もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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序章からアトーフェ編までの文体を修正しました。
今回もいつもと少し変えていますので、読みにくいなどありましたら言っていただけると幸いです。


アスラ王国編
死闘と開戦の予兆


─アイシャ視点─

 

『後悔はない』

 

私は、この言葉を呟いた。

 

小さく、小さく。

周りの空気に溶けてしまいそうなほど小さく、私は呟いた。

 

「アルス君、これからずーっと一緒だよ?」

 

「うん!アイシャ姉と一緒!」

 

アルス君の言葉。力いっぱい放つ彼の言葉。

そんな言葉には、ある人の面影があった。

その面影とは私のお兄ちゃん。

 

『ルーデウス・グレイラット』

 

「大丈夫。お兄ちゃんは強いから、きっと時間が解決してくれる」

 

この言葉と同時。

私は逃げる直前のお兄ちゃんの顔を思い出してた。

目を見開いて、涙目で。絶望した顔で私を見つめるお兄ちゃん。

 

苦しそうな顔で呼吸を乱すお兄ちゃん。

 

私は、そんなお兄ちゃんを思い浮かべる。

後悔はない。そう、その筈なのに、俯いてしまう私。

揺れる心。刹那、聞こえてきたのは男の子の声。

 

「アイシャ姉?大丈夫?」

 

その言葉の主は私の愛しの人。

彼は私の手を繋いで心配してくれる。

心配のお返し。私は、なるべく大きく笑った。

 

「うん!アルス君、心配させちゃってごめんね〜」

 

手を繋いでくれた男の子。

私は、そんなカッコよくて可愛い男の子を抱っこする。

 

「うわっ、アイシャ姉?」

 

「ふふっ、私は幸せだね〜」

 

満面の笑顔、幸せという私の呟き。

瞬間、私の中にあった『後悔』という言葉が消える。

 

アルス君と一緒に逃げて一緒に暮らす。

 

私は、これが出来たら幸せだから。

今、私はすごく幸せだから。

 

だから、私は満面の笑みで言葉を放つ。

 

「アルス君、ずーっと一緒だよ?」

 

辺境な村、地図にも載っていない村。

私は、そんな村で幸せを噛み締める。

 

「うん!俺もアイシャ姉と一緒が良い!」

 

お兄ちゃんから逃げた奇跡。

アルス君のおかげで掴めた奇跡。

 

私は、そんな奇跡を握りしめる。

 

「アルス君、大好きだよ」

 

「俺もアイシャ姉が大好き!」

 

私は腕の中にある幸せに声を掛けて笑う。

アルス君のこれからに想いを馳せて笑う。

 

笑い合う幸せな光景。

不安を隠すように、にっこりと笑う光景。

 

そんな光景に映るのは不安を消した私の姿。

消えた不安。そう、確かに私の不安は消えていた。

 

でも、その不安はお兄ちゃんへの物だけ。

もっと大きな不安を私は知らなかったんだ。

 

「アイシャ・グレイラット、アルス・グレイラット。貴様たちを連行する」

 

「え?」

 

私の驚きと同時、背後から聞こえたのは男の声。

私は、そんな声に振り向いた。

そこに居たのは、鎧を纏った騎士が数十人。

大量の騎士。彼らは大きな声で名乗りを挙げる。

 

「我らはアスラ王国騎士団!ダリウス・シルバ・ガニウス上級貴族の命の下、貴様たちを連行する!」

 

「え、ちょっと待って、何かの間違いです。私たちは、悪いことなんて全く……」

 

私は目を見開きながら声を挙げた。

身に覚えのない連行。私はアルス君を背にして騎士たちと話し合う。

狼狽える私と怯えるアルス君。

そんな私たちに声を掛けるのは、たった一人の男。

 

「ここまで来て身に覚えがないとは、呆れた方々だ」

 

私に声を掛けたのは太った狸のような男。

そんな男は騎士の間を通るようにして私たちに近付いてくる。

醜い容姿。しかし、服装から偉い貴族だということは一瞬にして理解出来た。

 

「あなたがダリウス様ですか?何故、私たちを連行するんですか?私たちは何をしたんですか?」

 

「質問が大変多いようだが、ここで話す義理はない。詳しくはアスラ王国で話しましょう」

 

ダリウスはそう言うと少し垂れた頬を上げた。

その表情は、一言で言うならば『醜い』

アルス君と違う醜い笑み。

私は、それを見つめる。

 

「せめて、せめて私だけにしてください。アルス君、アルス・グレイラットは本当に何もしていないんです」

 

「そういうわけにはいきませんな。二人の罪人、それを連れて行くのが私の仕事ですから」

 

