もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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奥義 光の太刀

─ニナ視点─

 

私は負けた。

一人の剣士に、一匹の獣に。

うつ伏せに倒れる私。

剣聖達は、そんな私を見つめて、慰めてくれた。

 

「木刀ではなく真剣なら、初撃の光の太刀でニナが勝っていた」

 

そう声を掛けてくれた。

でも、違う。

本当は違う。

私は分かってる。

 

私は、私は、赤い獣に負けたんだ。

剣術じゃない。勝負で、私は負けたんだ。

 

 

木刀を使った『殺し合い』で私は、エリス・グレイラットに敗北したんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

 

獣に負けてから数日が経った。

私は、剣神様に呼び出された。

 

「アイツは、お前らみたいな修行で強くなった甘ちゃんじゃねぇ。戦場での叩き上げ、格上を殺してきた野郎だ」

 

「格上殺し。はい、私も感じました」

 

「そうか、分かってるなら良い。とりあえず、ニナ。お前はエリスと修行をしろ」

 

「……分かりました」

 

私は、小さく返事をした。

悔しさに顔を歪ませながら。

下を向いて、私は覚悟を決める。

 

『エリス・グレイラットを倒す』

 

それだけを目標に、私は獣と修行をすることにした。

 

 

─────────────────────────

 

 

獣と修行するようになった。

獣、エリス・グレイラットには目を見張るものがあった。

 

「エリス・グレイラット。やっぱり、随分とストイックね」

 

「……まだ居たのね」

 

早朝四時、まだ外は暗い。

そんな中、獣は眼光を光らせながら目を覚ましていた。

ギラギラと目を輝かせ、彼女は布団から起き上がる。

 

「いつもこんな時間に起きてるの?それとも今日だけ?」

 

「別に、いつもこの時間に起きてるわ」

 

私の質問に獣が答える。

獣の解答、私は納得する。

やっぱり、何かを成し遂げようとする者は強い。

悔しいけど、他の奴とは違う何かを、この獣は持っている。

 

その『何か』私は見つけるために獣の後を追った。

 

「さぁて、何するのかしら」

 

超えるために、勝つために。

私は、獣の動向を探る。

 

「剣の修行か、精神統一か。炎魔術って線もあるわね」

 

さぁ、見せてみろ。

私は、薄暗い部屋で目を輝かせる。

何が来る。何がある。

 

そんな期待に胸を膨らませた私の目に飛び込んできたのは、イカれた物だった。

 

「ねぇ、ルーデウス?ふふっ、ルーデウス。もっと、もーっと一緒なんだから……」

 

「……は?」

 

私の目に飛び込んできたのは、灰色のローブ。

そう、ルーデウス・グレイラットのローブ。

 

それを、スンスンと嗅ぎながら顔を赤くするのはエリス・グレイラット。

 

人の服を嗅いで顔を赤くする。

理解出来ない、ありえない光景。

私の目には、そんなイかれた光景が広がっていたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

馬鹿と天才は紙一重という言葉がある。

本当にその通り。

今、この時、この瞬間、私はこの言葉が本物であると痛感することになる。

 

「あ、あんた、何してんのよ……」

 

「何よ、ルーデウスの匂い嗅いでるだけよ」

 

ローブに顔を埋めて私の方を向く獣。

獣は、まるで当たり前だとでも言うように、匂いを嗅いでるだけだと言ってきやがった。

 

頭がおかしいと思った。

でも、獣曰く違うらしい。

 

ルーデウスという男も、龍神を殺した七大列強も、毎日女の子のパンツの匂いを嗅いでいたらしい。

 

うん、意味が分からない。

どういうこと?

