7月16日 文体を大幅に変更しました。
─アルス視点─
俺はダメな息子なんだと思う。
「やった!無詠唱で初級魔術を使えるようになった!」
俺は大きく手を上げた。
水を掌からポトポトと落として声を挙げた。
「アルスはすごいね」
「無詠唱、ですか。五歳で簡単に私を超されてしまったんですが…」
白ママと青ママが俺を褒めてくれて。
「お、アルス!すごいな!」
パウロ爺も俺を褒めてくれる。
頑張ったらみんな褒めてくれる。
頑張ったらきっと誰よりも強くなれる。
俺は、ずーっとそう思ってた。
白ママ、青ママ、パウロ爺。
三人に褒められた俺。
三人に褒められる、そうだ。俺はそのぐらい頑張ったんだ。
だから、あの、俺の尊敬する人にも褒めてもらいたい。
褒められて、撫でられて、抱きしめてもらいたくて。
俺はそんな思いで一心に走り出した。
「父上!!!」
バン!!!
「ストーンキャノン。もう少し調整出来るな」
爆音と同時。
俺の視界を荒地が支配する。
その光景は意味の分からない光景。
さっきまで緑豊かだったのに、一瞬にして何も無くなった光景。
そう、父のストーンキャノン。
それが全てを破壊する光景。
「……俺は、父上みたいにはなれないんだな」
集中する父の後ろで無意識に出た呟き。
何もない荒地に佇む俺。
そんな俺はただ俯いて、この言葉と涙をポトポトと落としてた。
父は俺の歳で無詠唱はもちろん。
水聖級魔術師だったらしい。
父の強さとすごさ。
ママと父と一緒にお風呂に入った時に聞いてみた。
お風呂。ママはずーっと真っ赤な顔で父を見つめていて。
父はそんなママの腰に後ろから抱きついて密着してる。
みんなから聞く『ママは少し乱暴』という言葉。
俺は、そんな言葉を思い出しながら両親を見つめてた。
「ねぇ、ルーデウス?」
「どうしました?」
「……今日も、一緒に寝てくれる?」
「ふふっ。えぇ、もちろん。一緒に寝ましょう。エリスは俺のお姫様なんですから。一緒に寝るのは当然のことです」
乱暴なはずのママ。
凶暴なはずのママ。
そんなママ。でも、この時は、父と居る時は…
顔を茹蛸みたいに赤くして、父の胸に飛び込んでた。
強くてママの面倒も見れる父。
俺は、そんな父に「無詠唱魔術が使えるようになった!」なんて、口が裂けても言えなかった。
「私は、お兄ちゃんを超えられる」
俺の耳に、こんな言葉が降ってきた。
この言葉を降らせてくれた主は、俺をぎゅーっと抱きしめて耳元で囁いてくれる。
優しい声が俺の耳を支配する。
最強の父、誰も勝てない父。
でも、何故か。この時は、この時だけは。
そんな父に絶対勝てると、俺は理由もなくそう思ってた。
アイシャ姉はとてつもなくすごい。
ママが父に「ルーデウスは、すごいのよ!」と言うように、俺も「アイシャ姉のすることは、なんでも成功する…」そう思ってた。
家事も出来て俺の面倒も見てくれて、そんなすごい人だから大丈夫なんだと思った。
血眼になって「お兄ちゃんから逃げる準備。これじゃ足りない」と言っていても大丈夫なんだと思った。
すごいアイシャ姉が言うんだから大丈夫。俺は理由もなくそう信じてた。
「俺は、アイシャ姉と生きることになるんだ」
実感が湧かない心で呟く。
これは決定事項なんだ。俺は、アイシャ姉との生活に胸を膨らませた。
ザァー
雨が降った。
アイシャ姉が施した煙を掻き消す大量の雨。
「アイシャ、アルス。煙を消す魔術は風だけじゃない」
父がそう言った。
濡れる頭と身体。そんな俺たちに父の言葉が降り注ぐ。
「……私たちの負け?」
この言葉と同時、隣に居るアイシャ姉が目を見開いた。
俺は、そんな彼女の瞳を見つめた。
その瞳はすごく潤んでた。
それが雨なのか。それとも涙なのかは分からない。
でも、それでも『アイシャ姉が負けた』
彼女の表情から、その事実に気付くのは俺でも容易いことだった。
相手は父とママ。
片方は七大列強二位の怪物。
片方はそんな怪物に完璧に合わせられる狂犬。
それほどの相手。初めてアイシャ姉が敗北した相手。
でも負けない。
俺はアイシャ姉と生活する。
こんな意思。これは俺自身の意思だ。
俺が固めるのは『覚悟』
アイシャ姉を俺が勝たせる。
俺は雨に濡れながら歯を食いしばって。
