もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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泥沼VS水神 後編

ガン!ガン!!!

 

血が支配する荒れたパーティ会場に金属音が走る。

それが意味するのは人族と人族による撃ち合い。

泥沼と水神による開戦の合図。

 

「やっぱり強いね。だけど、余りあるスピードとパワーで誤魔化しているだけ。技術に関しては二流だね」

 

「ちっ」

 

レイダの言葉に対し、ルーデウスは舌打ちを返した。

パワーとスピードの泥沼に対し、水神は技術で応戦する。

速い動きで距離を詰める両者。

彼らの接近戦は常軌を逸する攻防。

 

瞬間、撃ち合いの中で泥沼が呼吸をする。

ふぅーという呼吸を一つ、二つ。

そして、甲高い金属音と共に言葉を残していく。

 

「そうだな、俺はエリスじゃない。ただの後衛で、剣は苦手なクズだよ。でもな……」

 

ストーンキャノンを封じられ、水神の土俵である接近戦を強制された男。

苦手な接近戦を強いられた男。

しかし、それでも強い。

そう、奴は強い。

 

「お前らみたいなクズは、簡単に殺せる」

 

この言葉と同時、水神が目を見開く。

重力に逆らった不規則な剣筋が、水神の頬を掠める。

 

泥沼の怒りと本気。

この瞬間、龍神を殺した男のギアが上がろうとしていた。

 

 

─────────────────────────

 

 

水神は泥沼と戦う決断をした。

そう、逃げるのではなく戦う。

それには、大きな理由があった。

 

(あんたは、最大の過ちを犯したんだよ)

 

この思考と同時、ニヤける水神。

奴はルーデウスと互角に剣を交える。

 

泥沼はあのオルステッドと戦った。

今更水神如きに怯むことはない。

しかし、この戦場は別。

ルーデウスは明らかに後手を踏まされていた。

 

(重力魔術で不規則な動きをしているけど、殺気が丸見えだね。それじゃあ私は倒しきれないよ)

 

ルーデウスは無意識に殺気を放っていた。

大きな殺気、当然といえば当然だろう。

水神は憎きダリウスの味方をし、エリスを傷付けた。

日記では多くの家族を自らの手で傷付けた。

 

そう、憎き相手。

そんな敵を目の前にして、殺気を隠すことは不可能に近い。

大きな恨み。それがここに来て、彼にとって裏目に出る。

 

そしてもう一つ。

ルーデウスに不利な戦局があった。

 

「北王、オーベール、あと光輝のアルマンフィとか言ったっけ?ボサっとしてないで早いところギレーヌを、剣王と狂犬を殺しに行きな!」

 

水神の言葉と同時、全員が見つめるのは二人の剣士の姿。

片足を潰されて動けない狂犬と、元気とはいえたった一人の剣王。

決して弱くはないコンビ。しかし、勝てない。

二人では、敵を蹴散らすことは不可能。

 

「ギレーヌ!やるわよ!」

 

「私がやる!エリスはアリエルと共に逃げろ!」

 

逃亡の構えを取る剣王と、戦う意志を見せる狂犬。

食い違う二つの作戦。

しかし、関係ない。結果は決まっている。

 

『二人では』勝つことは出来ない。

それは決まっている。

 

「さぁ、泥沼。あんたの負けだよ」

 

「……」

 

水神の自信満々の声と表情が辺りを支配する。

それも当然、ギレーヌとエリスが殺されればルーデウスにとっては敗北。

全てを守るという意思は消されることになる。

 

当然の結末。

日記のような結末。

 

しかし、そうはならない。

一人の人間が、そうはさせない。

 

グチャッ……

 

「足が、沈んでいく」

 

言葉と同時。

刹那、北王と北帝の足場が緩む。

茶色い土が地盤を崩していく。

 

足を取られる剣士。

それが意味するのは、たった一つの事実。

 

「俺は、逃げない」

 

「まさか、アンタ……」

 

敵の足を取ったのは、ルーデウスの技。

そう、技。彼の代名詞である『泥沼』

 

彼は常軌を逸した選択をする。

 

「私と撃ち合いながら、剣王のサポートをするってわけかい?」

 

水神の言葉を受けながら、ルーデウスは右手で剣を握り、左指をギレーヌの方向に向けて魔術を込める。

全てを熟す選択、彼は覚悟を決める。

 

