ゾワッ
七大列強の背中に悪寒が走る。
悪寒が走った人物は、七大列強 七位 『北神』
そんな男の背中に、何かが襲いかかる。
「なんだ、この威圧感は」
彼には自身が最強であるという自負があった。
自分が負けるわけないと、七大列強で英雄になる僕が負けるはずがないと。
それほどの慢心。彼は思い知ることになる。
「おせぇよ」
ブン
土の剣が奏でる風切り音。
闘神鎧が奏でる風切り音。
刹那、何かが飛ぶ。
「……は?」
北神の言葉。
彼は大きく目を見開く。
彼は大きく開いた瞳で、自身の左腕を見つめる。
ぐちゃ
鈍い音と同時、北神の後方に飛んでいったのは『左腕』
そう、左腕。北神の左腕。
彼の左腕は役割を失う。
「北神の僕が、英雄になるこの僕の腕が……なぜ、なんだ、何をした!ルーデウス・グレイラット!!!」
北神の身体から消えた左腕。
ボタボタと垂れ続ける血に言葉を返すのは『闘神鎧 ルーデウス・グレイラット』
「切っただけだ」
「まさか、貴様……」
光の太刀でも、ストーンキャノンでもない。
彼は、ルーデウス・グレイラットは……北神に向かって、ただ剣を振るっただけだったんだ。
─────────────────────────
北神は左腕を無くした。
たった一つの事実。それは間違いない。
しかし、認めない。
一人の少年だけは、認めてはいなかった。
「僕は、僕は英雄になるんだ!」
フゥー、フゥーと鼻息を荒くして、その勢いのまま声を荒げる。
「僕は、僕は君なんかに、闘気を纏えない君なんかには負けない!!!」
ドン!!!
刹那、北神が踏み込んだ。
左腕が無くなった北神。しかし、そのスピードは落ちることはない。
血を撒き散らしながら、歯を食いしばりながら、英雄になるんだ!と叫び、神速の如き踏み込みをルーデウスへと向ける。
「さっきは不意打ちだっただけだ!近距離戦は、僕に分がある!」
最強としての自負、七大列強としての自負。
それを込めて、彼は立ち向かう。
彼は、英雄としての道を駆け上がらんと叫ぶ。
ガン!!!
音と同時、北神が振り切った。
世界最高峰と謳われるカジャクトをルーデウスへ。
彼の左胸から右腰を、バッサリと袈裟斬りにする。
「はは、ははは!やはり、近距離戦は僕に分があった!そうだ、そうだ!君は僕のスピードに反応出来な「これで、終わりか?」
北神が笑顔で放った言葉。それを遮るようにして、目の前の男が声を出す。
「は?なんで、確かに手応えは……」
「弱い、何も感じない」
振り終わりの無防備な北神。
そんな彼を、男の左拳が襲う。
ドン!
「うぶっ!」
二回転、三回転。
北神の身体が宙を舞う。
そして、ドサリと。仰向けに地面に倒れる。
「……」
「……」
そのまま数秒、静かな時間が流れる。
何も起こらない時間。
そう、静か。怪物たちの宴にしては、とてつもない静寂だった。
「……僕は、英雄になるんだ」
静寂を切り裂く言葉。
北神が、仰向けのまま呟く。
「僕は、僕は、最強なんだ……」
呟く北神。瀕死の北神に近付いていくのは、最強になった男。
「遠距離はもちろん、近距離も俺の足元にすら及ばない。認めろ。もう決着はついた」
「僕は、僕は負けない!」
叫ぶ北神。
半ば無視して、淡々と言葉を続ける目の前の男。
「お前の敗因は敵の力を見抜けなかったこと。俺が闘神鎧を着用した時点で真っ向勝負を諦め、人質を取るべきだった。そう、例えば、ロキシー・ミグルディアとかな」
「……」
「アイツなら闘気を纏えない。エリスのように重力魔術で勢い良く飛ばせない。まぁ、これほどの実力差。関係ないか」
「僕は、そんなことはしない!」
北神の言葉。
これが本心かは分からない。
彼は、英雄になるためなら犠牲は厭わない。
ロキシーを人質にする。
気付かなかったのか、はたまた本心か。
それは誰にも分からない。
しかし、関係ないだろう。勝負は、ついたのだから。
内容などどうでもいい。
勝者こそが正義なのだから。
闘神鎧。
彼が、北神の頭を握りしめる。
「僕は、僕は……」
「北神、死ね」
北神の苦悶の表情と共に。
