キヴォトスの時計塔   作:Laplaaaaaaaaaaaace

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個人的な理由で投稿遅くなりました!


初日

 ……マリアは仮眠室に行ったかな。ふぅ……最近色んな事があって疲れていたところに舞い込んできた『時計塔の調査』

 いざ現場に赴いてみれば、生徒名簿に登録の無い子と出会って……一緒に戦って。雰囲気はどことなくミステリアスで、大人しい。今どきの感じで言えば、不思議な子って言うのかな。でも、戦闘の時のあの動き……。普段とは違う『何か』を感じた。いつも指揮する子たちとは違う、謎の気配。

 それに、マリアが戦う時に漂ってきた、あの花の香り。今まで嗅いだことの無い花の香りで、呆気にとられたけれど……。あれは一体どこから……。いや、今は取り敢えず彼女の生徒登録を済ませないと。

 

「アロナ、マリアの生徒登録を手伝ってもらっていいかな。少し手間取りそうだから……」

 

『了解です!色々と問題がありますからね……!頑張っちゃいますよー!』

 

 カタカタ、とパソコンに必要な情報を打ち込んでいく。彼女の情報の詳細は聞かされていない。だから、ある程度こちらで捏造する必要がある。大人として、先生としてどうなの?と思う所はあるけれど、彼女の居場所を作るためだ。それなら、仕方ない……。

 

 それにしても……、さっき写真を撮ったとき。月の光の下で、彼女が此方を見た時。凄く『美しい』と思った。月の光で白く輝く白金の髪に、照らしている月と同じ色の瞳。そして、胸元で煌びやかに光る緑色のブローチ。

 一人の生徒に抱く感情じゃないけど……美しくも、恐ろしい。この恐ろしいって感情は、他の生徒に抱くことは無かった。ツルギやヒナ、ホシノとか、彼女達をただ『力』として捉えるのであれば、恐ろしいかもしれないけど。マリアに感じた恐ろしさは力とか、そんなものじゃない。彼女という『存在』が『怖かった』のかもしれない。

 でも、それも戦闘が終われば、露と消えていた。戦闘後は、最初に会った時の様な『不思議』な雰囲気に逆戻りしていた。その後も不思議ではあるけれど、ロボットのおもちゃを見ていた時なんか、普段の生徒と変わらない。可愛らしい雰囲気があった。

 

 あのおもちゃを物珍しい雰囲気で見ていたけど、そんなに欲しかったのかな。アレは私も欲しいシリーズの新作で、少し気になっていたから今度改めて買いに行こう。プレゼントも兼ねて、二つ買うのもアリかもしれない。

 

 さて、と……。早くやらないと、眠る時間が無くなっちゃう。

 

「さあ、サクッとやっちゃおう!」

 

 

 


 

 

 

 

 

 やあ、おはよう。夜明けだ。獣狩りの夜が終わったという事を知らせてくれる。……そもそも獣狩りの夜なんて起きてないんですけどね。

 昨日は途轍もなく忙しない一日だったなぁ。先生と会って、時計塔を抜け出して、初めて戦闘というものを経験して……。ちょっとだけキヴォトスも観光した。そんな激動のキヴォトス初日を終えて……二日目。

 仮眠室で眠っていたので、先生の部屋は真隣だ。目覚めの挨拶でもしに行こう。朝起きた時の挨拶は大事。古事記にもそう書かれている。

 

 機械的な音を立てて開く扉を潜り、隣の部屋へ。シャーレのオフィスは目の前がガラス張りになっており、太陽の光を絶えることなく届けてくれる。生活リズムも整う万全の環境だ。

 ……と、デスクの上で突っ伏す人の姿を目にした。間違いなく先生だ。半分書類に埋もれてる。

 

「……おはようございます、先生。アロナ様」

 

"……"

 

「……おはよう、ございます」

 

 この身体、中々大声が出ないのだ。響くくらい大きな声が出せれば、先生もすんなり起きるんだろうけど、そんな芸当出来ない。

 いいや、この際だから揺すってみよう。揺すれば起きる。最悪の場合、エヴェリンで窓ガラスをぶち抜こう。人は限られるけど、生徒でもガラスをぶち抜いた人は何人かいる。大丈夫大丈夫。

 

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 ……すでに死んでいる。……じゃないよ!!!!!禁域の森の合言葉の人じゃないんだからさ。揺すり方が優しすぎたのかな。もっと激しくやった方が良い?

