─シルフィ視点─
それは、唐突な出来事だった。
「なんだろう、これ」
地下に閉じ込められてからしばらくしてボクはある物を拾った。
拾った物は二つ。アイシャちゃんの文字で『読んで』と書かれた紙。そして、たった一冊の本。
年季が入った、ボロボロな本。
薄いのに、何故か重たく感じた本。
いや、本じゃないのかな?
そう思った理由は簡単。本の表紙には『日記』と書かれていたから。
ペラペラと読んだ。
ルディとえっちする時以外は暇だったから、何も考えずに読んだ。
これまでボクを支配していたのは無感情。諦めに近い感情。
しかし、そんなボクの気持ちは唐突に終わりを迎える。
「なに、これ……」
ボクは日記を握りしめて唖然とした。
この日記には執念が篭っていて、読んでるボクの方が気持ち悪くなる。
日記は進めば進むほど苦しさを増していって、ボクの心を揺らす。
ボクの心が締めつけられる。
理由は単純だった。
「これは、ルディの字だ」
ボクはルディのことは何一つ分かっていない。ルディがボクを地下に閉じ込めた理由も分からないし、ルディが毎日苦しそうな顔をする理由も分からない。
でも、それでもボクはルディと少しだけ時間を共にしてきたから。
これがルディの文字だということは嫌でも理解することが出来た。
そう、ルディの字。
それが分かれば、もう簡単だ。
「ルディ、ルディ……」
瞬間、日記が濡れた。
少しだけ文字が滲んで、ボクの視界が揺れていく。
その時、ボクは気付いた。
自分が泣いていることに、ルディが苦しんでいることに。
ボクの感情が揺れる。地下に閉じ込められて、初めてボクはこう思う。
『辛い』
涙が止まらない。
ボクの頭は、ルディのことでいっぱいだった。
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きっと、奇跡だったんだと思う。
アイシャちゃんがボクに日記を届けてくれて、ボクが読んで。
アイシャちゃんが逃げ出しちゃって、ルディが苦しんで、シルフィは逃げないでとえっちしながら呟かれる。
ルディ、ルディ……
ボクがルディに出会ったことは、奇跡だったんだと思う。
「ボクは、その奇跡に乗っかるだけだ」
言葉と同時、ボクは鋭い風を生成する。
すごくないボク、何も出来ないボク。
そんなボクでも、これぐらいなら出来るから。
ルディのためなら、なんでも出来るから。
グチャッ
「こんなの、なんとも、ないよ……」
優しいルディが作ってくれた、硬い手錠を外すために。
ボクは風魔術で、自らの手首から上を叩き斬った。
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最近ずっと考える、この言葉。
『ルディと添い遂げる』
ずっと、ずーっと考える、ボクなりの答え。
考えて、考えて、ルディを想って。
ボクは、やっと答えを出すことが出来た。
「シルフィ、まさか……ダメだ。それだけは、ダメだ」
譫言のように放たれるルディの言葉。
ボクは、そんな言葉を放ちながら苦しそうに、辛そうに倒れるルディに微笑みかける。
「ルディ、もう大丈夫。ボクに任せて?」
この言葉と同時、ボクは両の手を光らせる。
ボクが試みるのは治癒魔術。
そう、ロキシーから教わった『王級治癒魔術』
「シルフィ、やめてくれ。そんなことしたら、シルフィが……」
「ルディ、大好き」
ルディの言葉を遮るように、ボクは言葉を放った。
ボクは日記を読んだ。だから知っている。
王級治癒魔術を使うリスク、ミリス国に狙われるリスク。
でも、それでも使いたい。
ボクは、ルディを守るために使いたい。
優しい光がエリスを包み込む。
魔力枯渇したルディが、苦悶の表情を浮かべる。
呆気に取られる敵、彼らは思い知ることになるんだ。
無詠唱魔術が使える、一人の少女の存在を。
「ボクの名前は、シルフィエット・グレイラット!ルーデウス・グレイラットの妻で、王級治癒魔術の使い手だ!」
ルディに火の粉がかからないように。
