もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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泥沼&狂犬VS龍神 その3

 

 

─オルステッド視点─

 

「少し侮っていたか」

 

俺は欠損している右腕に少量の力を込めながら呟いた。

最初の攻撃によって失われた右腕。不意打ちによって失われた右腕。

 

そう、不意打ち。故に片腕で倒し切ることなど容易だと考えていた。

 

「だが、蓋を開けてみれば不意打ちだけではない……確かな強さがある相手だ」

 

この言葉を証明する、エリス・ボレアス・グレイラットによって切り裂かれた己の背中。

炎を剣に纏って確実に火力を出してくる剣士。

 

そして、もう一人。

闘神鎧のような物を身に纏った、明らかに俺への殺意に満ちている相手。

 

「ルーデウス・グレイラット。まさか、ここまで強くなっているとはな」

 

未だビリビリと痺れる、奴のストーンキャノンを受けた己の手刀。

俺を殺すための技、俺の龍聖闘気を貫通するほどの技。

頭や胸、急所に当たったら死ぬ可能性もあるだろう。

 

そんな相手。

俺の敵は不死魔族でも龍族でもない。

ただの人間。たった二人の人族に俺は傷付けられていた。

 

「魔力消費、覚悟するしかないか」

 

言葉と同時。傷付いたオルステッドが覚悟を決める。

決意を固める最強。

 

 

刹那、一瞬にして、戦場の空気が変わった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─ルーデウス視点─

 

「何故、エリス・ボレアス・グレイラット。貴様が生きている」

 

戦場に龍神の声が広がっていく。

最強の声、困惑している声が広がっていく。

 

困惑する声。そう、明らかに龍神は困惑していた。

目を見開いて、背中のエリスを見つめて、俺たちの連携に戸惑いを見せていた。

 

そんな光景。瞬間、俺の中で何かが芽生え始める。

 

「そうか、そうだ。俺は、俺とエリスは最強に勝てるんだ」

 

『龍神を殺す』エリスと立てた俺の目標。

何度も何度も諦めかけた目標。

 

俺の中で芽生え始めるのは、そんな目標が近付いてくる音。

 

俺は勝てる。

勝って、みんなを守れる。

 

そんな安堵が俺を包み込む。

 

大丈夫だ、行ける。

俺たちなら殺れる。

 

俺は、この言葉を自分の心の中で何度も呟いた。

何度も、何度も。

 

偽りの安堵の中で呟き続けていた。

 

呟き続ける俺。

瞬間、凍りつく戦場で何かが光る。

 

「魔力消費、覚悟するしかないか」

 

オルステッドの呟き。

刹那、奴の右腕が光る。

光の色は緑。戦場に似つかわしくない優しい光が奴の右腕を包み込む。

 

(あれは、治癒魔術……それも王級!)

 

「させない!」

 

俺は声を張り上げた。

思い出すのは老人とヒトガミからの言葉。

奴が本気になれば、王級治癒魔術。部位を欠損させる程度の魔術は容易に使ってくる。

 

当然のように無詠唱で治してくるオルステッド。

しかし、俺に動揺は無い。

俺は、奴を、最強を、過大評価も過小評価もしていない。

 

大丈夫だ、殺れる。

 

無詠唱でも王級は魔術を完遂するまでに時間が掛かる。

この事実、エリスも理解していたのだろう。

彼女も、オルステッドが治癒魔術を使った瞬間、迷いなく奴に踏み込んでいた。

 

彼女も魔法大学で魔術を学んでいたんだ。

王級の知識ならきちんとある。

 

俺とエリスの道は無駄なんかじゃない。

俺は確信していた。

 

「治癒魔術!阻止します!」

 

俺は言葉を挙げ、エリスに合わせる準備をする。

右腕のガトリングを奴に向け、殺す準備をする。

 

最強殺し。俺は、やれると思っていた。

 

「まずは前衛からだな……」

 

「は?」

 

俺は素っ頓狂な声を挙げた。

目を見開いて驚く姿は、醜くカッコ悪い。

 

そんな俺の目に映るのは信じられない光景。

エリスの片足が泥に埋まっている光景。

 

