ドガン!
「これで、二十人目ね」
この言葉を放ったのは、赤い髪の少女。
剣聖との組み手。
倒れる剣士の山を見つめるのは、エリス・グレイラット。
「エリス。もう少し距離を取って踏み込めば光の太刀のスピード上がるわよ」
「分かったわ」
「まぁ、現状でもアンタに勝てる剣士なんて剣神様と最近張り切りまくってるジノぐらいだろうけどね」
やれやれと手を広げ、首を振るニナ。
エリスは、そんな中で研鑽を積む。
誰よりも強くなる狂犬。その姿を見た剣士たちは、こんな噂を流す。
『次世代最強の剣士』
あの若き天才『ジノ・ブリッツ』
そんな男と肩を並べる、最強の剣士。
『狂犬 エリス・グレイラット』
圧巻の破壊力を持つ狂犬。
強い、確かに強い。
しかし、そんな少女でも一筋縄ではいかない。
そんな人間が木刀を持って現れる。
「こんにちは。狂犬さん」
青い髪。
虚ろな瞳をしながら現れたのは『神級』の剣士。
「……誰?」
「私の名前は、イゾルテ・クルーエル。泥沼の話を伺いにきました」
水神流最強の剣士。
エリスの次の関門は、カウンター。
「ルーデウスの、こと?……ルーデウス!良いわよ!すごい所いっぱい話してあげる!」
目を輝かせるエリス、虚ろな瞳をするイゾルテ。
剣聖最強の剣士と、水神流最強の剣士。
そんな二人が、物語の中で絡まり合う。
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─エリス視点─
「ルーデウスはね、すっごいんだから!」
私は、元気に言葉を放った。
「ルーデウスはね、ルーデウスはね!」
大きな声で、元気に。
私はルーデウスのことを話す。
ルーデウス、ルーデウス。
私を守ってくれたこと、すごくて強くてカッコいいこと。
理由もなく話す私。
ニナが、そんな私を軽く小突く。
「もう、その泥沼がすごいことは分かったから、エピソード話しなさいよ。エピソード」
龍神との戦いとか、北神との戦いとか。
そういうのを話せというニナ。
私は、その言葉にもっと大きな笑顔を作る。
「分かったわ!」
ルーデウスのことならいくらでも話せる。
この言葉を、事実を、私は話そうと口を開く。
しかし、その口は止まる。
止まった理由は、単純だった。
「反吐が出る」
私の言葉を遮るのは『イゾルテ・クルーエル』
彼女が、冷たい目で私を見つめる。
「泥沼、本当に気色悪い」
目の前の奴は何を言ってるんだ?
泥沼が気色悪い?ルーデウスが、カッコいいルーデウスが気持ち悪い?
止まる思考。そんな中、降り注ぐのはこの言葉。
「三人の妻を娶って、はしたない行動ばかり」
ミリス様を見習えば良いのに。
この言葉を放ち、目の前の女は祈るように目を瞑り、自身の胸に手を当てる。
そして、その姿で放たれる次の言葉に、私は眉を動かすことになるんだ。
「そして、何より泥沼は、殺したんだ」
「……」
エリスの沈黙。
刹那、イゾルテの脳裏に映るのは、血に塗れたあの日の光景。
「そう、殺した。私のお師匠様を、お祖母様を」
牙を見せるエリス。
殺気を隠すイゾルテ。
新世代の剣士が、互いにぶつかり合う。
「だから、私が殺すんです」
「アンタ、それ以上言ったら殺すわよ?」
殺気丸出し。
木刀を力強く握るエリスへと、イゾルテは言葉を残す。
誰もが気圧されるほどの殺気。そんな殺気にイゾルテは笑う。
「ルーデウス・グレイラット。最強の人族を、私が殺します」
「殺す」
「可哀想な子犬。泥沼の魔術で洗脳されているんですね」
「黙れ」
「大丈夫。私が、ミリス様に変わって泥沼の洗脳を解きましょう」
噛み合わない会話。しかし、関係ない。
その理由は単純。剣士は剣で語り合うのだから。
狂犬VS水神
両者の戦いは、握られる木刀と籠る殺気の中、始まりを迎える。
─────────────────────────
次世代最強の剣士は誰か?