刹那、アレクの頭が弾け飛んだ。
─────────────────────────
─エリス視点─
「ルーデウスってね、すっごいの!」
私がまだ子供だった時、良くこの言葉を言ったのを思い出す。
ルイジェルドとルーデウスと一緒に旅をして、すっごく楽しかったのを思い出す。
ルーデウスはね、すっごくカッコいいの。
数年、十数年。私を力いっぱい抱きしめてくれて、大好きですよって言ってくれる。
彼と一緒に居る。それだけが、私の生きがいだった。
「エリス、ここは俺に任せてください」
アスラ王国の時、彼が言ってくれた言葉。
私が片足を失った時、彼が優しく言ってくれた言葉。
私は、この言葉に、少し安心してしまったんだ。
「ルーデウス、ルーデウス。死んじゃ、やだぁ…」
今思えばこの時からだったかもしれない。
魔力枯渇で倒れたルーデウス、ダリウスに剣を突きつけられているルーデウス。
そんな彼に、私は力無く呟くことしか出来ない。
魔導鎧を開発したルーデウス。
今思えば、私はこの時から足手纏いだったのかもしれない。
彼の、強い彼の、足手纏いだったのかもしれない。
ずっと、ずーっと思ってた。
私って、ルーデウスの側に居て良いのかなって。
こんな足手纏いの私で良いのかなって。
でもね、良いとも思ったの。
力で助けられなくても、良いと思った。
弱い、弱い私。
でも、そんな私でも側に居ればルーデウスは笑ってくれる。
朝も昼も夜も。
十数年の時が経っても、私が居るだけで彼は笑ってくれる。
だから、だから、良いと思ったの。
全てが終わりを告げて、戦いが無くなって、ただ二人でたくさん子供を作る。
そんな世界も、良いと思ったの。
「ルーデウス、やったわね」
私の視界を支配するのは、黄金の鎧。
私以外は、その姿に引いている。
理由は単純だった。
「ルーデウス、お疲れ様」
北神を殺して、彼は戦争をした。
歴史に残る戦い。歴史に残る残虐。
彼の鎧に広がるのは、無数に飛び散る真っ赤な血。
五千。いや、一万以上。
彼は、この戦争で殺していた。
圧倒的な殺し。
私は、ただ彼がすごいと思った。
全部終わった。私は、彼の笑顔が見たいと近付く。
結婚した時みたいに、ただ彼と幸せになる。
それだけを思って、彼にこの言葉を。
「ルーデウス」
ゆっくりと、この言葉を。
「大好き」
私たちの終わりに向けて、この言葉を。
「俺は、我だ」
「……ルー、デウス?」
終焉は始まり。
終わりは偽物のゴール。
「我は、闘神鎧」
「ねぇ、ルーデウス……ねぇ、どうしたの!?」
「七大列強三位!闘神鎧である!!!」
大きな声が、血液を揺らす。
私は、そんな光景に、大きな彼の言葉に。
ただ呆然と、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
─────────────────────────
「我は闘神鎧。ラプラスを超える者」
ルーデウス。いや、闘神鎧が声を出す。
呆然と立ち尽くす赤い髪の前で。
「雑魚に興味はない。失せろ」
言葉と同時、エリスの横をゆっくりと通る闘神鎧。
彼の言葉に、エリスだけじゃない、全員が反応する。
「「「ルディ!!!」」」
ロキシーも、パウロも、シルフィも。
全員が声を荒げて名前を呼ぶ。
たった一人の男の子の名前を呼ぶ。
ルディ、ルディと。
私が助けてみせると。
動こうと全員が走り出す。
力の入る足。
刹那、魔術が地面を動かす。
グラッ
「「「!?」」」
闘神鎧が手のひらを地面に向ける。
それと同時、緩くなる地面。
グチャッと、濡れた地面に変化する。
「これは、泥沼……」
ロキシーの言葉。
魔術で師匠と呼ばれた女の子。
正しいはずの言葉。
しかし、あり得ない言葉。
「これほどの広範囲、あり得ないです。いくらルディと言えども、あり得ない」
ロキシーの全員の足の自由を奪う泥沼。
分かっていても抜け出せない。
それほどの泥沼。
その制度を、その威力を全員に撃つ。
それは、あり得ない事象。
まるで不可能を可能にする、かつての老人のような、最強の魔術。
