もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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エリス修行編 最終話


剣神VS狂犬 後編

 

 

ガン!

 

神速の如き決戦。

合理性と奇抜が、決戦を繰り広げる。

 

「やっぱり、つえぇな。エリス・グレイラット」

 

剣神の言葉。

彼が、姿勢を整える。

 

「随分と強くなりやがった。でも、強さを見る目は変わってねぇようだな」

 

剣神VS狂犬。

第二ラウンド。

始まりは、剣神の本気から。

 

「俺に勝てるという言葉……それが無駄だと気付かせてやるよ」

 

ニヤける剣神。

刹那、彼の闘気が練り上がる。

奇抜派を叩く為に。

彼の合理性が、エリス・グレイラットに襲いかかる。

 

 

─────────────────────────

 

 

銀線が織り成す無数の交差。

神速のスピード。両者の速さが、戦場を支配する。

合理性と奇抜派。相対する剣士が、剣を交える。

 

手数は剣神。

しかし、エリスも負けていない。

一発一発重い打撃、変化する打撃で、剣神に圧をかける。

 

このまま行けば、体力の多いエリスが勝つ。

誰もが、そう思っていた。

 

「ビビってる、だったか?」

 

剣神の言葉。

刹那、彼の戦闘スタイルが変わる。

 

「久々に、そんなこと言われたな……まぁ、どうでもいいけどな」

 

言葉と同時。

彼がスピードを上げる。

本気になる剣神。しかし、それだけではない。

彼は、瞬時に見抜く。

エリスの、最大の弱点を。

 

「奇抜派……威力は、一段落ちる」

 

エリスの編み出した奇抜派。

その弱点を、剣神が見抜く。

 

「俺対策の奇抜派。だが、付け焼き刃だ。瞬時に変えた打撃は剣筋の流れを切り、手打ちになる」

 

破壊力は炎を剣に纏うことで補強出来る。

しかし、あくまで補強。

弱くなるのは事実。

強いが、あくまでそれは初見殺し。

剣神には、通用しない。

 

「もう、相討ちも警戒する必要はねぇ」

 

本気になるスピード。そして、決める覚悟。

剣神の剣が変わる。

小細工を破壊する合理性。

その剣が、エリスを追い詰める。

 

「どうした、エリス?」

 

ニヤリと笑って、剣を振るう。

その剣は、どんどんとスピードを増し、エリスへと襲いかかる。

 

「さっきまでの威勢はどうした?」

 

一つ、二つ。剣神の剣がエリスを捉え始める。

ブン!という風切り音。

それが、エリスの頬を切り裂く。

手なんて、一個も出せないエリス。

誰もが、エリスの負けを確信する。

 

「エリス。テメェの負けだ」

 

剣神の呟き。

刹那、剣士が声を出す。

 

「ふふっ」

 

笑い声。

剣神の前に居る獣が、笑う。

 

「やっぱり、アンタはビビった」

 

奇抜派、基礎技術。

そして、フェイント。

それらは、全て伏線。

剣神を本気にさせ、余裕を無くすための伏線。

 

トン

 

「……は?」

 

剣神の表情が変わる。

彼の声と同時に、背中に何かがぶつかる。

 

「なんで、なんで俺がこれを背負ってる……」

 

頬から血を流し、エリスが笑う。

笑う獣。その赤い瞳に映るのは『壁』

剣神の背中に立つ、大きな大きな壁。

 

「俺が、なんで……」

 

手を出せなかったエリス。そう思っていた剣神。

しかし、それは間違い。

エリスは、最善の選択をする。

 

「道場の端に居る……」

 

攻めていたはずの剣神。

攻めに特化する剣神。

しかし、そんな彼は、後ろに下がっていたんだ。

 

「何度でも言ってあげる」

 

呼吸を整えて、エリスが声を絞り出す。

 

「アンタは、ビビったのよ」

 

エリスの真骨頂。

土壇場で手に入れる、最恐の技術。

 

「アンタは押された。私の殺気にね」

 

剣を振らないフェイント。

そう、エリスは剣を振らずに、剣神を、人族最強を、誘導したんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

『間合い』

 

これは、剣士にとっての命である。

遠距離が得意な者、近距離が得意な者。

踏み込みが得意な者、乱戦が得意な者。

その得意を相手に押し付けるため、剣士は間合いという命を削り、戦う。

命を削って『剣を振るって』間合いを取り合う。

 

それこそが剣士である。

 

剣神、人族最強は、そう思っていた。

この時、この瞬間まで、そう思い込んでいた。

 

「コイツ……」

 

