キヴォトスの時計塔   作:Laplaaaaaaaaaaaace

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スタマイ血晶が出ないので初投稿です


破られた秘匿

"い、生きてる……!?"

 

 失礼な。ただ先生をビックリさせるために頑張っただけだ。第一声がそれなんて。初見でマリアに挑んだ私じゃないか。

 

「……しっかりと、生きています。驚きましたか?」

 

 こんな時の為に、人形ちゃんの喋り方も練習しておいたのだ。マリアの姿で人形ちゃんの様な声質なら、そちらの方が都合が良い。

 最初からマリアの様に喋ってしまうと、怖い人なんて印象を与えかねない。それだけは避けなければならなかった。

 

"あ、ええと……ごめん。ヘイローが無かったから、勘違いしちゃって……"

 

「ヘイロー……。それは、これのこと……でしょうか?」

 

 そっとブローチに手を添える。すると。頭上にぼうっとヘイローが出現した。ヘイローの形は特徴的で、漁村への道を開いた時の時計盤を象っている。

 色は血の様に赤く、白い髪に赤いヘイローなので良く映える。個人的に大好きな配色だ。

 

"わっ、ヘイローが出てきた!?"

 

「出現した。と言うより、見える様になった、が正解です」

「姿なき光輪は、私の能力の一部ですので……」

 

 おぉ、驚いてる驚いてる。やっぱりこういったヘイローを持つのは私だけなのだろう。ブルアカを遊んではいたが、こんな力を持つ生徒は誰も居なかった。

 やっぱりヘイローの可視、不可視を切り替えられるのはこの世界において相当なアドバンテージになる。今後の使い方をしっかり考えておこう。

 

"……あ、そうだ。自己紹介がまだだったよね。色んな事が起こりすぎて、忘れちゃうところだった"

"私は連邦捜査部シャーレの顧問先生です。よろしくね"

 

「はい、よろしくお願いいたします……先生様」

 

"先生様……?ふ、普通に呼んでくれて良いんだよ?"

 

「そうですか?では……先生、と」

 

 人形ちゃんは基本様付けで人の事を呼ぶんだけれど、先生様と自分で口にしてみて違和感しかなかった。

 転生……、憑依かは分からないけど、元先生として『もう一人』にもきちんと挨拶しておこう。

 

「アロナ様も……よろしくお願いいたします」

 

"アロナを知ってる……!?"

 

「えぇ。時計塔の秘密を護る者として、あなた様の事は把握しております」

 

 ……時計塔のマリアムーブ、というより人形ちゃんムーブになってきてしまった。しかも、アロナの存在も言い当てて不審がられてしまっている。

 選択を間違えてしまったようだ。……というか、さっきから地味に聞こえているのだ、アロナの声が。中身の魂が先生としてブルアカをプレイしていたからなのか……。

 はたまた別の理由があるのか。一旦置いておいて、アロナと会話をしてみよう。

 

「アロナ様、お話をしても、よろしいでしょうか……?」

 

『うぇっ!?わ、私ですか!?というか、声、聞こえてるんですか!?』

 

「はい、この耳でしっかりと」

「アロナ様や先生は、この時計塔から私を連れ出すために、門を開けたのでしょうか?」

 

"えぇと、アロナ……。どう説明すれば良いのかな"

 

『先生は、生徒さんの依頼でこの時計塔の調査に来たんです!それで、その……この時計塔に近づいたら、招待状という文書データが送られてきて……』

『招待状を頂いた以上、調査の為にもこの時計塔を登り切らないと……と言った次第です!』

 

「招待状……」

 

 はて、一体何のことやら。招待状を送った記憶はないが、向こうの端末にはしっかりと『招待状』とデータが残っている。

 話を聞けば、データの発信元はこの時計塔の頂、この部屋からだと言う。私はデータの送信をした覚えなど無いし、そもそもこの部屋に機械は無い。

 データを送る様なものなんて……。いや、まさか……あの本?とは言っても、特にあれ以降新しい記述は無いし、その可能性は低い。……でも、この本が招待状を送ったという可能性を否定できる材料がある訳でもない。

 

「すみません、私には分かりかねます。招待状を送った者が、誰なのか……」

「私も身に覚えが無いのです。私はここであなたが来るまで、眠っていましたから」

 

 真っ赤な嘘だけれど。寝たふりはしていた。

 

"そっか……。うん、ありがとう。少しでも状況が知れて良かったよ"

 

『私からも、お礼を!ありがとうございます!……えぇと、お名前は……』

『生徒名簿に記載が無いので、どう呼べばいいのか……』

 

 あぁ、名前……。そうか、キヴォトスの外から来訪した身としては、例え生徒とは言え正式な手続きを経なければ、名簿に登録されないのだろう。それにしても……名前か。考えてすらいなかった。

 ゲーム内だともっぱら、『時計塔のマリア』とか『レディ・マリア』、実験棟の患者からは『マリア様』くらいしか呼ばれなかった。しかしここはブルアカの世界。苗字と名前が必要だ。

 うーむ……うーむ……。どうしたものか。怪訝そうな顔で先生が此方を見ている。ちょっと待って欲しい、今全力で考えてる。

 

 時計塔……マリア……。うーん……。マリア本人の数少ないセリフとかからじゃ、恐ろしい苗字になりかねない。狩人の悪夢で、マリアの役割を語っていた、古狩人シモンのセリフを思い出すんだ……!

