もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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獣は、愛に飢えている。


水神VS狂犬

 

「破壊力、破壊力か」

 

小さい言葉。

呟くような言葉を、一人の剣士が呟く。

 

「確かに、あるよなぁ。破壊力。でも、そこじゃねぇんだよ」

 

誰にも聞こえない声。

右腕を火傷し、膝をつく水神を遠くから眺めながら、人族最強の男が声を出す。

 

「俺がアイツを。狂犬を認めたのはそこじゃねぇ」

 

剣神 ガル・ファリオン。

最速にして最強の男が、エリスと戦ったイゾルテを見つめる。

 

「水神 イゾルテ・クルーエル。きっと、お前も気付くことになるぜ」

 

水神の勘違い。

ニヤける剣神が見つめるのは『未来』

 

「奴の、エリス・グレイラットの、本当の恐ろしさをな」

 

水神VS狂犬。

エリスの隠された強さが、愛する人を救う『鍵』となる。

 

 

─────────────────────────

 

 

 

─エリス視点─

 

私は、弱い。

とてもとても弱い。

 

分かっていたはずだ。

思い知っていたはずだ。

でも、分かっていなかった。

 

そう、私は、何も分かってなどいなかったんだ。

 

自分自身への自責、無念。

私は薄暗い部屋で、座り込んで考える。

 

水神を超える。

 

それだけを考えて、私は木刀を握りしめる。

 

どうすれば良い?

こんな時、何をすれば良い?

 

巡る思考。

考えるという行動に、ドアのノックする音が割って入る。

 

コンコン

 

「……誰?」

 

「私よ、ニナよ」

 

扉越しに居たのは、強い剣士。

彼女が、扉越しに少し怒った声色を見せる。

 

「呼びにきたのよ。アンタ、全然ご飯食べてないじゃない。それじゃあ愛しの彼を救う前に痩せ細って死ぬわよ」

 

愛しの彼、ルーデウス。私は、ルーデウスのことを考えて、ニナに問いかける。

 

「ねぇ、ルーデウスならどうすると思う?」

 

「ん?いきなり何よ」

 

「そのままの意味よ。ルーデウスなら、水神をどう倒すと思う?って聞いたの」

 

考え込むニナ。

私は、黙って彼女の言葉を待つ。

 

「うーん、そうね。泥沼って魔術師だけど近接戦闘も怪物なのよね?そうしたら、やれることも多いわよ。岩で牽制して、一気に接近して……いや、違うわね」

 

「……?何が違うの?」

 

「違うでしょ。そもそも私たちに関係ないし。良く良く考えてみなさいよ。最強の龍神、あのオルステッドを殺したストーンキャノン。アンタが練習したら打てるようになるわけ?」

 

「……打てない」

 

「でしょ?怪物と比べても意味がないのよ。不器用なアンタは、特に人のやってることなんて真似出来ないんだから」

 

いつのまにか扉を開け、部屋に入ってきたニナがやれやれと腕を広げる。

 

「だーかーら、アンタは私みたいな凡人を見習いなさい。私みたいに殺気を消して、シュン!って倒すのよ。一瞬でシュンって!」

 

それで相手を殺す。

殺気を込めない、それこそが水神流潰しの基本。

彼女が、そう呟く。

ニナの渾身のアドバイス。

しかし、そんな彼女の自信のある言葉は、私の耳には届いていなかった。

 

「殺気を込めない……」

 

私の呟き。

殺気。この言葉が、私の脳に引っかかる。

 

「ルーデウスも、ルイジェルドも言ってたわね」

 

私の師匠、ルイジェルドの言葉。

視線で相手を誘導し、倒す。そんな言葉。

そして、水神流のスペシャリスト。オルステッドを倒したルーデウス。

彼の、この言葉。

 

『エリスの殺気、押しつぶされそうなぐらいの圧ですね』

 

愛しの彼の、こんな言葉。

 

