もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

20 / 72
時系列としては、迷宮編が終わってから一か月後の出来事になります。

5月30日 文体を大幅に変更しました。


ロキシーと治癒魔術

 

 

この世界には大量の転移魔法陣がある。

それはそれは数え切れぬほどの数。

 

そのうちの一つ。砂漠にある転移遺跡の前で青い髪の少女が座っていた。

奇跡を信じて座っていた。

 

そう、奇跡。出会えることなんて不可能に近い所業。

当然、普通ならば出会えない。

転移魔法陣を使っているとはいえ『最強』龍神 オルステッドには出会えない。

 

しかし、彼女は普通ではない。

世界にとって彼女は普通ではない。

 

「私が、ルディを助けます」

 

呟きと同時、何かが動き始める。

動き始めたのは歯車。その名前は『運命』

 

強い運命と未来。奇跡と呼べる未来が、二人を引き合わせる。

 

 

─────────────────────────

 

 

─オルステッド視点─

 

 

「……着いたか」

 

俺の移動手段である魔法陣。

今来たのはベガリット大陸の砂漠。

 

ここに来た明確な『理由』は特にない。

しかし、来る『必要』はあった。

このループは何かがおかしい。

 

転移事件を始めとした異変の数々。

このループでその原因を知るため、各国を回る必要があると俺は思っている。

 

「ラプラスの復活までには突き止める必要があるな」

 

俺はクローゼットを開き、服を着替えた。

冬服から夏服へ。

 

当然のように着替えていたが、ここで異変が起きた。

 

「クローゼットの扉に埃が被っていない。誰かが開けたか?」

 

服の袖に腕を通し考える。

また初めてのことだ。

 

開けた痕跡が残るクローゼット、それも最近。

入れないはずの遺跡に痕跡がある。小さな異変だが、これも調べる必要があるな。

そして、改めて思い知る。この言葉。

 

このループは何かがおかしい。そんな言葉。

 

俺は思考を回しながら、遺跡の階段を登る。

一つ、二つ。俺だけの足音が辺りに響き渡る。

 

そんな音に耳を揺らしながら、俺は遺跡の外に出た。

その瞬間、聞こえてくるのは声。

俺が一人だからこそ目立つ、たった一つの声。

 

その正体は、例えるなら鳥のような、雛のような震えた声だった。

 

「あ、あぁ、さ、さいきょう……」

 

そこに居たのは青い髪の女。

砂漠の暑さと俺の呪いの影響で、多量の汗を掻く一人の女が居た。

 

「ロキシー・ミグルディアか」

 

奴は俺の眼前で、髪の色よりも青い顔で目をグルグルと回す。

口を震わせて、へたりと座り込む。

奴がここに居た理由は正直分からん。

しかし、あの怯え様。会話は出来ないだろう。

 

ヒトガミの使徒と確定していない以上、殺すわけにもいかん。偶然と思うしかないだろうな。

 

そして、一番大切なのはそこじゃない。

本当に大切なのは魔法陣を見られたこと。

しかし、それもどうでもいい。

 

どうせ、あの怯え様。俺が離れたころには今見ている物など忘れている。

 

どうせ、すぐに気絶する。

 

砂漠の上で座り込むロキシー・ミグルディア。

俺は無言で、その脇を通ろうとする。

 

歩く俺。瞬間、俺は目を見開いた。

驚いた理由は単純。

俺の眼前で『異変』が起きたのだ。

 

「お、王級治癒魔術を、私に教えてくだひゃい」

 

「……」

 

奴の言葉に、俺は動きを止めた。

俺は、奴の言葉に驚いていた。

 

奴の、ロキシー・ミグルディアの行動は、それほど異質だったのだ。

強い気持ちがあれば確かに俺の呪いは克服出来る。

ルイジェルド・スペルディアやエリス・ボレアス・グレイラットが俺に剣を向けたように。

 

しかし、それは一部だ。

ロキシー・ミグルディアは違う。

 

奴が俺の呪いを克服することはありえない。

数あるループでも、そんなことはあり得なかった。

大きくなる疑問。俺は、それを解決するため、小さく口を開く。

 

「俺に対する最初の言葉がそれか。まぁ、いい。教えろ。何故貴様は治癒魔術を知りたい」

 

俺は言葉を放ち、考える。

呪いを克服した理由、俺は確信していた。

その理由とは、強い『気持ち』が奴に芽生えたということ。

それでしか説明はつけられん。

 

ロキシー・ミグルディアが強い気持ちを持っている。それも大きな異変だ。

しかし、それだけじゃない。

治癒魔術を会得しようとする理由。俺は、それを解決する必要がある。

俺の言葉。そんな言葉の返しとして、奴はゆっくりと口を開く。

家族が怪我でもしたか?いや、ロキシー・ミグルディアは家族との仲は悪い。それはない。

となれば、何か。王級治癒魔術を会得する理由は何か。

 

俺の疑問。続くのは奴の言葉。

その言葉は、俺の意表を完全に突いてくる。

 