 ええと、確か……『だが、注意することだな。秘密には、常に隠す者がいる

…それが恥なら、尚更というものさ』とか『…時計塔のマリアを殺したまえ。その先にこそ、秘密が隠されている…』だったっけ。

 他にも彼のセリフはあるけれど、マリアについて語っているのはこれだけ。他は、狩人の悪夢についての秘密だったり、ルドウイークに関しての物。なら、このセリフの中から苗字と名前を考えなければならない。

 

 『秘密』『隠す者』。単語で絞り出せそうなものはこの二つだけ。

 秘密……隠す。いや、秘密を守る……って言うのも、見方を変えればマリアの役目だったのではないだろうか。隠すという言葉ばかりに執着しすぎた。彼女が、何故漁村の前に立ちはだかったのか。隠しがたい何かを、守ろうとしていたのかもしれない。彼女の愛する、何かが、そこにはあったんじゃないか。

 ……決めた。似非でももどきでも良い。この『キヴォトス』という世界に『悪夢の時計塔』を断片とは言え持ち込んでしまった責任者として、役目を全うするためにこの名前を借りよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の事は、秘守(ひもり)マリアとお呼びください、アロナ様。そして、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、私の名前は『秘守マリア』として、キヴォトスの生徒名簿に登録されることとなった。所属学園は今の所未定。シャーレによる超法規的措置として、一時的ではあるが、連邦捜査部所属ということになるそうだ。

 さて、どよんとした時計塔の中で、シッテムの箱を介する諸々の登録を終えたが、我々には一つ課題が残されていた。『この時計塔をどう出るか』だ。

 なぜか先生は歩いて降りることを、中々承諾しない。疑問に思って開かれた扉から下を覗き込んだが、先生がこうなる理由も頷ける。これほどの階段を登って来たのかと思うと、ゾッとする。

 だとすると、他に何か手は無いものか。……星見盤?でも、なにも起きなかったし……。いや、この世界の唯一の『主人公』たる先生がいるのならなんとかなるのかもしれない。

 あのゲームは、先生が居れば何とかなる。という風潮が強いのだ!だから先生に星見盤を預けて、様子を見てみよう!

 

「……先生、これを」

 

"これは?"

 

「……今でこそ、あまり聞き慣れませんが、星見盤というものです」

「私の背後の大時計。それに掲げることで、完全なものとなり……真に秘したる秘密が暴かれるのです」

 

 言い回しが独特になってしまったかもしれないな。人形ちゃんの口調を練習したとはいえ、ある程度原作みたいな修正力が働いているのかもしれない。今、普通に「それを掲げれば時計塔が動くかもしれません」って言おうとしたのに、小難しくなっちゃったもん。

 

"ええと……秘密が暴かれる……っていうのは……"

 

 ほら!完全に先生が困ってる!ええと、何て言おう……

 

「この時計塔が秘する物、守る物が明らかとなり……箱舟に導きを齎すでしょう」

 

 あー!もうだめ!!何言っても補正がかかるようになってるこの身体!ちなみに今のは、「時計塔に閉じ込められていた私が外に出れます」って言おうとしただけなのに。なんでこうも……。

 

"難しい事は分からないけど、これを……後ろの時計に掲げれば良いの?"

 

「……はい」

 

『恐らく、この時計塔に隠された何かが……見つかるんじゃないでしょうか?』

 

"何か……か。ちょっとワクワクするね"

 

「好奇は……時に愚となります。甘きものに、惑わされ過ぎないよう……」

 

 私の言う通り、好奇は時に愚かとなり、己が身を滅ぼす。

 先生は特にその体質がある。某黒猫に色々言われたように、いつか襲われてしまうかもしれない。それにだけは気を付けて欲しい。

 

"ちゃあんと、心得てるつもりだよ。よし……っと。じゃあ、これを……"

 

 先生がそう言うと、シッテムの箱をこちらに渡し、星見盤を私の背後の時計へ掲げてみせた。

 瞬間、自身の中で、何かが繋がる感覚があった。切れていた回路と回路が、繋がったような、そんな感覚。瞬間、周囲から鳴り響く鐘の音。

 動き出す時計。変型機構のあるソレはガコン、ガコンと音を立てて形を変えていく。時計盤がずれ動きながら、ゆっくりと回転し、二つの穴が重なり合う。そして、長針と短針が時計の頂上で合流。そのまま交差し、重なった穴の手前でピタリと止まる。漁村への道を開く動きと、遜色なく、その全てが同じ。

 

"こ、これは……?"