「水神。俺は、俺たちは、まだまだこんなもんじゃない」

 

戦いは最高潮へ。

泥沼VS水神。

戦いの女神は、誰に微笑むのか。

この時はまだ、誰にも理解することは出来なかった。

 

 

─────────────────────────

 

 

「ファイアボール」

 

エリスの魔術に北王が顔を歪ませる。

泥沼に囚われた光と闇のウィ・ター。彼が炎に包まれる。

 

「ぐああああああ!」

 

かつて自らの老人が使っていた泥沼。

そんな老人の魔術を見たルーデウスの泥沼は、予想が出来ないほどに進化していた。

 

「まるで底なし沼。ただの魔術が発動の早い化け物級の完成度を誇っている」

 

北帝の言葉と同時、炎に燃える北王がギレーヌに斬られる。

この戦いはレベルが違う。

隙を見せた者から死んでいく。

 

「ルーデウスの負担には、ならない」

 

片足を失い、自らの魔術による火傷に苦しむエリス。

この言葉は決意の象徴。

彼女は座り込みながらも殺気を放ち続ける。

 

大きな殺気。

しかし、それだけ。

彼女は完全に無防備な状態だった。

 

「エリス・グレイラット!ペルギウス様に歯向かうならば殺す!」

 

エリスの大きな殺気をさらに大きな殺気で返す。

彼女の背中に回り込むのは光輝のアルマンフィ。

彼は驚異的なスピードでエリスに斬りかかる。

 

「終わりだ!」

 

「くっ!」

 

刹那、エリスが苦悶の表情を浮かべる。

その顔は死を覚悟した者の顔。

しかし、彼女が死ぬことはない。

剣を握ることもない。

 

答えは一つ。エリスにはこの男が付いているから。

 

ドン!!!

 

「ぐはっ」

 

言葉と同時、アルマンフィの身体が後方へとふっ飛ぶ。

彼は何かに当たって飛ばされていく。

その何かとは、泥沼の魔術。

奴の使う風魔術。

 

「エリスに触るな」

 

泥沼は水神から目を離すことなく言葉を呟く。

赤い髪の女の子、瀕死な剣士。

そう、瀕死。そのはず。

しかし、殺せない。

誰も、泥沼のお嫁さんを殺すことは出来なかった。

 

ガン!ガン!!!

 

甲高い金属音。

ルーデウスは撃ち合いを続ける。

 

「サポートしながらなのに水神流が通せないとはね…」

 

水神は大きく勘違いしていた。

ルーデウスのことを、クズな彼のことを。

奴は強い。確かに強い。

しかし、それだけではない。

彼は、アイツと戦っていたんだ。

水神流最強と言われた奴と戦っていたんだ。

 

「オルステッドに比べれば、お前の水神流は弱い」

 

オルステッドとの戦い。それは地獄の始まりだった。

しかし、今は違う。

ルーデウスにとって、あの戦いは水神流の対応を完璧にする最高の実践。

 

「私の負けってわけかい……」

 

水神の言葉と同時、全員が何かを覚悟する。

それは『敗北』

敵の脳裏に、最悪の恐怖が刷り込まれていく。

 

 

─────────────────────────

 

 

ルーデウスにとって、この戦場は最悪だった。

ストーンキャノン封じ。

殺気が消せない空間。

ギレーヌをサポートするという強要。

隙を見せたら飛んでくる、とてつもない威力を誇るペルギウスの『一断』

 

しかし、負けない。

ルーデウスは、奴らを追い詰めていく。

 

「私は、少し侮っていたようだね」

 

この言葉と同時、水神が顔を顰める。

その瞳には、北王の死体と貴族の死体の山が映る。

 

敗北が色濃くなる戦況、苦しくなる戦況。

そんな中で見せる水神の表情は不気味。

 

「このままじゃジリ貧ってわけかい」

 

この言葉と同時、水神は……額に冷や汗を浮かべながら笑う。

 

「良いだろう、見せてあげるよ。最後の最後、水神流の真骨頂をね」

 

水神の不気味な笑みと同時。

刹那、水神が横に大きく飛び込んだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

水神は異様な光景を作った。

横に飛ぶという行動。

その行動は、異質だった。

 

「水神レイダ、何をしている!?」

 

