僕は、ガッツポーズをした。
「ふはっ!ふへへ、ふははっ!!!」
白い空間で、一人で、僕は踊り狂った。
「へははっ!ひはっ!!!」
僕の目には、一人の男の姿が映る。
……いいや、違う。僕の目に映ったのは、選択を間違えたクズの中のカス。
「ロキシー、ロキシー、ごめん、ごめん……」
アイツの名前は『ルーデウス・グレイラット』
僕の助言で、僕の実力で、アイツは自分の子供を、世界の英雄『ララ・グレイラット』を、自分の手で殺した。殺してくれた。
アイツが握るのは、血まみれの四角いレンガ。
アイツは、クズは、己の妻の腹にレンガを叩き込んでくれたんだ。
「ふふふ。さぁて、どんなふうにネタバラシしてやろうかなぁ」
ニコニコと笑う。
僕は血まみれの景色の中で、自分でも信じられないほど頬を持ち上げる。
さぁて、見てみよう。
僕の未来視は、無敵の能力は、どんな運命を描いてくれるのかな?
「……は?」
僕は、天高く上げていた拳を下ろした。
「なんで、そうなってんだよ」
僕は、歯をギリギリと合わせる。
僕の目の前には、光ることのない僕の瞳の中には、ありえない運命が宿ってた。
『ヒトガミが封印される未来』
その未来だけが、僕の中で永遠と輝き続けてた。
─────────────────────────
僕は認めない。認めるわけにはいかなかった。
僕が封印されるのは、決してルーデウスなんていう人族のクズのせいじゃない。もっと違う理由。他に理由があるんだって、そう心の中で唱え続けた。
僕は、それを証明するために動き出した。
ロキシーには、お前のせいでルーデウスが危険になっているんだよ?そう言ってやった。
そう言ったら、アイツは見事に死んでくれたよ。ロープに首をくくって、ルディ、ルディ、ごめんなさい、ごめんなさい。そう泣いて、唇を噛み締めて、焦点の合わない瞳で、妊娠してごめんなさいって、そう言いながら自殺しやがった。
シルフィエット。彼女は、僕の操作した水神が殺してくれた。ルーデウスを守れた。そう言いかけた唇、アイツは微笑んで死んでくれたよ。臓器が散らばった赤黒い死体。僕は、それを見るのが最高に楽しかった。
エリス。彼女は、妊娠しながら死にやがった。EDになったルーデウスを救って、幸せって言いながら、ルーデウスが好きとほざきながら、アイツは死んでいった。犯されて、腹を蹴られて、それでもルーデウスの子供は殺させない。お願いだから殺さないで。お願い、お願い。そう呟いて、虚ろな目をする顔で言いながら、苦しみに顔を歪めて死んでくれた。
妻を三人殺した。僕の助言で、僕の実力で殺した。それ以外も、アイツの大切な人は全部、全部、僕が殺した。殺してみせた。
あとは、ネタバラシするだけ。今度こそ、そう思った。でも、一人になったアイツが織り成す未来は、僕の考えているものとは真逆だった。
僕が封印される未来。
もう、認めるしかなかった。
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クソ、クソが。僕は、白い空間で足踏みを続けた。別に怒っているからじゃないよ?ルーデウス・グレイラット。あんなクズがどんな存在だろうと僕には関係ない。それが真実。神である僕に抗える人族など居ない。それが現実だろ?