ルディが苦しんだ分を、ボクがカバー出来るように。
「ルディを殺すなら、ボクから殺してみろ!ボクは、ルディのお嫁さんだ!!!」
肺の空気が無くなるまで、ボクは声を張り上げる。
死ぬつもりはない。死んだらルディが悲しむから。
日記みたいにするつもりはない。ルディが辛くなるから。
でも、ルディに全て背負わせるのは嫌だ。
ボクは、ボクだ。ルディが大好きなんだ。
覚悟は決めた。
あとは、実行に移すだけ。
ルディを守るのは、ボクだ。
「シルフィ、やるわよ」
「うん。エリス、お願い」
復活する狂犬。
勝負は、第二ラウンドへと移行する。
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戦況は変化した。
シルフィという覚悟を決めた最強クラスのサポーター。
復活する狂犬と剣王。
地面を握りしめ、涙を流し続ける泥沼。
しかし、変わらない。
彼らでは、奴に勝つことは出来ない。
「我と戦うか?」
声を発したのは『甲龍王ペルギウス』
英雄と呼ばれた男が再度立ち塞がる。
「ペルギウス様……」
シルフィが冷や汗をかく。
それほどの相手。
エリスも睨みつけながら同様に汗をかく。
瞬間、二人の脳裏に浮かぶ『敗北』という二文字。
二人は、ルーデウスを見つめる。
「ルーデウスを助ける」
この言葉を言いかける。
しかし、その言葉はある人物に遮られるんだ。
「シルフィ、もう演技は結構です」
ルークの背中から現れる一人の女性。
彼女の名前は『アリエル・アネモイ・アスラ』
「ペルギウス様、やはり私はあなたを裏切れません」
「アリエル様?」
俯くアリエル。
困惑の表情を浮かべるシルフィ。
戦場に響くのは、王女の言葉。
「ペルギウス様、このまま戦えばあなたは……」
生唾を飲み込む。
たった一人、アリエルだけが笑う。
「死んでしまいます」
アリエルVSペルギウス。
綱渡りの戦いを制するのは、どちらの陣営か。
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「死ぬ!?アリエル。貴様、何を言っている!」
「アルマンフィ殿、何も不思議なことは言っていません。そのままの意味ですよ?」
「それが分からないと言っているんだ!ペルギウス様が死ぬ?誰に殺されるというのだ!」
「ふふっ、そんなの一人しか居ないじゃないですか」
薄ら笑いを浮かべて、彼女が視線を向けた先は。
「まさか、貴様」
「はい、ルーデウス殿。ペルギウス様はこのまま戦えば彼に殺されます」
はぁ?という顔をするアルマンフィ。
その反応も当然。泥沼は倒れているのだから。
ボロ雑巾のように、青い顔をして倒れているのだから。
口を開こうとするアリエル。
しかし、彼女の声は一人の男によって遮られる。
「不意打ち、か」
「流石はペルギウス様。その通りでございます」
不意打ち。
ペルギウスとアリエル以外は時が止まったように動けなくなる。
それほどの衝撃。時を動かすのは王女の言葉。
「かつてナナホシ殿から聞きました。世界最強と呼ばれた男の存在を。その男を倒したのはここに居るルーデウス殿。それは七大列強二位という名が証明している」
「アリエル・アネモイ・アスラ、何が言いたい」
「ふふっ。いえ、もう言わなくても分かるでしょう。世界最強 龍神オルステッドを倒した方法は魔術戦でも、剣撃戦でもない。ルーデウス殿の全てを活かした戦術」
ニヤリと笑うアリエル。
ペルギウスが険しい顔をする。
「不意打ちによるストーンキャノン、頭部への直撃か」
ペルギウスの言葉。頷くアリエル。
ペルギウスは知っていたのだ、泥沼と龍神の戦いを。
上空から監視していた対決、その多大な知識量。
それこそが英雄の突け入る隙。
ここに来て復活する王の器。
アリエル・アネモイ・アスラ。彼女の最大のブラフ、それが英雄に牙を向く。
「ちょっと待て!不意打ちの可能性は分かった。しかし、ペルギウス様には前龍門がある。これがあればストーンキャノンを吸収することなんて容易……「無理です」