この質問に、ニナはこう返す。
「悔しいけど、エリスかジノでしょうね」
盤面を破壊する最強の獣、エリス。
スピードを備えた最速の剣士、ジノ。
この二人。ニナは、この二人こそが最強であると考えていた。
「何よ、これ」
ニナは目を見開く。
それほどの恐ろしい光景が、彼女の瞳を支配する。
「はぁ、はぁ……」
「龍神殺しを担ったと聞き、少しは期待していたんですが……はぁ、想像以上に弱いんですね」
ニナの瞳を支配するのは、最強が膝を落とす光景。
『エリス・グレイラット』次世代最強の一角が、落ちる。
「泥沼殺し。少なくともあなたでは、私を止めることは出来ない」
最強を倒す剣士『イゾルテ・クルーエル』
ニナの瞳に映るのは、水神が獣を飼い慣らす光景であった。
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現水神 イゾルテ・クルーエル
かつて剥奪剣界を使いこなしたレイダ・リィアの後釜は、若き少女だった。
水神を決める戦い。
イゾルテは、勝ち続けた。
水神の奥義を二つ使える剣士は居なかった。しかし、一つは使いこなせる剣士たち。
そんな剣士たちを、何の奥義も会得していない少女が次々と薙ぎ倒していった。
「やっぱり、お師匠様のように上手くは出来ませんね」
そう、会得しなかった奥義。
代わりに彼女が体得したのは、最高の基本。
「でも、基本なら誰にも負けない」
最強の基本。叩き込んだのは、あの技を封じるため。
「ストーンキャノン。今の私なら、基礎を極めた私なら、受け切れます」
全ては泥沼を殺すために。
その日、青い髪の少女は、大量の水神流の屍の上で水神になる。
誰にも文句を言わせず、満場一致で『最強』に成り上がったんだ。
─────────────────────────
─ニナ視点─
エリスは強い。
悔しいけど、これは事実だと思った。
いや、現に本当のことだと思う。
強い。すごく強い。悔しいけど私よりも。
強い獣。でも、最強じゃない。
その理由は、目の前に広がる光景。
「はぁ、はぁ」
「嘘でしょ……エリスの攻撃が一発も当たらないなんて」
私も受けた速い近接戦闘。
懐に飛び込んだ瞬間、無限とも呼べるスピードで飛んでくる炎の太刀。
私が負けた神速の如き接近戦。水神イゾルテは、それを全て捌き切ってみせたんだ。
「弱い、本当に話にすらなりませんね」
佇む水神の足元には、息を切らして座り込むエリス。
有り得ない。エリスが、あの体力の多い獣が息を切らすほど打ち込んでも一発も当たらない。
意味が分からない光景が、私の前に広がる。
「あなたも、私と戦いますか?」
私の方を向き、そう問いてくる水神。
私は、黙ったまま水神を見つめる。
「結果は変わりませんが、戦闘スタイル的にあなたの方が良い勝負が出来ると思いますよ?」
「……」
薄く、嘲るように笑う水神。
私は、そっと顔を上げる。
「……ふふっ」
「何を笑ってるんですか?」
「いや、何でもないの。ただ、おかしくって」
笑う私。
その視線の先には、殺意を込める獣。
「だって、だって、戦いはまだ終わってないでしょ?」
笑いを止める私。刹那、水神が振り返る。
少し目を見開いて、そっと振り返る。
「立つんですね」
水神の目に映るのは、佇む獣の姿。
「ルーデウスは、私が守る」
「そうですか、頑張ってください」
睨むエリス、笑う水神。
戦いは、もう一度。
獣の最後の太刀が、敵を切り裂かんと燃え盛り始める。
─────────────────────────
イゾルテは笑っていた。
薄く、薄く。どうやって心をへし折ってやろうかと考え、笑っていた。
「意味が分かりませんね。勝負はついているというのに」
呆れるように言葉を放つイゾルテ。
