もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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5月30日 文体を大幅に変更しました


VSマナタイトヒュドラ 後編

 

 

 

エリスの視界をヒュドラの顔が覆っていく。

絶望という文字が広い部屋に充満する。

 

俺は何度だってミスをした。

本気で生きると決めて。でも出来なくて。

 

何度も、何度も絶望という刃に切り裂かれた。

 

でも、心は折れなかった。

だって、俺は一人じゃなかったから。愛しの人が居たから。

 

「エリス……」

 

俺の瞳から雫が落ちる。

俺は信じている。

未来は変えられるって。愛しの人となら、絶対に変えられるって。

 

簡単なことじゃない。そんなことは分かってる。

でも、エリスとなら、きっと。

 

俺は何処までも強くなれる。

 

この時。俺は本気で、そう思っていた。

 

 

─────────────────────────

 

 

エリスがヒュドラの総攻撃。その一発目を避けた時、異変が起こった。

エリナリーゼが不運という風に乗って俺にぶつかった時、声が聞こえた。

 

「やっぱり、私はルーデウスに守られてばっかりね」

 

俺の耳、そして涙を揺らす声。

俺の覚悟を肯定する声。

 

瞬間、彼女の腕に力が込もる。

その力は腕から剣へ。そして攻撃へと繋がる。

 

彼女は冷静に戦況を分析していた。

ヒュドラの攻撃。その速さ、威力。

 

そして、一瞬。ヒュドラの動きが止まっていたことを彼女は見逃さなかった。

 

俺の不発だった風魔術は無駄なんかじゃなかったんだ。

掌に集めた大きなエネルギーは、ヒュドラの警戒を誘い、一瞬だけ動きを止めた。

 

俺がクズなことには変わりない。

風魔術が不発だったことは事実。

しかし、エリスには、その援護で十分だったんだ。

 

一発目を避けたエリス。彼女は、その時点で察していたんだ。

これ以上は避けられない。ならば、

 

『全部、斬り落としてやる』

 

彼女らしいな。

予見眼の未来。俺の知ってる未来を変えるのは、

 

『エリス・グレイラット』

 

バン!バン!バン!バン!バン!

 

ヒュドラの総攻撃は全部で七発だった。

避けた一発目を引いても残り六発。これで殺す、ヒュドラの考えは間違えていなかった。

 

間違っていたのは彼女への評価。

ヒュドラの成長に促されて覚醒する少女。

 

エリス・グレイラット。彼女は、いつだって俺の想像を超える。

 

一発目を避け、残り六発。

彼女はそのうちの五発を避けるのではなく、最速の振り上げ、振り下ろしを使い、叩き斬った。

 

 

─────────────────────────

 

 

バン!

 

大きな音が鳴った。

音の正体。それは、ヒュドラの攻撃に人がぶつかる音。

 

エリスが頭突きを食らって、壁にぶつかる音。

 

「ぶえぇ」

 

とてつもない速さでエリスが壁にぶつかる。

その瞬間。苦しそうな声を上げて彼女が吐血した。

唇と地面に鉄の匂いが広がる。

 

ゴトン

 

それと同時、ヒュドラの首が落ちる。

同時に落ちた五本の首、エリスが一瞬で叩き斬った首。

 

ヒュドラの総攻撃。彼女が食らったのは最後の一発。

その攻撃で彼女が吐血した。

でも、でも、逆に言えば……

 

それだけで済んだんだ。

 

俺は全速力で走った。

壁に背中を預けて、ぐったりと座る彼女の前に。

 

「ルーデウス、ごめん、なさい」

 

俺のせいなのに謝る彼女。

俺の言葉は決まってる。

笑顔で、自信を持って。

俺も、彼女みたいに。人を安心させられるように。

 

「エリス、大丈夫。後は任せてください」

 

ヒュドラの首は残り二本。

苦しそうに吐血するエリス。早く治してあげたい。

夫として治さなきゃいけない。

 

エリスの怪我、治すなら上級治癒魔術。詠唱に時間が掛かる魔術。

しかし、今は時間がない。

治すのはヒュドラを倒してから。

その後に、ゆっくりとエリスを治す。

 

俺は彼女となら何度だって夢を追える。

何度だって幸せが蘇る。

また、俺の瞳から雫が落ちる。苦しくて絶望する時に出る涙。

でも、今回は…

 

…彼女との未来を見据えた、希望の涙だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

エリスを背中に置いて、俺は再度ヒュドラと相対する。

ヒュドラは最善を選んだ。

 

エリスから倒すという最善。

でも、それが失敗した時、結果は最悪に変わる。

 

「この戦いが終わったら、エリスに謝らねぇとな」

 

ヒュドラの首を斬れる剣士。

野放しにしていた、もう一人の剣士。

 

『パウロ・グレイラット』息子を想う剣士がヒュドラを追い詰める。

 

エリスが作ったチャンス。

万全に近いパウロ、首の少ないヒュドラ。

エリスのおかげで油断を断ち切れた俺。

 

そんな俺たちが負けるとしたら、それは『不運』しかない。

俺たちは負けない。

 

この時は誰も知らなかったんだ。

敵は、ヒュドラなんかじゃなかったんだって。

 

バン!

