この出来事は、今から少し遡った時のこと。
アリエルとペルギウスが交渉をしていた時の出来事。
「ねぇ、エリス?」
「シルフィ、どうしたの?」
全員がアリエルのブラフに集中する。そんな時、白髪の少女だけは動いていたんだ。
「───」
シルフィの唇が動く。
その言葉は、今の戦況を作るに至る最高の一手だった。
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ガン!ガン!!!
甲高い金属音。否、鈍くも速い高速の金属音が戦場を包み込む。
高速で入れ替わる攻守、オーベールとエリスの撃ち合い。
「北帝、やっと捕えたわね」
「くっ!」
余裕そうだったオーベール、そんな彼の表情が変わる。
彼は歯を食い縛り考える。
今の戦況、自らの目の前に居る獣の存在を。
(なんという凶暴な殺気、接近戦になった途端こんなに生き生きとする物なのか!?)
自らの胸に付けられた赤玉。
それをエリスは左手で掴んでいる。
展開されるのはゼロ距離の接近戦。
剣術だけでは勝てない。馬力が試される圧倒的至近距離。
ブン!!!
エリスの鳳雅龍剣がオーベールの鼻先を掠める。
「なんというパワー!」
「流石は北帝、このぐらいは避けてくるってわけね」
鼻の頭を掠めるエリスの剣。
オーベールは険しい顔をしながら、離れろ!離れろ!と言いながらエリスに剣を振るう。
筋肉を激しく動かし、速い斬撃を繰り出していく。
流石は北帝、その剣は正確無比。確実にエリスの脇腹や頬を割いていく。
蓄積するダメージ。しかし、獣は止まらない。
「……ふふっ、この程度で私が止まると思ったの?」
「なんだ、この獣は……」
エリスが剣撃を一発放つ前にオーベールは二発、三発と放っている。
オーベールの方が多い手数。剣士としては彼の方が数段上。しかし、押されているのは…
『北帝 オーベール』
(何故だ、何故こうなった?あの白髪の女の風魔術だ。あれで崩された。某の赤玉を知り、それを戦略に練り込む頭脳。某以上の奇抜派)
オーベールは剣を振りながら考える。
エリスと情報を共有しなければ彼の赤玉は奪えない。
ということは、前々からこの作戦をしようとコミュニケーションを取っていたということになる。
曲者、曲者。彼はシルフィを曲者だと考える。
そう、その情報。それこそがオーベールの脳を揺らす。
(曲者?某以上の曲者?)
北帝の最高の自信。
自らが曲者だという事実。
それは圧倒的事実。しかし、そんな事実が否定されようとする時、彼のプライドは傷付けられる。
「某以上の曲者は認めん!!!」
彼は大声を挙げた。
圧倒的不利な戦況。
エリスに対しては良くて互角。それに加えてギレーヌも相手をしなければならない。
そして、もう一人。曲者だと認めた少女の相手もしなければならない。
不利という言葉では片付けられないほどの戦況。
しかし、忘れてはならない。
彼は奇抜派の中で最強。
そう、『最強』の剣士。
「エリス!ギレーヌ!押し切ろう!!!」
「「分かった!!!」」
シルフィの合図。
彼女はエリスとギレーヌの踏み込みと同時、掌に魔力を集める。
回復ではない、北帝を追い詰めたあの魔術を放とうとする。
自信のある魔術、彼女の最強の魔術。
「勝った……」
シルフィの言葉。
彼女の呟き。
勝利を確信する囁き。
しかし、刹那、そんな彼女の身体に纏わりつくのは『悪寒』
ドン!!!
シルフィの掌から風魔術が放たれる。
最高の援護射撃。しかし、それこそ曲者が待ち望んでいた物。
「今度は某が利用させてもらうとしよう」
スゥーと息を吸うオーベール。
同時、ある匂いが彼の周りを舞う。
その匂いとは『火薬』
「フゥー!」
「なっ!?」
刹那、オーベールの口から放たれたのは炎。
そして、それだけでは終わらない。
その炎は大炎へと変化する。
「さぁ、混ざりなされ」
炎は酸素によって増大する。
そう、彼の炎は一段階進化する。
敵の、シルフィの風に乗って。
ボン!!!
