キヴォトスの時計塔 作:Laplaaaaaaaaaaaace
さてさて、たこ焼きを持ちながら歩いて、数十分。大通りを抜けて居住区へ。同じタイプの家が立ち並ぶその姿は、どこか団地を思い出させる。でも、これが土地的にも一番の最適解で、効率的なんだろう。
取り敢えず、私の鍵に書かれている部屋番号と同じ区画へと向かうとしよう。該当区画に到着さえすれば、後は待ち合わせている生徒と合流して……。まずはたこ焼きでも食べようかな。まだあったかいし、美味しいはずだ。
似たような家屋の間を縫うように移動し、鍵の数字に該当する区画へ到着した。すると、遠くに人影が見えるではないか。あの人が多分待ち合わせの為に来てくれている生徒だ。
と、向こうも近づく私に気づいたのか、手を振ってくれる。此方も振り替えそう。片手でぱたぱたと小さく手を振る。
すると、人影が近づいてきて、わざわざ迎えに来てくれた。え、すっごく優しい。こんなに優しいのか、キヴォトスの住人は。やっぱりブラボばかりやってフロムに脳を支配されていくと、価値観が変わってくる。
ヤーナムの住人は会うなり松明だの鋤だのサーベルだの、銃だので盛大な出迎えをしてくれる。犬も熱烈なお出迎えをしてくれるぞ!3匹以上いるとちょっと辛い。痛いんだ、嚙みつきが。
噛みついてくるような生徒さんじゃなきゃいいけどなぁ……。落ち着いてて、しっかりと会話できる人が良い。ツルギみたいな人が来ると堪ったもんじゃない。会話できるか心配。主に私が。
「こんにちはっす~。えっと、秘守マリアさん……で合ってるっすかね?」
わ~お。夢女子量産生徒が来てしまったぞ。特徴的な語尾に、糸目。長く伸びた黒髪に、眩しいくらいの笑顔。黒いセーラー服と、腕章に刻まれた大きな「J」のイニシャルに、「Justice」の単語。
うん、正義実現委員会二年生の仲正イチカさんじゃないですか~!!絆ストーリーで堕とされたと思ったら、ハロウィンイベで追撃を仕掛けてきた女だ。中々侮れない。
「……はじめまして。あなたの言う通り、私が秘守マリアです」
「貸家の近くで待ってくれているというお話は、ある程度先生から頂いておりますので……」
「おっ、ちゃんと説明してくれたんっすね」
「……あ、自己紹介、忘れてたっすね。私は、トリニティ総合学園二年。正義実現委員会所属の仲正イチカっす!」
律儀~。ほんと律儀な子たちだ、ここの生徒さんたちは。一部を除いて。
中々会話がうまくいかない人もいれば、常時暴走状態みたいな人もいるし、メモロビの背景が物理的に大炎上している生徒もいるくらいの世界で、イチカを選んでくれるとは。
ありがとう先生。諸々が片付いたらあとでたこ焼きを食べに行こう。
「イチカ様……ですね。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「それにしても……正義実現委員会というのは、どのような組織なのでしょうか……?」
「イチカ様……ちょっとむず痒いっすね……。それよりも、正義実現委員会の説明、っすよね」
そこからイチカは、貸家までの道のりをゆっくり、私の歩幅に合わせながら一緒に歩き、正義実現委員会の説明をしてくれた。
前世……といえばいいのか、あちらの世界でゲーム内における正実の情報は得ているが、もしかしたら設定には載っていない新しい情報なんかが……!!
と、期待していたが、イチカの話した内容は全てゲーム内の情報と同様。トリニティトップのティーパーティー管轄下で自治区内の治安維持、警備活動が主な活動内容。風紀委員のようなもの、と言っていた。
部員構成は全員まで教えてくれなかったが、委員長のツルギについては楽しそうに話してくれた。トリニティが誇る戦略兵器……剣先ツルギ。桁外れの戦闘力に、治癒力。
戦闘においては負けなしなんて言われるくらいの生徒だ。出来れば戦いたくないなぁ……痛いのは怖いし、腕とか折れたら怖いじゃん……?
