナも一緒のはずだ。ということは、真に資格を持つのは先生ではなくアロナ……もとい、シッテムの箱?
オーパーツと称されるくらいだ。この時計塔を開くことくらい造作もない。それに、終着を変えし者。一番気になっているのはこれだ。
この文章、全て『先生』という存在を指している?捻じれて曲がった終着点を、遍く奇跡の始発点へと変え果てた彼の力。終着を変えし者はつまりそういうことだろう。
そして何よりも……『時は近い』。そろそろ、この時計塔へ来訪者が来る。それは恐らく先生であり、私を外へ導く能力のある唯一の人である。
多分要約はこういった感じ。先生が来てくれるなら、この監禁状態から脱せる!長い時間が掛かったけれど、漸く外に出れるかもしれないと思うと、感動ものだ。
この身体はあんまり表情が変わらないけど、心は『私』だ。それはもう大歓喜。日の目が浴びれるぞ!ただし、注意も必要だ。まだ確定した情報ではない。
確定していない情報を嬉々として鵜呑みにするのは、何れ身を滅ぼすと……昔誰かが言っていた気がする。そこまで大袈裟じゃないかな。
なにはともあれ、だ。ここから出れる目途が少なくとも立ったということで。先生を迎える準備でもしようか。
最初の邂逅を大事にしたい。似非とは言え、自分はマリアに似た姿をしている。ならば、ファーストコンタクトは「死体漁りとは、感心しないな――」に尽きる!!
狩人の悪夢の彼女は確かに死んでいたから、死体漁りという言葉が成立したけど、今の私は生きている。なら……無難に、ようこそ、とかの方が良いのかもしれない。
先生の腕を掴んで、引き寄せて……耳元で「ようこそ」って囁くんだ!……ちょっと怖いかな。いや、きっと先生なら順応してくれるはず*5!
うん!これで行こう!
それで後は……、ヘイロー問題。これが一番大きい。ブルーアーカイブに登場する生徒の数多くは、ヘイローと呼ばれる頭上に浮かぶ光輪を持っている。
なんと、例外なく私にもヘイローが存在するのだが、これがまた厄介。生徒達のヘイローは、意識が無いとき、消滅するのだ。寝ている時とか、気絶している時とか。
本来のマリアの様に死ぬことは出来ないし、どうしよう……。眠る……?先生の到着と同時に起きれる自身が無い。何とかしてヘイローを消せないものか……。
ちょっと探してみよう。もしかしたらこの身体のどこかに『ヘイローを隠す手段』があるかもしれない。
そうこうしてたら数時間。割れた手鏡を見ながら、ヘイローを消す術を模索していた。そうしてついに……、苦節数時間の末……!
ヘイローを消す方法を見出したのだ*6!具体的な方法だけれど、とっても簡単。胸元のブローチに手を添えるだけ。
するとヘイローが消える。……というより、『見えなくなる』に近い。本来ブルアカ世界でヘイローで個人を認識することは出来ないが、外なる者としてこのキヴォトスに来訪した『私』は、個人を識別できる。
恐らく、先生以外にそれが可能なのは、私だけ。ヘイローが不可視になる、という事は、不意打ちなどに使えるという利点がある。気絶しているように見せかけて……敵の不意を突く。我ながら良い戦法だ。
さしずめ『姿なきヘイロー』と言ったところだろうか。……なんだか腹立たしくなってきた。どこぞの上位者と被りかけてる。
さて、そんなこんなで準備は完了。後は先生を出迎えるだけ……なんだけど、今はもう夜。こんな夜更けに来ることは無いだろうし、今日は寝てしまおう。
近い内に来てくれると嬉しいな……なんて思いながら、私は椅子に座って背もたれに凭れ掛りながらゆっくり目を閉じた。
分かるよ、秘密は甘いものだ
だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ
…愚かな好奇を、忘れるようなね
……これは、夢だろうか。目の前に、黒衣の男性が佇んでいる。右手には直剣、左手には銃。間違いない、『狩人』だ。
自分の口から発せられたのは、マリア戦直前のセリフだ。その後に、自分は落葉を切り離し、狩人に向かっていった。身体が勝手に動く。
軽やかに、それでいて確実に狩人の姿を捉える。刀身で狩人の肉を切り、血を浴び、飢えを満たす。落葉を両刃剣に戻し、腰を低くした。
瞬時に距離を詰め、刀身を突き刺し狩人に死を与える。目の前で倒れ伏した狩人は、幻となって消えていってしまう。
ふと、聞こえてくる時計塔の鐘の音。勝利の音というわけではないが、きっとこの夢を見たということは……。何かの変化が訪れる先触れなのだろう。
でも、所々聞こえないセリフもあった。確かここに入る言葉って……。と、そこで意識が暗転した。目覚めの時だ。
ゴォーン……ゴォーン……。時計塔に響き渡る鐘の音で目を覚ます。目を開けると、いつもと同じ風景が視界に入る。
いつもと違う所と言えば……身体の軽さ?眠っている時に見た夢の影響なのだろうか。マリア戦の夢をマリア主観で見れるなんて、そうそうない事だし、いい経験になったかもしれない。
というか、この鐘の音は……?あれ、本が開いてる。
秘匿を破りし者、来たれり
時計塔の秘匿は破られた。
……時計塔の秘匿が破られた。ってことはもしかして……先生が来た!?えっ、まずい……どうしよう。寝起きでちょっとパニックになってる。
ええと、取り敢えずブローチを触ってヘイローを見えなくして……、椅子の位置とかここで良いかな……!?
あっ、なんか扉の向こうから声が聞こえる!おそらく先生。一人の声しか聞こえないから、たぶんアロナと会話してるのかな……?
よし……!あとは肘掛に凭れ掛って……目を瞑る。うん、我ながら完璧。後は先生が目の前に来るまで待つのみ。ちょっと薄目で見ちゃおう。
ギイィ……と音を立てて鉄扉が開いた。部屋に入ってきたのは、スーツ姿の男性。相当疲れている様だ。残念だけど、この部屋の外の構造は分かってないんです……。
先生がどんな苦労をしてここまで来たのか、労いたいけど考え抜いたファーストコンタクトの為には、沈黙を貫くしかない。
"女の子……?"
お、ゆっくり近づいてくる。どの辺まで来たら腕を掴むのが正解なんだろう。というか、手を伸ばしてくるかどうか考慮してなかった。
もし手を伸ばしてこなかったらどうしよう。ファーストコンタクト失敗だ。何度か声を掛けてくれているけど、そうじゃない!そうじゃないんだ、先生!手を!手を伸ばして!
あっ!!きた!手を伸ばしてきてる!!揺すり起こそうって魂胆だ!
ナイス手伸ばし!あとは、こっちの想定通りだ!!
ガッ!と腕を掴んで引き寄せて……!顔を耳元まで近づけて……
「時計塔へようこそ――、先生」
……決まった。やりたかったこと第1位が出来た。
あぁ、もう満足しちゃった。これをやりたいが為に、ちょっと練習したんだ。さて……と。
この後、どうしようかな。
書きなぐりにみたいになっちゃった。
だってアイリーンがそうしろって