もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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剣神VS狂犬 前編

「良くぞ、良くぞここまで……」

 

狂犬VS北神。

一年間の勝負が、終結に向かう。

 

「ふぅー、私の勝ちね」

 

英雄を超えて。

彼女が目指すのは、最強への道。

 

「北神二世 アレックス・カールマン・ライバック、世話になったわ!」

 

奇抜派とフェイント、そして基礎技術。

この日、この時、エリス・グレイラットが……覚醒する。

 

 

─────────────────────────

 

 

「エリス、アンタやるわね」

 

私は、剣聖を超えた。

 

「本当に、あなたは獣ですね……」

 

私は、水神を超えた。

 

「エリス殿、まさか、ここまで成長するとは……」

 

私は、北神を超えた。

 

「やっと、ここまで来たわね」

 

強くなって、強くなって。

ずっと、ずーっと走ってきた。

強いと呼ばれる剣聖を超えて、神と呼ばれる剣士を、私は倒してきた。

 

「ルーデウス、待ってて」

 

言葉と同時。

私は拳を握りしめる。

最後の試練に向けて、瞳を鋭く光らせる。

 

「私が、ルーデウスを助けるから」

 

『救い』

この願いのために、彼女は最強を超える。

 

「エリス・グレイラット。少し、話でもするか?」

 

「……」

 

狂犬と最強。

エリスの前に現れたのは、人族最強の剣士。

 

「ガル・ファリオン……」

 

七大列強六位 剣神 ガル・ファリオン。

エリスにとっての最後の試練が、始まりを迎える。

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

「話って、何よ」

 

道場の床に座る。

狂犬は足を伸ばし、剣神は胡座で座る。

両者、共に星座はしない。

 

「別に、大したことじゃねぇよ」

 

足を伸ばす狂犬に、剣神は怒らない。

それは、剣神が寛大だからか?呆れているからか?

否、違う。剣神は、狂犬を自らと対等であると考えていたんだ。

 

「一年半前の問い。その答えを、聞こうと思ってな」

 

「……」

 

一年半前の問い。

剣神が、天井を見上げる。

 

「泥沼。七大列強二位となった人族の怪物を、最強を、お前はどうやって倒す?」

 

「……」

 

エリスは、剣神の問いに黙った。

あの狂犬が、殺気を込めて動き続ける獣が黙る。

このあり得ない事実に、問いを投げた剣神が笑う。

 

「ふっ、だろうな。分かるはずがねぇ。答えられるはずがねぇ」

 

「なんで、そう思うの?」

 

エリスの疑問。

答えるのは、修羅場を潜った猛者。

 

「愚問だな。それは、お前が一番良く分かってるはずだ。走り、成長し、強くなったお前自身がな」

 

エリスを認める剣神。

彼が、言葉を続ける。

 

「倒すってのは、言うなれば救いだ。殺しよりも難しい救い。倒し、闘神鎧を引き剥がし、助ける。それが、どれほど難しいことか。今のお前なら分かるはずだ」

 

実力を付け、成長したエリス。

だからこそ分かる、最悪の事実。

倒すのは、殺すより難しい。

 

「七大列強二位 泥沼。俺は、奴を超える」

 

天井を見上げていた瞳を、エリスへと向ける。

剣神は、ある物を出す。

 

「昔、俺が負けたオルステッド……それを超えた男。俺は、奴を……」

 

ある物、それは『欲』

剣神の底知れぬ欲を、この言葉に込めて。

 

「泥沼を、殺す」

 

水神とは違う。

復讐などという理由は微塵もない。

ただ、そこにあるのは強者としての欲。

超えたい、自分の力を試したいという欲求のみ。

 

「殺すことでしか奴は止められねぇ。だから、お前も……「断るわ」

 

死は救済。

この言葉を否定するのは、愛する者を持つ『エリス・グレイラット』

 

「私は、ルーデウスを救える」

 

一年半前は断言出来なかった事実。

それを、大きな言葉にして。

 

「私は!ルーデウスと一緒になれる!!!」

 

剣神と狂犬。

真逆の意見が、道場へと響き渡る。

 

「そうか、なるほどな」

 

燃える殺気。

増え続ける欲。

刹那、剣神が剣へと手を伸ばす。

 