でも、まぁ、少しは認めることにした。
あのクズの周りに居た無駄に多いゴミは掃除した。
だから、あとは、クズの本体。アイツを殺すだけだ。
そんな思考の渦に身を任せて、僕はアイツに言葉をかける。
白い空間で話す僕たちに、この言葉だけが響き渡る。
『僕と友達になるかい?』
この言葉に、アイツは、涙を流してこう言いやがった。
「ありがとう。ヒトガミ」
僕の手を取って、泣きながら言いやがった。
ふふっ、ふふふっ、今からネタバラシが楽しみだ。
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僕は、ギースを呼んで作戦を開始した。ルーデウス・グレイラット。あのクズを殺す作戦。なーに、僕が本気になれば簡単さ。あのクズを殺すことなんて簡単すぎる。僕が今まで誘導したおかげで、アイツはミリスを敵に回してるんだ。ミリス騎士団は全部アイツの敵だ。アスラからも指名手配を受けてるんだ。国二つ。これだけで、十分殺せる。僕はそう思って、ギースに命令を下した。
「国二つ。それがあれば、十分殺せるだろ?」
この言葉。ギースは笑うと思ってた。殺せる。僕を肯定すると思ってた。でもギースの顔は違う。アイツは、僕の使徒は、猿顔を渋みで染め上げる。
「ヒトガミ。本気で言ってんのか?」
「……本気だよ」
ほら、ここにも、ルーデウス・グレイラットを過大評価する男が一人。
「……殺せるわけ、ないだろ」
最善を尽くしてやる。ギースは、そう言って、無意味なことを始めやがった。
ルーデウス・グレイラット。アイツは、オルステッドを殺そうと剣の聖地で修行を始めやがった。
僕は行かなくて良いって言ったのに、ツンデレだなとか言い出しやがった。気持ち悪い。アイツは、ふふふと笑って、剣の聖地で修行を始めやがった。
……うざい、うざい。なんで、アイツは、あのクズは、僕の思い通りに……いや、良いや。まぁ、アイツはそろそろ死ぬんだ。最後ぐらい、好きに生きさせてやっても良いだろ。
頑張れば頑張るほど、最後の絶望は深くなる。僕は、それを知っているから、笑顔のまま、ルーデウス・グレイラットの修行を眺めてた。
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準備が整った。
ギースは、過剰の戦力を集めやがった。
世界の犯罪者、ルーデウス・グレイラットを殺して英雄になるという北神三世。
それを助けようとする北神二世。
不死魔王アトーフェに、アスラの親衛隊全て。
そして、半分意識を乗っ取らせることに成功した半完全体の闘神鎧バーディ・ガーディ。
怪物達が織り成す武力の暴力。
現代の全てを一点集約させた武力。
僕は、戦いの前夜、ニコニコしながらギースと話した。
「良くやったね!やれば出来るじゃないか!」
落ちることが不可能なほど不自然に上がった僕の頬。
ギースを見る。白い空間に居たアイツは、渋い顔をしていたアイツは、自信を取り戻して笑ってた。
「ヒトガミ。あれに勝てるのは、人じゃねぇよ」
ルーデウス・グレイラットは死ぬぜ。
そんなギースの言葉と現状が、僕の頬を持ち上げた。
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アイツにネタバラシすることにした。
最後の最後。僕を、神である僕を、生意気にも友達だと思ってるアイツに、ネタバラシしてやることにした。
「やぁ、ルーデウス」
僕は、満面の笑みで教えてあげた。
お前はミリスとアスラという二つの国に狙われてる。そこには北神も居て、他にも化け物がいっぱい居る。
剣の聖地を出た瞬間に襲われるから、剣神に頼って前衛をやってもらうことすら出来ない。
もう、死んじゃうね。
ニヤニヤと笑って、小馬鹿にするように言ってやった。
アイツは絶望する。
僕は、間違いなくそうなると思ってた。
当たり前だ。それしかない。人であるアイツは、そうなる運命しか待っていない。
でも、アイツは、ルーデウス・グレイラットは、僕のニヤニヤよりも気持ち悪く笑ってやがった。
「ヒトガミ。大丈夫だよ」
アイツの声は、とんでもなく優しかった。
なんだ、コイツは。なんなんだ。なんなんだよ。
なんで、絶望しないんだよ。
アイツの握り拳が、醜い拳が、僕の胸にトンと置かれる。
「相手が最強じゃないなら、ただの化け物なら、俺が、最強になった俺が、全部殺してやる」
アイツの顔は、希望と慈愛に満ち溢れてた。
……僕は、未来視を見なかった。
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「くそっ!なんなんだ、なんなんだよ!アイツはなんなんだよ!!!」
僕は、白い空間で暴れ回った。
理由は単純。アイツが、ルーデウス・グレイラットが、死体の山で座ってやがったから。
僕は神だ。それは間違いない。アイツは人で、人族で、僕の想像を超えるわけがない。
でも、それでも、アイツは、何十万という人間を、数十人の怪物を、ものの30分程度で皆殺しにしやがった。
……まるで、ラプラス。いや、違う。違う。そんなわけない。アイツは、ラプラスなんかじゃない。違う、違う。アイツはクズだ。僕の脅威になんてなるわけがない。アイツは、アイツごときが、あんなやつが……
僕は、白い空間で唇を噛み締めた。
気持ち悪い、気持ち悪い。なんで、なんで、アイツは僕に立ち向かってくる。大切な奴はみんな殺した。心を折るには十分すぎる理由だ。なのに、なんで、なんで!!!
