特に、幼いアルスの描写には気をつけてください。
「アルス君は今日も可愛いね〜」
「アイシャ姉?」
天才少女と幼い男の子。
アルスに何度も可愛いと呟く女の子。
彼女の名前は『アイシャ・グレイラット』
ぎゅっ…
暖かい温もり。
アイシャは、幼いアルスを抱きしめながら声を挙げる。
「お兄ちゃんとエリス姉の子供だもんね。きっと、すごい子になるんだろうな〜」
抱きしめて、見つめて、また抱きしめて。
その繰り返し。
永遠かに思える繰り返し。
遮るのは、幼い男の子の言葉。
「うん!父上もママも強くて有名で。すごいと思ってる!でも、俺は、そんな二人以上にすごいと思ってる人が居るんだ」
「へぇー。お兄ちゃんやエリス姉よりもすごい人?誰かな〜」
アイシャの疑問。
この言葉に対し、幼い少年が放つ名前は…
「アイシャ姉……かな?」
整った顔立ち。父と良く似た笑顔、はにかむように笑う天性の人たらし。
その顔を見たアイシャが、ほんのりと顔を赤くする。
人に好かれる、ある種最強の才能。
アイシャに見つめられるアルス。
彼は、この時、まだ五歳の少年だった。
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─ルーデウス視点─
「なんで、なんでだよ……」
たった一人の自室。
俺はベッドに腰掛けていた。
手で自身の顔を覆い、項垂れていた。
「師匠、師匠。俺は間違えた。間違えました。ごめんなさい」
顔を覆う手を離して、俺はポケットにある布切れを掴む。
布切れ。その正体は、少し小さな俺の宝物。
すぅー、はぁー。すぅー、はぁー。
宝物を鼻に近付けて、息を吸い込んで吐く。
何度も何度も呼吸を繰り返す。
俺の呼吸を助長する、小さな宝物。それは愛する人の下着。
俺の大切な師匠の匂い。ふんわりと包まれる大好きな人の匂い。
しかし、その下着は使用済みの物ではなかった。
「ロキシーに、俺、嫌われたかな……」
下着を貰えなかった俺。
オルステッドを殺した俺。
恩人を殺された彼女は、何度も何度も、大きな瞳から涙を流していたんだ。
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分からない、何も分からない。
オルステッドは何がしたかったんだろう。
ヒトガミは何がしたかったんだろう。
何も、何も分からない。
そんな俺は一人の人間を頼る。
「ナナホシ。アイツなら、頭の良いアイツなら、きっと」
日記を抱えて、歩みを進める。
涙を流すロキシー、混乱する俺。
全てを解決するために。俺は、空中城塞へと足を運んだ。
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ナナホシは一冊の日記を読んだ。
恐ろしいほどスラスラと。
「やっと、私の意見を聞いてくれる気になったのね」という言葉だけを残して読み進める。
内容自体は重いが多くはない。
彼女は、あっという間に読み終わった。
パタンっ
本が閉じる音。
ボロボロの日記から視線を外し、彼女の瞳に俺が映る。
「なるほどね。あなたは、この日記を読んでどう思ったの?」
「……」
彼女から放たれた第一声。
それは質問だった。
あまりにも唐突な質問。
言葉が出せない。でも、ここで黙ったらダメだ。
俺は声を絞り出した。
「オルステッドが悪い……そう思った」
この言葉を聞いて俯くナナホシ。
その顔は、少し悲しそうで。なんで、そう思ってしまったの?と言いたげな疑問の顔でもあった。
「ヒトガミ……オルステッドの言う通り、どんな人でも狂わせてしまうのね」
俺は再度黙った。
狂う。俺が?なんで?
気持ち悪くなりながらも一生懸命読んだのに。
一生懸命頑張ったのに。なんで、そう思うんだ?
