もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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7月12日 文体を大幅に変更しました。


老人の日記 その1

 

 

 

俺の目の前には一冊の日記があった。

老人が残した日記、老人の軌跡があった。

 

幸せが壊れると言った老人。

俺の幸せ、俺の全てが壊れると言った老人。

 

最悪の未来、俺は回避する。

そのために俺は読まなければならない。

この日記を、この地獄を。

 

必要なのは覚悟だ。

あとは覚悟を決めるだけだ。

 

………

 

……

 

…よし、覚悟完了だ。読める。

 

ボロボロの日記、その一ページ目。

 

とてつもなく重い一ページ目。

俺は意を決して、目を見開き、老人の軌跡を辿り始めた。

 

 

─────────────────────────

 

 

▫️

今日から日記を付けることにする。

戒めの日記。そう、俺と龍神への戒めの日記だ。

奴への恨み、自分への情けなさ。それを忘れないために。

一秒も無駄に出来ない。俺は、やったことを書き記していこうと思う。

 

▫️

龍神に全員殺される。

その解決策はロキシーのお腹の子供を殺すこと。

そんな選択、文字にするだけで気持ち悪い。

俺は、どうしたらいいのだろうか。

分からない。龍神を殺すと即答出来ない自分が情けなくて嫌いだ。

 

▫️

俺は修行することにした。

まだ龍神が攻めてくるまで時間はある。

だから、ギリギリまでエリスとパウロと剣術修行をする。

魔術はロキシーに教わりながら独学で鍛錬を積むことにする。

 

▫️

ロキシーから最近笑っている所を見ていないと言われた。

「そんなことないですよ?」って言った。

でも、その顔が笑っていないと言われた。

「すみません」って言った。謝ることじゃないと言われた。

 

▫️

寝る以外は修行をしている。

一秒毎に計画を立てて、死ぬ気で努力をした。

でも、だからこそ悟った。

勝てない。最強には勝てない。

闘気が纏えない俺と水神流に弱いエリス。

俺たちでは最強に勝てない。

そう、気付かされた。

 

▫️

エリスが産んでくれた子供、アルスがアイシャの腕に抱かれ、そのまま彼女のおっぱいを揉んでいた。

久々に我が子を見た気がする。

そういえば構ってあげられていなかったな。

申し訳ない。

アイシャに変わってもらって我が子を抱っこしてみた。

その瞬間、泣かれてしまった。

その姿を見て皆が笑った。久々に家族に笑いが起きた。

 

子供は偉大だな。本当に、そう思った。

 

▫️

ヒトガミの言う『選択の時』が近づいてきた。

龍神と戦って全てを失うか。

ロキシーの子供を殺すか。

もう逃げられない。三日以内には答えを出そうと思う。

 

▫️

シルフィに怒鳴ってしまった。

彼女がロキシーの子供の名前、皆で決める?と聞いてきた。

そんな彼女に決意が揺らぐようなことを言うな!と怒鳴ってしまった。

その瞬間、俺の言葉にシルフィが悲しい顔をした。

大好きなシルフィが辛そうな顔をした。

 

彼女はロキシーの妊娠に気付いただけだったのに。

周りを良く見てくれていただけだったのに。

 

俺は、その場で謝ることが出来なかった。

文字にならいくらでも出来るのに。

ごめんなさい。俺は、こんな短い文字を言葉にすることが出来なかった。

 

▫️

ロキシーと二人きりで買い物に出掛けた。俺は、身重なロキシーをおんぶした。

すると、ロキシーにルディは優しいですねと言われた。

俺は優しくないのに。小さく笑いながらそう言われた。

二人きりで出掛けた理由は『あれ』を言うため。

俺は何度も言おうとした。

何度も言おうと思って、口を動かした。

三時間……いや、四時間は掛かっただろうか。

遂に俺の喉から声が出た。

 

「ロキシーのお腹の子供を殺したい」

 

そう言った。ロキシーは一日時間をくださいと言った。

少し驚きながら悲しい顔をして、それだけを言葉にしていた。

 

理由は聞かれなかった。

ルディが優しいという言葉を取り消されることも無かった。

俺は間違えたのかもしれない……何故か、今さらだけどそう思った。

 

▫️

ロキシーのお腹の子供を殺した。土魔術で四角いレンガのような物を作り、彼女のお腹に何度も何度も叩きつけた。

彼女は、ロキシーは、何度も何度も「あ゛っ」という苦しそうな声をあげていた。

じんわりと瞳を濡らし、下唇に噛み付いていた。

すごく、すごく辛そうだった。

 

……今でも、彼女の断末魔が頭から離れない。

でも仕方ない。最強には勝てない。俺は心の中で言い訳をした。

 

その後、血まみれで虚ろな目をするロキシーに治癒魔術を掛けた。

リーリャは、その光景に目を見開いて引いていた。

シルフィは、涙を流していた。

エリスも……俺を、じっと見つめていた。

 