「……やはり、我でも知らない魔術を、この男は持っている」
自我を持つ鎧の言葉。
帝級の技を全て使える鎧でも、関心を持つほどの魔術。
帝級以上の混合魔術、全員を捕まえる魔術。
しかし、捕まえられない者が一人。
覚悟を決めた狂犬が一匹。
闘神鎧の前へと、歩み寄る。
「ルーデウス、大丈夫よ」
「……」
私が守る。
それだけを考えて、少女はこの言葉を。
「私が、ルーデウスを助けるから」
戦争は終焉へ。
たった一つの終わりに向けて、全員が歩き出す。
─────────────────────────
今思えばおかしかった。
全てがおかしかった。
北神に対して行った自らの力を試すような、煽りのような行動。
ロキシーを人質にすれば良かったというアドバイス。
大きな異変。
だからこそ、全員が動けなかった。
エリスが全員引いていたと考えていた戦況。
しかし、違った。
全員。家族は、ルーデウスの殺しに引いていたわけじゃない。
悪い予感がして動けなかったんだ。
「泥沼を、避けたか」
「当たり前よ。ルーデウスの土魔術なら読めるわ」
「……」
エリスの言葉、無視をする闘神鎧。
鎧は、ただ女を置いて去ろうとする。
しかし、出来ない。
その足は、止まる。
「動かない。なるほど、まだ完全に一つにはなっていないか」
自我を持つ鎧。
彼は、ゆっくりと戦況を確認する。
(そろそろ一体化していてもおかしくないと思ったが、なるほど。一筋縄にはいかないというわけか)
強い宿主。ルーデウスの力と心。
闘神鎧は再確認する。
しかし、それだけ。闘神鎧が顔色を変えることはない。
「北神にやられた傷を治す。いや、貴様程度の雑魚。そんなことをする必要はないな」
「ルーデウスのこと、返してもらうわよ」
言葉と同時。
刹那、エリスが踏み込んだ。
─────────────────────────
ドン!
大きな音が鳴る。
同時、エリスが鎧へと飛び込む。
ガン!
甲高い金属音。
闘神鎧は、エリスの剣をその場で受ける。
「なるほど。動けない……」
闘神鎧の言葉。
動けないという言葉。
理由は決して北神に受けた致命傷ではない。
ならば何か。
その理由は単純であった。
(宿主が抗ってくる。泥沼と呼ばれた男が、我の動きを制限している)
未だ一体化していない最強×最強。
故にルーデウスは最強の鎧を制限することを可能にする。
最強を抑制する最強。
ルーデウスが、鎧を一歩たりとも動かさせない。
「うらあああああああ!」
エリスの叫び。
彼女は懸命に剣を振る。
泥沼と狂犬。ここに来て、二人の協力が鎧へと牙を剥く。
ガン!ガン!!!
「防戦一方か」
鎧の言葉。
彼女は北神よりも弱い。比べられないほど弱い。
しかし、鎧に対して撃ち込み続けるのは狂犬。
有利な戦況。
エリスは、息を少し切らしながら剣を振るい続ける。
(ルーデウスの、鎧の動きが明らかに鈍い)
ガン!という複数の金属音。
この音に乗って、エリスが剣を振るう。
見え始める勝機。
彼女は、それに乗って叫ぶ。
「これなら勝てる。私が、ルーデウスを助ける!!!」
笑いながら希望を叫ぶエリス。
大きくなる勝機。
そう、見え始める希望。
しかし、それは彼女の中で。
決して、正しい勝機などではなかったんだ。
『闘神鎧が水神流の構えを取る』
刹那、エリスの背中へと走る悪寒。
嫌な予感。同時、闘神鎧の右手が光る。
「何か、やばい……」
エリスは、ただの水神流なら剣を振り切ろうと考えていた。
相討ち覚悟の剣神流をする。
彼女には、それほどの覚悟があった。
しかし、それでも、それほどの覚悟があっても、彼女の背中には悪寒が走る。
それは、決して弱気になったからではない。
闘神鎧の水神流は、ただの水神流ではない。
「魔術と水神流。カウンターのタイミングでお前にストーンキャノンをぶつけてやる」
「!?」
闘神鎧の恐ろしい言葉。
それこそが、エリスに悪寒を走らせた正体。
泥沼×闘神鎧、最強×最強だからこそ出来る芸当。
闘気を纏える最強だから出来る技。
『神級×神級』