大きくなる疑問。
解決してくれるのは彼女の言葉。
「この日記は、あなたの主観で進んでる。だから、あなたの感情は読み取るべきじゃない」
「感情を読み取るべきじゃない。そうしたら、どうするべきなんだ?」
「簡単な話よ、事実を並べるの」
「事実?」
俺の言葉に彼女はコクンと頷き、脇にあった紙とペンを取る。
そして、スラスラと書き進めていく。
その文字に、事実に、俺は絶句した。
「……こんなの、オルステッドがすると思う?」
彼女の並べた事実は、これだった。
①ロキシーがミリス国に狙われる
②アスラ王国でシルフィが死ぬ
③パウロとノルンがミリスに捕まる
④砂漠に居るエリスがアスラ国に見つかる
⑤修行を終えた俺が、ミリス国とアスラ国、七大列強に狙われる
ここから導かれる答えは、ただ一つ。
「未来のあなたの居た位置がバレてるってこと」
位置がバレる。
それは大した問題じゃない。
もっと大きな問題は、これだ。
「位置が分かってて、オルステッドが直接殺しに来ない。わざわざ呪いまで克服して、違うやつにあなたを殺させる」
あまりにもおかしいわね。
この言葉を放った彼女は、薄く笑った。
その笑いは少し悲しそうで、涙が滲んでいるように見えた。
「じゃ、じゃあ誰が犯人なんだよ」
俺の言葉は震えていた。
俺も、心の底では分かっていたんだ。
人を使って殺させる。
それが出来る。いや、そうしなきゃいけない奴は一人しかいない。
「ヒトガミ。全ての元凶はソイツと考えるべきでしょうね」
「……」
彼女の言葉と同時。
間違いが確信に変わる。
オルステッドに執念を燃やして、何も見えなかった俺。
そんな俺の視界が大きく広がる。
最悪な形で広がる。
まだ疑問はあった。
ヒトガミは、なんで魔眼を俺に与えてくれたんだろう?とか。
シルフィと結婚しろと言ってくれたのはなんでだろう?とか。
でも、それでも俺の気持ちは一つだった。
「ヒトガミ、アイツは…」
一人で歯をギシギシと削って。
苦しそうに居ない奴を睨んで。
俺は、一つ言葉を置いていく。
「俺の、敵だったんだ」
自分への情けなさとヒトガミへの憤怒。
俺は、掌に爪が食い込むほど力強く拳を握った。
「殺す、殺してやる」
握り拳を伝う血液と怒り。
ナナホシに教わったのは…神への殺意だった。
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ナナホシの言葉を聞いた俺は部屋に戻った。
シルフィとすれ違って、彼女から「ルディ、すごく怖い顔してるよ?」そう言われて、手を繋がれたのを覚えてる。
「大丈夫、大丈夫だから…」俺は、これだけを言って、彼女の手を振り解き一人で自室に戻った。
アイツに会わなければならない。
俺は、それだけを思って眠りについた。
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気付いた時、俺は白い空間に居た。
見覚えのある場所、醜い自身の姿。
違うのは、たった一つ。
俺の感情。
ヒトガミぃぃぃぃぃ!
「わぁ、怖ーい。大きな声を出さないでくれよ」
黙れ!!!俺を騙してたくせに……クソが!
「もう、酷いなぁ。今日来たのは、そんな誤解を解くためなのに」
誤解?そんなわけねぇだろ。
もう分かってんだよ。
日記のオルステッドが取るわけない行動。
俺との戦いで明らかに手を抜いていたこと。
ロキシーに治癒魔術を教えた恩人。
こんなにあるのに、もう騙されねぇよ。
「もーう、怖いなぁ。せっかくオルステッドとの戦いお疲れ様って言いに来たのに。まずは、そこから話さなきゃいけないのかよ〜」
話す?お前に俺の言葉が反論出来るのか?
「もーちろん。じゃなきゃ、君の夢に出てきてないよ」
……じゃあ、言ってみろよ。
「あら、また元気なくなっちゃった。分かったよ、言ってあげる。
……
「簡単な話だよ。治癒魔術を教えたのはオルステッド。それは間違いないだろうね。でも、治癒魔術を習得した結果、ロキシーはどうなったかな?」
ミリスに、狙われた。
「ピンポーン!大正解!!!君に敵を使ったのは、君が強すぎたからさ、現に、君は、オルステッドに…?」
勝った。不意打ちだったけど。
「ほーら!僕の言った通りだろ?手加減については呪いだろうね。そもそも、ナナホシはオルステッドに昔引っ付いてたんだろ?そんな奴の意見が公平になんてなるわけないだろ?」
いや、ナナホシは…
「ナナホシは、なんだって?」
俺の、友達で…
「ははっ!そうしたら、僕も未来では君の友達なんだろ?じゃあ一緒じゃないか」
……
「また、だんまりしちゃった。気持ちは分かるよ。ロキシーが悲しんでて、完璧な状態とはいえない。それでも日記よりは良い結果だろ?僕は嘘なんて一つも吐いてない」
もう、良い。静かにしてくれ。
もう、もう…分からない…
「静かにしてくれか。君って本当に弱いね?強くさせてあげて、幸せも貰って。そんな助言をした僕のことを信じられない。挙句の果てには僕のせいって…頭おかしいんじゃない?」
……もう、聞かない。
「聞かないなら、それでもいーよ。僕が独り言喋ってるからさ。すごく弱い君。でも、オルステッドを殺してくれたのは事実だ。怒られても、悲しまれても……僕は君に恩を返す義務がある」
……
「ご褒美に、僕が一つ教えてあげるよ」
お前からのご褒美なんて…
「要らない、なんて言うなよ?受け取るのは君の義務なんだから」
受け取っても、お前の言葉なんて俺は信じないぞ?