アイシャ姉の手を握る自身の手に大きく力を込めた。
─────────────────────────
降り続ける雨、始まる第二ラウンド。
そんなことを考える暇もなく、エリスが腰を落とした。
闘気を纏って足に力を込める。
門を目前にするアイシャとアルス。
しかし、関係ない。
殺気に近いものを纏うエリスは強い。
そう、殺気。普通ならば足が竦むほどの殺気。
しかし、そんなエリスをアルスは睨んだ。
「ママは俺の技、知らなかったよね?」
ズルっ
「!?」
踏み込もうとしたエリス。
そんな狂犬の足場が崩れる。
アルスが放ったのは魔術。
ただの初級魔術。
「無詠唱の土魔術。それなら俺でも出来る」
土を生成する魔術。それがエリスの足場を崩す。
足場を崩されたエリス。
彼女は困惑していた。
その理由は明白。
ただの土魔術がまるで泥沼のようにドロドロになっていたから。
アルスは混合魔術が使えない。ならば答えは一つ。
「俺の雨。それがアルスの土魔術を泥沼にしたのか」
アルスは土魔術を選んだ。それが意図的であったのか、はたまた偶然であったのかは分からない。
しかし、間違いなくエリスもルーデウスも、味方であるアイシャでさえも、この戦略に目を見開いていた。
それほどの戦略、降り続ける雨を使った戦略。
ルーデウス、七大列強の行動を裏目にさせる最上の一手。
アルスはアイシャに見つめられながら、この時、この瞬間『覚醒』する。
「唐突な泥沼、やばい。しかもエリスは剣神流だけど追い性能は高くない」
ルーデウスは雨の中冷や汗を掻いた。
剣神流のエリス。しかし、彼女は習得していない。
光の太刀と無音の太刀。この二つを、剣神流の奥義を彼女は習得していない。
あくまで彼女が強いのは相手も攻めてくる接近戦。
自らが追い掛ける戦場は、ギレーヌを含めた他の剣神流に劣る。
故に追いつけない。
走るアイシャとアルス。
その姿に、ルーデウスが顔を顰める。
「アルス、無詠唱魔術。くっ、警戒するべきだった」
庭のほとんど端から端。
それほどの距離。
遠い距離。故に、ディスタブマジックは届かない。
「でも、まだ大丈夫だ」
ルーデウスはこの言葉を呟いて、アイシャとアルスに右腕を向ける。
「エリスがトゥレントの蔓を斬ってくれた。だから出来る」
降り続ける雨。
彼が放つのは『泥沼』
遠い距離、走っている人間。
そんな人間を咄嗟に狙えば、多少魔術は雑になるだろう。
しかし、泥沼は別。
これほどの雨。アルスがやったように、雑な泥沼は雨に濡れて完璧な泥沼へと変化する。
「これで最後、外さない!」
ルーデウスの叫び声。
冷たい雨、そんな光景。しかし、辛そうな顔をするのは……アイシャ一人だけだった。
肝心のアルス。覚醒する少年は、何も動揺などしていなかった。
「俺は父上と修行したんだ。すごい父上との修行。これぐらいなら出来る」
アルスの言葉。瞬間、彼の身体に力が籠る。
彼はルーデウスと一緒にいた。
ルーデウスが毎朝行っている修行に取り組んでいた。
息が切れるほどの修行。故に彼は可能にする。
父の意表を突くという不可能。五歳とは思えない力を彼は解放する。
「アイシャ姉。手、しっかり捕まってて」
「え、アルス君?」
アイシャの驚きの言葉と同時。
アルスの動きが速くなる。
そして、それはルーデウスの予測を超えるもの。
彼は、見事に父の泥沼を飛び越える。
「父上、ありがとうございます。父上のおかげで俺は闘気を纏えるようになった」
「くっ!」
ここに来て更なる裏目。
ルーデウスがアイシャとアルスを引き離そうとして、息子を連れて行った修行。
それが、アルスの逃亡を手助けする。
薄い、薄い闘気。しかし、それでも、そんな闘気でも、
残り数メートル。逃げるのには十分だった。
「まだ、まだだ……」
ルーデウスの言葉。彼は、最後まで諦めない。
「勝負は門を出て終わりじゃない。その後も追えばいい!」
ルーデウスは、エリスの手を取って走った。
アイシャとアルスのように恋を宿して走った。
しかし、ルーデウスとエリスが手を繋いだと同時。
異変が起こる。その異変は…
「アルス君。またね」
「……は?」
アイシャとアルスは、そんな言葉を残す。
またね…という言葉。その言葉の真意は当然『別れ』