剣神が呟く。

彼は、獣を目の前にして、歯をギリギリと削る。

 

「俺は、一太刀も食らってねぇ。擦りさえしてねぇのに」

 

この時、この瞬間、本当の意味で剣神は認める。

覚醒した獣 エリス・グレイラットを。

 

「剣以外で、俺を追い詰めやがった」

 

動き、視線、殺気。

それによる誘導。

エリスは、可能にする。

 

「エリス・グレイラット!!!」

 

「ガル・ファリオン……」

 

エリスが可能にしたのは『初見殺し』

まるで、ルーデウス・グレイラットのような驚異的な初見殺し。

 

ルーデウスの背を追うのを辞める。

 

そんな彼女の捨てた選択肢が、この時、この瞬間、復活する。

 

 

─────────────────────────

 

 

ザッ

 

小さな音。

同時、獣が足を開く。

 

「追い詰めたわよ」

 

人族最強を前にして、姿勢を低くする。

追う必要が無くなった獣。

狂犬が、機動力を捨てて、足を開く。

 

「……」

 

黙る剣神。

エリスを見つめる剣神。

しかし、どんなに見つめても、そこに弱点は無い。

最強の狩場。

獲物は、人族最強。

 

「さぁ、終わらせてください」

 

ニヤリと笑う水神。

彼女が、呟く。

人族最強を倒す。その事実を掴み取れと、狩場を見つめる。

 

最強を倒す。

この事実に乗って、エリスが剣を振りかぶった。

 

ガン!!!

 

「くっ!」

 

一発目。

剣神の剣を捉える。

 

ブン!!!

 

「くそがっ」

 

二発目。

剣神の頬を掠る。

 

ガン!ガン!ガン!!!

 

三発、四発、五発。

壁を背にした剣神に、エリスの刃が全て降り注ぐ。

機動力を捨てたエリス。追うことを必要としないこの土俵に全てを捧げて、彼女は剣を振るう。

 

「もう、終わりですね」

 

剣を振るうエリス。

防御に徹する剣神。

その姿は亀のようで、威圧など感じられない。

しかし、それは不自然ではない。

この状況は、それほどエリスの土俵。

彼女が、狂犬が、全てを賭けて引き摺り込んだ土俵。

 

「エリスの……」

 

水神。

彼女が、ニヤリと笑う。

 

「勝ちですね」

 

最強を超えるために。

ルーデウスを救うために。

全てを賭け切った狂犬。

そんな獣の勝ちを信じて、水神は笑う。

小さく、しかし力強く。

笑う、笑う。

 

しかし、その笑みは、次の瞬間変わる。

『絶望』へと変わる。

 

「楽しく、なってきやがった」

 

亀のように防御する剣神。

彼が、剣を持つ手に力を込める。

 

「光の太刀一発で終わらねぇ相手じゃなきゃ、楽しくねぇ」

 

嵐のようなエリスの剣。

隙など無いように見える攻撃。

しかし、剣神は、針の穴を通す。

 

「俺は、まだまだ強くなる」

 

言葉と同時、笑う剣神。

人族最強。剣神 ガル・ファリオン。

彼が、この時、この瞬間、エリス・グレイラットのように『覚醒』する。

 

 

─────────────────────────

 

 

─エリス視点─

 

ずっと、ずーっと思ってた。

ルーデウスなら、どうするのかな?って。

ずっと、ずーっと考えてた。

 

でも、教えてくれた。

私の戦友が、教えてくれた。

 

「アンタは、ルーデウス・グレイラットじゃない」

 

その通りだと思った。

私は、ルーデウスみたいになれない。

すごいルーデウスには、私は追い付けない。

ずっと、ずーっと思ってた。

 

「エリス・グレイラット!!!」

 

剣神が叫んだ。

奴が、壁を背にして叫んだ。

 

この時、気付いた。

私は、追い詰めているんだって。

 

人族最強を、ルーデウスと同じ七大列強を。

私は、ルーデウスを助けられる。

そう思いかけてた。

 

「私は、アンタを倒す」

 

言葉と同時、私は剣を振るう。

全力で振るう私の剣。

その間に、何かが割って入る。

 

ブン!!!