彼女は、言葉を並べていく。
「子犬さんの接近戦は全て捌き切りました。そして、子犬さんにはそれ以外の技がない、接近戦しか能がない獣。泥沼を調べる上で簡単に把握することが出来ました」
「……」
「意味が分かりませんか?簡単に言えば、あなたが弱いってことです」
手数の少ない剣士は水神の格好の獲物。
そんな事実をイゾルテは説明する。
エリスはイゾルテに勝てない。
この事実。
反論するのは、ニナ・ファリオン。
「ふふっ。色々言ってるみたいだけど、間違ってるわよ」
「私が、間違えていると?」
「エリスには接近戦しか能が無い。この事実は、間違えてる。得意なのは確か。でも、エリスにはあの技がある」
ニナの言葉。
刹那、エリスがするのはバックステップ。
「距離を取った?」
接近戦とは真反対。
エリスは、距離を取らんと後ろに下がる。
そして、そのまま、腰を落とす。
究極の殺意と共に。
「七大列強でも上位陣しか出来ないと言われた地形を変える攻撃。エリスは、それが出来る」
「……」
「あの技が、エリスにはある」
あの技。それは、ニナが教えた究極の奥義。
『光の太刀』
炎を纏った刀を、最速の奥義に乗せて放つ。
ドン!
爆音と同時、エリスの踏み込みがイゾルテへと向かう。
最速にして最強。七大列強をも上回る火力が水神へと向かう。
狙うは喉元。
急所を刺して、殺す。
エリスが考えるのは、それだけの短期戦。
「……勝った」
ニナの呟き。
同時、何かが耳を揺らす。
そう、何か。有り得ない言葉。
「……やはり、駄目ですね」
ドン!!!
最強の光の太刀。それを見て、イゾルテは刀を抜く。
こちらも最速の抜刀。用意するのは極上のカウンター。
受けられない、受け切れるわけがない。
ましてや初見。受け切れるはずがない。
確信するニナ。殺せると確信するエリス。
しかし、刹那、ニナが見たのはイゾルテの有り得ない表情。
「……ふふっ」
有り得ない、有り得ない。
そう、有り得ない表情。
水神 イゾルテ・クルーエル。彼女は、笑っていたんだ。
バン!!!
爆音が鳴った。
その瞬間、エリスの身体が宙を舞う。
まるで鳥のように高く、そして速いスピードで空を舞う。
それが意味するのは、エリスの終わり。
最速の太刀は、いとも簡単に崩される。
復讐に燃える、最強の水神によって。
「ふぅ、終わりですね」
「なんで、なんで。あの威力を見て足が竦まないのよ」
ニナの言葉。
それに言葉を返すのは、倒れる獣の前で佇むイゾルテ・クルーエル
「あの威力……ふふっ。あぁ、あの炎の太刀のことですか?私の足が竦まなかった原因、簡単ですよ」
笑うイゾルテ。
彼女は、恐ろしいことを口にする。
「あの子犬さんの技は、泥沼のストーンキャノンより威力がありますか?」
「……は?」
「私は、泥沼のストーンキャノンを受けるために剣を振ってきました。そのために徹底したのは基本の反復。今の私には、ストーンキャノンより弱い技は止まって見えます」
意味が分からない。
そう呟きながら、ニナが目を見開く。
しかし、驚くのは一瞬。ニナは確信していたんだ。
「いや、単純な話ね。私でも分かる。水神 イゾルテ・クルーエル。アンタは……いや、エリスと同じ。アンタもイカれてる」
エリスと同様。イゾルテはルーデウスだけを見ていた。
救うと殺す。感情は真反対だが、それでも見続けていた。
そして、それをイカれてると評したニナ。
彼女が口を開く。
「エリスの負けってわけね」
ニナの言葉を受け、イゾルテは背中を向ける。
「それじゃあ、今度こそさようなら」
そう言いながら、背を向けるイゾルテ。
ニナと、そしてエリスから離れていく。
狂犬から、ゆっくりと離れていく。
あなたたちなんて眼中にない。
水神の背中から放たれるのはそんな言葉。