 

 ゆっさ、ゆっさ。

 ……起きて、お願いだから。朝の挨拶くらいさせてよ……。夜明けだよ、夜明け。狩人なら皆望んでいることだろう?……そうでもないか。その為の狩人の悪夢だ。

 

 かくなるうえは……。腰に提げているエヴェリンを取り出し、弾丸の有無を確認。装填されている。安全な場所……、ガラス。確認ヨシ!修理費はシャーレ請求でお願いします!

 銃口をガラスに向けて、引き金に指を掛ける。最後のチャンスとばかりに、先生を空いた手で揺すってみるが、反応はない。なんでこうも簡単に起きないのか*1

 仕方ない。チャンスは与えたのだ、私の事を恨んでくれるなよ、先生。起きないあなたが悪いんだ。私にはなんの罪もない。私はただの善良なカインハースト出身の古狩人です。

 

「……先生、起きてる?」

 

 オフィスの扉が開き、生徒が一人入ってきた。

 小柄な体格に、白いモフモフ。特徴的な角には紫色の光が走り、頭上に浮かぶヘイローはまるで冠の様で。風紀委員と書かれた腕章のついたコートを羽織い、威厳しかない風格を漂わせている。

 なんとシャーレのオフィスにやって来たのは、我らがヒナちゃん。もとい、空崎ヒナ。ゲヘナ学園風紀委員会、委員長で3年生。肩からはごつい銃を提げている。

 ファイルを抱えて、オフィスに来たという事は、何かしら仕事の件で話にでも来たのだろう。だが残念、先生は起きていない。たった今起こそうとしたところだったんだけど。

 

「……あなた、誰?」

 

 すごい形相で睨まれてる。ちょっと待って、もしかして何か勘違いというか、そういったことをされていませんか?

 ていうか、アレだ!エデン最中のヒナちゃんって先生ガチ勢じゃん!やばい、ってことは……。ヒナちゃんからしたら、今の私ってとんでもない映り方してる?

 

 片手を先生の肩に置き、もう片方の手には銃。しかもガラスを狙っている。

 普通に考えるのであれば、机で突っ伏している先生の肩に手を置いているっていうのが、先生を眠らせたか気絶させた。って場面に映ってもおかしくない。

 それに、銃を向けている位置も最悪だ。ガラスを撃ち破る気満々の立ち姿でしょうとも、今の私は。

 

 つまるところ、今の先生ガチ勢バフのかかったヒナちゃんにとって私は『先生を誘拐しようと窓ガラスを銃で撃ち破る気満々の不審者』ということになる。

 つまり?そう、敵として見られているわけだ。エデン条約で、アリウス分校とのいざこざもあったし、先生が撃たれたのを至近距離で見ていた生徒の一人でもある。

 今こうして、先生に近づいている私を不審に思っても仕方がない。はは、困ったなあ。

 

「所属学園と名前を名乗って。返答できない、というのなら、実力行使に出る」

 

「……私に、所属している学園はありません。強いて言えば、シャーレ所属です」

 

「シャーレに……?先生から、そんな情報は貰っていないのだけど」

 

「私は、秘守マリアと申します。昨日、ここに来たばかりで……」

 

 ……やばいやばい、こんな所で乱闘騒ぎなんて起こしたくない。頼む、何とか穏便に行ってくれ……!

 最低限、ヒナちゃんの琴線に触れないように対応はしているつもりだが、彼女も話せば分かってくれる人ではある。なにも、ネルやツルギと違って敵を見つけた、排除します。ってタイプじゃないから……!

 

「……じゃあ、その銃は何?なんで、ガラスを狙っているの?」

 

「これは……。目覚めを、告げようと……」

 

 ちがーう!!もっと簡単に説明したいのに、この口は!!!人形ちゃんだから小難しくなるのは仕方ないけど、これでヒナちゃんに伝わっていれば誤解は解ける筈!頼む、ヒナちゃん。しんじて。

 

「目覚めを、告げる?……あぁ。先生はまだ眠っているのね」

 

 通じた!良かったぁ……。これでオフィス内で激戦を繰り広げる展開は回避できた。となれば、次の問題が……どう先生を起こすかだ。

 もう時間まで放っておこうかな。きっと、私関連の作業で朝方まで頑張ってくれていたのだろうから。ヒナちゃんにも聞いてみよ。

 

