─オルステッド視点─
「少し侮っていたか」
俺は欠損している右腕に少量の力を込めながら呟いた。
最初の攻撃によって失われた右腕。不意打ちによって失われた右腕。
そう、不意打ち。故に片腕で倒し切ることなど容易だと考えていた。
「だが、蓋を開けてみれば不意打ちだけではない……確かな強さがある相手だ」
この言葉を証明する、エリス・ボレアス・グレイラットによって切り裂かれた己の背中。
炎を剣に纏って確実に火力を出してくる剣士。
そして、もう一人。
闘神鎧のような物を身に纏った、明らかに俺への殺意に満ちている相手。
「ルーデウス・グレイラット。まさか、ここまで強くなっているとはな」
未だビリビリと痺れる、奴のストーンキャノンを受けた己の手刀。
俺を殺すための技、俺の龍聖闘気を貫通するほどの技。
頭や胸、急所に当たったら死ぬ可能性もあるだろう。
そんな相手。
俺の敵は不死魔族でも龍族でもない。
ただの人間。たった二人の人族に俺は傷付けられていた。
「魔力消費、覚悟するしかないか」
言葉と同時。傷付いたオルステッドが覚悟を決める。
決意を固める最強。
刹那、一瞬にして、戦場の空気が変わった。
─────────────────────────
─ルーデウス視点─
「何故、エリス・ボレアス・グレイラット。貴様が生きている」
戦場に龍神の声が広がっていく。
最強の声、困惑している声が広がっていく。
困惑する声。そう、明らかに龍神は困惑していた。
目を見開いて、背中のエリスを見つめて、俺たちの連携に戸惑いを見せていた。
そんな光景。瞬間、俺の中で何かが芽生え始める。
「そうか、そうだ。俺は、俺とエリスは最強に勝てるんだ」
『龍神を殺す』エリスと立てた俺の目標。
何度も何度も諦めかけた目標。
俺の中で芽生え始めるのは、そんな目標が近付いてくる音。
俺は勝てる。
勝って、みんなを守れる。
そんな安堵が俺を包み込む。
大丈夫だ、行ける。
俺たちなら殺れる。
俺は、この言葉を自分の心の中で何度も呟いた。
何度も、何度も。
偽りの安堵の中で呟き続けていた。
呟き続ける俺。
瞬間、凍りつく戦場で何かが光る。
「魔力消費、覚悟するしかないか」
オルステッドの呟き。
刹那、奴の右腕が光る。
光の色は緑。戦場に似つかわしくない優しい光が奴の右腕を包み込む。
(あれは、治癒魔術……それも王級!)
「させない!」
俺は声を張り上げた。
思い出すのは老人とヒトガミからの言葉。
奴が本気になれば、王級治癒魔術。部位を欠損させる程度の魔術は容易に使ってくる。
当然のように無詠唱で治してくるオルステッド。
しかし、俺に動揺は無い。
俺は、奴を、最強を、過大評価も過小評価もしていない。
大丈夫だ、殺れる。
無詠唱でも王級は魔術を完遂するまでに時間が掛かる。
この事実、エリスも理解していたのだろう。
彼女も、オルステッドが治癒魔術を使った瞬間、迷いなく奴に踏み込んでいた。
彼女も魔法大学で魔術を学んでいたんだ。
王級の知識ならきちんとある。
俺とエリスの道は無駄なんかじゃない。
俺は確信していた。
「治癒魔術!阻止します!」
俺は言葉を挙げ、エリスに合わせる準備をする。
右腕のガトリングを奴に向け、殺す準備をする。
最強殺し。俺は、やれると思っていた。
「まずは前衛からだな……」
「は?」
俺は素っ頓狂な声を挙げた。
目を見開いて驚く姿は、醜くカッコ悪い。
そんな俺の目に映るのは信じられない光景。
エリスの片足が泥に埋まっている光景。
俺の得意な泥沼。だけど俺の魔術じゃない。
俺よりも完成度の高い魔術。奴の、最強による魔術。
泥沼。それはオルステッドの魔術だった。
「なんで、使えるんだよ……」
奴は右腕を治しながら使っていたんだ。
王級治癒魔術と泥沼の同時使用。
欠損した右腕を治しながら、左手でエリスの足元に泥沼。
瞬間、目を見開きながら驚き、足を取られるエリス。
奴は、そんなエリスに左手を翳す。
「終わりだ」
オルステッドが左腕を燃やす。
淡々と話すオルステッド。
しかし、奴の姿とは対照的。奴の左腕の炎はどんどんと激しさを増していく。
激しさを増す炎。炸裂すればエリスが死ぬ。
俺は必死に唱えた。
「ディスタブマジック!!!」
瞬間、オルステッドの炎魔術が弾けた。
良かった、間に合った。
通用した。エリスを救えた。
俺は大きく汗を掻きながら安堵していた。
大きな汗。そこに映るのは何も喋らないオルステッドの姿。
その瞬間、エリスが泥沼から脱出する。
龍神の魔術の不発。俺は、それを視認し、戦況を分析していた。
戦況……『最強』でも、集中していなければディスタブマジックは防げないこと。
『最強』にも弱点はあるということ。
そして、もう一つ大きな戦況が俺の視界を揺らす。
「右腕が、治ってる……」
「ルーデウス・グレイラット。やはり厄介だな」
オルステッドの言葉と同時。目に入るのは最悪の戦況。
奴の恐ろしい右腕が治っているという戦況。
そう、奴の王級治癒魔術は、役割を完遂していた。
片腕から両腕へ。
奴の、最強の全てがワンランク上がる。
─────────────────────────
片腕から両腕、奴の闘気。圧が俺たちに重く、重く圧し掛かる。
睨んでくる龍神。本気になる最強。
ダメだ、怖い。勝てない。
そんな俺の弱気。叩き直してくれるのは前衛の相棒。
「ルーデウス!!!大丈夫よ。まだルーデウスなら殺れるわ!」
「エリス……」
俺は愛する人の名前を呟きながら考える。
そうだ、そうだ。俺は、まだ戦える。
何処も怪我なんかしちゃいない、呪いだって受けちゃいない。
絶望は、まだ早い。
立て直せ、考えろ。
俺が、みんなを守るんだ。
覚悟を決める俺。
その空気。刹那、奴が感じ取る。
「……だろうな。貴様らが、この程度で諦めるとは思っていない」
ドン!
