もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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5月30日 文体を大幅に変更しました。


迷宮の帰り道、夢を掴む少女

 

 

 

「ボクは、もう必要ないね」

 

白い髪が揺れる。

大きな家の大きな一室。

声を絞り出すのは、苗字のない少女『シルフィエット』

 

「ルディ、バイバイ」

 

彼女の小さな小さな声。

この言葉は何を意味し、何を為すのだろう。

 

 

─────────────────────────

 

 

「俺!エリスのこと大好きです〜」

 

「ちょっ///ルーデウス!皆居るんだから離れなさいよ!」

 

迷宮の帰り道。俺は砂漠でベタベタと引っ付いていた。

相手は大好きな女の子、エリス。暑いとか関係ない。

寧ろちょっと汗ばんだ彼女も……うん、最高だ。

 

「だって、エリスは俺が支えないと!その為に、キスを……」

 

「殴るわよ?」

 

「ごめんなさい」

 

抱き付く俺を握り拳を作って見下ろす少女。

俺は暑さとは違う汗。冷や汗を掻いて、そっと彼女から離れた。

 

ふぅ、危なかった。

あのまま引っ付いていたら頬に特大のたんこぶが出来るところだった。

 

まぁ、エリスになら殴られて、たんこぶ出来ても良いんだけどね。

キスマークみたいな物だし。

 

「この迷宮は、本当に色々なことがありましたね」

 

「そうね」

 

ロキシーとの再会に転移の迷宮。

エリスとの切磋琢磨。そしてヒュドラ戦。

 

本当に色々なことがあった。

そして、色々な物を失った。それでも俺は幸せだ。

 

無くなった物じゃない、今ある物に目を向けるんだ。

エリス、パウロ。皆死ななかった。

 

そうだ、誰も死ななかったんだ。

 

俺は、無いはずの左拳に力を込める。

もう、エリスの胸は両手で揉めないな。そんな思考をゆっくりと回す。

 

エリスとの支え合い。お腹が大きくなった彼女とのイチャイチャ。

そんな妄想を続ける俺の頭。

ニチャつきながら妄想して、妄想して、隣の彼女を見つめる。

 

「ルーデウス、どうしたのよ」

 

「ふふっ。いや、なんでもないです」

 

笑って、見つめて、ゆっくりと思考を終える。

 

まずは帰ろう。

そんな短い言葉が俺の思考の終着点だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

帰り道、特に異変は無かった。

一つあったとすれば。そう、ロキシーが俺たちと別れたことだ。

 

転移遺跡に入ろうとした俺たち。

その時、彼女は、こんな言葉を放ったのだ。

 

「必ず王級治癒魔術を習得して戻ってきます」

 

青い髪を揺らしながら真剣な表情で。

小さな背中が大きく見えるほどの覚悟。

 

俺は、それを彼女から感じ取った。

 

「ルディ、また会いましょう」

 

彼女は、この言葉と一冊の本を残して旅立つ。

本の題名は『ライトニング』

彼女は最後の最後まで俺のために、技を、力を残してくれた。

 

「師匠!ありがとうございました!」

 

ブエナ村の時と同じように見送る。

青い髪を、小さな背中を弟子として見送る。

 

でも、次は、もっと違う関係で彼女と接してみたい。

 

神に対して烏滸がましい。そんなことは分かってる。

ロキシーは俺を特別視していない。そんなことは分かりきってる。

 

でも、それでも俺はロキシーが大好きだから。

 

俺は離れ行く小さな背中を、そんな感情で見つめてた。

 

 

─────────────────────────

 

 

─シルフィ視点─

 

家にルディが帰ってきた。

ボクを見て微笑んだルディ。

そんな彼には、左手が無かった。

 

「ただいま」

 

ルディの言葉と共に、みんな帰ってきた。

パウロさんも、ゼニスさんも、リーリャさんも。

 

そして、最後にエリスも。みんな、みんな帰ってきた。家に入るエリス。そんな彼女の目がボクの目と合った。

彼女は悲しそうに俯いて。そっと言葉を置いていく。

 

「ごめんなさい。私、ルーデウスのこと守れなかったわ」

 

謝罪するエリス。

メイドのボクなんかに申し訳なさそうにするエリス。

 

そんな彼女。

涙を堪えて俯く彼女は、左足を無くしていたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

話を聞いた。

迷宮でのこと。

 

難しかった迷宮、強かったマナタイトヒュドラ。

ボクはルディの口から全部、全部聞いた。

辛い話。ボクはそんな話に反応するため、口を開く。

 

「そうだよね。身体が無くなるぐらい、すごく大変だったんだもんね」

 

エリスもルディもボクより何倍も強い。

そんな二人が大怪我をしたんだ。

 

それだけで、どれほど大変だったのかが分かる。

 