 

「楽しく、なってきやがった」

 

私の頬を掠る剣。

見えないほど速い剣筋。

それを受けて、私は冷や汗をかく。

 

あぁ、そうか。

私は、ルーデウスみたいになれると思ったのに。

私は、ルーデウスみたいにすごくなれると思ったのに。

 

「私は、私は、ルーデウスみたいになれない」

 

それが、真実だった。

……でも、違う。

だからこそ、出来る。

 

「私は、私は……」

 

ルーデウスじゃない私だから出来る。

その自信を、今までの時間に込めて。

 

「ルーデウスを、助けられる」

 

言葉と同時。

私も、剣を握る腕に力を込めた。

 

 

─────────────────────────

 

 

剣神は、本当に恐ろしい。

エリスは殺気やフェイント、基礎技術など多くの手札を切った。

しかし、剣神は違う。

剣神は、何も手札など切らない。

 

ただ、楽しい。

目の前に互角にやりあえる人族が居る。

それだけの、強欲と呼ぶべき合理性が剣神を互角へと導く。

 

「おらぁ!どうした!!!」

 

頬に剣を擦めながら、剣神が叫ぶ。

 

「ここは、てめぇの土俵なんだろ!?」

 

前傾姿勢の剣神が、防御を捨てる。

 

「やってみろ、殺してみろ!!!」

 

剣神は、人族最強は、強い。

 

「そして、証明してみろ!!!」

 

殺気ではない何かが、エリスへと襲いかかる。

ここに来て、ここまで来て、あのエリスが気圧される。

 

「俺を超えて、泥沼を救えるってなぁ!!!」

 

嵐のような狂犬の剣に、剣神が出した答えは打ち合い。

真正面のぶつかり合い。嵐と竜巻のような打ち合いが道場へと響き渡る。

 

ブン!!!

 

剣神の頬を、エリスの剣が掠る。

 

ブン!!!

 

エリスの頬を、剣神の剣が掠る。

 

ガン!!!

 

両者の剣が、ぶつかり合う。

 

剣先に血が付き、戦場に血が舞う。

クラクラするほどの濃い闘気が、戦場を支配する。

 

睨み付け、全てを出し切る決戦。

両者、一歩も引かない決戦。

 

そう、引かない。

それが意味するのは『互角』

彼らは『ここまで』確かに互角の勝負を繰り広げていた。

 

ここまで、確かに。

 

「剣神様のスピードが……」

 

ニナの言葉。

刹那、隣に居た水神の顔が変わる。

 

「上がっていく……」

 

水神は、この言葉に下を向いた。

ここまで、ここまでやっても無理なのかと。

人族では、剣神には勝てないのかと。

水神は絶望し、俯く。

覚醒しきった獣と、現在進行形で覚醒する剣神。

二人の差は、歴然であった。

 

「もう、エリス。十分です」

 

水神が、俯きながら呟く。

 

「あなたは、全てを賭けた。文字通り、全て」

 

心も身体も。

エリスは全てを捧げた。

もうこれ以上ないぐらい全力で。

でも、それでも、敵わない。

それなら、もう……仕方ない。

 

「エリス・グレイラット……もう、頑張らなくても良いんです」

 

人族最強は剣神。

この言葉が、全員の共通認識。

いや、違う。

全員じゃない。

本気で戦う剣士。全てを賭ける剣士は、まだ終わらない。

 

「ははっ!どうした!?剣でも投げるか!?この至近距離で、奇抜派でもやるか!?」

 

上がり続ける剣神のスピード。

それを見つめて、絶望する水神。

速い、恐ろしく速い。

北神に舐めていると言った、それほどの信頼をエリスに寄せているイゾルテの絶望。

しかし、違う。その絶望は違う。

彼女も、また間違えている。

 

水神 イゾルテ・クルーエルは、狂犬の実力を、エリスの執念を、舐めていたんだ。

 

「苛烈なる炎の精霊にして地獄に轟く黒の落とし子よ」

 

剣を振りながら、エリスが呟く。

刹那、剣神の背中に走る、ゾワッとする寒気。

 

「それは、上級炎魔術?」

 

エリスの代名詞、自らを犠牲にする上級炎魔術。

彼女の切り札。切ったのは、おかしいことではない。

おかしいのは、剣を振りながらという点。

そして、そのおかしさこそが、エリスの最終地点。

 

(魔術自体は、なんもおかしくねぇ。コイツが使うのは、なんもおかしくねぇ。おかしいのはタイミング。剣を振りながらじゃあ補足が出来ねぇはずだ)

 

自称覚悟の飛び道具。

それを、剣を振りながら使う。

ブラフか?そう思いながら、剣神はエリスを見つめる。

見つめる赤い瞳。その瞳は燃えるようで、嘘を吐いているようには到底見えない。

ならば、何故撃とうとする?