「あのオルステッドを、最強を殺した泥沼を救うか……良いぜ。それぐらいじゃなきゃ、やる意味がねぇ」

 

瞳を開いて、エリスを睨みつける。

楽しみと高揚が、剣神の心を支配する。

 

「良いぜ、良い。じゃあ、証明してみろ」

 

泥沼を救う。

この不可能を、証明するために。

 

「俺を超えて、剣神の俺を超えて、お前の強さを証明してみろ!!!」

 

望む所。

エリスも、そう呟き剣を握る。

両者の剣は真剣。

最上級の剣士の、最高級の二本の剣。

喉笛と鳳雅龍剣。

二つの光が、辺りを照らす。

 

「人族最強は……」

 

「俺だ/私だ」

 

剣神VS狂犬。

真剣による最後の試練が、始まりを迎える。

 

 

─────────────────────────

 

 

剣を携える剣士。

睨み合う二人の剣士を、三人の剣士が遠巻きから見つめていた。

 

「やっぱり、戦うことになるんですね」

 

北神二世が呟く。

この言葉に言葉を返すのは、エリスの戦友。

 

「当たり前よ。エリスは闘神鎧を、あの泥沼を超えようとしてるんだから。剣神様を超えようとするのは必然」

 

「やはり、そうですよね」

 

北神とニナ。

二人の剣士が、言葉を交わす。

 

「エリス殿と剣神殿。どちらも強い。それは間違いない。でも、しかし……」

 

俯く北神。

言葉を遮るのは、ニナ・ファリオン。

 

「言葉、濁さなくて良いわよ。エリスは確かに強い。それは間違いない。でもね……」

 

「……」

 

息を吸って、吐いて。

剣神を最強と認めて、ニナは声を絞り出す。

 

「剣神様は、強い」

 

エリスでは勝てない。

そう言いながら、彼女は推測を立てる。

 

「勝つのは九対一で剣神様……いや、勝率はそれ以下と私は考えてる」

 

ニナの言葉。

それを聞いて、アレックスが俯く。

 

「そうですね。私は、エリス殿の研鑽を見てきました。この一年間、ずっと。私は、長い間生きてきた。でも、そんな私でも、人族最強と言われる剣神殿。あれほど強い剣士は見たことがない」

 

「……」

 

「嫌、なんです。もう、強い人が絶望する所は見たくない。剣神に負けて、勝てないと悟り、剣を置いてしまう。私は、そんなエリス殿は見たくない」

 

刹那、アレックスの脳裏に過ぎるのは大切な息子の姿。

アレクサンダー・カールマン・ライバックの震える姿が、彼の脳を支配する。

剣士としての誰かが死ぬ。

その未来に、彼は俯く。

 

英雄として、師として、父として。

 

彼は、狂犬を心配する。

俯く北神。

それを見つめるニナ。

 

二人の光景。

そんな光景に、一人の神が入り込む。

 

「はぁ、お二人とも、舐めすぎです」

 

そこに居たのは、神の名を冠する剣士。

水のように流れる闘気を持つ、強者。

 

「あの狂犬が、負けて絶望する?ふふっ。有り得ませんよ。有り得ない。それに、勝ち筋が10%なんて……あなた方も見る目がない」

 

彼女の名は「イゾルテ・クルーエル』

先見の目を持つ水神が、呟く。

 

「100%。そう、狂犬は、あのエリス・グレイラットは……」

 

水神の呟きと同時。

最強同士の対決が、始まりを迎える。

 

「剣神に、勝つ」

 

小さな呟き。

水神の呟き。

しかし、そんな呟きは、熱く、硬く、鋭い力が篭っていたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

「……」

 

「……」

 

真剣を持った二人の最強は、とても静かだった。

剣神流の勝負とは思えない静けさ。

水のように冷たく、動かない戦場。

しかし、違う。

これは、嵐の前の静けさに過ぎない。

 

道場に熱気が篭る。

篭った熱気で、エリスが汗をかく。

 

じんわりと、じんわりと。

ゆっくりと、汗が流れる。

 

「さぁ、やるか」

 

剣神の言葉。

刹那、エリスの顎先から汗が一滴、滴り落ちる。

 

ポツン。

 

雨のように落ちる雫。

静かな道場に響く、静かな水。

極限の集中状態。覚悟を決めた者にしか聞こえぬ音。

小さな、小さな音。しかし、そんな小さな音こそが、最強同士の開戦の合図。

 

ドン!!!