大変で辛い話、苦しい話。

そんな話。それでもボクは喜んだ。

大好きなルディと大好きなエリスが帰ってきた。

この事実に少し涙を流して。

 

「ボク、ルディとエリスのこと、すごく心配だったから。生きてて本当に良かった」

 

大怪我をして不謹慎かもしれない。

お前に何も分からないと罵られるのかもしれない。

 

それでも、ボクの目からは喜びの雫が溢れてた。

 

罵られるかもと不安だったボク。

すごく、すごく弱いボク。

二人は、そんなボクを優しく抱き締めてくれた。

 

「シルフィも、無事で良かった」

 

こんな優しい言葉がボクの耳を揺らしてた。

 

それからの出来事。ノルンちゃんがパウロさんに抱き付いて。アイシャちゃんがリーリャさんに抱き付く。

 

そして、ゼニスさんを皆で囲む。

 

大変だったはずの旅。苦しかったはずの旅。

ボクにも、ある程度推測することは出来る。

でも、全ては分からない。分かることは、たった一つ。

 

ルディが笑っていること。

兄さん、お兄ちゃん。父さん、お父さん。

 

グレイラット家の皆が微笑みながら話しているということ。

未来のことは分からない。でも、間違いなく。ボクの目に映っている光景は『幸せ』だった。

 

だから、覚悟しないといけない。

一つ、大きなことを、ボクは覚悟しなきゃいけない。

 

「ボクは、もう必要ないね」

 

メイドとして、ルディの『何か』になることを目指したボク。

彼との思い出が終わりを告げる。

 

「ルディ、バイバイ」

 

ボクの言葉が幸せに溶ける。

誰にも聞こえない言葉。一人を除いて、誰にも聞かれなかった言葉。

 

「……」

 

ボクの言葉を黙って聞く存在『エリス・グレイラット』

彼女が、ボクの心を溶かす。

そんな時間。唐突で幸せな瞬間が、始まりを迎えようとしてた。

 

 

─────────────────────────

 

 

家にメイドは三人も要らない。

ボクよりも優秀なリーリャさん。彼女が居ればボクは要らない。

 

分かりきっていたこと。だから、ルディに「居なくなって」と言われる前に、ボクは、この言葉を呟いた。

 

「ルディ、バイバイ」

 

ルディに聞こえるように話さなきゃいけないのに。ボクの声は彼に届かないほど小さかった。

 

ボクは本当にダメだ。言い直さないと。

そんな覚悟。切り裂くのは赤い髪の剣士。

 

「シルフィ、ここに残りなさい」

 

「……」

 

エリスの声。すごく通る声。

そんな声が放たれたら、もちろん気付かれてしまう。

 

瞬間、皆の視線がボクに向いた。

どうしよう、気付かれちゃった。どうしよう。

 

「シルフィ姉!どっか行っちゃうの?」

 

「シルフィさん、行かないでください」

 

最初に反応したのは、アイシャちゃんとノルンちゃん。

ボクは思わずあたふたしてしまう。

何か、何か言わないと。

 

「で、でも、三人もメイドは要らないだろうし」

 

ボクが必死に絞り出した言葉。

でも、そんな言葉は一瞬で否定されてしまう。

 

「いやいや!俺、シルフィのご飯じゃないと満足出来ないから!メイド三人居ても全然大丈夫だから!」

 

「あう、ルディ」

 

ルディからの言葉。ボクは黙ってしまった。

大丈夫と言いながら近付いてくるルディ。

笑うアイシャちゃんに、心配そうに見つめるノルンちゃん。

 

そして、後ろでニヤニヤしてるパウロさん。

 

うぅ、リーリャさんもクスクス笑ってるし。

 

困ったように項垂れるボク。

そんなボクの背中に立つ女の子。

片足で、凛々しく立つ女の子が言葉を放った。

 

「ふぅーん、じゃあメイドじゃなくていいんじゃないかしら?」

 

「え?メイドじゃない、客人ってこと!?それはダメだよ」

 

項垂れるボクを腕を組みながら見下ろすエリス。

彼女からの提案。ボクは断った。

客人は、なんか図々しい感じがするし。偉そうな感じがするからダメだと思う。

 

ボクの考え。でも、そんな考えは的外れだった。

 

「客人なんかじゃないわよ。そういうことじゃなくて、ルーデウスと結婚すればいいじゃない」

 

「へ?」

 

その瞬間、訪れる少しの沈黙。

まるで当然と言いたげなエリス。彼女は、きょとんとした表情でボクを見つめている。

 

続く沈黙。破ったのはボクの大きな声だった。

 

「え、エリス!?な、何言ってるの!?ルディと結婚なんて。ほら!ノルンちゃん!ミリス教徒として何か言って!」

 

「シルフィさん。いや、シルフィ姉さんなら、私も反対しませんけど」

 