 

「スゥーハァー……ルーデウスはね、すっごく良い匂いだから、嗅ぐと幸せになるの」

 

この言葉と同時、獣が見せるのはニマニマとした笑顔。

私に勝った時も、剣神に認められた時も見せなかった笑顔。

そんな笑顔は、いとも簡単に見ることが出来るようだった。

 

「私、こんな奴に負けたなんて……」

 

私は赤い顔を見つめながら絶望する。

こんなアホで、馬鹿でイカれた奴に負けたのかと、私は絶望する。

 

だから、その現実から目を背けるために。

 

『馬鹿と天才は紙一重』

 

私は、スンスンとローブの匂いを嗅ぐ獣の隣で、この言葉を信じるようになった。

 

 

─────────────────────────

 

 

獣は読み書きが出来る。

私は、その事実に叫び声を挙げた。

 

「アンタぁ!馬鹿そうなのに、というか馬鹿なのに、なんで私より読み書き出来んのよ!!!」

 

「うるさい」

 

カリカリと文字を書きながら私の言葉を聞く獣。

私は、歯軋りしながらそれを見つめる。

 

「ぐぎぎ、めちゃくちゃ悔しい……というか、アンタは愛しの彼を剣で助けたいんでしょ?なんで読み書きなんてしてんのよ」

 

「愛しの彼……ルーデウスのこと?ルーデウス、ルーデウス。だって、ルーデウスが好きだから。ルーデウスが教えてくれたんだもの。忘れたくないの」

 

愛しの彼という言葉に反応する獣。

奴は急にペンを置き、上を向きながらニマニマと笑い出す。

ルーデウス、ルーデウスと呟いて、ふふふと笑い出す。

 

獣の姿。私は唖然とする。

 

なんというか、好きっていう次元超えてるわね。

自分の全てを捧げても良いっていう気概、本当にイカれてるわ。

呆れる私。しかし、それと同時、羨ましいとも思った。

 

「全てを捧げられる相手、かぁ」

 

上を向きながら呟く私。

ぼーっとする私の耳を、獣の声が揺らす。

 

「まぁ、ルーデウスを救いたいっていうのは本当よ。そのために、解読したい魔術と理解したい原理があるの」

 

「は?解読したい魔術?アンタが?……ふふっ、出来るわけないじゃないの。魔術とかって論文読まないといけないって聞くわよ?出来るわけないない」

 

ケタケタと笑う私。

それを、獣はスルーしながら剣を握る。

 

「ねぇ、お願いがあるの」

 

「ん?何よ」

 

「教えて欲しいことがあるの」

 

力強い眼光。私はケタケタとした笑いを止める。

感じる覚悟。私は獣を見つめて、次の言葉を聞く。

 

「光の太刀、私は習得する」

 

剣聖としての資格。

獣の覚醒を、私は思い知ることになる。

 

「光の太刀、私は必ず闘神鎧に叩き込む!」

 

「……」

 

光の太刀と愛しの人。

獣との約束は、ここから始まりを迎えるんだ。

 

 

─────────────────────────

 

『光の太刀』

 

この技は、奥義にして、剣神流を最強の流派へと導いた技。

全ての無駄を省き、合理性に特化させたことにより生み出すことが出来る剣筋。

 

剣神流と光の太刀。

 

この二つは、切っても切り離せぬものである。

 

「お願い、私は必ず習得しなきゃいけない」

 

言葉と同時、私に頭を下げる獣。

私は、そんな獣の手を取った。

 

(ゴツゴツした手。恐らく、相当剣を振り込んでる)

 

私と同等か。いや、それ以上か。

たった一つの握手。私は、それだけの行動で覚悟を感じとる。

 

「ふっ、なるほどね」

 

やっと分かった。この獣は天才なんかじゃない。強いわけじゃない。

ただ、努力をしてきただけ。

大切なものを守りたいと、必死に踠いてきただけなのだと。

 

そう思えた時、私の頬は不思議と持ち上がってた。

 

「光の太刀の習得、良いわ!教えてあげる!その代わり、良い男居たら私に紹介しなさいよ!」

 

「……ルーデウスは、嫌よ。私のだもの」

 

「いや、取らないわよ。アンタの中での良い男って、その強い彼しか居ないのね……」

 

私は苦笑いをして、獣を見つめた。

ルーデウスとかいう男のことになると表情がコロコロ変わる獣。

私は、そんな獣の腕を取る。

 

「ほら、行くわよ!」

 

本当に、私は何やってるんだろう。

超えたい者にわざわざ光の太刀を教えるなんて。

 

でも、良い。それで良い。

私は、その上で超えてやる。

この獣を、ぶっ倒してやる。

 