「……どうすれば、良いのでしょうか。先生を揺すっても、起きてくれないのです」

 

「揺すっても起きない……?と、なると、相当疲労が溜まっている状態ね。最近……その、怪我もさせてしまったし」

「そのせいもあって、疲れているのかも。もう少し寝かせてあげましょう」

 

「……分かりました。では、そのように……」

「ところで……あなたの事は何とお呼びしたら……?」

 

「あ、自己紹介がまだだったわね」

「私はゲヘナ学園、風紀委員長の空崎ヒナ。あなたの名前は……さっき聞いているし、大丈夫」

 

「では、ヒナ様。今後とも、よろしくお願いします」

 

「ヒナ様……?」

 

 すっごい困った顔してる。多分中々様付で呼ばれたことが無いんだろう。というか、普通に生きてたら様付で呼ばれる事なんて、ビジネスシーンでしかありえない。

 年齢の近い子からの様付は、相当珍しい。まぁ、名前に様付をする生徒がいないわけじゃないけど……。

 

「いえ、お気になさらず……。癖の様なものです」

 

「そ、そう……」

 

 

 

 ……あぁ、沈黙。まるで聖杯ダンジョン。BGMも無い、効果音も無い。ただ暖かな日差しが入り込むオフィス。

 ヒナちゃんは来客用のソファに腰かけて、持ってきたファイルの確認をしている。仕事熱心で素晴らしい、流石風紀委員長。かくいう私と言えば……

 先生の眠る真横にて、両手を前で組みながら、狩人の夢の人形ちゃんスタイルで棒立ちである。背中には落葉とエヴェリンを背負ってはいるけれど、基本棒立ち。

 

 言葉を発さず、身動きをせず……音も立てず。ただ静かに棒のように立っている。……気まずい。本当に気まずい。

 あれ以降ヒナちゃんとの会話も無いし先生も起きないし、どうしろって言うんだ。もう万策尽きたよ。変な動きすればヒナちゃんにボコボコにされる未来しか見えないし。

 取り敢えず、棒立ちを敢行しよう。そうしてれば、いつか起きるでしょ。上位者に祈りを。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 30分くらい経ちました。ヒナちゃんがファイルに目を通し始めてから。今の倒置法、上手くない?もう暇だから頭の中でこんな独り言も言えちゃう。

 おかしくなってきちゃった。ほら、上位者なんかに祈り捧げるから。啓蒙増えたよ、多分。はやく起きてくれないかなあ。暇だよ~。ヒナちゃんと話したいけどなんか確認してるっぽいし、話せないよう。

 

"ううん……?"

 

 ばっ。二人して先生の方を向いた。ゆっくりな私に対し、ヒナちゃんはとても素早い動きだ。耳も良いのか……あの子は。

 そんな二つの視線に気づかず、先生はゆっくりと上体を起こして伸びをする。その後に、あくびと来たもんだ。暢気な人だ、この人は。

 

"あれ……、私、寝てた……?"

 

「おはようございます、先生。此度の眠りは、良いものでしたか?」

 

"うわあっ!?マリア!?いつからそこに……?"

 

「いつから……?あちらに座っている方がここを訪ねる直前から、でしょうか」

 

"座ってる……?あ……"

 

 この大人、普通にド忘れしてたな。あ……って言ってたぞ、あ……って。対するヒナちゃんは漸く起きた、みたいな顔をしている。

 

"や、やぁ、ヒナ。おはよう……。その、時間、忘れちゃってたみたいで……"

 

「……大丈夫。先生がゆっくり眠ってくれていたおかげで、書類の最終確認も出来たし」

「結果的に、今回持ってきた案件を出来る限り最小限に纏められそう」

 

 ……気遣ってるなあ。まあ、でもさっきからファイルの中身を確認していたし、案件が小さくまとまったのは事実なんだろう。

 さて……と。仕事の邪魔になっちゃいけないし、私はこの辺で退散するとしましょうか。エデン条約絡みの仕事なら、猶更他の人が居ると進まないだろうし。

 

「……では、皆さま。私はこれで。良い一日をお過ごしください」

 

 扉の前に立って、ぺこり。と一礼。部屋を出ようとしたところで、先生に呼び止められた。なんだかやけに慌ててるけど、どうしたんだろう?