「そんな顔してどうした?」
僕の目の前には、僕の脅威が居た。
「なぁ、ヒトガミ?ヒトガミ?」
コイツ、なんなんだ。呼んでもないのに、なんでここに居る?
「呼んでくれてありがとな。お前とここに居るのが、すごく楽しいんだ。話さなくても良いけど、いつもみたいにさ、ニヤニヤ笑ってくれよ」
だから、呼んでないって。なんで、勝手に来れるんだよ。
まるで、友達の部屋に行き来するように当たり前に、簡単に、アイツは僕の前に現れる。
意味が分からない。理解が出来ない。アイツは、ルーデウス・グレイラットは、この時、僕の想像を超えやがった。
「なんだ、なんなんだよ。お前は」
アイツは、僕の言葉に、ニコニコと笑って、大きな言葉で返してきた。
「俺の名前はルーデウス・グレイラット!神に助けられた、ただの、お前の友達だよ」
アイツの眼に僕が映る。だけど、その焦点は合っていない。それが印象的で、僕は、この時、こう思ってしまった。
コイツが、この目の前の人族が怖い。
そう、思ってしまった。
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イカれてた、イカれてやがった。
ルーデウス・グレイラットはイカれてやがった。強いから怖いんじゃない。あの得体の知れない、言葉に出来ない執念と信仰が、怖かった。
僕は、白い空間で体育座りしてた。膝に顔を埋めて、ただ何も考えず座ってた。
僕が、この僕が、八方塞がり?
この神である僕が、あんな奴相手に?
くそ、くそが。
あと一人なのに。アイツだけなのに。
僕は、何も出来なかった。
未来を見る。あと、僕が頼れるのは眼だけ。
この眼だけを信じて、僕の運命を見る。
「……アイツ、吐血してる」
僕の未来視に、僕が封印される未来はなかった。
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ルーデウス・グレイラット。アイツは、病気にかかった。
僕が何かをしたわけじゃない。アイツは、勝手に、病気になった。
……ふは、ふはは。僕の口から、乾いた笑いが込み上げてきた。
あんなに強くても、あんなに意味の分からない能力があっても、やっぱりアイツは、僕の知ってるクズだ。
ふふ、ふふふ。アイツが自分に解毒魔術をかけてる。治らない、治るわけがない。アイツが項垂れる。体育座りをして、膝に顔を埋めてる。
「ふふ、ふふふ。勝ったぞ!僕の勝ちだよ!!!」
アイツが絶望してる。僕は、この時、そう思った。
─────────────────────────
アイツは、確かに絶望してた。絶望してる顔をしてた。
確かに、アイツは、間違いなく絶望してた。
でも、アイツは、アイツは、僕の想像を超えていく。
「みんなが、俺を抱きしめてくれる夢を見たんだ」
そう言って、アイツは前を向き始めた。
普通なら、普通なら、そんなことじゃ前なんて向けるわけがない。
だって、そうだろ?解毒魔術で治らないほどの病気、立てるわけがない。動けるわけがない。
だけど、アイツは、僕の知らないところに向かっていく。
「過去転移魔術を作るよ」
なんだ、それは。なんなんだ。
僕も知らない魔術。アイツは、勝手に進んでいく。
「大切なのは欲だから。ヒトガミ、お前に見せたいんだ」
何も考えられない。認めたくない。
そんな思考の中、僕の唇から放たれた言葉はこれだった。
「武力でも、病でも、君は死なないのかよ……」
アイツは、ありがとうと言いながら笑ってた。
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僕の未来視は最高を映してた。確かに、この時、僕の未来視はアイツが死ぬ未来を映してて、僕が封印される未来なんて映していなかった。
だから、大丈夫だ。過去転移は必ず失敗する。
成功するわけがない。僕の未来視は絶対だ。
やってみろ、やれるもんならやってみろ!