パウロはここには居なかった。というより、居ない時を狙った。

アイツにはこの気持ちは分からない。どうせ俺の気持ちなんて分からない。

アイツが居ない時を狙って、俺はロキシーのお腹の子供を殺した。

 

これ以降、龍神が俺たちを殺しにくることはなかった。

ヒトガミの言う通りだった。

ヒトガミは俺に幸せを教えてくれた。

 

ヒトガミは優しい……

俺の味方はヒトガミだけ。

 

それが証明された瞬間だった。

 

▫️

パウロと喧嘩をした。

お前は三人目の妻だからって出来た子供を殺すのか!?と怒鳴られた。

俺は、お前に俺の気持ちなんて分からない……そうやって言葉を返した。

修行したのは我が子を殺すためか?家族を殺すためか?そう言われた。

ムカついた。お前なんて父親じゃないって言ってやった。

 

その瞬間、うるさいパウロが黙った。

殴り合いの喧嘩になると思ったのに、ならなかった。

 

俺は強くなりすぎた。

誰も俺に文句を言う奴は居なかった。

 

▫️

パウロが家を出て行ったらしい。

知るかって言ったら、ノルンにビンタされた。

威力は無いのに、すごく痛かった。

ノルンも家を出て行った。

パウロについていくのだろうか?

知らない、知りたくもなかった。

 

▫️

リーリャから一枚の手紙を貰った。

パウロの字だ。内容を要約しようと思う。

 

『俺はお前の親父に相応しくない。迷宮でも、アトーフェとの戦いでも守ってやれなかった。

こんな親父で、ごめんな。

だから、もう一度転移事件の捜索団に戻ろうと思う。

お前の親父に相応しくなるために。俺は、ルディの父親だと自信を持って言えるようにするために。

親父として、堂々とお前と喧嘩出来るように……

必ず帰ってくる。それまで達者でな、ルディ』

 

この手紙を読んだ俺は、リーリャの前で泣いてしまった。

パウロの手紙に涙を落としてしまった。

そんな俺の姿にリーリャが優しく笑っていた。

久々にリーリャが笑っている所を見た気がする。

 

この手紙は日記に挟んでおくことにする。

パウロはすごい。

再会したら謝ろう。仲直りしよう。

 

きっと、仲直り出来るはずだ。

幼少期の時みたいに、きっと。

 

絶対に仲直り出来る……俺の心は、そう信じて疑わなかった。

 

▫️

ロキシーに謝った。

土下座をすると、顔を上げてくださいと言われた。

殴られると思った。魔術で殺されると思った。

でも、違った。

彼女は、こう言った。

 

「私は、ルディの隣に居られるだけで幸せです。ルディが幸せなら、私も幸せです」

 

恥ずかしそうに、そう言われた。

涙が止まらなかった。

俺は、まだやり直せる。

彼女のおかげでやり直せる。本気で、そう思えた。

 

▫️

ロキシーに、シルフィが最近辛そうです。慰めてあげてくださいと言われた。

流石は師匠だと思った。周りが良く見えてて優しいと思った。

ロキシーが生きていて本当に良かった。

やっぱり彼女は俺の師匠だ。

 

そんな最高の師匠。

彼女の教え通り、明日はシルフィとの仲直りに全力を注ごうと思う。

 

▫️

シルフィは自室に籠っていた。

ただでさえ痩せているのに。俺が見つけた時彼女はさらに痩せ細っていた。やつれていた。すごく疲弊していて辛そうだった。

 

だから、ご飯屋さんに一緒に行くことにした。

二人きりで長く話した。

酷いこと言ってごめん……俺は、そう言った。

シルフィは怒らなかった。

寧ろ、ボクもごめんと謝られた。

 

仲直りすることが出来た。

彼女は、こんな俺を許してくれた。

 

あとは朝までえっちなことをするだけ。

そう思っていたのに……出来なかった。

俺の息子は勃たなかった。

 

大切な人を妊娠させるのが怖い。

俺は、EDになった。

 

▫️

ロキシーが泣いた。

自分のせいでルディが不幸になったと。

自分が妊娠したから、ルディが精神的に辛くなったと。

何度も何度も泣いていた。

 

彼女のごめんなさいという言葉が、謝りが、本当に辛かった。

俺は、その姿を見て、何を言えば良いのか……どうすれば良いのか分からなかった。

 

ロキシーの心が壊れていく音がした。

ED、ED……パウロなら、EDを治せたのかな。

 

▫️

俺の家に十数人の暗殺者が来た。

名前は無い。対して強くもなかった。

 

倒すことは出来た。でも殺すことは出来なかった。

人を殺す。俺には、それが出来なかった。

 