 

刹那、爆音が鳴る。

その音は、狂犬の足元から。

 

ガン!

 

踏み込みから、流れるような金属音。

剣と剣が最速で、そして最大の威力で火花を散らす。

 

「ほう、なるほどな」

 

初手の撃ち合い。

剣神は、両手でエリスの剣を受ける。

 

(片手じゃ受け切れねぇ。なるほど。相当成長してやがる)

 

成長曲線は想像以上。

剣神が、眉を顰めるほどの威力。

 

先手を取られた剣神。

そう、彼は取らせたのではなく取られた。

獣に、先手を取られたのだ。

 

(奴の光返し。それを、警戒せざるを得なかった。打ちに行けば返される。そう思わされるほどの圧。奴の圧は、圧倒的)

 

光の太刀を返す、光返し。

エリスが習得し、証明するのは、最高級の光返し。

 

「ふっ、良いな。俺の最速の光の太刀を対策する光返し……水神の入れ知恵か」

 

光返しというカウンター。

素晴らしい手札を習得するエリス。

 

剣神対策。

その初動。

光返しを防ぎ、接近戦へと持っていく。

 

ガン!ガン!ガン!!!

 

戦いは接近戦へ。

狂犬の圧力が高まる最高の舞台。

ここは、エリスの土俵。

そう、そのはず。

しかし、戦いはそう甘くはない。

人族最強は、甘くはない。

 

「接近戦なら、俺に勝てると思ったか?」

 

「流石に、やるわね……」

 

剣神の言葉と同時。

エリスの額に冷や汗が浮かぶ。

彼女は、確かに強くなった。

基礎技術とフェイントを駆使し、接近戦は恐ろしいほどの精度。

さらに破壊力は恐ろしいほど高く、相手が剣神といえど、相討ちになれば一方的に勝てる。

だからこそ攻められる。

だからこそ止まらない。

 

しかし、それでも、そこまで強くなったエリスでも……剣神には、勝てない。

 

「基礎技術は水神か?アイツは基礎技術の塊だからな。流派は違うが、学べる所は多かったか」

 

「くっ!」

 

剣神の銀線が、エリスの鼻先を掠める。

 

「フェイントでの速度上昇。それに加えて、受ければ手が痺れるほどの威力……万が一にも相打ちにはなれねぇな」

 

「ちっ!」

 

合理性を求めた最強。

その剣が、エリスの脇腹を掠る。

 

ブン!

 

エリスの剣が空を切る。

 

ガン!

 

剣神の剣が、エリスを捉える。

空を切る狂犬、捉える剣神。

全てをぶつけるエリス。

基礎技術を、フェイントを、培った物を、全てぶつけるエリス。

しかし、無意味。

神速と呼ばれる剣神の前では、無意味。

 

合理性によって生まれる最速。

その速さが、エリスを追い詰める。

 

「だが、小細工に過ぎねぇな」

 

フェイントも、偽物の殺気もお構いなし。

剣神は、全てを捌き切る。

 

「どうした、どうした!」

 

捌き切り、前に出る。

エリスが、一歩下がる。

 

「フェイントでも、殺気を込めても……俺に、スピードでは勝てなかったな」

 

進む剣神。

押されるエリス。

押されて、下がって、何も出来ないエリス。

 

そんなエリス。

速度という檻に閉じ込められる獣。

追い付けないスピード。しかし、そんなスピードの中で、狂犬は笑う。

 

「ふっ。流石は剣神ね」

 

この笑いは諦めか?