 

"ま、マリア!ちょっと待って……!これ!"

 

 と、先生は勢い良く立ち上がってこちらに近づいてくると、小さなカギを一つ、手渡してきた。

 

貸家の鍵

D.U.地区にある居住区の貸家を開けることが出来る鍵

無駄な装飾の無いソレは、時代的といえば時代的な物品だ

 

鍵に付いているタグには、貸家の番号が振られている

 

「……これは?」

 

"マリアのキヴォトスでの一時的な居場所、ってところかな"

"ここからそう遠くない場所に貸家があるんだ。そこの鍵だよ。住所は……地図と一緒に渡しておくね"

 

D.U.地区の地図

キヴォトスの中心地であり、全てを担う場所があるD.U.地区の詳細地図

商業施設から娯楽施設、重要な建物が事細かに記されている

 

特注で誂えた地図、という訳ではなく、ただの観光案内パンフレットではあるが、土地勘の無い者には大きな助けとなるだろう

 

 へえ、先生……凄く気が利くなあ。まさか地図まで準備してくれるなんて。まあ、思ったより細かく書かれているみたいだし、目印になる建物も探しやすい。迷子になる事は無いだろう。

 それじゃあ、鍵と地図も貰ったし、今度こそ……

 

"あー!それと!"

 

 ……伝えることは!一気に伝えなさい!!急いで伝えなくても良いから、区切り区切りでいいから、出来る事ならまとめて!!

 

「なんでしょうか……?」

 

"あー、その……マリアの私服とか、特に日用品なんかを揃えて貰おうと思って、さ。ほら、マリアの着ている服って結構目立つから……"

"その貸家の近くで生徒の子が一人待機している筈だから、その子に会ったらよろしくね。折角なら、同性の子と選んだ方が良いでしょ?"

 

 ああ、そういうことか。確かに……今着ているのは、もともとこの身体が着ていたであろう、『マリアの狩装束』だ。

 カインハーストの様式を汲んだ意匠で、ゲーム内では特に血の攻撃に対する耐性がトップクラスに高い。デザイン性もあり、多くの狩人諸君に人気だったことだろう。

 これで完全体ローレンスに挑んだら速攻で燃やされた。あの人(獣?)、攻撃力が高すぎる。調整ミスってるんじゃないかなってくらい攻撃力が、とにかく、高い。カンスト周回ともなれば、全ての攻撃がワンパン級だ。

 

 というか、同性の子って言ってたけど、中身は男性なんですが?同性は人の形を保っている状態で言えば、先生しかいないんですが?

 ……でも、このことは明かしていないし、先生が知らないのも仕方ない。なら大人しくその貸家の近くで待っているという生徒と一緒に行動するとしよう。

 

「……この身に余るほどの厚意を、ありがとうございます」

「では、待っている方と合流する為にも、これで失礼します、先生。そして、ヒナ様」

 

 今度こそ、ぺこりとお辞儀。邪魔者はさっさと退散するのさ。先生が驚いた顔をしてヒナちゃんを見てたけど、名前を知ってることに驚いてたのかな。

 まあ、先生は寝ていたし自己紹介の件を知らないならそりゃ驚くか……。でも、これでやっと真にキヴォトスを見て回れることになった訳だ。いや、キヴォトスと言うよりD.U.地区か。

 観光も良いけど、私の到着を待っている生徒がいるんだ。……ちょっとだけ観光しながら、とかなら許されるかな。そんなに遅くならなければ良いでしょ!

 

 初の単独行動で浮かれているんだ、許してほしい。憧れ、と言うか夢にまで見たキヴォトスという土地だ。殆ど知らぬ地に、一人放り出されれば、心が躍るものだ。

 ほら、たまにあるでしょう?知らない土地に一人で出かけて、ウッキウキで散策するアレだ。私は今、その状況にある。

 美少女版GTAとも呼ばれるブルーアーカイブの世界に、今、一人で!立っているんだ!!夢は諦めなければ叶う!そうでしょう、ミコラーシュ大先生!!我らは夢を諦めぬ!!!