「る、るでぃを、たしゅけたい。私が、たしゅける」

 

「ルディ。それは誰だ?」

 

俺は思わず聞き返した。

座り込む青い髪に向かって。

 

初めて聞く『ルディ』という言葉。

その正体、俺は知る必要がある。直感的に、そう感じた。

 

しかし、会話は続かない。

奴の言葉は終わることになる。

 

「ルディ、私がたしゅける。たしゅける……」

 

理由は単純。

ロキシー・ミグルディアは、この言葉を残して気絶したから。

 

俺との会話。

謎は深まったまま、俺と奴との会話は終わりを告げることになった。

 

 

─────────────────────────

 

 

気絶したロキシー・ミグルディア。

俺は倒れる青い髪を抱えて、砂漠を歩いていた。

 

オアシスは人が居る。そのため、砂漠に強い木が生えている小さな木陰に青い髪を座らせた。

 

気絶中も苦悶の表情をするロキシー・ミグルディア。

 

やはり、会話は厳しいか。

強い意志があっても会話は厳しい。俺は呪いを再確認する。

 

大切なのは会話ではなく推測。

『ルディ』とは誰なのか。そこから考える必要がある。

 

「ルディ、誰かの略称と考えるのが自然か」

 

ルディ、誰かの略称。

回す推測。俺はゆっくりと仮説を立てる。

 

この世界に居る、ルディという略称。

誰だ、誰だ?

 

今までの人物を思い出す。

ゆっくりと思い出す。

 

瞬間、俺の思考には一人の人物が浮かんだ。

本当に咄嗟に出てきた人物、略称としては合っている人物。

 

しかし、あり得ない人物。

 

「ルイジェルド・スペルディア。略称でルディ、か」

 

俺の一つの仮説。

しかし、この仮説には大きな問題がある。

 

それは、ロキシー・ミグルディアとルイジェルド・スペルディアの仲だ。

 

スペルド族を嫌うロキシー・ミグルディア。

奴がスペルド族であるルイジェルド・スペルディアを助けるのかという問題。

 

しかし、今回のループではこの理論は破綻する。

 

このループは異変だらけ。

それこそ、人の仲など容易に変化する。

 

エリス・ボレアス・グレイラットが、ルイジェルド・スペルディアと行動していたように。

このループは俺の物差しでは測れない。

 

それこそ、俺が知っているのは一つだけだ。

 

俺が確実に知っているのは人物の『名前』

それだけだ。

 

ならば、名前から推測出来るルイジェルド・スペルディアが一番確率が高いだろう。

ロキシー・ミグルディアがスペルド族を助ける。

普通であればありえない。

しかし、推測としては十分。認めるしかあるまい。

 

スペルド族を助けるロキシー・ミグルディア。

また、異変か。

 

王級治癒魔術が必要ならば、ルイジェルド・スペルディアは欠損レベルの怪我をしている可能性がある。

それは俺にも都合が悪い。

奴を助ける。この事実は俺にも有益だ。

 

このループで、俺はルイジェルド・スペルディアを攻撃した。

そのせいで、奴は俺を警戒している可能性がある。

俺の治癒魔術を受けない可能性がある。

 

奴に警戒されるのは俺にも都合が悪い。

 

ならば、ここで恩を売るのも一つか。

 

「ルディ、私が助けますから」

 

俺の視界の端に映る、苦しそうに気絶している青い髪の言葉。

俺は、それを見つめていた。

 

同情はしない。ただ、利用するだけだ。

 

俺は手刀に力を込め、地に文字を書いていく。

その内容は王級治癒魔術の詠唱文字と教え方。

 

俺の知っているコツを書き込んでいく。

 

「ロキシー・ミグルディアが使える治癒魔術は中級までか。それを王級。少し苦戦する可能性はある」

 

いつまで掛かるか、それは分からない。

しかし、奴の強い気持ち。俺の呪いを砕くほどの気持ちがあれば、恐らく習得出来るだろう。

 

さらに、治癒魔術は混合魔術ではない。

基本的に他の属性の聖級以上の魔術は、何かと何かの属性を混合させる必要があるが、治癒魔術にはそれがない。

 

詠唱とコツさえ掴めば必ず習得出来る。

 

このループを有意義な物へ、次に繋がるようにする。

俺は、その目標のために計画を立て、その場を後にする。

 

そして一つ、言葉を残していく。

 

「ロキシー・ミグルディア。貴様が王級治癒魔術を会得するまで付き合ってやる」

 

遠く離れて青い髪を見つめる。

奴が習得するまで、待つ。

 

目覚めるロキシー。

最強に教わる魔術師。

 

勘違いから始まる物語。

 

彼女が王級治癒魔術を習得する。

そんな奇跡は、今から一年後の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今後の展開について、読みたい物は?(本編は絶対に書きます)

  • ギレーヌと鳳雅龍剣(一話分)
  • ロキシーと治癒魔術(一話〜二話分)
  • ルーデウスの物語(日常)
  • 全部書いてもいい
  • 本編だけでいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。