俺の得意な泥沼。だけど俺の魔術じゃない。

俺よりも完成度の高い魔術。奴の、最強による魔術。

 

泥沼。それはオルステッドの魔術だった。

 

「なんで、使えるんだよ……」

 

奴は右腕を治しながら使っていたんだ。

王級治癒魔術と泥沼の同時使用。

 

欠損した右腕を治しながら、左手でエリスの足元に泥沼。

瞬間、目を見開きながら驚き、足を取られるエリス。

 

奴は、そんなエリスに左手を翳す。

 

「終わりだ」

 

オルステッドが左腕を燃やす。

淡々と話すオルステッド。

しかし、奴の姿とは対照的。奴の左腕の炎はどんどんと激しさを増していく。

 

激しさを増す炎。炸裂すればエリスが死ぬ。

俺は必死に唱えた。

 

「ディスタブマジック!!!」

 

瞬間、オルステッドの炎魔術が弾けた。

 

良かった、間に合った。

通用した。エリスを救えた。

 

俺は大きく汗を掻きながら安堵していた。

大きな汗。そこに映るのは何も喋らないオルステッドの姿。

 

その瞬間、エリスが泥沼から脱出する。

龍神の魔術の不発。俺は、それを視認し、戦況を分析していた。

 

戦況……『最強』でも、集中していなければディスタブマジックは防げないこと。

『最強』にも弱点はあるということ。

 

そして、もう一つ大きな戦況が俺の視界を揺らす。

 

「右腕が、治ってる……」

 

「ルーデウス・グレイラット。やはり厄介だな」

 

オルステッドの言葉と同時。目に入るのは最悪の戦況。

奴の恐ろしい右腕が治っているという戦況。

 

そう、奴の王級治癒魔術は、役割を完遂していた。

 

片腕から両腕へ。

奴の、最強の全てがワンランク上がる。

 

 

─────────────────────────

 

 

片腕から両腕、奴の闘気。圧が俺たちに重く、重く圧し掛かる。

睨んでくる龍神。本気になる最強。

 

ダメだ、怖い。勝てない。

 

そんな俺の弱気。叩き直してくれるのは前衛の相棒。

 

「ルーデウス!!!大丈夫よ。まだルーデウスなら殺れるわ!」

 

「エリス……」

 

俺は愛する人の名前を呟きながら考える。

そうだ、そうだ。俺は、まだ戦える。

何処も怪我なんかしちゃいない、呪いだって受けちゃいない。

 

絶望は、まだ早い。

立て直せ、考えろ。

 

俺が、みんなを守るんだ。

 

覚悟を決める俺。

その空気。刹那、奴が感じ取る。

 

「……だろうな。貴様らが、この程度で諦めるとは思っていない」

 

ドン!

 

言葉と同時。

オルステッドがエリスに向かって踏み込んでくる。

先ほどと同じ人物の踏み込み。しかし、その動きはまるで違う。

 

片腕の時とは違う。常軌を逸した踏み込み。

 

光の速さの如く踏み込み。それとほぼ同時、奴は右の手刀をエリスに向けてくる。

そんな光景。後衛の俺は、その姿をボヤける予見眼でなんとか見つめていた。

 

「やばいっ……エリス!!!」

 

「…っ!」

 

瞬間、俺は迷いなく彼女を風魔術で飛ばした。

なんとか回避した危機。しかし、状況は変わらない。

問題は何も解決していない。

 

「風魔術か。だが、時間稼ぎに過ぎんな」

 

オルステッドの言葉。

真実、その通りの言葉。

 

エリスでも反応出来ない攻撃。

それが証明する。もう、受けられないという事実。

 

どうする、どうする。

 

考える俺。瞬間、聞こえてくるのは爆音。

 

ドン!