言葉と同時。
オルステッドがエリスに向かって踏み込んでくる。
先ほどと同じ人物の踏み込み。しかし、その動きはまるで違う。
片腕の時とは違う。常軌を逸した踏み込み。
光の速さの如く踏み込み。それとほぼ同時、奴は右の手刀をエリスに向けてくる。
そんな光景。後衛の俺は、その姿をボヤける予見眼でなんとか見つめていた。
「やばいっ……エリス!!!」
「…っ!」
瞬間、俺は迷いなく彼女を風魔術で飛ばした。
なんとか回避した危機。しかし、状況は変わらない。
問題は何も解決していない。
「風魔術か。だが、時間稼ぎに過ぎんな」
オルステッドの言葉。
真実、その通りの言葉。
エリスでも反応出来ない攻撃。
それが証明する。もう、受けられないという事実。
どうする、どうする。
考える俺。瞬間、聞こえてくるのは爆音。
ドン!
「ルーデウス!攻めるわよ!!!」
爆音の正体はエリスの踏み込み。
彼女は、俺の思考を遮るように奴に踏み込んでいた。
歯を食いしばって飛び込むエリス。
殺気を丸出しにする彼女を見つめて俺は覚悟する。
『先手必勝』
俺もエリスと同様。歯を食いしばって奴を見つめる。
魔導鎧の隙間から最強を見つめる。
額に滲む汗。
俺は、それを感じながら反省していた。
俺は、いつのまにか守りに入っていたんだ。
ビビって守りの思考になっていたんだ。
受け身。それはダメだ。
攻めろ、攻め続けろ。
守りに入ったら負ける。それは百も承知。
エリスと攻める。俺がすべきは、それ一択。
「オルステッド!死ねぇぇぇぇぇ!」
叫びと同時。
落雷のように素速い動きをするオルステッドに俺は右腕を向ける。
戦況は分かってる。
この行動はヤケクソじゃない。
俺が奴の攻撃を受けられないように、オルステッドも、最強も俺のストーンキャノンを受け切れない。
そうだ。奴の手刀では俺のガトリング砲は受け切れない。
攻め続ければ勝てる。
殺す、ぶっ殺してやる。
「神級クラスの威力。仕方ないか」
オルステッドの言葉。
ズガガガガガ!というガトリング砲の合間に聞こえた言葉。
数十、数百という弾幕の嵐。
奴の行動は異質。
「……避けない?」
何か嫌な予感がした。
手刀では受け切れない。それは間違っていないはず。
しかし、奴は避けない。
最強は、何かを腰から引き抜く。
キン!キン!キン!!!
刹那、オルステッドから音が鳴る。
鳴ったのは、人体が壊れる音でも欠損する音でもない。
鳴ったのは甲高い金属音。
俺のストーンキャノンを捌き切る音。
「……確かに威力は高い。しかし直線的だ」
「くそっ…」
俺は奴の姿に顔を顰めた。
奴の姿。弾幕から姿を現したのは『無傷』のオルステッド。
そんな奴が握っていたのは刀。
最強は何の小細工もしない。
最強 オルステッドは、一本の刀だけで俺のストーンキャノンを凌ぎ切ったんだ。
左手で刀を握るオルステッド。
刹那、奴の右手が光る。
「何か、来る!」
エリスの、私を無視するんじゃないわよ!という言葉と共に見えてくるのは奴の魔術。
刀でエリスの攻撃をあしらいながら奴が放ってくるのは氷の刃。
とてつもなく鋭い氷のナイフ。
バン!
瞬間、俺に向かって飛んでくる魔術。
氷の刃。とてつもない魔術。
しかし、俺は、やられない。
魔術。俺は対策している。
キン!