「それでいいよ。受け取ってくれたら十分さ。さぁ、言おう。言葉は、これだ」
もう、俺は俺の力で進む。
お前が何を言っても無駄だ。
「無駄…ふふっ、シルフィが殺されるって言われても、そう言うかい?」
……シルフィが殺される?誰に?
「アリエルだよ、アリエル・アネモイ・アスラ」
そんなわけない。もう消えてくれ。
「まぁ、ちょっと待ちなよ。不思議だと思わなかったのかい?既婚者の君に対してシルフィをぶつけて、仲良くさせて、結婚させた」
何もおかしくないだろ。
「おかしい所だらけだよ!あまりにも強引さ。貴族とはいえ既婚者を口説かせる。普通に考えたら可笑しいよ」
ブーメラン発言だな。
お前もシルフィと結婚しろって言ってただろ。
「それは僕には未来視があるからね〜君の幸せを知っていたから。でも、アリエルにはない。そこから導き出される答えは…?」
……俺との関係を作る、駒?
「ふふっ、どうかな〜君の言葉通り、僕は帰るよ。嫌われちゃったみたいだしね」
俺を舐めるなよ。
もう、お前の言うことは信じない。
「はいはい、もうその言葉聞き飽きたよ。バイバーイ」
俺に向かって大きく右手を振るヒトガミ。
刹那、白い空間が歪む。
俺の中にある迷い。それは、大きくなるばかりだった。
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「ルディ、起きましたか?」
「んっ…」
重い頭。
俺は目を覚ました。
「ルディ…おはようございます」
「え、なんで…」
驚く俺。
その理由は目の前に俺の幸せがあったから。
お腹を大きくする青い髪の少女。
守りたいと誓う、一人の女の子が俺の視界を支配する。
「ルディ、先日は、その……すみませんでした」
謝られた。
何故か分からない。
分かるのは、大きなお腹でベッドに座る彼女が愛おしいということだけ。
「師匠、謝るのは俺の方です」
「いえ、そんなことはないです。ルディはボロボロで、オルステッドは、そんなルディを殺そうとした。その事実があるのに私は泣いてしまいました」
「……」
謝る理由は龍神について。
ルディはボロボロになるまで戦ったのに、私は泣いてるだけだった。
そう話すロキシー。
ルディが正しいのに泣いてしまった。
そう反省するロキシー。
俺は、この言葉を聞いて考えていた。
(…迷い。それは要らない)
オルステッドを殺した。
それは紛れもない事実。
そう、事実。起こってしまった過去。それは変えられない。
ならば戦うしかない。
「師匠、オルステッドは悪い奴だったんです」
「はい、分かっています。優しいルディが殺そうとするほどの人物。私は騙されていたんですね」
心がチクっとした。
オルステッドが悪。嘘かもしれない、そんな言葉。
だけど、それだけ。
俺は、この嘘を本物にする。
「師匠は俺が絶対に守ります」
「ルディ…私もルディを守りたいです」
あの日記。妊娠を悪とする、あの最低最悪な日記はロキシーには見せられない。
だから、俺は一人で計画を立てる。
ロキシーを自殺させない。
シルフィをアスラ王国に行かせない。
アイシャとアルスの関係を探る。
この三つの計画。俺は、嘘を正解にするために…
ロキシーを抱きしめる腕に力を込めた。
一部で、一番好きなのは?(参考にさせていただきます)
-
序章
-
冒険編
-
学園編
-
迷宮編
-
アトーフェ編
-
ロキシーと治癒魔術
-
老人の日記
-
VSオルステッド