 

「ルーデウス!攻めるわよ!!!」

 

爆音の正体はエリスの踏み込み。

彼女は、俺の思考を遮るように奴に踏み込んでいた。

 

歯を食いしばって飛び込むエリス。

殺気を丸出しにする彼女を見つめて俺は覚悟する。

 

『先手必勝』

 

俺もエリスと同様。歯を食いしばって奴を見つめる。

魔導鎧の隙間から最強を見つめる。

 

額に滲む汗。

俺は、それを感じながら反省していた。

 

俺は、いつのまにか守りに入っていたんだ。

ビビって守りの思考になっていたんだ。

 

受け身。それはダメだ。

 

攻めろ、攻め続けろ。

 

守りに入ったら負ける。それは百も承知。

エリスと攻める。俺がすべきは、それ一択。

 

「オルステッド!死ねぇぇぇぇぇ!」

 

叫びと同時。

落雷のように素速い動きをするオルステッドに俺は右腕を向ける。

 

戦況は分かってる。

この行動はヤケクソじゃない。

俺が奴の攻撃を受けられないように、オルステッドも、最強も俺のストーンキャノンを受け切れない。

 

そうだ。奴の手刀では俺のガトリング砲は受け切れない。

攻め続ければ勝てる。

 

殺す、ぶっ殺してやる。

 

「神級クラスの威力。仕方ないか」

 

オルステッドの言葉。

ズガガガガガ!というガトリング砲の合間に聞こえた言葉。

 

数十、数百という弾幕の嵐。

奴の行動は異質。

 

「……避けない?」

 

何か嫌な予感がした。

手刀では受け切れない。それは間違っていないはず。

 

しかし、奴は避けない。

 

最強は、何かを腰から引き抜く。

 

キン!キン!キン!!!

 

刹那、オルステッドから音が鳴る。

鳴ったのは、人体が壊れる音でも欠損する音でもない。

 

鳴ったのは甲高い金属音。

俺のストーンキャノンを捌き切る音。

 

「……確かに威力は高い。しかし直線的だ」

 

「くそっ…」

 

俺は奴の姿に顔を顰めた。

奴の姿。弾幕から姿を現したのは『無傷』のオルステッド。

そんな奴が握っていたのは刀。

最強は何の小細工もしない。

最強 オルステッドは、一本の刀だけで俺のストーンキャノンを凌ぎ切ったんだ。

 

左手で刀を握るオルステッド。

刹那、奴の右手が光る。

 

「何か、来る!」

 

エリスの、私を無視するんじゃないわよ!という言葉と共に見えてくるのは奴の魔術。

刀でエリスの攻撃をあしらいながら奴が放ってくるのは氷の刃。

とてつもなく鋭い氷のナイフ。

 

バン!

 

瞬間、俺に向かって飛んでくる魔術。

氷の刃。とてつもない魔術。

しかし、俺は、やられない。

 

魔術。俺は対策している。

 

キン!

 

聞こえてくるのは甲高い……黒板を引っ掻くような嫌な音。

俺は奴の魔術に左手を翳していた。

左手にある吸魔石。ヒュドラから取った吸魔石は最強とはいえ貫けない。

 

「吸魔石か」

 

奴の言葉。俺は顔を曇らせる。

くっそ、バレた。なんで知ってんだよ。

 

こんな思考。

しかし俺は諦めない。

攻めの姿勢は絶対に崩さない。

 

大丈夫だ、距離だけ注意すれば大丈夫だ。

奴の刀はエリスには向けさせない。

ストーンキャノンで攻めて攻めて、奴の刀を止める。

 

魔術も吸魔石で止められる。

 

殺す、殺す。

 

さぁ、もう一回!

ストーンキャノンを奴に向かって撃ち抜く!

 

「撃ち抜けぇぇぇぇぁぁぁああ!」

 

自分を鼓舞するように俺は大声を挙げた。

刹那、エリスも合わせる。

雨のような弾幕に迷いなく飛び込むエリス。

 

エリスの信頼に応えるという俺の決意。

 

攻め手に欠けるオルステッド。

お前がミスして、俺のストーンキャノンに貫かれる。

その時がお前の終わり。

 

そんな未来が俺の予見眼には映ってる。

 

勝利を見据える俺の思考。聞こえてきたのは最強の声。

 

「遠距離技は魔術だけではない」

 

無限と呼べる弾幕。

その中でも冷静なオルステッド。

 

そう、冷静。奴は何処までも冷静だった。

 

ドガン!!!