門を出て左と右、アイシャとアルスが別れる。
「アルス君、大丈夫。私は絶対に君を見つけるから」
そう言って、アイシャは右、アルスは左へと向かう。
ここに来てルーデウスに襲い掛かる更なる意表。
唐突な意表。
しかし、彼は冷静に分析する。
この状況。この戦況を。
(アイシャとアルス。追うのはどっちだ?どっちが良い?いや、決まってる。息子と妹、追うのはこっちだ)
ルーデウスは門に向かって走った。
ただ全力で走った。
向かう先は門を出て右。
アイシャが逃げた方向。
(アルスは無詠唱で魔術が使える。だから、風魔術を使って濡れている服を乾かす可能性がある。それをされたら目立たなくなるし、闘気を纏って速く動かれたら追いつけない)
「エリス!門を出て右に向かいます!アイシャを探してください!」
「分かったわ!」
彼女が俺の手から離れていく。
そして、高速移動。
アイシャに向かって走り出す。
叩くならリーダー。
アルスも覚醒と呼べる強さを誇っていたが、やはり主役はアイシャ。
ここで、そちらを叩くのは自然。
自然で完璧な作戦。そう、その筈なのに。七大列強の背中に走ったのは『悪寒』
ここに来て、雨とは違う冷や汗がルーデウスを襲う。
パシッ
「お兄ちゃん、私もアルス君には負けないよ?」
「……それは、指輪?」
パシッという音と同時。
アイシャの掌に収まるのは『指輪』
そう、指輪。その効果は逃げることにおいて最高のもの。
天才にとっての切り札。
「人の姿を変えられる魔道具。なんで、ゼニスに嵌めてたんじゃ…」
ルーデウスの疑問、唇を震わせて放つ絶望。
そんな疑問の解決。それは、最悪な結果と共にいとも簡単に解決されることになる。
「トゥレント。あいつが抜いて投げたのか?」
ルーデウスの言葉と同時。復活するのは悪魔の笑顔。
悪魔…アイシャ。彼女の作戦が、彼女の大きな笑顔が最後の最後で兄を襲う。
エリスに斬られたトゥレント。
最弱の魔物。しかし、斬られたのは一部。
故に死んでいなかった。
いや、殺す気もなかった。だって、こんな作戦。
予想出来るわけがないのだから。
「最後の最後、俺は…」
門を出て、大通りに出たルーデウスとエリス。
二人の視界を大衆が支配する。
「アイシャに、執念で負けたんだ…」
膝から崩れ落ちるルーデウス。
そんな彼の視界にアイシャとアルスの姿は…
…影すらも、残ってはいなかった。
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シルフィを閉じ込めて、それによってパウロとリーリャが一時的に家から居なくなって。
自らの雨が敵を手助けして、アイシャとアルスを無理矢理引き離そうとして反発されて。
嘘を吐いて、みんなを不幸にする。
ルーデウスは何も分かっていなかったんだ。
自らの行いは必ず返ってくる。
一時嘘を吐けば、後にもっと大きくなって返ってくる。
その証明。逃げ出したアイシャとアルスが最初に向かう。
「あれ?妹と息子。アイツの元から離れたんだ」
この戦況。
一人の神が考え込み、後に大きくにっこりと笑う。
「ルーデウス。君を殺す方法、やっと思いついたよ」
彼の名はヒトガミ。
一人の転生者を殺そうとする神様。
「まずは、ダリウスにでも話そうかな」
アイシャとアルスが向かうのは『不幸』
彼らは思い知ることになる。
「こんにちは〜!ダリウスに朗報だよ!」
不幸の連鎖。その大きさを。
「ふふふっ。君にとって最高の朗報さ」
口が裂けるほど笑う神。
彼は、こんな言葉をダリウスに残していく。
「七大列強二位、泥沼のルーデウス。彼をさ…」
始まるのはヒトガミとの対決。
彼が施すのは『災厄』
「仲間にしたくない?」
絶望するルーデウス、大きく笑う神。
対比する二人、それが意味するのは…
『変わる運命』
変化する運命…それだけが、次の物語への布石となる。
オルステッド戦を初めとした戦い、戦術について…
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原作の情報を使っていて面白い。
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複雑で分かりにくい。