剣の聖地
「結局さ、アイツは一人だったんだよ」
白い空間。戦いの終わりに、神が呟く。
「一人。そう、ずっと、ずーっとね。あの時、あの場所で、フィットア領でエリス・グレイラットと別れなかったから、アイツは本当の意味で一緒になれなかった」
上を向いて佇む。
神のニヤけ面が、大きな波となって襲いかかる。
「皆と戦うって決めて、北神と戦って。でも、勝てない。周りが弱くて足手纏いで、挙げ句の果てには闘神鎧から助けてもらうことすら出来ない」
笑う、ニヤける。
勝利を確信して笑うのは最低最悪の神『ヒトガミ』
「ふふっ。オルステッドを殺した僕の最強の使徒、ルーデウス・グレイラット。望み通り、君と僕の物語を終わりにしてあげるよ」
最後の最後、ルーデウスとの最後に言葉を残して。
ヒトガミは大きく叫ぶ。
「闘神鎧を着て、生命力を使い続ける!!!それこそが苦痛の、君の終わりの始まりさ!!!」
苦しめ、苦しめ。
僕を一瞬でも焦らせて追い詰めたんだ。
なるべく苦しんで死んでくれよ。
そう考えて、呟いて。
彼が覗く先は、現世。
「……は?」
ヒトガミが素っ頓狂な声を挙げる。
不思議な光景。ルーデウス・グレイラット。彼は、まだ終わらない。
「なんで、なんで、そうなるんだよ……」
ヒトガミが覗く現世の先には、金色に輝く鎧が一つ。
「我は、生命力を使わない」
闘神鎧。鎧は、一人の男に惚れる。
「我は、この男と共に超える」
『ルーデウス・グレイラット』
彼の戦いは、まだ終わらない。
「ラプラスを超えるために、最強になるために。我は、この男と共に生きる!」
歯軋りするヒトガミ、笑う闘神鎧。
最強の土魔術を使う男と、恐ろしいほどの闘気を纏える鎧。
『最強×最強』
ルーデウス・グレイラット。
闘神鎧に初めて選ばれた男は、ただの一人の魔術師だったんだ。
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昔、昔。大きな戦があった。
闘神鎧と魔龍王が相討ちで終わった戦。
伝説に残る最強と最強の一戦。
ぶつかるだけで大陸を滅ぼした生きる災害達は、互角の勝負を繰り広げた。
死んだ二つの最強。
片方は転生を待ち、片方は閉じ込められた。
何もない、真っ暗な所で。
「何故、何故我は勝てなかった」
動けない身体、何も出来ない身体。
そんな中で、闘神鎧は考えていた。
「我は、あの時、何故ラプラスと五分にしかならなかった」
常に強者を狙う『闘神鎧』
考える敗因。しかし、答えは出てこない。
「何故、何故我は……」
分からない。それだけが、鎧の答えだった。
それから長い時が経った。
一人の人間が、闘神鎧を解き放った。
「へへっ、先輩を殺すために。ルーデウス・グレイラットに『死』という選択肢を与えるために、付き合ってもらうぜ」
そう言いながら男は鎧を連れていく。
この時、鎧は何も考えてなどいなかった。
また、誰かが我を着るのか。
そんな繰り返す地獄の、ありふれた日々への予測だけだった。
「北神、闘気はこの程度で十分か?」
目を覚ました。すごく心地良かった。
初めてだった。我には最強である自負があって、全ての魔術、剣術を帝級クラスで扱える。
我は全てを扱える。そう、我は確信している。
しかし、違った。最強な我でも。全てが扱えるはずの我でも、驚くほどの魔術が数多くあった。
ストーンキャノン、泥沼。乱魔にエレクトリック。
知らない魔術。我は、この時知ったんだ。
我の足りない物を。
我が魔龍王に勝てなかった理由を。
「我は、この男を生かす」
未来への戦い。
我がラプラスを超える旅。
「そして、最強になる」
我が選んだのは不死魔族ではない、最強でもない。
闘気が纏えない男、ちっぽけな人族の男。
しかし、最強のストーンキャノンを放てる男。
かつて、オルステッドを殺した男。
我の足りない物を補う男。
我は、そんな男と共に生きるために、歩き出す。
生命力ではない、魔力を使って歩き出す。
ルーデウスの『魔導鎧』という記憶を辿って、最高効率で魔力を使う。
「身体が動かしづらい。しかし、やるだけの価値はある」
ラプラスを超える者。
闘神鎧の覚悟が、金色に光り始める。
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何もない荒野。
砂が吹き荒れる地に、一人の少女が歩みを進めていた。
「私、こんな顔してたんだ」
何キロ、何十キロ。
少女は、ふと足を止めた。
そこにあったのは小さな水溜まり。
少女は少し笑って、自身の顔を見つめる。
「……」
水溜まりにあったのは、随分とやつれた顔。
まるで蝉の抜け殻のような、何かを失った顔。
ボーッと見つめて、自身の前髪を触れる。
その心情は、たった一つ。
「この髪、昔ルーデウスにサラサラって褒められたのよね」
赤い髪に触れるのは『エリス・グレイラット』
彼女は何かを思い出すように笑って、再度立つ。
一人の旦那さんを思い描いて、剣を握る。
「ねぇ、ルーデウス」
上を向いて、考える。
エリスは、目を瞑る。
「大好き」
歩みはギレーヌと共に。
彼女が足を進める先は、あの場所。