「やっと、見つけたわ」

 

ニヤリと、私の口角が上がる。

 

「ほら、やっぱりそうでしょ?殺気を消せば水神も殺せるのよ。頑固なアンタを認めさせる。やっぱり私って名コーチね〜」

 

フフフと得意げになるニナ。

私は、そんな彼女を凍り付かせる。

 

「殺気は、無くさない」

 

「…は?」

 

ニナの素っ頓狂な声。

私は、前を向く。

 

「寧ろ、増やすの。ルーデウスじゃない。私にしか出来ないことで、水神を超えるの」

 

目指すは次世代最強。

ルーデウスを救うために、私は歩み出す。

 

「殺気で押し潰す。好物で、水神にゲロを吐かせる」

 

握る木刀に殺気を込めて。

私は、リベンジに向けて……

 

赤い髪を、ゆっくりと靡かせた。

 

 

─────────────────────────

 

 

一ヶ月後

 

「俺のスピードに付いてくるか。基本を極めた水神、まぁまぁやるじゃねぇか」

 

「いえ、まだまだです」

 

水神と剣神。神の名を冠する二人の剣士が、木刀を握りながら話し合う。

 

「剣神様に比べたら、私はまだまだ荒削り。これから精進いたします」

 

「まぁ、確かにお前は弱くはねぇが、目指すのが泥沼殺しだっていうなら、その強さじゃ足りねぇな」

 

「その通りでございます」

 

言葉と同時、水神が木刀を構える。

さぁ、もう一戦。そう言いながら、剣神へと戦いの眼差しを向ける。

水神と剣神。二人の空気が混ざり合う。

誰も邪魔など出来ない。

それが、確かな共通認識だった。

 

バタン!

 

刹那、鳴ったのは扉が開く音。

神の立ち合いに、一人の獣が牙を剥く。

 

「あなたは、あの時の……」

 

「随分と、久しぶりね」

 

腰に木刀を携えて。

水神を睨みつけるのは、最強の獣。

 

「……狂犬」

 

「私も覚えてるわよ。水神 イゾルテ・クルーエル。私は、アンタを超えるために生きてきた」

 

笑う剣神。

睨む水神。

 

そして、殺意を覗かせる『エリス・グレイラット』

 

「私は、アンタにルーデウスを殺させない。アンタの思い通りになんてさせない。だから、私と戦いなさい」

 

「……剣神様、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ふっ。あぁ、もちろんいいぜ」

 

ゆっくりと下がる剣神。

佇む狂犬。

 

そして、ゆっくりと獣に向き直るのは『水神 イゾルテ・クルーエル』

 

「私も、あなたに傷を負わされたのが心残りだったんです。ちょうどいい。今度こそ、心を折ってあげます」

 

「殺す、ぶっ殺す」

 

水神VS狂犬。

第二ラウンドが、始まりを迎える。

 

 

─────────────────────────

 

 

─イゾルテ視点─

 

一ヶ月前に燃やされた右腕。

完全に治ったはずの右腕。

 

そんな私の右腕が疼く。

そう、私の右腕は、目の前の獣を前に小刻みに震えていた。

 

「本当に、獣ですね」

 

この言葉に深い意味はない。

込めた意味は、たった一つ。

込めた意味。それは『敬意』

前回苦しめられた者への敬意を、私は言葉に乗せる。

 

(あれから一ヶ月、獣は何をしていたのか……)

 

「すぅー、はぁー」

 

大きく息を吸って、吐く。

深呼吸と同時に私が高めるのは『闘気』

水のように静かに流れる闘気を、私は練り上げていく。

 

(獣の一ヶ月。奴のことだ。サボっていた……というのはありえない。ならば、やっていたことなど一択)

 

私が予想するのは、最強の魔術。

唯一私に届いた、最強の一手。

 

「炎魔術、今度こそ受け切ってあげます」

 