「目指すは、剣神様やジノを超えた光の太刀よ!」

 

最強の光の太刀。

それだけを目指して、私たちは木刀を握った。

 

 

─────────────────────────

 

 

─エリス視点─

 

魔術の勉強をして、身体を鍛えて、剣を握る。

全てはルーデウスのために。

ルーデウスを救うために。

 

私は全てを捧げる。

でも、出来ない。

 

私は、強くなれない。

 

「はぁ、はぁ」

 

息が切れる。

私は光の太刀を習得しようと剣を振るっていた。

全力で、歯を食いしばって。

でも撃てない。

 

苦しむ私。

そんな姿を、隣の剣士が見つめていた。

 

「なんで、光の太刀撃てないのかしらね」

 

そこに居たのは、私に負けた剣士。

しかし、私が勝てたのは木刀だったから。

急所を外したとはいえ、真剣なら負けていたかもしれない相手。

そんな相手。名前は忘れた。

 

私は、そんな剣士に教えを乞う。

 

「やっぱり、私はダメね。ルーデウスみたいに上手く出来ない」

 

「はぁ。アンタね、ルーデウス、ルーデウスってうるさいのよ。七大列強の怪物と比べてどうするわけ?」

 

「……そうね、ルーデウスと比べたら私はダメダメね」

 

「だから、それが比べてるって言ってるのよ……まぁ、でも不思議よね。アンタの近距離戦を見たけど、そこらの剣聖より動き速かったわよ。筋肉もあるし、動きに無駄があるってわけでもなさそうだし」

 

なんで撃てないのかしら?そう呟きながら上を向く剣士。

その姿を、私は見つめる。

 

「筋肉もあって、瞬発力もある。うーん、相手に合わせる戦術眼もある……ん?戦術眼?」

 

自らの言葉に反応する剣士。

そんな剣士が、もしかしてと呟きながら私に近付いてくる。

 

「ねぇ、アンタ。そのルーデウスだっけ?愛しの彼のこと忘れて剣振ってみなさい」

 

「そんなの、無理よ」

 

「良いから、私の言う通りにしなさい」

 

グッと近付いて、私を睨みつける剣士。

私は、その姿に、その圧に少し仰け反ってしまう。

 

これほどの覚悟。意味は分からないがやってみる価値はありそうだ。

ルーデウスを救うために、ルーデウスを忘れる。

 

私は、覚悟を決めて剣を握った。

 

「ふぅー、ふぅー……」

 

呼吸をして、目を瞑る。

ルーデウスのことを除けば、私の中に残るものは何もない。

 

ただの無。

 

そう、何もない無の境地。

何も感じず、何も考えない。

覚悟すら忘れて、私は剣を握りしめる。

 

(撃つ!)

 

目を見開いて振るう。刹那、私の身体が止まった。

 

「エリス、どうしたの?」

 

「……やっぱり出来ないわ」

 

私は俯いた。

長年染みついたルーデウスの共闘。

ルーデウスの戦士になるという願い。

 

無になれ。言っていることは分かる。

 

でも、出来ない。

だって、ルーデウスは私の全てだから。

ルーデウスが居なくなったら、私は生きる意味が無くなるのだから。

 

常にルーデウスを頼って、一緒に生きてきた私。

 

そんな私がルーデウスを忘れる?

そんなことは、出来ない。

やっと気付いた。

私は弱い。ルーデウスが居なきゃ何も出来ない。

私はルーデウスが、すごいルーデウスが居ないと生きていけない。

 

俯く私。

刹那、私の胸ぐらが掴まれる。

 

「アンタ、舐めてんの?」

 

「……舐めてるのかもしれないわね」

 

「!?認めんじゃないわよ!何言ってんのよ!アンタは舐めてないわよ!一人の男のために戦う道を選んで、今真っ先に命を投げ出して戦おうとしてる!」

 

私には、出来ない。

そう言いながら、剣士が薄く笑う。

 

「私はね、アンタの今までの戦いとか見てない。でも、私も剣士の端くれ。佇まいとか、身体とか。それらを見ればアンタが頑張ってきたことなんて容易に想像出来る」

 