北帝の驚きがパーティ会場を駆け巡る。

北帝の驚き、それに続くのは周りの表情。

 

「何を、して……」

 

彼らは困惑の表情で水神を見つめていた。

それも必然、水神の行動はそれほど常軌を逸していた。

 

「水神、焦ったな」

 

ルーデウスは、言葉と同時に右腕を水神に向ける。

右腕、ガトリング砲を搭載した右腕。

 

それを、水神の立ち姿へと向ける。

 

封じられたガトリング砲。

撃てなかったガトリング砲。

 

しかし、ここに来てそんな最強の技が復活する。

理由は単純だった。

 

「水神の後ろには、人質が居ない」

 

水神が行ったストーンキャノン封じ。

それがこの瞬間、終わりを告げる。

 

「水神、死ね」

 

ルーデウスの小さく放たれた冷たい言葉。

彼は大量の殺気を右腕に込める。

 

神級の威力を誇るストーンキャノンを水神へ。

ルーデウスは照準を合わせる。

 

怒りの表情を見せるルーデウス。

そんな彼の瞳に映ったのは……水神の、楽しそうにニヤける表情だった。

 

ズガガガガガ!!!

 

爆音と同時、上がるのは砂煙と金属音。

かつてオルステッドが見せた絶望の金属音のみが鳴り響く。

 

明らかに何かが足りない。

そう、その正体は鮮血。赤い液体が宙を舞うことはなかった。

戦況に舞うのは異変、震わせるのはこの言葉。

 

「言わなかったかい?アンタは最大の過ちを犯したって」

 

「俺の、過ち……」

 

神級クラスのストーンキャノン、それを食らった老婆は言葉を放ちながら腰を落とす。

 

「アンタは見せちまったんだよ。私にストーンキャノンをね」

 

この言葉の証明。

奴の言葉が意味する真実は、これだ。

 

「さぁて、アンタの負けだ」

 

自らが横に飛び、ストーンキャノンを誘発。

それによりタイミングを読み切った防衛。

成功した水神。奴は凌ぎ切り、腰を落とす。

 

「剥奪剣界」

 

この言葉が戦場へ。

終わりの始まり、水神はルーデウスへと視線を向ける。

 

「そろそろ終わらせようか」

 

動けば無限とも言える剣撃が飛んでくる。

そんな剥奪剣界、奴は展開する。

泥沼殺しへの一歩…

泥沼を追い詰める一手。

 

しかし、奴の手札は残っている。

そう、彼はまだ終わっていない。

 

「水神、腰を落としたな」

 

ルーデウスの言葉と同時。

刹那、泥沼は水神へと指を向ける。

 

そう、彼が放つのは『重力魔術』

動きを止めた水神、そんな獲物を狙うのには十分な魔術。

ストーンキャノンとは違う彼のもう一つの生命線。

奴は放とうと指先に力を込める。

 

「剥奪剣界、撃とうとしたことがミスだ」

 

ルーデウスの言葉。

刹那、彼の視界の端で何かが動く。

 

「ルーデウス・グレイラット、やっと隙を見せたな」

 

英雄の言葉。

ペルギウスの言葉がルーデウスの耳を撫でる。

ミスと罵った水神の剥奪剣界。

ミスだと思った技。

 

しかし、それは違う。

水神は、奴は、ここまで計算通りだったんだ。

 

「アンタの重力魔術は二人同時に発動出来ない……ふっ。私に重力魔術を撃てば、アンタの身体に重力魔術を使うことは不可能だ」

 

「……」

 

「さぁ、重力魔術を自らに掛けずに一断を喰らって死ぬか、このまま私に剥奪剣界を撃たせて死ぬか。好きな方を選びな」

 

水神は歴戦の猛者。

奴は知っていたんだ、ルーデウスの重力魔術の秘密を。

彼の生命線を。

 

(人質は二人、重力魔術を複数に使えるなら人質を浮かせて助けちまえば良い。だけど、アイツはそれをしなかった。なら、出来ないと考えるのが自然)

 

水神の落ちる腰。

それに続く、ペルギウスの殺気。

 

泥沼が無限の剣撃に晒される。

ここに来て、英雄の圧がルーデウスを追い詰める。

 

