貴族は全員死んだ。
そう、アリエルとダリウスを除いて死に絶えた。
血に濡れるパーティ会場。
ダリウスを守るのは、たった一人の剣士。
『北帝オーベール』
この男のみ。
しかし、この男こそが厄介極まりない。
「オーベール!なんとかしろ!」
ダリウスが口を開く。
それに対してオーベールは顎を触りながら答えた。
「なんとかしろと言われましても……それは報酬によるとしか言えませんな」
「分かった!約束した三倍の報酬をやる!だからなんとかしろ!」
「承知」
オーベールは軽く返事をすると俺たちの方へと視線を向ける。
四本の剣を携えた男が構えを取る。
「さてさて、水神殿の敵討ちと行きましょうか」
オーベールの言葉と同時、始まるのは『北帝VSアリエル陣営』
アスラ王国最後の決戦。その火蓋が切って落とされる。
─────────────────────────
ドン!
オーベールの構えと同時、俺の隣に立っていた赤い髪が揺れる。
それが意味するのは最速の踏み込み、エリスがオーベールに踏み込む。
「ルーデウスが苦しそうだから、早く終わらせるわ」
「なるほど。まるで狂犬、速くて乱暴な踏み込み」
言葉と同時、オーベールは俺をチラッと見る。
恐らく俺の戦意を確認したのだろう。
彼の瞳に魔力枯渇した青い顔の俺が映る。
そんな光景を目にしたオーベール、彼はふっと笑う。
「速い、速い踏み込み。しかし、泥沼のサポートが無ければせいぜい剣聖クラスですな」
彼はそう言うと、エリスの動きに対してバックステップ。
剣術戦にしては稀な行動。
距離を取ろうと下がる。
「何が剣聖クラスよ!ビビって下がってるじゃないの!」
「えぇ、あなたは怖いですから。まともに撃ち合えば剣王にも引けを取らない」
オーベールの言葉、全員が首を傾げる。
全員が頭に浮かべる疑問、それはエリスの口から放たれる。
「は?さっきアンタ、私は剣聖クラスって……」
「ふっ、そうですね。まぁ厳密に言うと」
一呼吸置いて、オーベールの口が開く。
「某が、あなたを剣聖クラスに下げるんですよ」
オーベールの言葉。
刹那、全員の背中に冷や汗が走る。
エリスの胸に静かな銀閃が走る。
「ぐふっ……」
「エリス!!!」
ギレーヌがオーベールに踏み込みながら叫ぶ。
この声に揺れるのはエリスの血。
彼女の口から赤い生命が溢れる。
ガン!
甲高い金属音。
ギレーヌの剣を受け止めながら北帝が口を開く。
「狂犬の真骨頂は光の太刀も打てぬほどの超接近戦、その土俵に立てば強いが、下がりながら攻撃すればいなすことなど造作もない」
俺に視線を向け「泥沼のサポートがあれば無理ですがね」とニヤける北帝。
クッソ、完全に俺が動けないことがバレてる。
そしてそれだけじゃない。北帝の奇抜と技術のヒット&アウェイ。
完全にエリスが手玉に取られてる。
ヤバい、ヤバい。
焦る俺。
そんな俺の耳を揺らすのはもう一人のお嫁さん。
「エリス!ボクが行く!」
ガン!ガン!という金属音。
ギレーヌと撃ち合うオーベールを見つめながらシルフィが声を挙げる。
鋭い瞳でエリスの方向へ走り出すシルフィ。
シルフィの走り。
闘気を纏った速い動き。
しかし、それでも北帝は振り切れない。
「おっと、狂犬を治させるわけにはいきませんな」
「くっ!」
北帝はギレーヌの攻撃を楽々といなし、速い動きをするシルフィに短刀を投げる。
刀の投擲は奇抜派の真骨頂。
それを北帝であるオーベールが行う。
この情報だけで速さは容易に想像出来る。
それほどの投擲。刀はシルフィの鼻先を掠める。
「速いっ」
シルフィの驚きの声が会場に響く。
同時、彼女の綺麗な顔に描かれる横一文字の血。
致命傷ではない。しかし、シルフィの動きを止めるのには十分な牽制。
「狂犬は対策済み、白髪の女性も動きを止めた。あとは剣王ギレーヌを殺すだけ。もう某の勝ちは揺るがないでしょうな」