最強のストーンキャノンが闘神鎧の右手へと宿る。
「終わりだな」
動き続けていたエリス、止まられないエリス。
水神流に弱いエリス。
弱い、弱いエリス。
しかし、彼女は、覚悟だけは最強。
ザシュッ
「貴様、何を……」
「ふふっ、まだよ、まだ。止まれないなら、止めれば良いだけ……」
剣神流で動き続けた彼女。
速い動きを続けた彼女。
そんな彼女は、最速の勢いを使って……自らの足を、叩き切ったんだ。
「こんなの、全く痛くないわ」
ルーデウスに比べたら、彼の今までの、今の苦しみに比べたら全く痛くない。
そう呟くエリス。
彼女の足から流れるのは大量の血液。
自身の剣術で自身の足を斬る。
彼女の覚悟は、本当に恐ろしい。
「ルーデウス。今、助けるから」
戦士として、彼女の覚悟がワンランク上がる。
炎を纏った太刀を、タイミングをズラして、闘神鎧へと向ける。
「もう、足手纏いにはならないから」
戦争の終結。
彼女の最大火力を、闘神鎧へ。
終結、終結。
そう、戦争は『闘神鎧の言葉』と共に終わりを迎えるんだ。
「止まったな」
自身の足を斬ったエリス。
自身を傷つけたエリス。
それほどの覚悟。
ルーデウスを守ろうと決めた彼女。
そう、そんな彼女は動きを止めてしまったんだ。
フワッ
水神流を防いだエリス。
恐ろしい方法で回避したエリス。
しかし、そんな覚悟も、最強の前では無力。
「浮いちゃう……」
「やはり、雑魚だったな」
浮上するエリス。
彼女の大量の血が、足から流れる血液が空から雨のように降り注ぐ。
「ルーデウス、ルーデウス……」
彼女が受けたのは『重力魔術』
『動きを止めた者』に放つことが出来るルーデウスの魔術。
そう、彼女は最後まで、ルーデウスに勝つことは出来なかったんだ。
「やだ、やだ……」
点高く浮くエリス。
そんな彼女の下を、ゆっくりと歩く闘神鎧。
「……」
「約束したの、ルーデウスと。二人目の赤ちゃん作るって。たくさん作って、ルーデウスと幸せになるって……」
「……」
「それなのに、なんで、なんでよ……」
エリスの言葉が、小さい言葉が空へと舞う。
刹那、ポツンと、闘神鎧に雨が降る。
「なんで、どっか行っちゃうのよ……」
ポツポツと降る雫。
その正体は、十数年一緒に居たパートナーの『涙』だったんだ。
─────────────────────────
「ねぇ、ルーデウス?私たち、ずっと一緒に居られるかしら?」
「いきなりどうしたんですか?」
「別に、ちょっと気になっただけよ」
「ふふっ、そうですか。エリスは可愛いですからね。エリスが離れたいって言っても、僕が離しません!」
「本当に?」
「えぇ!本当です!!!」
「……」
「……」
「エリス?」
「何よ?」
「大好きです」
「え、ちょっ!何よ!いきなり!」
「ふふっ、可愛いですね」
「なんで、そんな恥ずかしいこと言うのよ……まぁ、私もルーデウスのこと、その、まぁ、大好きよ」
「へへっ、嬉しいです」
「そう?嬉しいの?そうしたら、また今度言ってあげるわよ」
「やった!言ってもらえるんですね!」
「良いわよ、そのぐらい」
「約束ですよ!」
「分かったわよ!約束!」
「ぜったい、ぜーったいですよ!」
「そんなに確認しなくて良いわよ。どうせ、ずっと一緒なんだから」
「……そうですね」
「なんか間があったけど、どうかしたの?」
「いや、そうだなーって思っただけです」
「なんか、今日のルーデウス不思議ね」
「……不思議じゃないですよ。いつも思ってる。これも、いつも思ってること」
「思ってること?」
「俺、エリスのこと」
「ん?」
「愛してる」
「……」
「ずっと、ずーっと……愛してるよ」
物語は、これでは終わらない。
次章 エリス修行編。
二部 残り二章。
二部のここまでについて。
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面白い
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話が暗い