その答えは、間合いにある。

 

「剣を振りながら、至近距離での戦い……至近距離?」

 

誰も割って入れないほどの至近距離。

エリスの土俵だからこそ撃てる技。

 

「コイツ、至近距離でぶっ放す気か」

 

補足が出来る?いいや、違う。

補足なんて要らない。

補足が要らないほどの至近距離。

狙いなんて要らない。

ただ、詠唱に任せてぶっ放す。

 

それこそが、狂犬の狙い。

 

「今こそ大地に這い上がり拳を振り上げよ」

 

エリスの左手に魔力が集まる。

力が、漲っていく。

撃とうとする最強の魔術。

しかし、通用しない。

剣神流最強の剣士には通じない。

彼は得意の攻めで、魔術を崩す。

 

「てめぇは、やっぱり泥沼にはなれねぇよ」

 

前傾姿勢のさらに前。

突進する姿勢を、エリスへと向ける剣神。

 

「詠唱してる時点で、お前はなれねぇ」

 

「……」

 

無詠唱なら、剣神も気付けなかった。

そう言いながら、剣神はつま先に力を込める。

彼がしようとするのは、最速の突き。

突進して、超至近距離で喉元を掻っ捌く剣技。

 

「詠唱を終えるまでにお前を倒せば、なんの問題もねぇ」

 

「……」

 

ドン!!!

 

刹那、剣神が踏み込んだ。

至近距離から、超至近距離へ。

エリスの土俵を逆手に取り、自らの合理性で決めに行く。

強い剣士を、自らの手で倒す。

その欲を込めて、剣神が突っ込む。

 

「終わりにしてやるよ!」

 

「……」

 

「この、最高に楽しかった勝負をなぁ!」

 

突っ込む剣神。

彼の神速の如き踏み込みが、エリスへと向かう。

エリスが右手に握る剣を見つめて、剣神はエリスの胸を抉り取るように距離を詰める。

ゼロ距離。それほどの距離で、剣神が突く。

 

「さぁ、終わりだ」

 

バン!!!

 

音と同時。刹那、顔が跳ね上がる。

 

「……は?」

 

剣神の言葉。

彼の視界が、天井を映す。

 

「なんで、俺が……」

 

狂犬の執念。

迎えるのは、勝負を急いだ剣神の末路。

 

「上を向いてんだ?」

 

上を向いた剣神。

そして、彼の顎に走るのはズキズキとした痛み。

そう、彼の顎から流れるのは血。

彼は、剣以外で、攻撃されていたんだ。

 

「剣神。私ね、いっぱい殴っちゃったの」

 

「殴る……まさか、お前?」

 

仰け反り、佇む剣神。

彼の動きが、止まる。

 

「ルーデウスのこと、いっぱい殴っちゃった」

 

「お前、拳で、俺のことを……」

 

エリスは笑わない。

覚悟を決めた瞳で、未来を見つめる瞳で、剣神を見つめる。

 

「俺のことを、俺の顎を……」

 

全てを賭けたエリス。

剣神の言葉が、彼女の深い執念を証明する。

 

「殴ったのか?」

 

執念。

近距離を殺す、剣を持っていない左手による最速のショートアッパー。

それを、彼女はルーデウスを救うために、使ったんだ。

昔を思い出して、使ったんだ。

 

「いっぱい殴った。だから、今度は、この拳で救う」

 

さぁ、終わりにしよう。

狂犬と剣神。

人族最強を決める勝負を終わりにしよう。

 

「ルーデウスを、私の拳で救うの」

 

燃えるエリスの左手。

彼女が、剣神を捕捉する。

その姿を、顎を跳ね上げる剣神が見つめる。

 

(あぁ、そうか)

 

剣を、エリスの剣だけを見つめていた剣神。

彼は、最後の最後で気付く。

 

(コイツは、最初っから違ったんだ)

 

自らの弟子だと思っていた剣神。

自らのように強くなると思っていた剣神。

しかし、その思いは間違い。

エリスは、違う。

 

(コイツは、剣士じゃねぇ)

 

剣ではなく拳を使ったエリス。

そんな彼女は、根本から違ったんだ。

 

(コイツは、コイツは……)

 

考えながら。

刹那、剣神の表情が変わる。

ニヤリとした、清々しい笑みへと変わる。

 

(泥沼の、嫁だったんだ)

 

「エグゾダスフレイム」

 

狂犬の言葉と同時。

刹那、剣神が、大炎へと飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次章 最終章

エリス修行編で一番面白かったのは?

  • ニナとの戦い
  • 光の太刀習得
  • 水神との戦い
  • 北神二世との戦い
  • 剣神との戦い
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