「っと、取り敢えずここまでっすね。ここが目的の場所っす!」
ぴた、と足を止めたイチカに続いて、目的地を見上げる。なんてことはない一般的な住居。物珍しいものはなく、至って普通。時計塔の中よりはマシだけど。
「マリアさん、先生から預かった鍵……持ってるっすよね?」
「はい、確か……ここに」
腰のポケットから貸家の鍵を取り出す。タグの番号と目の前の建物の部屋番号を確認し、問題ない事を伝えるとイチカが「それじゃ、その鍵で扉を開けて欲しいっす」と声を掛けてくれた。
もう、なんだろう……。何から何まで優しすぎる。言わなくても分かるような常識を、優しく伝えてくれる。なんだか、お姉ちゃんみたいだ。
あの列車イベでの本性を見た後だと、まぁ……何とも言えない気持ちになってはくるけれど。二面性のあるキャラクターは好きです。大好物ですとも。
「……開きました。私から入ってしまって、良いのでしょうか……?」
「それは勿論!だってここは、これからマリアさんの部屋になるっすから!遠慮なく!」
「……では。失礼、いたします」
「う~ん……なんか堅いっすね。ここはマリアさんの家っすよ?もっとこう……ただいま!みたいな感じで……」
「柔和な表現……という事でしょうか。でしたら、ただいま……戻りました。というのは……?」
この身体、一人の時じゃないと口調に殆ど制約があると言っても過言ではない。一人でいるときは砕けた口調で独り言をつらつら並べられるんだけれど。時計塔の中に閉じ込められている時とかそうだった。
しかし、誰かが一緒に居ると人形ちゃんの様な喋り方に矯正されてしまうのだ。なんと喋りづらい。丁寧語や尊敬語で喋る事が中心になるから、柔和と言われてもなぁ……。
『ならば、枷を一つ外そう。そうすれば『
……?またなんか、変な感覚が。
「いいっすか?ただいま~!っすよ?」
「私が先に中でお迎えするんで、マリアさんはただいま!って入ってくるっす!」
あっ、ぼーっとしてた。イチカが先に「お邪魔するっす~」なんて軽~く貸家の中へ入っていく。その言葉に続く様に室内から手招きをされる。
手招きされていることに気づけば、靄掛かった思考を振り払い、たこ焼きの入ったパックを両手に乗せながら、貸家の扉を潜った。
「ただいま」
貸家に入り、たこ焼きをテーブルの上に置いた。その後、イチカから室内諸々の説明を受けて、その場は解散……。という訳にもいかず、二人で少し駄弁ろうと、絶賛暇を持て余している最中だ。
「いやぁ~、それにしてもこのたこ焼き美味しいっすね!どこのお店っすか?」
「シャーレを出てすぐ前にあるお店です。大きなタコが目印……と、店主様が仰っていました」
「あ、また堅い口調出てるっすね?さっきは『ただいま』って言えたのに……。不思議なこともあるものっすね」
ぱく、とたこ焼きを一つ口に運ぶ。そう、先ほどこの家に入るとき、なぜか普通に喋れたのだ。『ただいま』とだけ、普通に。
その後喋る機会なんて、『はい』か『わかりました』しかないから。存外気にならなかったけれど、よくよく考えれば不思議だ。
それに、あの不思議な感覚と言い、この身体には何が隠されているというんだ。秘密は深まるばかり。それに伴い、好奇心も増幅していく。
いつか……いつか、この身体についての秘密を完全に解き明かしてしまったら、どうなるんだろう。この身体のモデルは、時計塔のマリアだ。秘密を守る者。
その秘密を守る者の肉体を、いわば死体漁りの様に肉体に眠る秘密を紐解いていってしまったら。……考えるだけで恐ろしい。『自分』が消えてしまうんじゃないか、なんて考えてしまう。
この身体は強力だ。一般人の魂なんて、簡単に葬り去ることが出来るだろう。……この先、色々と気を付けないといけないな。
「まっ、とは言いながら、口調なんて強制する気は無いっすから……」
「自分の喋りやすい様に喋るの一番っすよ。マリアさ……いや、『マリア』」
……彼女の言う通り、か。別に口調なんて些細な問題じゃないし、これから人によって変えていけば良い話で……って、あれ?