さぁ、撃ってみろ。

私は、大きく足を広げて構える。

奴が一ヶ月間修行した炎魔術。

あの、身も心も焦がすような魔術を受け切るために。

 

前回よりも強化される炎魔術。

私は、それを受け切るために腰を落とす。

 

「もう、あなたは意表を突けない。それが意味するのは、あなたの負け」

 

言葉と同時、私は前を向く。

意表、完璧な私の予測。

しかし、刹那、私の心を支配したのは『驚き』

 

「……は?」

 

素っ頓狂な言葉と同時、目の前の獣が構える。

そう、構え。私を睨み付ける構え。

奴の腰を落とした構えに、詠唱などは存在しなかった。

 

「殺して、やる」

 

この言葉と同時、獣が握るのは木刀。

 

「剣術、ですか」

 

私は目を見開いた。

揺れる心。確かに、私は驚いていた。

しかし、その感情はすぐに終わる。

『呆れ』へと変わる。

 

「本当に、ここまで馬鹿だとは思いませんでした」

 

ゆっくりと放つ言葉。

獣は、この一ヶ月何をしていたのかという呆れ。

私に一ミリも通用しなかった剣術。

それを鍛えていたと知った私は、大きくため息を吐く。

 

「すぐに、終わらせてあげます」

 

ドン!!!

 

刹那、狂犬が飛び込んだ。

鋭い踏み込みは、確かに一ヶ月前とは別物。

スピードは上がり、パワーもそれに順じて上がっている。

しかし、違う。

それでは、私には勝てない。

一番大切な物が、まるで改善されていない。

 

「殺気が、ただ漏れです」

 

「……」

 

相性すら理解出来ない獣。

ガッカリする私の頭。

 

そんな私がするのは、最速の抜刀。

速くも確実なカウンターを、獣の首元へ。

 

「倒します」

 

腰を落とした獣が行うのは、最速の横薙ぎ。

私の右腰から左腰に向けて放つ一閃。

私は、そこにカウンターを合わせる。

殺気を消して、ただ合わせる。

獣の横薙ぎに対して、私も腰を低くする獣の首へと横薙ぎを放つ。

 

急所への攻撃。

タイミングは完璧。

私の剣が当たるのは確実。

 

絶対に、必ず勝てる。

私の頭は、そう信じて疑わなかった。

 

ピタッ

 

「……え、なんで?」

 

「やっぱり、引っかかったわね」

 

私は、目を見開いた。

先ほどから行われる驚きの連鎖。しかし、その驚きは先ほどまでとはまるで違う。

私の中に芽生えるのは恐怖。

大きな殺気を込めた獣、その真意が明らかになる。

 

「剣が、止まった?」

 

ブン!

 

私の剣だけが空を切る。

刹那、獣が剣筋を切り替える。

 

「私にしか出来ないこと。これが、私の出した答え」

 

横薙ぎから斜めに変わる剣筋。

ずらしたタイミングの正体は、偽物の殺気。

 

バン!!!

 

「ぐっ!」

 

大きな殺気がイゾルテを襲う。

七大列強を彷彿とさせる剣が、水神を襲う。

エリスの剣。その正体は、水神をも欺く……

 

愛情と殺気が籠った『フェイント』だったんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

『フェイント』

 

この技術は、珍しくもなんともない。

北神流と剣神流であれば誰もが使う技。

しかし、違う。

フェイントには、致命的な欠陥がある。

 

欠陥。それは……『殺気がないということ』

 

バン!!!

 

「ぐっ!」

 

エリスの剣筋。

それを受け、イゾルテが仰け反る。

 

「流石に、これじゃあ終わらないってわけね」

 

「エリス、エリス・グレイラット!」

 

流石は水神。

意表を突かれたフェイントに対し、彼女は脱力で受け切る。

かつてルーデウスがアトーフェや北神にやったような受けの一手。

水神は、簡単には倒れない。

 

ガン!ガン!ガン!!!