自らの能力と、己の価値観による絶対的な自信。僕は、この時、自分を肯定することでいっぱいだった。
肯定を終えた時、アイツが、狂ったように笑うルーデウス・グレイラットが、この世界から消えた。
………
……
…
「ヒトガミっ!」
僕の背後から声が聞こえた。
僕は、この声を知っている。この声の主は、僕が一番憎いと思ってる奴。
振り向いた。僕の視線の先には、希望と慈愛に満ち溢れた顔をしてる、一人の男の顔があった。
「ルーデウス・グレイラット」
「あぁ、俺がルーデウスだよ」
背後を取られたのは、この時が初めてだった。でも、なぜか、僕は驚かなかった。
アイツの姿はボロボロだった。内臓は無くて、下半身はない。
でも、そんな姿でも、なぜか分かった。
コイツは、過去転移を成功させたのだと。
「ルーデウス。僕の目は、未来視は、こんな未来は見てなかった。君が過去転移するなんて未来、微塵も見てなかったよ」
なのに、なんで、なんでだよ。僕がそう言いかけた時、アイツの唇がゆっくりと開いた。
「お前の能力を超えた。じゃあ、俺は、お前と対等になれたのかな?」
この言葉に、僕は、はっとした。そして、ゆっくりと、ゆっくりと唇を噛み締めた。
僕は、この時気付いたんだ。僕がしていたのは未来視なんかじゃない。僕がしていたのは、死んでくれと願う『願望』だったのだと。
「いつからなんだろうね」
僕は、小さな声で呟いた。
「いつから、僕は、君に……」
これ以上は喋らなかった。認めたくなかった。
『負けた』なんて、口が裂けても言いたくなかった。
僕は前を見た。終わりのない白い空間で、消えそうになっている人族だけを見つめた。
「……もう、消えそうだね」
「あぁ、そうだな」
この世から消えそうな人族、ルーデウス・グレイラット。
僕は、一人の男を見つめて、口を開けようとして、辞めた。
「……」
目の前の人族は死にそうだ。それは分かってる。ネタバラシして、喜んで、ピースして、絶望させるなら今しかない。それは分かってる。でも、それでも、僕は黙ることしか出来なかった。
「未来視には、何が映ってるんだ?」
「……君が死ぬ未来が映ってるよ」
「そうか。まぁ、もう死んでるもんな」
僕は嘘は吐かなかった。未来視には、確かにルーデウスが死ぬ未来が見えてた。
でも、僕は未来視を、自分の能力を、信じることが出来なくなってた。
もしかしたら、コイツなら、生き返って僕に復讐するんじゃないか。
コイツなら、もしかしたら、また過去に転移するんじゃないか。
そう思った。僕は、この時、確かに『恐怖』していたんだ。
「なぁ、ヒトガミ?」
「おい、ルーデウス・グレイラット」
白い空間、静かな世界で、アイツと僕が同時に口を開く。
そして、そのまま、同時に言葉を紡いだ。
「俺はさ、お前がさ……」
「僕は、君が……」
最後の最後、消えかける君と、封印される僕が呟いた言葉は、これだった。
「大好き/大嫌いだよ」
僕は聞こえないほど小さな言葉で、ルーデウスは聞こえる言葉でハッキリと呟く。
その違いが悔しくて、僕は俯いた。
前は見なかった。もう、見なくても分かったから。
アイツが消えたということは、分かったから。
「……」
人族という短い一生。僕は、それすら自分の力で終わらせることは出来なかった。
それどころか、アイツの短い一生は僕の記憶にこびりついて離れなくて、アイツの笑い顔は、狂ったような笑顔は、僕の瞳に映って消えなかった。
「なぁ、ヒトガミ?」
「……!?」
僕は身体をビクッとさせ、後ろを振り向いた。
(……誰も、居ない?)
そこにあったのは、虚空だった。いつも通りの、何もない白い世界だった。
「ははっ、ははは」
乾いた笑いだった。僕には、それしかすることができなかった。
「はは、ははは、ははははは、はは……はぁ」
乾いた笑いを終えて、僕はその場に立ったまま止まった。
憎い奴が消えても、僕の心は晴れなかった。それどころか、僕の心には、ポッカリと穴が空いてた。
「……」
これから、僕は定期的に後ろを振り返るようになる。
恐怖と焦りを持って、僕は背後を警戒する。
「今日も、アイツは居ないか」
何十年、何百年、何千年、何万年、僕の心には、空いた心には、一人の男の名前が刻まれる。
『ルーデウス・グレイラット』
僕は、その男を、一人の人族を、生涯忘れることは出来なかったんだ。
一部で、一番好きなのは?(参考にさせていただきます)
-
序章
-
冒険編
-
学園編
-
迷宮編
-
アトーフェ編
-
ロキシーと治癒魔術
-
老人の日記
-
VSオルステッド