そう、強さを求める場所。
『剣の聖地』
救う。彼女が思い描くのは、それだけの愛情。
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ある場所で、ある空間で、家族が涙を流していた。
ルーデウスが居ない、ルディが居なくなったと。大粒の涙を流していた。
泣いて、泣いて。
苦しんで、苦しんで。
居なくならないでと懇願する。
そう、願い。しかし、家族はそれでは終わらなかったんだ。
「ライトニングを、私の王級魔術を強化してきます」
「ボクもやるよ。治癒魔術を鍛えて、闘気をもっと分厚くする」
ルーデウスのお嫁さんの覚悟。
アイシャとアルスも、アスラ王国で迷惑を掛けたからと覚悟を決める。
そう、全ては……
『ルーデウスのために』
そして、一人。
ヒトガミと泥沼。この物語を終わらせる人物が、道場に殴り込む。
ルーデウスの灰色のローブを羽織って、鋭く眼光を光らせる。
「なんだ、お前?」
「私は、エリス・グレイラット」
剣神に剣を向けるのは、たった一人の女の子。
「……」
一呼吸置いて、赤い髪が叫ぶ。
「ルーデウスと一緒に生きる、一人の剣士よ!!!」
道場に響くのは、そんな覚悟の礎だった。
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エリスの叫びと同時、辺りを包むのはブーイング。
エリスに対するブーイング。
それは、止むことはなかった。
「いきなり殴り込みだと!舐めやがって!」
「おい、ギレーヌ!コイツはなんなんだ!」
エリスとギレーヌに浴びせられる罵声。
そんな中、右手を上げて静止したのは剣神。
そしてゆっくりと言葉を続ける。
「ルーデウス……泥沼のことか。話には聞いてるぜ。オルステッドを殺した七大列強二位の人族。さらには、アスラで水神もぶっ殺してやがる」
俺がオルステッドを越えたかったんだがな。
そう呟き、エリスを見つめる剣神。
彼は顎に触れ、探るようにエリスに問う。
「そして、お前は泥沼の嫁ってわけか。なるほどな……よし、そんなお前に俺から質問だ」
「質問?私にそんな時間は無いわ」
「ははっ!まぁ、落ち着けよ。面接みたいなもんだ」
大きく笑う剣神と睨みつけるエリス。
しかし、刹那。剣神の笑いが止まる。
「俺と泥沼、どっちが強い?」
言葉と同時、剣神が出したのは殺気。
いや、厳密には違う。練り出したのは闘気。
七大列強六位と謳われる人族が、本気の闘気を練り出す。
周りの人間が冷や汗をかき、動けなくなるほどの闘気。
それを、全てエリスに向ける。
闘気を食らう赤い髪。
彼女の答えは、たった一つ。
「ルーデウスよ」
「……なるほどな」
エリスの言葉。
彼女の即答と同時、剣士たちが文句を言い始める。
「何を言ってる!人族が剣神様に勝てるわけないだろ!」
「この猿!強さを見定めることも出来ないのか!」
再度降りかかってくるのは罵声。
しかし、お構いなし。
剣神は、何も無いかのように口を開く。
「ふっ。コイツは泥沼と一緒に龍神を殺し、北帝も殺してんだ。俺の闘気にビビらなかったのが何よりの証拠。間違えてはねぇだろ」
剣神の言葉に、黙る剣聖たち。
エリスは、それをただ黙って聞く。
「俺よりも強い人族か。そんで、お前は、どうやってそいつを倒そうとしてんだ?」
「……分からないわ」
「ふっ、随分素直だな。まぁ良い。お前ら、ニナを呼べ。コイツと戦わせる」
「「「「なっ!!!」」」」
この言葉に、驚いたのは剣聖たち。
「剣神様、お待ちを!ニナが出るまでもありません!この程度の者、私が必ず倒します!」
「くだらねぇ、さっきも言っただろ?奴は龍神と北帝を殺してる。実力は本物だ。お前らじゃ相手になんねぇよ」
そう言われ、歯を食いしばる剣聖。
悔しがる剣聖。後ろに居たのは、濃紺色の髪が特徴的な女の子。
「剣神様、私ならここに居ます」
「ニナ、居たか。よし、お前がエリスの相手をしてやれ」
「……承知しました」
そう言いながら木剣を握るニナ。
その動きを見て、エリスも木剣を握る。
「さぁて、始めようぜ」
剣神の呟き、構えるのは強者の二人。
「剣神様に言われたから戦うけど、死んでも文句言わないでね」
「……殺す」
ニナVSエリス。
剣の聖地の始まり。そのゴングが、二人の対決と共に鳴り響き始める。
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『ニナ・ファリオン』
剣神 ガル・ファリオンの娘にして剣聖である少女。
しかし、剣聖とは名ばかり。
実力で言えばギレーヌにも引けを取らぬ傑物。
そう、分かりやすく言えば『剣王』
ギレーヌと同等の実力を持った猛者。
そんな少女に立ち向かうのはエリス・グレイラット。
狂犬と呼ばれる少女が深く腰を落とす。
「おい、ギレーヌ」
「?」
「お前の目から見て、ニナとエリス、どっちが勝つと思う?」
「……そんなの決まっている。当然、あっちだ」
剣神の言葉に、ギレーヌが指を指した方向は……
「ほう、やっぱりそうか」
赤い髪が特徴的な少女、エリス・グレイラットだった。
バン!