もしかして、いま、名前で呼ばれた?しかも呼び捨てで?マリア様でも、人形でもなく、マリアって?……友達認定!?!?
「イチカ様、今……私の名前を……?」
「あ~……、もしかして、呼び捨てとかマズかった感じっすか?先輩だった……とか」
「いえ……。そのようなことは」
「ただ、感情が乏しい私にとって……なにか、不思議な感覚が芽生えたのです」
「不思議な感覚?それってどういう……」
「恐らく、喜び……。食を共にし、雑談を交わし、『友人』と呼んでも相違ない方から、名前で呼ばれた、という事に喜びを感じているのでしょう」
なんと、感情表現に乏しいこの身体で、しっかりとした感情を理解することが出来た。いや別に無感情という訳ではないけれどね!
なにかしらの兆候はあれど、『ソレ』を明確に感じることは出来なかった。しかし、イチカとの会話を経て、何かを確実に感じることが出来たのだ。
人形ちゃんの様に感情が薄い身体なのに……。一歩先に進めた感じがする。
「ははっ、不思議なこと言う子っすね。でも、そういうの嫌いじゃないっすよ!」
あ~……。イチカへの好感度が爆上がりしていく。すき。
って、待て待て。このままだと呑まれる。仲正イチカという存在そのものに。危うくイチカに酔う所だった。イチカに酔った狩人の瞳とかいう謎のアイテムを生成するところでした。
「まぁ……マリアの事で気になる事もあるっすけど……」
「それよりも先にやる事があるっすよ!」
「……?」
やること。なんだろう。家の改築?作業台の設置?あ、アイテムチェストは欲しいかも。あと記憶の祭壇も。
もし可能であれば、聖杯ダンジョン用の儀式祭壇も欲しい所だけど、家の外に墓石を置くのは景観を損ねてしまうかもしれない。家の中に置こうかな。
……そもそも儀式祭壇って作れるのかな。聖杯、一つも無いし。この世界に血に乾いた獣が居れば聖杯もらえるんだけどなぁ。
「マリアの服とか……下着とか」
「その他の日用品を買うかもしれないって、先生から話、貰ってないっすか?」
……あ。そういえばそんな事、言ってた気がする。雑談とかに夢中で忘れてた。
キヴォトスで生活するうえでの必需品とか……、生活用品とか。良ければ待ち合わせている生徒の子と買っておいでって言われてたかも。
「……忘れて、いました。イチカ様との談笑が思いの外楽しく……」
「ほんと、マリアは良いこと言ってくれるっすね。でも、いつまでもお喋りしてたら、お店が閉まっちゃうっす」
「その前に、粗方買い揃えておかないと、困るのはマリアっすよ~?」
つん、と人差し指で額を小突かれた。え、何この子。無自覚でやってるの?これ。ゲームだとそんなに事細かに描写されないからアレだけど、実際こんなことするの?