「オーベール!まだ私は負けていない!」
歯を食いしばりながら叫ぶギレーヌ。
それに対して余裕そうにニヤけるオーベール。
一対一では勝つことは不可能。
それは揺るがない。
しかし、俺たちは勝たなきゃいけない。
絶対に勝たなきゃいけない。
大切な人を守るために、絶対に負けられない。
そんな覚悟。
それを証明するのは一人の剣士。
「私が、こんな擦り傷で止まると思ったの?」
疑問と同時。刹那、再度赤い髪が揺れる。
エリス・グレイラット、彼女の覚悟がオーベールへと向かう。
「玉砕覚悟の特攻、単純だ。しかし、侮れないのも事実」
そう言いながらギレーヌと同時に相手にすることを決めるオーベール。
エリスは怪我をしている。しかし、動きは衰えない。
その戦況にオーベールも油断を断ち切る。
「本当にタフネスですな。しかし、某の勝ちは揺るがない」
あくまで想定の範囲内だという反応を見せるオーベール。
彼は最初と同じヒット&アウェイで戦おうと試みる。
そう決めて構えを取る。
完璧な戦術、隙のない戦術。
どうする、俺はどうすればいい?
今の俺では、魔力枯渇した俺では何も出来ない。
オーベールのミスを待つしかないのか。
回り続ける思考。
自らの不甲斐なさに項垂れる俺。
しかし、そんな絶望は覆されることになるんだ。
「オーベール。ボクはエリスに治癒魔術を掛けようとなんてしてないよ」
小さく放たれた言葉。
その言葉は俺の耳にしか届かない。
「治癒魔術なんかじゃない。それよりも大事な物。ボクは探してたんだ、ずっと」
彼女はそう言いながら北帝へと掌を向ける。
何かを探していた彼女、そんな彼女の右の掌に込められる魔術。
「ルディ。ボクは、あの日記を無駄になんかしないよ」
言葉と同時、彼女が放とうとする魔術は『風』
刹那、オーベールの背筋が凍る。
「なんだ!某に何をする気だ!?」
オーベールは思考を回す。
シルフィはオーベールの身体の正面に居る、故に彼の背中を風で押して下がらせることを拒絶することは不可能。
いや、寧ろ身体の正面に撃てば楽に下がることが出来てしまう。
なんだ、あの魔術の意図はなんだ?
纏まらない思考。
短い時間の中、オーベールは一つの答えを導き出す。
(風魔術…なるほど、そういうことか!)
困惑からニヤけへと変わるオーベールの表情。
彼の思考が纏まる。
それとほぼ同時、シルフィの掌から風魔術が放たれる。
ドン!!!
「なんという風!なるほど!これで狂犬の背中を押そうという魂胆か!」
オーベールの奇抜な髪が揺れる。
それほどの風、恐らく上級クラスの技。
考慮しなければ距離を詰められていたかもしれない、オーベールはそう考えていた。
「しかし、某には通じん!」
刹那、彼が自らの上着を大きく広げる。
奇抜だが合理的。この行動により、オーベールの上着にシルフィの風が乗る。
効率良く空気を受けるオーベール、彼がエリスから離れていく。
「狂犬より某の方が風を上手く使える!其方の戦術破れたり!」
大きく声を挙げるオーベール。
自信満々に声を挙げる男。
しかし、そんな言葉は簡単に消える。
「わざわざありがとう。上着を広げてくれて」
「何から何までシルフィの言う通りだったわね」
「は?」
オーベールの驚き。
そんな男の胸に一つの球体がくっ付く。
そしてもう一つ、大事な結果がオーベールの脳を揺らす。
「狂犬が、某から離れないだと?」
エリスが左手に握っていた物は『赤玉』
粘着力がある北帝の球、オーベールが自らの懐に隠していた大切な球。
そう、彼女は、そんな球を……オーベールの胸に引っ付けていたんだ。
次回 VS北帝決着
二部のここまでについて。
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