悔しいけどね。そう呟いて、剣士は私を見つめる。

 

「だから、一つ言ってあげる。もう、その愛しの彼は居ないってこと。アンタの後ろに、アンタを助けてくれる旦那さんは居ないってこと」

 

「なんで、そんなこと言うのよ」

 

ルーデウスが居ない。

その現実を叩きつけられて、私の瞳が少し潤む。

歯を食いしばる私。刹那、剣士は笑う。

 

「でもね!アンタは一人で戦える!」

 

叫び声。

大きく放たれた言葉に、私は目を見開く。

 

「エリス・グレイラット!アンタは、今は一人……でもね!だからこそ!アンタは強くなれんのよ!」

 

ピンチはチャンス。

ルーデウスが居ないという事実。

そのピンチを、チャンスに変える。

 

「しっかりと踏み込んで、剣を振るってみなさい。後衛なんて気にせず自由に。それだけで、アンタは撃つことが出来る」

 

「……」

 

「剣神流最強の奥義を、光の太刀を」

 

「そうね、ありがとう」

 

私は剣士の言葉を受け、再度剣を力強く握った。

ルーデウスが居ないという事実。

私が認めたくなかった事実。

 

でも、違う。今は違う。

 

ルーデウスを救うためにルーデウスと離れる。

彼の戦士になるために、私は剣を振るう。

 

少しのお別れ。

でも、悲しくない。

 

「エリス、ありがとう」

この言葉が聞けるなら、私は頑張れる。

 

ねぇ、ルーデウス?

久々に会ったら、自慢出来る剣士になるから。

 

それだけを考え、私は笑う。同時、行ったのは大きなバックステップ。

 

自身の足へと力を込めて。

 

全てをこの一発に。

全ては、ルーデウスを救うために。

 

ルーデウスを救うために、ルーデウスを忘れる。

それだけが、私の覚悟。

 

バン!!!

 

大きな爆音。

踏み込みと同時、無から放たれる炎の太刀は、驚きの光景を叩き出す。

 

「ははは。アンタ、やっぱりバケモンよ」

 

「アンタじゃなくて、エリスで良いわよ」

 

「ふふっ。了解」

 

ニナの瞳に映るのは、大きなクレーター。

地形を変えるほどの剣。エリスの太刀。

 

そう『炎の太刀×光の太刀』

 

その威力は、クレーターを作るほどの馬鹿げた威力。

 

「本当に、なんというかって感じね」

 

やれやれと呆れるニナ。

私は、そんな彼女に質問する。

 

「ねぇ、ニナ?」

 

「ん?何よ」

 

「ルーデウスも、これ見たら褒めてくれるわよね」

 

「……いや、褒めないわよ。ドン引きするでしょ」

 

この言葉と同時。目を見開いて俯くエリスと、そりゃあそうでしょと笑うニナ。

俯くエリスと笑うニナ。

表情は真反対。しかし、二人は隣同士で歩き出す。

クレーターを背にして、ゆっくりと歩き出す。

 

地形を変えるほどの威力。

彼女が習得したのは、それほどの技。

 

『エリス・グレイラット』

 

彼女は、確かに、人ならざるものへと変貌を遂げていたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

「なんだ、お前」

 

剣神の道場に、一人の少女が殴り込む。

 

「強くなりにきました」

 

青い髪を揺らして、溢れ出る殺気を纏って。

少女は覚悟を見せつける。

 

「強くなりにきた?まさか、お前は……」

 

虚ろな瞳。少女は、即座に殺気を隠す。

 

「私は、殺す」

 

笑う剣神、睨む少女。

綺麗な顔立ち。彼女の正体は、最高峰と言われる剣士。

 

「お師匠様の仇、私が必ず取る」

 

「……」

 

始まるのは、最高にして最悪の一幕。

 

「七大列強二位 ルーデウス・グレイラット!私が、必ず殺してやる!」

 

叫ぶのは、たった一人の少女『イゾルテ・クルーエル』

新たな水神となった少女。最強へと挑む天才。

 

そんな水神流の剣士が、この物語を揺らし始める。

 

 

 

 

 

 

二部のここまでについて。

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