「ちょっと!ノルンちゃん!」

 

ノルンちゃんへの助け舟が音を立てて崩れていく。

どうしよう、顔が熱い。なんとかしないと。

 

焦るボク。更に追い詰めるのはもう一人の剣士。

 

「ははっ!ルディ、お前も二刀流になる時が来たか!」

 

「ちょっと、父さん。背中押さないでください」

 

ドン!という音と共にルディが一歩前に出る。

ルディが見つめる先はボクの背中に居るエリスじゃない。

妹でもお父さんでもない。

 

ボク。他人のはずのボクを、じっと見つめていた。

 

「シルフィ。俺、エリスと話したんだ」

 

「な、何を?」

 

ボクは、思わずそわそわしてしまって。

クネクネと動いてしまう。

そんなボクを、ルディも赤い顔で見つめてくれる。

 

「シルフィがどれだけすごいか。そんな話をさ、エリスとしてたんだ。料理、治癒魔術、優しさ。色んなこと話した」

 

「ボクなんて、そんなに」

 

口籠もる声。

ルディやエリスみたいに強くないという言葉。

そんな言葉は、彼に、ルディに遮られてしまう。

 

「シルフィは強いよ。少なくとも俺よりはさ。本当は花とか用意したかったんだけど。シルフィが居なくなるって言うから、離れたくないから。ここで言わせて欲しい」

 

「うん」

 

ボクの頬が赤くなって、瞳が潤む。

ルディは片膝を付いて、ボクを下から見つめた。

 

「シルフィ。俺、シルフィが好きだ。偉そうに言えることじゃないのは分かってる。二人目の妻、エリスにもシルフィにも失礼なのは分かってるつもりだ。それでも」

 

彼の言葉の続き。

それは、ボクの幸せの始まりだった。

 

「二人目だけど、二番目にするつもりはないから。シルフィ、俺と……」

 

ボクも、ルディの幸せに参加する。

そんな贅沢がボクの前に舞い降りる。

 

「結婚してください」

 

言葉と同時。ゆっくりとルディの右手がボクの前に差し出される。

それをボクはただ見つめる。

この時、ボクの頭には色々なことが過ぎった。

 

エリスは本当は嫌なんじゃないかとか。

皆、気を遣ってるだけなんじゃないかとか。

 

そんな感情がボクの頭に大きく渦巻く。

大きくなる不安、大きくなる恐怖。

でも、それでもボクは…

 

…ルディの右手を力強く握った。

 

「はい、ボクもルディと結婚したい」

 

絞り出した言葉、小さな言葉。

そんな言葉は彼に、ルディに届いた。

 

涙が溢れて止まらない。

大粒の涙をルディが指先で拭ってくれる。

夢に見た愛しの人との歩み。

ボクの隠しきれない想い。

 

ボクは、その日、皆に拍手を受けながら。

 

『シルフィエット・グレイラット』に名前が変わった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─ルーデウス視点─

 

昔。俺は、こう言った。

 

『幸せは増え続ける物なんかじゃない』

 

今でも思う、これは間違いじゃない。

でも、これは一人の場合だ。

一人で築く幸せは永遠ではないということだ。

 

沢山の人。家族や愛する人。

そんな大切な人と築く幸せなら、きっと増やし続けることが出来るんだと思う。

 

「ルディ。お前、もしかしたら三刀流になるかもな」

 

「父さん、冗談辞めてくださいよ〜俺が父さんを超えるなんて有り得ませんよ」

 

「いや、冗談じゃなくて結構ガチなんだが……」

 

お酒を飲んで、パウロに弄られて。

 

「シルフィはすごいんだから!絶対にルーデウスを守れるわよ!」

 

「いや、エリスの方がすごいよ」

 

エリスとシルフィの会話を聞いて。

今日も眠りにつく。

 

きっと、ヒトガミは分かってたんだろうな。

幸せの概念。俺以上に何をすれば俺が幸せになるのかを知っているのだろう。

 

シルフィの結婚を教えてくれたアイツ。

俺に幸せを教えてくれたアイツ。

 

俺は眠る前にこの言葉を。感謝を、恩人へ伝えることにする。

 

ヒトガミ、ありがとな。

 

エリスとシルフィ。二人と共に築く幸せは、きっと…

 

 

…誰も壊せないほど大きくて、強固な物になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




迷宮編、閲覧ありがとうございました!

https://youtu.be/on2VsvDNiDU?si=ix-6zNnDEHI-7FPb

今後の展開について、読みたい物は?(本編は絶対に書きます)

  • ギレーヌと鳳雅龍剣(一話分)
  • ロキシーと治癒魔術(一話〜二話分)
  • ルーデウスの物語(日常)
  • 全部書いてもいい
  • 本編だけでいい
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