聞こえてくるのは甲高い……黒板を引っ掻くような嫌な音。
俺は奴の魔術に左手を翳していた。
左手にある吸魔石。ヒュドラから取った吸魔石は最強とはいえ貫けない。
「吸魔石か」
奴の言葉。俺は顔を曇らせる。
くっそ、バレた。なんで知ってんだよ。
こんな思考。
しかし俺は諦めない。
攻めの姿勢は絶対に崩さない。
大丈夫だ、距離だけ注意すれば大丈夫だ。
奴の刀はエリスには向けさせない。
ストーンキャノンで攻めて攻めて、奴の刀を止める。
魔術も吸魔石で止められる。
殺す、殺す。
さぁ、もう一回!
ストーンキャノンを奴に向かって撃ち抜く!
「撃ち抜けぇぇぇぇぁぁぁああ!」
自分を鼓舞するように俺は大声を挙げた。
刹那、エリスも合わせる。
雨のような弾幕に迷いなく飛び込むエリス。
エリスの信頼に応えるという俺の決意。
攻め手に欠けるオルステッド。
お前がミスして、俺のストーンキャノンに貫かれる。
その時がお前の終わり。
そんな未来が俺の予見眼には映ってる。
勝利を見据える俺の思考。聞こえてきたのは最強の声。
「遠距離技は魔術だけではない」
無限と呼べる弾幕。
その中でも冷静なオルステッド。
そう、冷静。奴は何処までも冷静だった。
ドガン!!!
「ぐふっ…」
ドガン!!!という何かが破裂する音。それと共に聞こえるのは、ぐふっ……という情けない言葉。
そんな言葉。声の主は俺。
気付いた時俺は吐血していた。
左手にある盾を貫通して、何かが俺の左肩を貫いていた。
俺の左肩に刺さっていたのは刀。
一本の刀が俺の肩に突き刺さっていた。
「北神流……」
俺の呟き。一瞬遅れて戦況を理解した呟き。
そうか、そうだ。奴は全ての流派が神級なんだ。
そうなれば剣を投げることなんて容易。
俺の魔導鎧を貫くことなど造作もない。
北神流。奴は、俺に向かって…
…刀を投げていたんだ。
「ルーデウス・グレイラット。やっと捉えたな」
ガン!ガン!ガン!という爆音。
顔を顰めるエリスと、無表情のオルステッドの撃ち合い。
大きな音が鳴る撃ち合い。しかし、そんな爆音も俺の耳には入ってこなかった。
痛い。左肩が燃えるように痛い。
身体も怠い。
瞬間、俺の脳裏に過ぎるダメージと魔力枯渇。
左肩を貫かれたことによる、分散した集中力と恐怖。
俺の身体が震える。
そんな姿。俺の醜い姿を、たった一人、最強が見つめていた。
「私がルーデウスを守る!!!」
「……ここだな」
刀を失ったオルステッド。
刹那、それを見たエリスが踏み込む。
全力で、殺気を込めて、ルーデウスを守ると叫んでオルステッドの懐に飛び込む。
瞬間、奴が構えた。
その構えは『水神流』
奴の最強の武術。手刀から放たれたのは雷のような一閃。
「ぶはっ…」
赤い髪が靡く。
左肩から右腰へ。雷のような一閃が彼女の身体に傷を付ける。
吐血するエリス。べちゃべちゃと地面に落ちるのは大量の血液。
「エリス…?」
俺の呟きと同時、変わるのは最悪の戦況。
水神流に沈んだエリス、苦しそうに吐血するエリス。
集中力が途切れた俺。そんな俺は奴の水神流を防げなかった。
一瞬のミスが命取り。最強には隙を見せただけで終わり。
俺の状況を一瞬で見極め、この戦況を作ったオルステッド。奴が小さく言葉を落とす。
「やはり、水神流であれば一発だったか」
この言葉と同時、「ゔっ…」という言葉と共に膝から崩れ落ちるエリス。
最悪な戦況。そんな戦況が意味するのは俺たちの終わり。
死んだ連携。消えた俺の前衛。
気付いてしまった。
これが、奴の、最強の本気なんだ。
絶望して俯く俺。刹那、何かが聞こえてくる。
「ルー、デウス、逃げて」
地面にうつ伏せになって、小さく、か弱く声を挙げるエリス。
瀕死なエリス。そんな彼女は最後まで俺を心配してくれている。
彼女の短い言葉。
そう、短い。しかし、そんな言葉は、いつも俺に勇気をくれるんだ。
「俺が守る」
エリス、俺の大切な人。
そんな人が、まだ生きている。
これは事実だ。紛れもない事実だ。
俺は、彼女が、彼女たちが生きているならまだ戦える。
絶望はしない。最後まで、足掻いて、もがいて戦ってやる。
「オルステッド、殺してやる」
「ヒトガミの使徒。ルーデウス・グレイラット……死ぬのは貴様だ」
壊れかけの魔導鎧、枯渇寸前の魔力。
最終決戦。俺は歯を食いしばって。
練れない闘気に力を込めた。
最終決戦 泥沼&狂犬VS龍神 勝者予想
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ヒトガミの敵にして最大の使徒 泥沼&狂犬
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世界最強 七大列強二位 龍神