泥沼殺し……水神は確信していた。

七大列強の順位が変わる、その驚愕の可能性がこの場に居る全員の脳を揺らす。

 

「泥沼、遺言はあるかい?」

 

水神の言葉が意味する終わり。

ルーデウスは、その言葉を聞く。

ただ黙って聞く。

 

「遺言は無いかい。じゃあ……」

 

シンプルにして最大の言葉。

たったの三文字が、水神の口から漏れ出していく。

 

「死にな」

 

動き始める水神の銀線。

刀を振ろうと力む身体。

 

刹那、その剣に何かが映る。

茶色い土が、水神の目の前へと浮かぶ。

 

「水神、俺の勝ちだ」

 

「は?なんで、これがここに……」

 

ドン!!!

 

刹那、爆音が戦場を支配する。

ルーデウスの技が、爆音を鳴らす。

音の正体は『ストーンキャノン』

 

たった一つの岩が、何よりも硬い岩が。老婆を、神級の剣士の腕を……跡形もなく、消し飛ばす。

 

「ストーンキャノン、一発なら操れる」

 

「操れる……あぁ、そうか。そうかい。そういうことかい」

 

右腕からドボドボと血を流し、白い顔をさらに白くする水神。

奴は、やっと理解することが出来ていた。

 

「一人時間差。最初っからアンタはガトリング砲で殺すつもりなんて無かったんだ。殺しの刃はガトリング砲の、多量にあるストーンキャノンのうちのたった一発。アンタはその一発に重力魔術を込めて、操り、私を貫けるタイミングでぶつけたんだ」

 

額に汗をかき、フラフラとする水神。

ルーデウスはそれをただ見つめる。

その表情は無表情。

目の前に死にゆく人が居ても、彼は眉一つ動かさない。

 

「オルステッドには俺のガトリング砲は全て潰された、お前を確実に殺すならばこれしかないと考えていた」

 

「ははっ、そうかい。随分と私を評価してくれてたんだねぇ」

 

この言葉を放ち、ニヤける水神。

奴は、最後までその頬を落とさない。

 

「もう、終わり、みたいだね。はっ、戦いの中で死ねたんだ。なんの悔いもないよ」

 

小さくなる声。

それが証明する、一人の人間の絶命。

 

「まぁ、でも……」

 

ニヤけ顔が終わる。

水神は立ったまま、最後に俯く。

 

「イゾルテの顔は、最後に、見たかった、ね……」

 

薄くなる黒目。

刹那、水神の、老婆の呼吸が止まった。

 

「……全員、殺す」

 

ルーデウスが言葉を放つ。

それを聞いた全ての人物が冷や汗をかく。

 

水神の死体に佇む泥沼。

その姿を、全ての人間が見つめる。

 

敵にとっての絶望。

その象徴とも言えるルーデウスが周りを見つめる。

誰から殺すか考えるように、悪魔の瞳を向ける。

 

そんな時だった。

刹那、戦場に小さな音が響き渡る。

 

ガタン

 

音の正体は、誰かの膝が落ちる音。

膝が落ちる。誰の膝か、それは誰にも予想出来ない人物だった。

 

「身体が、重い……」

 

パーティ会場の中央で男の膝が落ちる。

その人物は、英雄でも北帝でもない。

 

無傷なはずの男。

この場で最強の男。

 

そう、ルーデウス・グレイラット。

落ちた膝は、一人の男の物。

 

「動け、ない……」

 

歯を食いしばる泥沼。

苦しむ一人の男。

 

ルーデウス・グレイラット。奴は、家族を想う男は……『魔力枯渇』になってしまったんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

泥沼の膝が落ちた。

たった一人で水神と北王を殺した男。

 

圧巻の戦いを見せた男。

しかし、奴は水神と相討ちだったんだ。

 

「泥沼が落ちた……これは、私たちの勝ちなのか?そう、そうだ!私たちは勝ったんだ!」

 

ダリウスの言葉と同時、北帝がルーデウスに詰め寄る。

魔導鎧から芋虫のように這い出てくるルーデウスの元に移動する。

四つん這いで動く泥沼。

その姿は、神級と王級を一挙に殺した怪物にはとうてい見えなかった。

 

「ルーデウス!」

 

ギレーヌが叫んだ。

しかし、それだけ。

彼女は光輝のアルマンフィに捕まる。

 