 

「……悪夢と箱舟は繋がりを得、そうして終わらない夢となる」

「さぁ、先生。こちらへ」

 

 エヴェリンを腰に提げ、落葉を片手に持てば、空いた片手で先生に手を差し伸べる。

 先生が星見盤を掲げることで、キヴォトスへの道が開けた、という訳だ。確かに、この時計塔はキヴォトスに存在こそしていたが、隔絶されていた。なんせ悪夢の時計塔なのだ。現実の土地に存在してはいけない。

 しかし、こうして先生が星見盤を掲げ、漸くこの時計塔は悪夢より姿を出でて、現実のものとなった。これにより、正史のブルーアーカイブにどんな影響があるか分からない。異常があるならば、何とかすればいいだけだ*1

 

 大きな時計盤の重なった穴からは、白い光が溢れている。その手前で、私は先生へ手を差し伸べている。

 先生は意を決した表情で私の手を取った。つまりそれは、着いてくるという意味だ。合意と受け取って私は前へ進む。

 

 時計塔が秘したるその神秘、秘密の守り手が今、その秘匿を破り箱舟へと姿を現す。

 

 

 

 


 

 

 

 

 時計盤の穴を抜けると、そこは陰鬱とした空……、異形が跋扈する漁村……ではなく、先進的な建物が立ち並ぶ、ビル群。その屋上。

 とん、と片足を着くと、それに続いて先生も足を着く。二人とも地に足を着けると、背後に現れていた時計盤は塵となって掻き消えてしまった。

 おかしいな……ゲーム本編だと残ったままなのに……。なにか特別な条件があったりするのだろうか。

 

「こちらはお返しします、先生。元々は、あなたの私物でしょうから……」

 

 未だ状況の呑み込めていない先生にシッテムの箱を手渡す。混乱したまま受け取っている姿が何とも面白い。

 あぁ、そういえば星見盤も回収……いや、これは先生に持っていてもらおうかな。

 

"あ、ごめん。ありがとう。えぇと、これは……?"

 

「先生がお持ちください。役に立つ時が来るかもしれません」

 

星見盤

時計塔の、巨大な星見時計と対になる観測盤

星見盤を時計に向けて掲げれば、それは再び動き出す

 

それは、時に持つ者を救う遺物となる

使い方を誤れば、この世界を悪夢へと変容させるだろう

 

"……ありがとう。有り難く受け取っておくよ"

 

 先生は素直に星見盤を受け取ってくれた。実のところ、私にもコレの使い方が良く分かっていないのだ。

 初めて時計塔のあの部屋で目覚めた時、私は確かに時計に星見盤を掲げたのに何も起きなかった。でも、先生に反応したのか、時計盤は動きだし、道を開いた。

 理由は分からないけれど、この星見盤は先生が持っていた方が良い気がするんだ。なんとなく、だけれど。

 

「いえ、お礼を頂く程では……。それよりも、ここは……?」

 

"ええと、アロナ!位置情報の検索は出来る?"

 

『はい!えっと……D.U.地区の西……、先ほどの時計塔からかなり離れた距離ですよ!?』

 

"ワープでもしたのかな?"

 

『いや……でも!う~ん……そうとしか、考えようが……』

 

 ワープ。これまた非現実的な話が出てきたものだ。いや、私という存在も非現実的か。それよりも、現在位置の詳しい場所が分かったのだ。やることはひとつ。

 シャーレに向かう事。それ以外することは無い。とにかく先生と共にシャーレへ向かおう。

 

「先生……。あなたの言う、『シャーレ』という場所へ向かうことは出来ますでしょうか?」

 

"シャーレへ?まぁ……そこまで遠い距離じゃないし、行けると思う"

"何せ、マリアは一時的とはいえシャーレの所属になるからね。どっちみち向かおうと思ってたんだ"

 

『ふっふっふ……マリアさん!シャーレを見て驚かないでくださいね!』

 

「……そうですか。クスクスッ、アロナ様はお元気ですね」

 

 シャーレを見て驚かないで、か。実際にシャーレの建物の内装がどうなってるかはあまり詳しくは分からない。

 ゲーム内だとちょっとした外見と、執務室の内部しか見れないから、少しワクワクしている部分もある。愚かな好奇をお許しください、マリア様……。

 

 取り合えず今は先生について、ビルを降りていこうか。

 さて……と、少し歩けばシャーレの建物とご対面らしい。ワクワクを抑えきれるか不安だが、今は良しとしよう!さーてと!早く着かないかなぁ!!

*1
脳筋




え?似非マリアのヘイローが独特だって?
狭すぎた棺桶がそうしろって
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