否、違う。この笑いは、狂犬の勝利の方程式。

 

「強い、確かにアンタは強い。でも、私は、そんなアンタを……超える」

 

「くっ!」

 

刹那、剣筋が変化する。

その剣筋が、剣神の鼻先を掠める。

 

変化した剣筋は、フェイントではない。

その剣筋は、狂犬の剣は、自らで編み出した『奇抜派』だったんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

二ヶ月前

 

「やっぱり、基礎だけじゃ剣神は倒せないわね」

 

「アンタ、剣神様のこと倒そうとしてるわけ?はぁ、無駄だから辞めときなさいよ」

 

私とニナ。

二人で、剣を握りながら話し合う。

 

「……」

 

私は、ニナの言葉に黙る。

その理由は、私自身も壁に気付き始めていたから。

 

「まだ、足りない」

 

水神を見習い、基礎を鍛え、己と、そしてルーデウスのために剣を振るい続けてきた。

ルーデウスが好きで、好きだから、私は振るい続けてきた。

しかし、足りない。

私には、圧倒的に足りない物がある。

 

「スピードが、私には足りない」

 

神妙な面持ちで、私は声を絞り出す。

俯く私。刹那、何かが私の胸に触れる。

 

フニュン

 

「……」

 

「……」

 

静かな、静かな空間。

無言の私たちに、重い空気が流れる。

 

「なんで、触ってんのよ」

 

私の言葉と同時。

胸にあったのは、戦友の手。

 

「いや、こんなデカブツぶる下げてるから遅いのかなって思ったの」

 

フニャフニャと、ニナが私の胸を揉む。

私は、それをじっと眺めていた。

 

「ルーデウスは、大きな胸が好きだもの……好き、だもの。だから、無駄なんかじゃない……」

 

弱くなる語尾。

刹那、私の脳裏に過ぎるのはシルフィとロキシーの姿。

二人の胸が、私の脳を支配する。

 

「無駄、なんかじゃない。いや、無駄なのかしら……」

 

ニナと一緒に、私も胸をフニャフニャと揉む。

俯く私に、ニナが唖然とする。

 

「ちょっと!私が悪かったわよ!流石に冗談よ!!!はぁ、本当に愛しの愛しの怪物のことになると頭おかしくなるんだから……」

 

「そんなこと、ないわよ」

 

「そんなことあるわよ!はぁ、もうそれは良いわ。知ってるから。大切なのは、アンタは剣神様に全部負けてるわけじゃないってこと」

 

全部は負けていない。

ニナの言葉の真意は、簡単だった。

 

「破壊力、その一点に関しては剣神様より強い。アンタの圧勝。それは間違いない。相手は、あの闘神鎧でしょ?剣神様とはいえ火力不足になる可能性も高い。そんな時、アンタの力が必要になる」

 

ニナは、嘘は吐かない。

真実を、言葉に乗せる。

 

「剣神様と狂犬の共闘。破壊力と速度の共演。私は、それで良いと思ってる」

 

真剣な面持ちで、ニナが言葉を作る。

その言葉の真意は、明白だった。

 

「だから、私は剣神を超えなくて良いって言いたいの?」

 

「……そういうことになるわね」

 

私と剣神。

狂犬として勝つことが否定される。

私は、その真実に下を向いた。

 

「私は、ルーデウスを助けたい」

 

救いという目標に向けて、私を剣を振るった。

そのために走ってきた。

その目標が『共闘』という形で達成出来るなら、私も納得する。

そう、納得。出来るはずなのに、私の頭は、胸は、ざわつき始めてた。

 

「私は、破壊力を磨く」

 

この言葉を呟き、下を向く。

私の胸が、ユラユラと揺れる。

その理由は、私にも分からなかった。

 

「ルーデウスを救うために、それが最善なら、私は剣神を倒さない」

 

倒さない、倒せない。

ルーデウスを救うために、認めなければならないなら、認めるしかない。

そう考えて、私は口を開く。

その時だった。刹那、何かが言葉を遮る。

 

「情けないですね」

 

遮られる言葉。

遮ったのは、神の名を冠する剣士。

 

「私に勝ったというのに、この程度ですか」

 

私は、無心で振り返る。

そこに居た剣士に、私は目を見開く。

 

「私は、一度も勝ったことがない。でも、あなたなら勝てる」

 

復讐に燃える剣士『イゾルテ・クルーエル』

水神の名を貰ったライバルが、私の瞳を見つめる。

 

「あなたなら、剣神様に勝てる」

 

人族最強 ガル・ファリオン。

剣神と呼ばれる七大列強。

そんな神を倒そうと提案する剣士の頭にあったのは『復讐』ではない。

 

『尊敬』

 

そう、尊敬。

こんな短い言葉が、水神の、暗い瞳をする剣士の頭を、大きく、大きく、支配していたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

水神は言った。

 

「あなたがすべきは、速さを上げることではない」

 

真剣な眼差しで、そう言った。

 

「速さを上げない?じゃあ、どうやって剣神に勝つのよ」

 

当然の疑問。

イゾルテは、ゆっくりと言葉を返す。

 

「速度が無くても、最強に勝つ方法はある。たった一つの方法。あなたがすべきは『奇抜派』」

 

エリスにしか出来ない奇抜派を、その手に。

水神が、獣に勧める。

 

「その方法は……」

 

北神、奇抜派。

最後の覚醒が、人族最強を超える鍵となる。

 

 

─────────────────────────

 

 

ブン!