罪深い。なんと罪深い生徒。こうしてイチカに酔い、人は人を失うのだ。ならば、イチカに酔った者を狩るのは、私の役目だろう*1。
「確かに……それは困ります。イチカ様、案内をお願い出来ますか……?」
「そうと決まれば早速出発っす!案内は任せるっすよ~!」
元気いっぱいのイチカを先頭に、後ろを着いていくことにする。小走りで家を出ると、空は雲一つない青空で、暖かい太陽の光を地上に届けてくれていた。
「とりあえず、服屋さんっすね。マリアの服は、この辺だとやけに目立つっす」
「先生から詳細は聞いてるっすけど、初日でアリウスの連中に襲われたんすよね?」
「はい。なんとか撃退は出来ましたが……。先生からも服装は変えたほうが良いと……指摘をいただきました」
返り血こそ付着していないけれど、目立つ服装。現に、歩いてるだけであちらこちらから視線を感じる。狩帽子も被ったままだし、それが余計に目立つのだろう。あと狩装束のマント。
キヴォトスの生徒をちら、と傍目で見るが、マントを着けている子は歩いていない。一応コートを羽織ってる子は数人いるけど……。それこそ、アル社長とか、ヒナちゃん、万魔殿の皆々様くらいだろう。
マントを翻す生徒なんて聞いたことない。多分私だけだろう。現状は。
「トリニティの服屋さんだと……、そうっすね。少し高くなっちゃうんで、この辺りで丁度良さそうなところを探すっす」
「ちょっと待ってて欲しいっす~」
そういうとイチカはスマホを取り出して、店舗検索を開始した。
あぁ、スマホも買わないといけない。連絡手段を持っていないと、今後が困る。エデン条約編終盤ともなれば、猶更だ。
この先の展開を予想できるとは言え、日常の連絡手段も欲しい。あと暇つぶし、情報収集用にも。
「うん、見つけたっす。マリア、行くっすよ!」
「……はい」
今更だけど、イチカの方が背が高いし、その面倒見の良さから、まるでお姉ちゃんだ。見た目は全く似ていないけれど、手を引かれている様は微笑ましく写るだろう。
なんてぼんやり考えていたら、そのまま服屋さんに連行されていた。内装はカジュアル寄りだけど、取り扱っている服は多岐に渡る。ストリート系からスポーツ系。一角にはおしゃれなエレガンス系統な服。
地雷系の服も置いてあるし、値段も良心的。まぁ、コスパは悪くないし、デザインも悪くない。キヴォトスだから発狂耐性とか血耐性とか考えなくていい。ちょっと考えるべきは神秘耐性かな。
この世界、神秘で満ち溢れているから、下手したら上位者の巣窟と言っても過言ではない。それこそ、神秘アタッカーとか相手にすると厳しいところがあるかもしれない。
マリアの狩装束は前に説明した通り、血耐性はトップクラスだ。でもそれ以外は平凡。どこかで神秘耐性を確保できる狩装束もとい服を手に入れなければならない。
クラフトチャンバーとか使わせてもらえないかなぁ……。処刑隊装備さえ作れれば、神秘耐性は何とかるのに。金のアルデオはいらない。前見えなくなりそうだもん。
「さぁさぁ!念願のお着換えタイムっすよ~!!」
なんでやけにハイテンションなんだろう、この子は。中身は成人男性だよ。忘れがちかもしれないけど!!
と、手を引きながら試着室へ。似合いそうな服を一式選んでくれるそうで、試着室の中で待ってて欲しいとのこと。着せ替え人形にされるパターンかも、これ。
肉体が奇麗寄りの造形をしているから、何を着せても似合うんじゃないかな。清楚な感じの服から、カジュアル系まで。マリアは体のラインが細いから、それこそ清楚系とか良いんじゃない?
「お待たせしたっす~!いやぁ、マリアって奇麗だから服選ぶのに時間かかったっすよ~!」
「取り敢えず、色々持ってきたっすから、試着してみて欲しいっす!」
どすん。かご一杯の服。どれがどれだか分からない程に詰め込まれたそれは、あまりにも衝撃的だった。狭すぎた棺桶かな?ここってヤハグル?
「試着タイム、スタートっす」
そこから、私の着せ替え人形劇が始まった。
まず一着目。これはストリートカジュアル系。
少し大き目なシルエットのシャツに、ビッグサイズのボトムス。カラーは控えめで、そこまで派手ではなく、悪目立ちしない色味。
いそいそと狩装束を脱ぎ、下着姿になる。……貧相。いや、別に自分の身体だから欲情とかしないけど、なんか……いろいろ小さい。いや、今はそんなことどうでもいい!!!!服!取り敢えず服!!