 

「では、参りましょう」

 

 ばさ、と背中のマントを翻しながら、シャーレを後にする。こつ、こつと響く足音は外に出れば、喧騒に掻き消された。

 郊外とは言え、お店や人の往来が多いもので、建物の外は静寂とは縁遠い場所だった。ほう、思った以上に活気のある場所らしい。

 

『煩わしくも、どこか懐かしい。ああ、あの時を思い出す』

『人数こそ多くは無かったけれど、あの人の元は、少し賑やかだった』

 

 さーてと、居住区の場所は先生がマークしてくれているし、迷うことは無いだろうけど……いやあ、お店が多い。いいにおいもする。

 お腹も空いてるし、何か食べておきたいなぁ……と思ったけれど、この世界のお金を持っていない。というか、輝く硬貨すら持っていないから、換金できそうな物品が無い。いわゆる無一文ってやつだ。

 だから、何も買えないし、何も食べられない。はぁ……。取り敢えず、美味しそうな匂いの漂う通りを歩き続ける。あぁ、匂い立つなぁ……堪らぬ香りで誘うものだ……。たこ焼き……。

 

 気づけば、無意識にたこ焼き屋の屋台を眺めていた。看板に取り付けられた大きなタコが目立つ屋台だ。

 

「いらっしゃい!嬢ちゃん、たこ焼きをご所望かい?」

 

「……あ。いえ、今は手持ちが無いので……また次の機会に」

 

「見た事無ぇ制服だが、生徒さんなんだろ……?ふむ……」

 

 そう考えこむと、犬の獣人の店主は顎に手を当てて何やら準備を始めた。

 見た所、通報されそうな雰囲気でもないし、安心して良いのだろうか。

 

「ほら、持っていきな」

 

 びっくり。犬の店主さんはたこ焼きをパックに詰め、私に差し出してくれた。

 大粒で、食べ応えのありそうなたこ焼きだ。芳醇なソースの香りと、たこ焼きを彩る鰹節に青のり。そして少量の紅生姜が乗っている、そう……いわば魅惑のたこ焼きだ。

 

「ですが、お代は……」

 

「良いってことよ!腹が減って困ってる生徒さんを助けても、損はねぇだろ!」

 

 ……ここはキヴォトス、住民がとても暖かい場所。皆さんもぜひ一度訪れてみて欲しい。困っている人には無償で食べ物を恵んでくれる良い環境である。

 ……と言うと図々しいかもしれないが、これはこの犬の店主さんの気持ちであって、皆が皆そうじゃない。この人が、とても優しい。ただそれだけのことだ。

 

「ありがとう、ございます。あなたに、血の加護があらんことを……」

 

 ぺこりとお礼をすると、店主さんは「血の加護……?」なんて怪訝そうな顔をしていた。まぁ、そりゃそうだ。突然血の加護なんて言い出したら、そりゃ怖いに決まってる。でも、今の私は似非マリア兼人形ちゃん。

 加護を与えるのも一種の役目だろう。与えられているかは、分からないけれど。

 

「とりあえず、食ったら感想でも聞かせてくれ!店はシャーレの目の前って覚えれば簡単だろう?」

 

 にっこりと明るい笑顔を向けられて、ひらひらと手を振られた。肉球がやわらかそうで魅惑的だけれど、触るのはご法度なのかな。ちょっとだけぷにぷにしたい欲求を抑えながらその場を後にする。

 

 

至高のたこ焼き

連邦捜査部、シャーレ本部の前にあるたこ焼き店で提供しているたこ焼き

外はカリカリ、中はとろりとしており、食べた者に忘れられない味を植え付ける

 

この味は、素人には再現できない。長年の努力が結実した、技術の賜物だろう。

 

 

 たこ焼きのパックを両手で持ちながら、シャーレ前の通りを、貸家に向けて歩いていく。至る方向から視線を感じるけれど、敵意はない。

 多分、この服装が珍しいんだろう。そもそもこの世界に存在していない代物だし、カインハーストの意匠自体、西洋風で良く目立つ。

 でも敵意が無いなら、別に抵抗する必要は無いし。向こうから襲ってきたら別だけど……。

 

 取り敢えず、今は貸家に急ごう。どの生徒が待っているかも分からないし、そんなに待たせるのも悪い。加速でも使いながら移動してやろうかと考えたけど、たこ焼きの無事を願いたいし、普通に徒歩で移動しよう。

 

 さてと。貸家までの短い旅を始めるとしようかな。

*1
極度の疲労




時間空いたからぐちゃぐちゃだぁ。
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