 

「ルディ!行くぞ!」

 

「はい!父さん!」

 

パウロの踏み込み。全員の視線が俺たちに集まる。

小さな、小さな人間に集まる。

 

刹那、音が鳴る。

場所は遥か上空。

大きなヒュドラよりも上の『天井』

 

天井の音。この音が証明するのは、加速する『不運』だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

俺はタルハンドの言葉を思い出していた。

迷宮の心得、そのうちの一つ。

 

『天井を攻撃してはいけない』

 

こんな言葉。

広い部屋、自由に動ける部屋。

 

遥か彼方、上空にある天井。

 

普通なら誰も攻撃出来ない場所。

 

そう、彼女を除いて、覚醒した少女『エリス・グレイラット』

彼女の剣撃によって飛んだ首。

 

下からの振り上げによって飛んだヒュドラの首。

 

そんな首が跳ね飛び、時間を掛けて天井にぶつかったんだ。

 

とてつもない剣撃だった。

見惚れてしまうほどの攻撃とスピード。

俺の魔術なんて霞んでしまうほどの威力。

 

そんな剣撃だからこそ、ヒュドラの首が天井まで届いてしまったんだ。

 

ガタン!

 

天井が崩れる音。

落ちてくる岩。

 

下敷きになるのはパウロじゃない。

エリナリーゼでも、タルハンドでも、ギースでもない。

 

エリスでも、俺でもない。

 

これが『不運』の正体。

誰も知らない絶望の連鎖。

 

岩が落ちる先は俺の尊敬する師匠。

 

『ロキシー・ミグルディア』

 

最悪の不運が、小さな髪に牙を剥き始める。

 

 

─────────────────────────

 

 

絶望も不運も試練も、一回じゃ終わらない。

何回も、何回も、潰れるまで続くんじゃないかって思うほど襲いかかってくる。

 

でも、これで最後だ。

 

大好きなエリス。大好きなロキシー。

 

俺の試練。二人を守るのは俺だ。

 

俺は青い髪を見つめた。

俺の大切な人。尊敬する師匠。

 

彼女の口が、細く、小さく動く。

 

「ルディ」

 

小さな身体が俺に助けを求めてる。

ロキシーが絶望に焼かれている。

 

上空から降ってくる大量の岩。

数秒先の未来、俺の予見眼に映るのは…

 

『ロキシーの死』

 

でも、大丈夫。

今度は絶望なんてしない。

 

エリスが見せてくれた未来。

証明してくれた事実。

 

予見眼で見た物は覆せる。

 

さぁ、恩返しをしよう。

あの小さな背中に、俺の尊敬する偉大な師匠に。

 

もう失敗はしない。

 

掌に風魔術を作って、ロキシーに落ちてくる落石に向ける。

落石を龍神に見立てて。助けて、超える。

 

やっと分かった。

俺の試練の正体。不運にも立ち向かう、その心。

 

最後の最後で理解した。

 

バン!!!

 

刹那、大きな音が鳴った。

今度は人がぶつかる音じゃない。不運の音でもない。

 

ロキシー・ミグルディア。青い髪を救う幸せの音。

 

「師匠、エリス。俺は、まだまだ強くなる」

 

精神的にも、肉体的にも俺は成長し続ける。

 

その覚悟を決めた一歩。俺はロキシーを見た。

 

救われて、笑っているはずの彼女。

俺の成長を喜んでいるはずの彼女。

 

幸せを掴んだはずの彼女。

 

視線を凝らして、青い髪を見る。

大丈夫、大丈夫。みんなを俺が幸せにする。

信じ続ける幸福。俺の視線の先にあったのは…

 

「ルディ。逃げて、逃げてください」

 

小さい少女の、絶望した顔だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─ロキシー視点─

 

皆、とても強かった。

ルディもエリスも、パウロさんたちも。

 

皆、とても強かった。

 

私にとってお伽話だったヒュドラ。

そんな化け物の首が一瞬にして落ちる。

 

そして、その首をルディが一瞬にして燃やしていく。

私も、そんな皆さんに加勢しようと試みました。

 

エリスの動きは速すぎるので、せめてパウロさんの加勢へ。

傷付いたエリナリーゼさんとタルハンドさん。

 

全員の回復と詠唱短縮で炎の加勢。

 

私も皆さんの役に立てている。そう思っていました。

 

そんな時、大きな岩が降ってきました。

ヒュドラの首が天井にぶつかったことによる大量の落石。

 

すぐに悟りました。

 

私は、ここで死ぬのだと。

 

「ルディ」

 

せめて、最後は惚れた人の名を口にして人生に幕を閉じる。

私は覚悟していました。

 

私には夢がありました。

教師になりたいという夢。でも良いんです。

一度はルディに助けられた身。私が死ぬのは必然。

 

私は目を瞑って、生きることを諦めていました。

 

バン!!!