「お兄ちゃん!」

 

アイシャが叫んだ。

しかし、それだけ。

彼女は手首を縛られて動けなかった。

 

「父上!」

 

アルスが叫んだ。

しかし、それだけ。

彼もまた、手首を縛られて動けなかった。

 

そして、最後に。

瞳に涙をたっぷり浮かべて叫ぶ女の子が居た。

ルーデウスを愛し続けるお嫁さんの、赤い髪が揺れた。

 

「ルーデウス、ルーデウス。いや、いやぁ……死んじゃ嫌だぁ……」

 

四つん這いで、火傷をして、片足を潰されて。

それでも、彼女は這いつくばってルーデウスに近付こうとする。

 

「ルーデウス、ルーデウス……私が、守るの。私が、ルーデウスを……」

 

バゴン!!!

 

刹那、彼女の顔が激しく揺れる。

彼女の顔に出来るのは痣。

太い音と同時、彼女の顔が唐突に蹴られる。

 

「あ゛っ……ゔっ!」

 

「はっ、中々良い顔をしている。泥沼の一族は全員殺そうかとも思ったが……ふっ、性奴隷にするのもアリかもしれんな」

 

エリスの顔をボコボコと蹴りながら、ダリウスが言葉を放つ。

譫言のようにルーデウスという名前を呟き、死なないで、ルーデウスの代わりに私を殺してと訴えるエリス。

 

そんな彼女の顔が腫れていく。

 

「ダリウス、頼む。もう、辞めてくれ。俺を、殺してくれ」

 

傷付くエリスを見つめて、頼む、頼むと懇願するルーデウス。

彼は、家族を守りたいと。家族に手を出さないでくれと呟く。

エリスの手を握ろうと腕を伸ばして、下げる。

彼は瞳に雫を浮かべながらエリスを、家族を見つめる。

 

「エリス、エリス……」

 

ダリウスがルーデウスの前に立つ。

一つの剣を握り、下卑た笑みを浮かべる。

 

「泥沼、貴様は罪人だ。れっきとした国家転覆罪。そんな貴様には私が直々に死を届けてやろう」

 

彼は歯を食いしばる。

思考も、身体も動かない。

でも、彼は歯を食いしばり、拳を握り締める。

ただ力を込めて、ダリウスを睨みつける。

 

「俺が、守るんだ。みんな、俺が守るんだ」

 

負けない、負けられない。

失敗もした。完璧なんて一度もなかった。

でも、それでも家族のために、俺は負けられない。

 

加速する想い。

しかし、現実は非情。

ルーデウスの想いなんて関係ない。

彼の喉元には、冷たい刃が迫り来る。

 

「さぁ、死ぬがよい」

 

ダリウスの醜い笑みと同時、ルーデウスの喉が赤くなる。

真っ赤な血。それがタラリと溢れ出す。

 

死ぬ……

 

全ての人間がそう考える。そんな時、物語は動き出すんだ。

 

ドン!!!

 

「誰だ!?」

 

荒い音と同時。

刹那、壊れかけの扉が開く。

荒れた戦場、そんな絶望の渦を超えて、一人の人物がこの場へと舞い降りる。

 

「ルディ、お待たせ」

 

優しい言葉。

そんな言葉が、戦場に響き渡る。

 

「なんで、なんで、ここに……」

 

たっぷりと涙を溜めるルーデウスの瞳に映ったのは、白色の髪。

サラサラとした、綺麗な、綺麗な髪が瞳を支配する。

 

「ルディを、助けにきたんだ」

 

ルーデウスの前に立っていたのは、彼を守るように佇んでいたのは、たった一人の女の子。

 

ルーデウスが大好きな、大好きな女の子。

 

『シルフィエット・グレイラット』

 

「ごめん、俺。シルフィ、シルフィ……」

 

溢れるルーデウスの涙。

止まらない、止めることなんて出来ない涙。

 

「ルディ、大丈夫。もう、苦しまなくて大丈夫だよ」

 

ぐちゃぐちゃになる視界。そんな視界に映るシルフィの手首には……手錠は掛けられてはいなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけの話で、ルーデウスがオルステッドに負けたルートがあったら読む?(原作との違いは、オルステッドの魔力残量。ほとんど残っていないからヤバくなってもルーデウスが主体で戦う)

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