刹那、地面から鳴ったのは爆音。
その音の主はエリスではない。
最速の踏み込みを見せるのはニナ。
彼女が、剣聖の力を見せつける。
「随分と、遅いようね」
そう言いながらニナが放つのは『光の太刀』
彼女の一番の技が、エリスへと向かう。
ドゴ!
鈍い音と同時、薄く笑みを作るのはニナ・ファリオン。
それが意味するのは光の太刀の命中。
恐ろしいほどの彼女の太刀が、エリスの胸を切り裂く。
「すごかったのは、自信だけだったようね」
振り終わるニナ。
彼女は、ゆっくりと上体を起こす。
剣神流の基本である先手必勝を掲げ、倒れているエリスを見つめようと目線を上げる。
しかし、違う。
そこに居たのは、弱い少女ではない。
倒れた剣士では無い。
たった一匹の、眼光を光らせる獣だった。
ドゴン!
「ぶはっ」
燃える木刀。
エリスは、それをニナの顔面へと叩き込む。
歯を食いしばって、炎の太刀を送り込む。
ただの一つの剣筋。
光の太刀ではない、ただの剣を猛者へと叩き込む。
「何よ、これ……」
ニナは驚いていた。
絶対の自信を持つ己の光の太刀。それを自身は命中させた。
しかし、目の前の獣は倒れない。それどころか、反撃を行なったのだ。
そして、その反撃は異常。
恐ろしい破壊力を持つ、ただの太刀。
「弱いわね」
エリスの呟き。
それに言葉を返すのは、諦めない剣士。
「まだ、まだ!私は、アンタみたいな山猿には負けない!」
(剣神様に、恥ずかしい所は見せられない!)
ニナは腰を落とした。
攻撃を食らった身体に鞭を打って、歯を食いしばる。
「アンタじゃ、私には勝てない!」
彼女は、力強く木刀を握る。
それと同時、スピードには私に分があると叫ぶ。
ただの太刀で私の光の太刀を上回る破壊力。しかし、それを手数で押し切ってやると考え、身体に力を込める。
動き出す身体。
活性化する身体。
しかし、その動きは止まることになる。
何故なら、彼女は、スピードでも置いていかれることになるのだから。
「……消えた?」
ニナの言葉に返事をするのは、赤い髪。
「ルーデウスのストーンキャノンはね、もっと強くて、速かった」
ニナの背後を取るのはエリス。
彼女は、光の太刀を撃てない彼女は、決して速いとはいえない。
しかし、近距離戦では別。
狂犬は、近距離では最速の獣へと変貌する。
「ルーデウスに比べたら、アンタも弱いわね」
ドゴン!
二度目の太刀。
木刀とは思えない爆音が道場へと響き渡る。
恐ろしい破壊力。ただの太刀は、たった二発で、分厚い闘気を纏う少女を粉砕する。
「がっ」
白目を剥き、床に倒れるニナ。
彼女はピクピクと痙攣し、床に突っ伏す。
「ルーデウスはね、すごいのよ。すっごく、すごいの」
ブツブツとルーデウスの名を呟くエリス。
それと同時、周りの剣聖たちがザワザワと騒ぎ始める。
「ニナがやられたのか?」
「炎を纏った太刀?なんだよ、それ」
罵倒は困惑へと変貌する。
それほど異質の戦い。
異質の勝者へと歩み寄るのは剣神 ガル・ファリオン。
「ルーデウス、ルーデウスって。お前、イカれてんな」
「……ルーデウスは、すごいもの」
「ふっ。自分が勝ったのにそれだけか。やっぱりイカれてんな。でも、最高だ」
龍神殺しの片棒を担いだ狂犬。
ルーデウスと歩んだ狂犬。
そんな獣の、運命が変わる。
「エリス・グレイラット、合格だ。俺が、お前を鍛えてやる」
ルーデウスを救う。
未だ見えない希望へと、手を伸ばす。
「お前を、最強にしてやる」
笑う剣神、ぺっと血を吐くエリス。
勝負は、ここから始まりを迎える。
「俺の次に、最強にしてやる」
エリスの戦い。
ちっぽけな一人の剣士。
そんな剣士が、狂犬が『怪物』と呼ばれる未来が待っていることを、この時はまだ誰も知らなかったんだ。
原作とは異なった強さの方向性になります。
エリスの成長。楽しみにしていただけると嬉しいです。
二部のここまでについて。
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面白い
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話が暗い