この言葉を残し、ダリウスは騎士たちに指で合図を送る。

瞬間。連携の取れた動きで、騎士たちは私とアルス君の手首に錠を掛ける。

 

「本当に待って!なんで、こんなこと」

 

「アイシャ姉?すごく怖い……」

 

小さい言葉と同時。

私の視界を覆うのは愛しの人が怯える姿。

アルス君の辛そうな姿。それを見た私は必死で暴れる。

 

ガチャガチャ。

 

「アルス君!アルス君!!!」

 

「おい、暴れるな」

 

取り乱す私、何人もの騎士に抑えられる私。

そんな私を、ダリウスが薄く笑いながら見つめる。

 

私は、この状況に歯を食いしばりながら考えた。

 

私は何の罪に囚われるんだろう。

何もしていない私。いや、もしかして、この人たちはお兄ちゃんの手下?逃げた私に対して怒ったお兄ちゃん。

そんなお兄ちゃんが雇った?

 

そうだとして。なんで、この場所が見つかったんだろう。

辺境な村、人だって少ない。

それどころか地図にだって載っていないのに。

 

回す思考。そんな私に聞こえてくるのは、たった一つの声。

 

「ヒトガミという男。奴の言う通りであったな」

 

この言葉、最悪な言葉。

これを放ったのは最悪な人物の使徒。

そう、彼の正体はヒトガミの使徒、ダリウス・シルバ・ガニウス。

 

醜く太った男。彼が、下卑た笑みをさらに大きく歪ませる。

 

「一人の妹と一人の息子。なるほど。これで私の地位も更に盤石になるというわけだ」

 

ダリウスの作戦。その正体は最悪な作戦。

私の逃亡を狩ることから始まる作戦。

 

「アイツは、もう私の物だ」

 

彼の物、彼の手札。

それが更なる盤石へと変化する。

元々持っていた北王、北帝。そして水神。

そんな磐石の手札に入る、たった一人の人間。

 

「七大列強、泥沼のルーデウス。彼は、もう……」

 

連れ去られる私とアルス君。

ダリウスは、その姿を見ながら、最悪な言葉を置いていく。

 

「私の物だ」

 

唐突な誘拐。

ダリウスの作戦、辺境な村による発見者の低下。

私たちは、あっという間に攫われて行く。

 

離れていく生活。

離れていく幸せ。

 

そんな私たちの前に現れる人は誰も居ない。

そう、誰も居ない。

 

いつも助けてくれるあの人は、私の前には現れなかった。

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい」

 

私が謝る相手は、この場には居ない人。

そう、私が自分の意思で離れた人。

 

『ルーデウス・グレイラット』

 

世界一優しくて、カッコいいお兄ちゃん。

 

そんな兄。大好きな兄が私の前に現れることは、永遠に無かった。

 

 

─────────────────────────

 

 

「辺境な村、地図にも載っていない村。良くそんな所見つけたよね〜」

 

白い空間、一人の神が佇んでいた。

そう、神。最早、その正体を言うまでもない男。

彼の名はヒトガミ、泥沼の最大の敵である男。

 

「まぁ、そんなに頑張っても僕からは逃げられないんだけどね」

 

ヒトガミは白い空間でスキップしながら笑う。

楽しそうに愉快そうに。

 

彼は満足そうに笑っていた。

 

「ルーデウス・グレイラット。アイツから逃げたのは見事だったけどね。僕から逃げられると思ったら大間違いさ」

 

この言葉を放つヒトガミ。

彼は言葉と同時、自身の瞳に人差し指を向ける。

その姿は全てお見通しと言っているようで。

奴からは逃げられない。そう思い込ませるような仕草だった。

 

「妹と息子に逃げられて、自分の知らないところで捕まって」

 

この言葉と同時、神は頬を上げる。

ダリウスよりも醜く、大きく笑う。

 

「強くなっても何も出来ない。そんな君に、この言葉を送ってあげるよ」

 

大きな独り言。

彼は楽しそうに前を向いた。

 

「君の負け。ルーデウス・グレイラット。君は、僕の策で死ぬんだよ」

 

彼にとっての宿敵、ルーデウス・グレイラット。

最強を殺した男。そんな男に神の鉄槌が降る。

 

「ふふふ。さぁ、僕と君の勝負を始めようか」

 

ゲームを始める子供のように無邪気に笑うヒトガミ。

彼の言動。刹那、白い空間が歪む。

見慣れた歪み、そんな歪みが一人の男を包み込む。

 

終わりの始まり。

 

歪む空間に映る最後の光景。

それは奴の笑顔。

見慣れた白い顔が、大きく大きく笑う光景だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─ルーデウス視点─

 