 

そんな時、大きな音が鳴りました。

ルディの掌から鳴った音。

 

彼から放たれるのはとてつもない風魔術。

私を覆っていた絶望。落石は全て飛ばされて、私の視界が明るくなる。

 

あぁ、ルディ。本当にあなたは私の想像を超えていく。

 

二度もルディに助けられた。

この戦いが終わったら、感謝して、また話しましょう。

 

楽しい話。烏滸がましいですが、弟子と師匠として。

また笑いながら。

 

でも、そんな夢は儚く散っていきます。

 

何か嫌な予感がしたんです。

私を助けてくれたルディ。

後衛の私に風魔術を撃ってくれたルディ。

 

後衛を、私を見てくれているルディ。

後ろを見てしまったルディ。

あぁ、私の視界を化け物が覆っていく。

 

彼の背中がヒュドラに睨まれている。

 

「ルディ。逃げて、逃げてください」

 

私を二度も救ったルディ。

恩人で、憧れで、自慢の弟子なのに。

 

私は、最後まで…

 

…彼の、足手纏いだったんです。

 

 

─────────────────────────

 

 

俺の背中に生温かい息がかかる。

グルル、という獣の声が聞こえる。

 

俺の頭は理解を示さなかった。

理解したのは、ロキシーを助けたという希望。

 

絶望なんて理解出来なかった。

 

バン!

 

その瞬間、俺の脇腹が蹴られた。

エリナリーゼの時とは違う。強いけど優しい蹴り。

 

温もりを感じるほどの、守るための蹴り。

 

揺れたのは赤い髪。

俺の視界の端で、吐血しながら飛び込む少女。

 

「ルーデウス……」

 

俺の名前が呼ばれた。

吐血混じりの声。それでも、その声の主は間違えない。

 

ドン!

 

パウロが首を一つ斬った。

とてつもなく大きな音を鳴らして斬った。

でも、そんな音、俺の耳には届かなかった。

 

彼女に呼ばれた名前。何故か、その声が一番大きく聞こえたんだ。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

残り一つの首。

俺の目の前に現れた首。

 

俺は、そんなヒュドラの赤い瞳に左手を突き刺して、止めを刺す。

 

「ロキシぃぃぃぃぃ!」

 

俺は大きな声を出した。

大切な師匠の名前。名前を呼んだだけで察して、炎を撃ってくれた師匠。

 

止めを刺してくれた師匠。

 

俺の左腕が燃えるように熱い。

いや、熱いというのは少し違うな。というより、熱さを感じることも出来なかった。何故なら…

 

俺の左腕は、消えていたから。

 

「治癒魔術を、掛けないと」

 

俺は、痛みに耐えながら治癒魔術を詠唱する。

傷は治せても、欠損は治せない上級治癒魔術。

 

でも、エリスは治せる治癒魔術。

 

「よし、エリス。今治しますね?」

 

本当に危なかった。

一人なら俺は負けていた。

 

でも、俺は一人じゃなかった。

ロキシーを守って無防備だった俺。そんな俺を、エリスが守ってくれたんだ。

 

エリス、エリス。

 

俺の大好きなエリス。

俺の大好きな、お嫁さん。

 

俺は、愛しの人を見つけるために辺りを見渡した。

 

タルハンドを見つけて、エリナリーゼを見つけて、ギースを見つけて。

 

ロキシーを見つけて、パウロを見つけて。

 

一人を除いて。皆、元気に立つ姿を見つけた。

 

なぁ、それなのに。元気なのに、なんで、

 

なんで、そんな顔してんだよ。

 

全員の見つめる先は一つ。

 

可愛くて、可愛くて。

美しくて、カッコよくて。

 

ちょっとヤンチャな、俺のお嫁さん。

 

いつも、髪を元気に揺らす。

 

俺の、大切な人。

 

「……エリス?」

 

何度だって夢を見たさ。

最強を超える夢、一緒に冒険をする夢。

 

子供を作って、幸せに暮らす夢。

何故か当たり前だと思っていた光景。だから、その夢が叶わなくなるなんて思いもしなかった。

 

彼女が、エリスが居なくなるなんて。

疑いもしなかった。

 

「ルー、デウス……」

 

彼女は吐血して。

その姿に似合わない笑顔で、俺を見つめて。

ゆっくりと、言葉を吐き出す。

 

「だいすきぃ……」

 

俺の夢が終わる。

世界が、濡れていく。

 

大好きな、俺のお嫁さん。

彼女は、エリス・グレイラットは…

 

左足を、無くしていたんだ。

 

 

 

 

 

 

今後の戦闘について…

  • 分かりやすい。多くても大丈夫
  • 普通。可もなく、不可もない
  • 分かりにくい。改善してほしい、少なくして
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