 

「ぐふっ…」

 

ドガン!!!という何かが破裂する音。それと共に聞こえるのは、ぐふっ……という情けない言葉。

そんな言葉。声の主は俺。

 

気付いた時俺は吐血していた。

左手にある盾を貫通して、何かが俺の左肩を貫いていた。

 

俺の左肩に刺さっていたのは刀。

 

一本の刀が俺の肩に突き刺さっていた。

 

「北神流……」

 

俺の呟き。一瞬遅れて戦況を理解した呟き。

そうか、そうだ。奴は全ての流派が神級なんだ。

 

そうなれば剣を投げることなんて容易。

俺の魔導鎧を貫くことなど造作もない。

 

北神流。奴は、俺に向かって…

 

…刀を投げていたんだ。

 

「ルーデウス・グレイラット。やっと捉えたな」

 

ガン!ガン!ガン!という爆音。

顔を顰めるエリスと、無表情のオルステッドの撃ち合い。

大きな音が鳴る撃ち合い。しかし、そんな爆音も俺の耳には入ってこなかった。

 

痛い。左肩が燃えるように痛い。

身体も怠い。

瞬間、俺の脳裏に過ぎるダメージと魔力枯渇。

左肩を貫かれたことによる、分散した集中力と恐怖。

 

俺の身体が震える。

 

そんな姿。俺の醜い姿を、たった一人、最強が見つめていた。

 

「私がルーデウスを守る!!!」

 

「……ここだな」

 

刀を失ったオルステッド。

刹那、それを見たエリスが踏み込む。

 

全力で、殺気を込めて、ルーデウスを守ると叫んでオルステッドの懐に飛び込む。

 

瞬間、奴が構えた。

 

その構えは『水神流』

奴の最強の武術。手刀から放たれたのは雷のような一閃。

 

「ぶはっ…」

 

赤い髪が靡く。

左肩から右腰へ。雷のような一閃が彼女の身体に傷を付ける。

吐血するエリス。べちゃべちゃと地面に落ちるのは大量の血液。

 

「エリス…?」

 

俺の呟きと同時、変わるのは最悪の戦況。

水神流に沈んだエリス、苦しそうに吐血するエリス。

 

集中力が途切れた俺。そんな俺は奴の水神流を防げなかった。

一瞬のミスが命取り。最強には隙を見せただけで終わり。

俺の状況を一瞬で見極め、この戦況を作ったオルステッド。奴が小さく言葉を落とす。

 

「やはり、水神流であれば一発だったか」

 

この言葉と同時、「ゔっ…」という言葉と共に膝から崩れ落ちるエリス。

 

最悪な戦況。そんな戦況が意味するのは俺たちの終わり。

死んだ連携。消えた俺の前衛。

 

気付いてしまった。

これが、奴の、最強の本気なんだ。

 

絶望して俯く俺。刹那、何かが聞こえてくる。

 

「ルー、デウス、逃げて」

 

地面にうつ伏せになって、小さく、か弱く声を挙げるエリス。

瀕死なエリス。そんな彼女は最後まで俺を心配してくれている。

 

彼女の短い言葉。

そう、短い。しかし、そんな言葉は、いつも俺に勇気をくれるんだ。

 

「俺が守る」

 

エリス、俺の大切な人。

そんな人が、まだ生きている。

これは事実だ。紛れもない事実だ。

 

俺は、彼女が、彼女たちが生きているならまだ戦える。

 

絶望はしない。最後まで、足掻いて、もがいて戦ってやる。

 

「オルステッド、殺してやる」

 

「ヒトガミの使徒。ルーデウス・グレイラット……死ぬのは貴様だ」

 

壊れかけの魔導鎧、枯渇寸前の魔力。

最終決戦。俺は歯を食いしばって。

 

練れない闘気に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終決戦 泥沼&狂犬VS龍神 勝者予想

  • ヒトガミの敵にして最大の使徒 泥沼&狂犬
  • 世界最強 七大列強二位 龍神
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