 

エリスの剣先が、剣神の鼻先を掠める。

 

「くっ!」

 

腰を落とし、低い位置から放たれるエリスの一閃。

剣神は、この攻撃に目を見開いていた。

 

(急に、剣の軌道が変わりやがった)

 

考える頭。

その間も、剣神には雨のような連撃が襲いかかる。

狂犬の刃。それを何とか避けながら、剣神は考える。

 

(フェイントとはちげぇ。直前で変わる剣の軌道……直前?)

 

殺気を受けて、剣神が真実を悟る。

 

「なるほどな」

 

奇抜派。

真実を見つけるのは、剣神。

 

「膝や腕、関節の収縮を使って剣の軌道を変える。なるほどな、考えやがったな」

 

身体が柔らかく、身体、関節が丈夫なエリスだからこそ出来る技。

シンプルだが強い。

ほんの少しの変化。しかし、このレベルの戦いならば、その変化も幻影となる。

 

ブン!ブン!ブン!!!

 

間一髪で避ける剣神。

その姿に、アレックスが声を荒げる。

 

「直前で変化する太刀筋?そんなこと、エリス殿は私との戦いでは一度も……「だから、獣を舐めてるっていったんです」

 

遮るのは、北神と同じ神の名を冠するイゾルテ・クルーエル。

 

「舐めてる。あなたは獣を舐めすぎている」

 

「私が、エリス殿を舐めている?私は彼女の努力も見てきました。どこが舐めているんですか?」

 

「簡単な話ですよ」

 

水神イゾルテ。

彼女の頬が、ゆっくりと上がる。

 

「あなた如き、北神如きに、使う必要など無かったということです」

 

剣神への対策。

北神は、あくまで通過点。

 

「獣は、エリス・グレイラットは……」

 

狂犬と水神。

信頼関係が、ここに来て成立する。

 

「基礎技術とフェイントだけで、北神を、英雄を倒したんですよ」

 

恐ろしい事実を胸に。

イゾルテの頬が上がる。

イゾルテ・クルーエル。

彼女はエリスという獣を見つめて、大きな大きな信頼を、寄せていたんだ。

 

ブン!

 

振り続けるエリスの刃。

 

ブン!

 

避ける剣神。

高レベルの攻防。

神速の立ち合いに、エリスが呟く。

 

「剣神。随分と逃げ腰ね」

 

剣神を超えると決心する狂犬。

そんな獣の、下剋上。

 

「相討ちを嫌がって、避けて剣を振るう……アンタは、そうやってビビってる」

 

攻めきれない剣神。

そこに、エリスがつけいる。

スピードではなく、破壊力と奇抜で。

長所を押し付けて攻撃する。

無尽蔵の体力。剣を振り続けるエリス。

 

恐ろしい戦略。

それを見て、誰もがエリスの勝ちを確信する。

 

しかし、違う。

勝ちを確信するのは、まだ早い。

 

「ビビってる?なーに、ちげぇよ」

 

分析を終えた剣神。

最強が、重心をつま先に置く。

 

「ちょっと、見たかっただけだ」

 

前傾姿勢。

攻撃へと移る剣神の姿に、全員が冷や汗をかく。

 

「見込んだ弟子の成長……想像以上だったぜ」

 

ジワっと広がる嫌な汗。

その理由は、単純。

 

「だが、もう良い。エリス・グレイラット。望み通り、そろそろ終わりにしてやるよ」

 

本気になる人族最強。

冷や汗をかく理由は見え始める闘気。

そう、ガル・ファリオンの想像すら超えるほど大きな闘気が、エリスに襲いかかろうとしていたんだ。

 

 

 

 




エリス修行編 残り一話

二部のここまでについて。

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