食い気味に発したのは、またしてもアリエル。
彼女は、こう言葉を続ける。
「ルーデウス殿のストーンキャノンは絶大な威力を誇ります。そう、それは容易に世界最強を貫くほど。そんな最強の魔術 ストーンキャノン。アルマンフィ殿は水神如きに受け切れると思っているのですか?」
「アリエル、何が言いたい」
「手加減していたということです。あの芸術なまでの重力魔術があればガトリング砲は囮で良い。人質が危ないですから。そうなると、出力は3〜4割といったところでしょうか?」
この言葉を自信満々に放ち、彼女はペルギウスをチラッと見る。
ペルギウスの反応。彼はこう証言する。
「2割だ」
「……?」
「ルーデウス・グレイラットが龍神に撃ったストーンキャノンを10とするならば、水神に撃ったのは2割ほどの威力だ」
「なっ!?」
ペルギウスの言葉に、アルマンフィが退く。
恐ろしい事実。アルマンフィは思い知ることになる。
「あの威力の5倍の岩が、不意打ちで飛んでくる。そうなれば、前龍門は……」
受け入れ難い事実。
ペルギウスが険しい顔をする。
「壊れるというわけか」
「分かってもらえて何よりです。このまま戦えば死ぬのはペルギウス様。どうか、ここは退いていただきたい」
「……」
「ペルギウス様!私を信じてください!!!私は国をここまで悲惨な血の海にしてしまいました。しかし、これでも私は王女としての自負があります!ルーデウス殿は戦うことが嫌いな方、必ず理由があるはず」
もう一押し。
アリエルはさらに息を吸い込む。
「私が、このアリエル・アネモイ・アスラが、必ずアスラ王国を復活させてみせます!そんな信念の最初、ペルギウス様には不意打ちで死んでほしくはないのです!」
アリエルの必死の訴え。
刹那、ペルギウスが一歩前に出る。
「不意打ちに関しては、十中八九ハッタリだろうが……ルーデウス・グレイラットが理由もなく人殺しをしない男だということは賛同出来る」
さらに一歩前に出るペルギウス。
そこで、彼は立ち止まった。
「良いだろう!貴様の言葉を信じよう!ここまで我の言葉を隙なく反論したのだ。貴様の能力は賞賛に値する」
「ペルギウス様、ありがとうございます」
振り返るペルギウス。
彼は、この言葉を残して去っていく。
「しかし、ただで退くということは出来ん。条件がある」
「条件?」
「たった一つだ。これからルーデウス・グレイラットが反乱することが出来ぬよう、その魔導鎧を没収し、これから制作することを禁ずる」
「……分かりました。ルーデウス殿には私から厳しく言っておきます」
「良いだろう、これで手打ちだ。帰るぞ、アルマンフィ」
去っていくペルギウス。
彼の背中が遠のいていく。
静かに退く英雄。
彼に文句を言うのは、醜い男。
「待て!ペルギウス!!!貴様ぁ、私のために戦え!」
醜く声を張り上げるダリウス。
その背中にアリエルが声を掛ける。
「ダリウス殿。いや、ダリウス。ペルギウス様は元々私の味方だったのですよ?それをここまであなたに味方してくれた寛大な方。呼び捨てにしてはいけません」
返り血に濡れたドレス。
貴族の血で溜まった地面をアリエルは歩く。
「それに、そろそろ気付いた方が良いですよ?」
一歩、二歩。
アリエルの前に三人の姿が現れる。
「追い詰められているのは、あなたの方だということをね」
舌打ちをしながら前に出る北帝。
ルーデウスとアリエルを守るように前に出る二人のお嫁さんと剣王。
「アリエル様、ありがとう」
「何か分からないけど、目の前の人間をぶっ倒せば良いのね」
愛情と勘違い。
アスラ王国の命運をかけた戦い。
その終わりが、ゆっくりと見え始める。
二部のここまでについて。
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面白い
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話が暗い