俺は血眼になって探した。

逃げた家族を、大切な妹と息子を必死になって探した。

 

でも、何処にも居ない。

過ぎていくのは時間だけだった。

 

「アイシャ、アルス。俺が、俺が悪かったから。いっぱい話すから。出てきてくれよ」

 

アイシャとアルスが逃げ出して数週間。

俺は涙目になって、震える喉で、この言葉を呟いた。

 

毎日のように濡れる俺の視界。

そんな視界には変化だけが映し出されていく。

 

リーリャは私のせいだと泣いて衰弱し、パウロは少し髭を伸ばして、ただ何も言わずに歯を食いしばる。

ノルンはアイシャに悪態を吐き、ロキシーは私が妊娠せずに動けていたらと後悔する。

 

シルフィは地下室のドアをドンドン!と叩いて。ルディ、どうしたの?外で何があったの?と心配してくれる。

 

俯く俺、迷う俺。

そんな俺をエリスが抱きしめてくれる。

 

「ルーデウス。私が弱かったから、ごめんなさい」

 

エリスの言葉に俺は黙って首を横に振った。

一番苦しいはずの彼女。

たった一人の息子を失った彼女。

 

そんな彼女の心配と自己嫌悪。

俺は首を振って否定した。

 

「アイシャ、アルス。必ず見つけてやるからな」

 

俺は今日もこの言葉を呟く。

そんな言葉を吐いた俺は、不安で押し潰されそうで。

俺になんか見つけて欲しくない、そう思ってるんじゃないかと考えて、俯いてしまう。

 

でも、それでも俺は諦めない。

俺は諦めるわけにはいかない。

そう思って、俺は顔を上げる。

刹那、発生するのは大きな異変。

大きな不安が俺を支配していく。

 

「なんだよ、これ」

 

グレイラット宅に投函されていた一通の手紙。

そこに書かれていたのは、最悪な事実。

 

「なんで、そうなるんだよ」

 

手紙に書かれていたのは望んだ人の現在地。

そう、手紙には、アイシャとアルス。二人の居る場所が記されていた。

 

「俺は、俺は、どうしたらいいんだよ」

 

血眼になって探した人物の名前。

それと一緒に書いてあったのは知っている国の名前だった。

 

『アスラ王国で貴様の妹と息子は預かった』

 

手紙の一文。続きは、この言葉。

 

『返して欲しければ、貴様の力を』

 

あぁ、そうか。

俺は、何もかも間違えたんだ。

 

そう気付かせてくる、最後の言葉。

 

『ダリウス様に捧げろ』

 

アスラ王国の政権争い。ここに来て七大列強という大きな名が俺に牙を剥く。

七大列強になった俺。そんな俺はダリウスに目を付けられたんだ。

 

「ダリウスぅぅ……」

 

呟きと同時、俺は手紙を握りしめた。

その理由は単純。俺は、この手紙を読んだから。

 

手紙の内容、俺は理解してしまったから。

 

「殺す、殺してやる」

 

俺の小さな声。

震えた声が空気に溶ける。

 

震える理由は不安じゃない、不満じゃない。

理由は『殺意』そう、俺の言葉には震えるほどの大きな殺意が籠っていた。

 

震える握り拳、満ちる殺意。

しかし出来ない。

俺はダリウスを殺せない。

 

その理由。

この手紙が意味するのは最悪な事実だったから。

 

『アイシャとアルスを人質に取られた』

 

こんな意味が手紙に込められていたから。

 

震える握り拳。

増え続ける殺意。

 

そんな俺の拳は何処にも届かない。

 

何も出来ない俺。

八方塞がりな俺。

そんな俺は、もう、一人ではどうすることも出来なかった。

 

 

 

 

苦しむルーデウス、笑うヒトガミ。

彼らの対決。それは単純なものではない。

 

ダリウスに人質を取らせて、ルーデウスにダリウスの味方をさせる。

 

決して、そんな生易しいものではない。

 

人質は、あくまで序章。

そう、神の序章に過ぎなかったんだ。

 

『終わりの始まり』

 

この言葉に相応しい対決。

その終わりは誰のものか、どちらのものか。

結果は誰にも分からない。

 

しかし、彼らはすぐに理解することになる。

結末を、苦しみを。彼らは痛いほど思い知ることになる。

 

アスラ王国編。

 

運命が大きく変わった対決。

全てを覆す対決が、今、始まりを迎える。

 

 

 

 




変化する運命、アスラ王国編 開幕

https://youtu.be/on2VsvDNiDU?si=3DkE0GG702Ay9fwF

オルステッド戦を初めとした戦い、戦術について…

  • 原作の情報を使っていて面白い。
  • 複雑で分かりにくい。
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