もう、終わり。
それを証明する背中。
しかし、刹那、水神の想像を、ニナの想像をも超えるのは『エリス・グレイラット』
「苛烈なる炎の精霊にして地獄に轟く黒の落とし子よ」
エリスの詠唱。
それと同時、イゾルテの足が止まる。
「それは、まさか?」
「今こそ大地に這い上がり拳を振り上げよ」
「上級炎魔術の詠唱……」
イゾルテは、ゆっくりと言葉を放つ。
足を止めたイゾルテ。背中を向けたまま、横目で獣を見つめる水神。
そんな彼女。
最強の水神が見せる表情は、まるで嘲るような『笑顔』だったんだ。
「ふふっ、ふふふ。今更上級炎魔術?そんなもので私が……「エグゾダスフレイム」
笑顔、嘲るような笑顔。
しかし、その笑みは数秒にして消え失せる。
それほどの大炎。最強の予想すらも超える、圧巻の炎。
「これが、この大炎が上級魔術?」
大きな炎の球体。
その熱気と共に聞こえてくるのは、こんな言葉。
「……もう一度言ってあげる」
ボロボロのエリス。
彼女が放つのは、あの言葉。
愛しの人を想う、たった一つの事実。
「私が、守る。ルーデウスを」
言葉と同時。
刹那、大炎が水神を飲み込んだ。
─────────────────────────
「エリス、私たちの完敗ね」
ボロボロで丸焦げになった道場。
パチパチと燃える場所で、二人の剣士が仰向けに寝ていた。
「……そうね」
炎魔術によって無くなった天井。
彼女たちは空を向いて、言葉を交わしていた。
「まさか、あの水神。最後の最後、アンタの炎魔術受け切るなんてね」
「……」
「まぁ、あれで倒せないならしょうがないわよ。エリスが弱いんじゃない、アイツがおかしかったのよ。精神的にも技術的にも、アイツの方がイカれてたし」
慰めの言葉。
刹那、獣が瞳を潤ませる。
「私って、ダメダメね」
水神に負けた。
この悔しさを言葉に乗せて。
「本当に、私はダメ。ルーデウスに比べたら、ダメダメ……でも!」
快晴の青空へ握った拳を突き付ける。
「ルーデウスは!私が死なせない!!!」
目指すもの。
彼女の次なる目的地は、歴代最強の水神倒し。
─────────────────────────
「……エリス・グレイラット。まさか、あれほどとは」
水神 イゾルテ・クルーエル。
一人の少女が、木刀を引き摺りながら歩いていた。
「あれが、上級炎魔術。あんな威力、有り得ない」
彼女は、この言葉を呟きながら膝を落とした。
刹那、右腕の鎧が取れる。
剥き出しになった腕。そこには、赤黒いものが広がっていた。
「くっ……これほどの魔術。あの獣の破壊力、恐ろしい」
膝を落とす水神の右腕を支配するのは『火傷』
彼女は、最強の剣士は、受け切れてなどいなかった。
受け切れなかった魔術。
水神が思い出すのは、放つ瞬間の刹那の一言。
『ルーデウスのストーンキャノンは、この百倍は速くて強いわよ』
自傷の火傷に苦しみながら、小声で。
彼女は、苦痛に顔を歪ませる。
「……ちっ、泥沼のストーンキャノン。今の私じゃ受け切れない」
痛みと悔しさ。
彼女の感情を支配するのは、それだけの苦痛。
苦痛と復讐。彼女は、力強く木刀を握る。
「剣神に認められたエリス・グレイラットの破壊力。次こそは、完璧に受けきってみせます」
全ては泥沼を殺すため。
それだけを考え、剣士は歩き出す。
エリスとイゾルテ、二人の少女の物語。
そんな物語。激しい物語は、ルーデウスという人物の周りで、ゆっくりと回り始めていたんだ。
二部のここまでについて。
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面白い
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話が暗い