ぱぱっと着替えて、試着室のカーテンを開ける。試着室の前にある椅子に、イチカは座っていた。そしてこちらを見るなり、「おぉ~」と感嘆の声を上げる。
「やっぱりマリアは奇麗系だから、ストリートも合うっすね~!めちゃくちゃクールっす!!」
「そう……でしょうか。こういった服は初めてで、勝手が分からず……」
「いやいや、着こなし方も完璧っす!先生に写真送っといた方が良いっすかね?」
「……それは、ご容赦を」
「あははっ、冗談っす!さ、じゃんじゃん行くっすよ~!」
続いて二着目。この服は……カジュアル系、だけど……さっきのとは違う。なんて言ったっけ、渋谷系?
こういうの、キヴォトスにも存在するんだなぁ。みんな制服が基本的な立ち絵だから、私服って中々見る機会無くて新鮮。
ストリートカジュアルと違って、少しだけ露出のある服だからちょっと抵抗感があるが……背に腹は代えられない。ええい、ままよ!
肩が少し出るくらいで弱音吐くんじゃない!うおー!
「い、イチカ様。どうでしょうか……?」
シャッと試着室のカーテンを開けて、感想を所望する。
「わっ……ほんと服だけで印象って変わるもんっすね……。さっきのクール系から一変して、魅力的な雰囲気っすよ!」
「これでキヴォトスを歩いたらモデルとしてスカウトされちゃうんじゃないっすか?」
「じょ……冗談は、程ほどにして頂けると……」
さて、三着目。これは可愛い系だ。ガーリーファッションって言うのかな?少女らしさを演出できる、ふわっとした服だ。
最近の中高生の私服はこんな感じなのかな、と成人男性は思います。
もこっとしたトップスに、少し大きめのロングスカート。全体的に身体のラインを隠す様な服装で、服を着ているというより、服に着られている感じがする。
小さめのリボンに、フリル。全体的にふわっとした印象に、心を打たれた。……うん。この系統を買っていこうかな。
「イチカ様、着替え終わりました。どうでしょうか……?」
「……ほんっとに、何を着ても似合うの、ずるいっすよ」
「背丈も相まって、妹ってイメージが強いっすね。私は嫌いじゃないっす!」
「……ふふ、ありがとうございます。イチカ様」
かれこれ数時間かな。服を着てみせて、感想を貰って。を繰り返して、諸々買う服は決めた。あぁ、そうそう。下着も何着か買ったよ。
狩人諸兄には刺激が強すぎるかもしれないので、採寸の時の話はしないでおこう。出血の状態異常になられても困る。
結果的に、ガーリーコーデと清楚系のワンピースを袋に詰めて、帰路についている。真っ白なワンピースに一目惚れして、自分で選んだのだ。
見た目はマリア様兼人形ちゃんなのだ。ワンピースなんて着ようもんなら、それだけで狩人の悪夢にやって来た狩人を失血死させられるだろう。だって可愛いもん。
「いやぁ~……。服を買うだけで結構時間かかっちゃったっすね……」
「……そう、ですね。私も、疲れが少々……」
「着せ替え人形にしちゃったみたいで、申し訳なかったっす……」
「もう少し日用品とかも買い揃えて、色々充実させようかと思ったんすけど」
確かに、お昼くらいに出かけたのに今や夕方。太陽が沈み、月が顔を出す時間がやってくる。
狩人たちにとっては待望の時間なのだろうが、キヴォトスの生徒達にはそういう訳でもないらしい。普通に学校があるし、トリニティとゲヘナは絶賛お互いに睨み合い中。
他の学校だって通常通り授業があるだろうし、仕方がない。日用品に関しては、また後で買い揃えるとしよう。
「その点に関しては、気にせず……。後ほど、自身で調達しようかと……」
「そうっすか?先生から、明日もマリアに付き合う様にってメッセージ貰ってるっすけど……」
そういってイチカはスマホの画面を見せてくる。モモトークの画面だ。
先生からのメッセージは、『明日もマリアの事、よろしくね』とのこと。イチカ曰く、生活が安定するまで、行動を共にする様にと命を受けているらしい。
そんなに心配しなくても、人並みの生活は送れるのに……。