「あ゛っ!……ゔっ!!!」
「エリスっ!!!」
シルフィが叫び声を挙げる。
大炎を至近距離で喰らったエリス、彼女は炎の中で悶え苦しむ。
敵の攻撃を活用した作戦。その成功にオーベールは笑みを溢す。
「某に喰らった無数の刃と炎。ただの炎ではない、風を利用した最上級の大炎。いくらタフネスな獣でも死ぬしかない」
「丸焼けですな」とニヤけるオーベール。
強者の姿を見せる北帝。
その姿にシルフィが声を出す。
「ボクのせいだ、ボクが風魔術を撃ったから。ボクが弱いから……」
戦闘中にも関わらず俯く。
その背中は途端に小さくなり、大きな声を出す元気など微塵も残ってはいなかった。
「ボクが、ボクが守るって決めたのに」
シルフィの瞳が濡れる。
シルフィの絶望が加速する。
そう、それこそがオーベールの作戦。
炎の火力増大と共に達成したのは自らの風で仲間を葬ったという絶望。
それこそがオーベールの思惑であった。
「いやはや、実質二体撃破とは。ありがたい限り」
「ルディ、エリス……ごめん」
笑うオーベールと涙を流すシルフィ。
勝ったと笑うオーベールと、負けたくない、負けられないと俯きながら呟くシルフィ。
「ボクは、大切な人を守れなかったんだ……」
絶望するシルフィ。そんな彼女からオーベールが目を離す。
加速する絶望。刹那、シルフィの耳を揺らす何か。
「シルフィ、大丈夫」
声の主はルーデウス。
彼が床に這いつくばりながら声を出す。
「エリスは、エリスは……」
苦しそうに息を吐きながら声を出す。
ゆっくりと、この言葉を。
「俺たちの想像を超える」
この言葉と同時、オーベールが背中に居るギレーヌへと身体を向けようとする。
あとは剣王だけだと呟きながら、ギレーヌへと身体の向きを変えようとする。
しかし、それは叶わない。
その行動は、あの少女に止められるんだ。
「某が最強の奇抜派!北帝オーベールである!」
ギレーヌに視線を向ける。
刹那、彼の胸に襲い掛かる違和感。
「胸が引っ張れない?」
「だからぁ……」
オーベールの目の前でパチパチと燃え続ける少女。
そんな少女が声を漏らす。
「この程度で、私が止まると思ったの?」
受けたのは大炎による攻撃、北帝の無数の剣撃。
全てを受けた獣、死んでいるはずの獣。
しかし、少女は止まらない。
「狂犬!!!」
「ルーデウスを守るまで、私は死なないのよ!!!」
丸焦げのエリス、援護に入るギレーヌ。
物語は佳境へと、最終決戦へと移行する。
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赤玉を握り続けるエリス。
彼女はその手を離さない。
死なない。それどころか彼女は手を止めようとしない。
彼女は炎に強い。
学園での複数回による炎魔術の自傷。
オルステッドとの戦いで自らを犠牲にした炎魔術による自傷。
そう、圧倒的な火力を彼女は受け続けてきた。
だからこそ彼女は、この程度の炎では倒れない。
「まだまだこっからよ!」
「くっ!」
オーベールは驚きを隠せなかった。
その驚きを物語る、彼の額に浮かぶ多量の冷や汗。
燃えながらも自らに向かってくる獣に彼は目を見開く。
(もはやタフネスという言葉では表せん。不死身……不死魔族並み。否、それ以上の狂った耐久)
剣を力強く握るオーベール。
そんな彼をエリスとギレーヌが挟み込んでいく。
エリスの剣を受ければギレーヌに斬られる。
ギレーヌを見ればエリスの恐ろしい太刀が襲いかかってくる。
追い詰められるオーベール。
そんな戦況で彼は歯を食いしばる。
ゆっくりと、力強く。
「まだ、まだだ!!!」
オーベールが叫ぶ。
彼の心境は明白だった。
(目の前の獣は恐ろしいほどタフネスだ。しかし、不死身ではない。これほどのダメージ、そろそろ落とせる)
オーベールは腰を落とす。
それは、全てを迎え討とうする決意の構え。
(それに加えて、あの白髪の女も数度の王級治癒魔術と上級クラスの風魔術を連発している。恐らく、魔力枯渇も近いはず)
オーベールが冷静に見定める戦況。
北帝の分析、それは間違えていない。
限界を超えたダメージを受け、息を切らしているエリス。魔力を使いすぎて白い顔をするシルフィ。
この戦況、ここから導き出される答えは一つ。
「ここさえ、ここさえ乗り切れば勝てる!!!」
アリエル陣営を破壊するオーベール。
そう決意するオーベール。
しかし、彼は勘違いしていたんだ。
アリエル陣営は三人じゃない。
エリスとシルフィとギレーヌじゃない。
もう一人、あの男が居ることを。
キラッ
「眩しっ……」
完全にオーベールの頭から居なくなっていた男。
そんな男が隙を作る。
「オーベール。お前の負けだ」
「それは、光と闇ウィ・ターの……」
男の名前はルーデウス・グレイラット。
魔力枯渇して動けない男。そんな男が握っていたのは『鏡』
光、ほんの少しの光。そんな希望が北帝の目元へ。
「まずい、見えな……」
「やっぱり、ルーデウスはすごいわね」
ザシュッ
エリスの言葉と同時、オーベールの胸と背中が切り裂かれる。
エリスとギレーヌ、二人の剣士に切り裂かれる。
圧巻の破壊力を誇る剣筋に晒されるのは、この場で最強の男『北帝オーベール』
「まさか、ここでウィ・ターの鏡を使うとは……」
止まるオーベールの動き。
そんな彼の呟きにルーデウスは言葉を返す。
「ずっと使おうとは思ってた。でも、俺一人じゃ使えなかった。みんなが戦ってくれて、お前の頭に俺が消えたから差し込めたんだ。俺一人じゃ絶対に勝てなかった。オーベール、本当に強かったよ」
日記とは違う。
ルーデウスが挙げるのは彼への賞賛の声。
「ずっと使おうとしていた、か。ふっ、ルーデウス・グレイラット、見事。まさに某を超える奇抜派」
この言葉を放つ北帝。
刹那、膝が落ちる。
奇抜派最強と呼ばれる北帝。
そんな男の意識は、ゆっくりと下界から離れていった。
次回 アスラ王国編最終話
二部のここまでについて。
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