悩んでいるとエリナリーゼが横から声を掛けてくれた。

「ルーデウス?私に任せれば良いですわ。私が口を割らせておきますわよ」

彼女は、クリフの子供を妊娠していた。

お腹もだいぶ大きくなっていた。

 

血なんて見たくないだろうに、言ってくれた。

俺は任せることにした。任せてしまった。

 

何が『強い』だ……俺は、とことんクソなのに。

俺は、とんでもないクズなのに。

 

俺は、弱い俺は……拷問をエリナリーゼに任せてしまったんだ。

 

▫️

最悪だ。最悪だった。

暗殺者の正体はミリス教団からの刺客だった。

 

エリナリーゼが言うには暗殺者の狙いはロキシーだったらしい。

ロキシーが王級治癒魔術を会得したせいで、ミリスが治癒魔術を独占出来なくなる。そうなれば、治癒魔術でお金を稼げない。そんな理由でミリスはロキシーを狙ったらしい。

 

そもそも、何故ロキシーが王級治癒魔術を会得していることを知っているんだ?分からない。でも、そんなことは今さらどうでもいい。

 

大事な人を、ロキシーを殺させない。

 

この日記の文字と共に俺は決意を固めることにする。

俺はもう失敗しない。そんな決意を心に誓った。

 

▫️

何度も、何度も暗殺者は来た。

しかし、日に日に数は減っている。

 

勝てる。龍神を、強さを目指した道は無駄なんかじゃなかった。

まだ人は殺していない。

だけど、ロキシーを守るためなら殺してやる。

俺は、それぐらいの覚悟、心の準備を作っていた。

 

▫️

暗殺者が来なくなった。

俺たちの勝ち。俺はロキシーを守った。夫として、父親として自信が持てた。

自信、自信……もしかしたら、今ならEDが治せるかもしれない。妻たちの期待に応えられるかもしれない。

うん、きっとそうだ。大丈夫だ。

 

久しぶりに明日に希望が持てた。日記を書くのが楽しい。

すごく幸せだ。

安心感がやって来た。そのせいだろうか?今日はすごく疲れを感じる。そんな疲れを取るため、今日は早めに寝ることにする。もう暗殺者は来ない。大丈夫だ。

 

大丈夫、大丈夫。よし、ロキシーの安否は明日確認しよう。

 

▫️

朝起きるとロキシーが居なかった。

探した、探した。俺は家中を探し回った。

 

しかし、居ない。何処にも居ない。

そんなロキシーをアイシャが見つけた。

アイシャは膝から崩れ落ちて、目を見開いていた。

 

庭には一本のロープがあった。

丸く輪っかが作られていた。

ロキシーの身体が宙に浮いていて……風に吹かれて、ブラブラと左右に揺れていた。

 

ロープの輪っかにあったのはロキシーの首。

彼女は、ロキシーは……俺の師匠は、死んでいた。

 

首を括って、死んでいた。

 

小さな青い髪に乗っていただけの、大きな帽子が……ダメだ。もう書けない、書きたくない。

 

ロキシーのぐちゃぐちゃに濡れた頬を思い出してしまう。

直前まで泣いていたのだろう、目尻がしっとりと濡れていたのを思い出したくない。

 

可愛いロキシー、大好きなロキシー……そんな彼女の最後を受け止めたくない。

 

でも、受け止めたくなくても、受け止めようとしなくても痛いほど分かってしまう。

 

終わったということ。

終わってしまったということ。

 

そんなことは、彼女の握っている手紙を見れば一目瞭然だった。

 

『ルディ、全部私のせいです……すみません』

 

そんな手紙をロキシーは握っていた。

彼女の手は、すごく冷たくて。今にも水魔術のお手本を見せてくれそうに感じた。

そんなことはあり得ないのに。

 

彼女はミリスの暗殺者に狙われていることを知っていたんだ。

だから、だから、自分のせいだと思って…

 

…自殺したんだ。

 

 

 

パタンっ

 

俺は日記を閉じた。

いや、閉じたんじゃない。気付いたら俺の身体は日記を閉じていた。

 

辛い、あまりにも辛い。

吐き気がする。気持ち悪い。ダメだ、吐く。

 

「おえぇぇぇぇ……」

 

べちゃべちゃと音を立てながら、俺は嗚咽した。

地下から出て、庭まで走って、そこで吐いた。

 

(なんで、なんでこんなに辛いんだよ……)

 

まだ信じられない。

老人の軌跡、俺がこんな道を辿ることになるなんて。

信じられるわけがない。そうやって頭では否定していた。

 

でも、身体は認めていた。

だから気持ち悪くなったんだ。

信じたくないけど、そういうことでしか説明することが出来ない。

 

俺は水魔術で口を濯ぐ。

本当の軌跡なら、やはり読まなければならない。

決意を固めたんだ。老人の軌跡、俺は知る必要がある。

 

少し軽くなった身体。俺は、もう一度日記……地獄のある地下へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日記編について

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