 

剣がぶつかる。

最大の火力とフェイントを駆使して戦うエリス。

水神は、それを受ける。

しかし、攻撃出来ない。

エリスの攻撃は、それほどに厄介だった。

 

(フェイントと攻撃……なんで、なんで、違いが分からない。殺気を読めば本物なんて簡単に……殺気?)

 

ここに来て気付く。

恐ろしいほどのエリスの才能。

ルーデウスでは、否、誰がやっても真似出来ぬ芸当。

 

エリスが行った選択。

それは『全てに殺気を込める』ということ。

フェイントも攻撃も関係ない。

全て、殺すという覚悟で剣を振るう。

 

ブン!!!

 

エリスの剣先が、イゾルテの鼻先を掠める。

 

(フェイントと攻撃。私でも分からないほどの鋭い殺気……このままじゃ、負ける)

 

フェイントを織り交ぜることで、スピードは実質二倍へと跳ね上がる。

強化される獣。水神でも苦戦する戦術。

しかし、関係ない。

水神は、そこらの剣士とは格が違う。

 

「強い、あなたは確かに強い。それは認めるしかないですね」

 

読めない殺気。

水神は、それを受け止め戦術を変える。

 

「一発で、沈めてあげます」

 

「……」

 

止まることのないエリスの動き。

水神は、その動きを見ながら前傾姿勢を取る。

もう、脱力で受け切ることはしない。

覚悟を決めるような、勝負を確実にする者の構え。

 

「エリス・グレイラット。あなたは私が倒す」

 

エリスの攻撃。

それを、じっくりと見つめて。

 

(殺気は読めない。それは認めましょう。でも、カウンターの取り方はそれだけじゃないんですよ)

 

殺気は見ない。

水神が見つめるのは視線。

エリスの視線を、水神はじっと見つめる。

 

「やはり、来ましたね」

 

エリスの視線が、イゾルテの右腰を見つめる。

それを、その一瞬を、水神は見逃さない。

 

「泥沼に向けての肩慣らし。良い準備運動でした」

 

水のように静かな剣が、エリスの元へと向かう。

そこにミスはない。

一瞬にして振られる水神の剣。当たるまで数ミリ。近付く決着。

狂犬が負ける、そんな事実。獣が負けるという事実。

そう、不変的で確実な事実。そのはずなのに。目の前の、殺気を丸出しにする獣は……笑っていたんだ。

 

「ルーデウス、思い出すわね」

 

エリスの笑顔。

獣の頭に浮かぶのは、かつての転移事件。

昔、昔の楽しかった日の思い出。

 

「ルーデウスと、そしてルイジェルドのおかげで、私は成長出来た」

 

言葉と同時、水神の背中に走るのは寒気。

ゾワッとする、最悪の悪寒。

 

「なんで、なんで……」

 

「ルイジェルドがね、言ったの」

 

狂犬が剣を振りかぶる。

そこから弾き出されるのは光のような太刀筋。

閃光のような太刀筋……それが、変わる。

視線とは異なる、最速のフェイントへと昇華する。

 

「視線での相手の誘導……ルーデウスとの日々が、無駄だったなんて言わせない」

 

楽しくて、強くなれた日々。

ルーデウスとの、幸せな日々。

 

それがエリスにもたらした物は『成長』

彼女は殺気で騙し、視線で誘導する。

 

次世代最強と呼ばれる『水神』を相手に。

 

「これが、狂犬。これが、愛に飢える獣……」

 

バン!!!

 

爆音と同時。

エリスの横薙ぎが水神を襲う。

圧巻の破壊力が、イゾルテへと直撃する。

 

それが意味するのは『変化』

最強が、この日、この瞬間、変わる。

 

「ぶはっ……」

 

「私の、勝ちね」

 

次世代最強。

この称号は、この日、この瞬間『エリス・グレイラット』へと移り変わったんだ。

 

 

 

 

 

二部のここまでについて。

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