「……でしたら、お言葉に甘えても……よろしいでしょうか」
「ぜんぜんおっけーっす!いつでも私のことを頼って欲しいっすよ!」
出会って1日だというのに、随分打ち解けたな、と自分でも思う。それもこれも、イチカの性格があってこそなのだろうが。
正直、キヴォトスに出た初日は不安でいっぱいだった。襲われるし、ヒナちゃんに敵意を向けられたし。正直怖かった。
でも、今こうして隣を歩いてくれている、友達とも呼べる存在が出来たのは、大きな進歩だ。
お互いに、明日の予定を立てながら駄弁りつつ、家へ向かう。自身の家がある居住区とイチカの住む寮があるトリニティまでは距離がある。
ここまで送ってくれたことも、一緒に話してくれたことも、全てが私にとって嬉しい思い出となる。
「さて……マリアも送ったことだし、私はそろそろお暇するっすよ」
「態々、ありがとうございます。こんな遠くまで付き添っていただき……」
「今日1日、イチカ様に頼ってばかりで。いつか、お礼をさせてください」
「……お礼、っすか?そうっすねぇ……何をしてほしいか、考えておくっす!」
「……はい。イチカ様の願いを聞き届けられるよう、尽力させていただきます」
「へへ……なんか恥ずかしいっすね……!」
……とんでもないことを言ってしまったかもしれない。これはあれだ、インターネットで言う所の『何でもするから』というやつだ。
相手はイチカと来た。何が飛んでくるか分かったもんじゃない。まぁ、そんなに警戒しなくても、そこまで無謀じゃないのは今日で確認済みだ。
ブチギレさせたら話は別だけど。
「それじゃ、マリア。また明日っす!」
「はい。また明日……お会い出来ることを楽しみにしています」
また明日!と言い残すと、イチカは手を振りながら足早に去っていった。彼女の影が無くなるまで見送り、家の中に入る。
大量の衣服を床に置き、ふぅと一息。今日1日を回顧してみる。
朝起きて、先生を起こそうとしてヒナちゃんに敵対されかけて。たこ焼きを無料でもらって、貸家に来たらイチカに出会った。
そこから少し家の中で駄弁って、服屋さんに行って着せ替え人形にされた。あんまり嫌じゃなかったけど。
それに、自分で一目惚れした純白のワンピースも買った。それも含め、沢山の服たちを買ったんだ。
いい1日だったなぁ、と袋の中からワンピースを取り出して眺めてみる。
真っ白なワンピース
マリアが服屋で一目惚れして購入した衣服
純白のそれは、血を意識させることはなく、悪夢から遠ざけてくれる
例え肉体が不死の女王、その傍系にあたるとしても
この世界に於いて彼女は、変わりたいと願うのだろう
ワンピースをハンガーにかけて、ベッドの横に提げる。すぐに、着替えられるように。
その後、自身の産まれたままの姿にどぎまぎしながらもシャワーを済ませ、寝支度を進めた。ナイトウェアも買っておいて良かった。
なぜあったのか分からない、ヴィンテージ物のナイトウェア。それこそ、ブラボの世界である1800年代後半から1900年代に着られていたであろうパジャマ。
それに袖を通せば、あらびっくり。寝支度を済ませた美少女の完成です。パジャマパーティなんかしたら、一際目立つかもしれない*2。
まぁ、今日は色々あって疲れたし……いい加減休むとしよう。明日もお出かけと考えると、心が浮足立つ感覚に襲われるが、それを何とか沈めて、静かに眠るとしよう。
このワンピースがあれば、きっと悪夢も見ないだろう。……多分だけど。さてと、それじゃあ、おやすみなさい。
この眠りが、有意なものとなりますように。そして、願う事なら、幸せな夢を見れることを信じて。
普段ファッションに無頓着だから、滅茶苦茶調べながら頑張りました。
あとがきにはなりますが、評価や感想、お気に入り。誤字報告など、全て励みになってます!お気に入りも1000件突破、本当にありがとうございます!!
これも読者の皆様がいるお陰です!これからも頑張って更新を続けていくので、お付き合いいただけますと幸いです!!