ガン!
神速の如き決戦。
合理性と奇抜が、決戦を繰り広げる。
「やっぱり、つえぇな。エリス・グレイラット」
剣神の言葉。
彼が、姿勢を整える。
「随分と強くなりやがった。でも、強さを見る目は変わってねぇようだな」
剣神VS狂犬。
第二ラウンド。
始まりは、剣神の本気から。
「俺に勝てるという言葉……それが無駄だと気付かせてやるよ」
ニヤける剣神。
刹那、彼の闘気が練り上がる。
奇抜派を叩く為に。
彼の合理性が、エリス・グレイラットに襲いかかる。
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銀線が織り成す無数の交差。
神速のスピード。両者の速さが、戦場を支配する。
合理性と奇抜派。相対する剣士が、剣を交える。
手数は剣神。
しかし、エリスも負けていない。
一発一発重い打撃、変化する打撃で、剣神に圧をかける。
このまま行けば、体力の多いエリスが勝つ。
誰もが、そう思っていた。
「ビビってる、だったか?」
剣神の言葉。
刹那、彼の戦闘スタイルが変わる。
「久々に、そんなこと言われたな……まぁ、どうでもいいけどな」
言葉と同時。
彼がスピードを上げる。
本気になる剣神。しかし、それだけではない。
彼は、瞬時に見抜く。
エリスの、最大の弱点を。
「奇抜派……威力は、一段落ちる」
エリスの編み出した奇抜派。
その弱点を、剣神が見抜く。
「俺対策の奇抜派。だが、付け焼き刃だ。瞬時に変えた打撃は剣筋の流れを切り、手打ちになる」
破壊力は炎を剣に纏うことで補強出来る。
しかし、あくまで補強。
弱くなるのは事実。
強いが、あくまでそれは初見殺し。
剣神には、通用しない。
「もう、相討ちも警戒する必要はねぇ」
本気になるスピード。そして、決める覚悟。
剣神の剣が変わる。
小細工を破壊する合理性。
その剣が、エリスを追い詰める。
「どうした、エリス?」
ニヤリと笑って、剣を振るう。
その剣は、どんどんとスピードを増し、エリスへと襲いかかる。
「さっきまでの威勢はどうした?」
一つ、二つ。剣神の剣がエリスを捉え始める。
ブン!という風切り音。
それが、エリスの頬を切り裂く。
手なんて、一個も出せないエリス。
誰もが、エリスの負けを確信する。
「エリス。テメェの負けだ」
剣神の呟き。
刹那、剣士が声を出す。
「ふふっ」
笑い声。
剣神の前に居る獣が、笑う。
「やっぱり、アンタはビビった」
奇抜派、基礎技術。
そして、フェイント。
それらは、全て伏線。
剣神を本気にさせ、余裕を無くすための伏線。
トン
「……は?」
剣神の表情が変わる。
彼の声と同時に、背中に何かがぶつかる。
「なんで、なんで俺がこれを背負ってる……」
頬から血を流し、エリスが笑う。
笑う獣。その赤い瞳に映るのは『壁』
剣神の背中に立つ、大きな大きな壁。
「俺が、なんで……」
手を出せなかったエリス。そう思っていた剣神。
しかし、それは間違い。
エリスは、最善の選択をする。
「道場の端に居る……」
攻めていたはずの剣神。
攻めに特化する剣神。
しかし、そんな彼は、後ろに下がっていたんだ。
「何度でも言ってあげる」
呼吸を整えて、エリスが声を絞り出す。
「アンタは、ビビったのよ」
エリスの真骨頂。
土壇場で手に入れる、最恐の技術。
「アンタは押された。私の殺気にね」
剣を振らないフェイント。
そう、エリスは剣を振らずに、剣神を、人族最強を、誘導したんだ。
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『間合い』
これは、剣士にとっての命である。
遠距離が得意な者、近距離が得意な者。
踏み込みが得意な者、乱戦が得意な者。
その得意を相手に押し付けるため、剣士は間合いという命を削り、戦う。
命を削って『剣を振るって』間合いを取り合う。
それこそが剣士である。
剣神、人族最強は、そう思っていた。
この時、この瞬間まで、そう思い込んでいた。
「コイツ……」
剣神が呟く。
彼は、獣を目の前にして、歯をギリギリと削る。
「俺は、一太刀も食らってねぇ。擦りさえしてねぇのに」
この時、この瞬間、本当の意味で剣神は認める。
覚醒した獣 エリス・グレイラットを。
「剣以外で、俺を追い詰めやがった」
動き、視線、殺気。
それによる誘導。
エリスは、可能にする。
「エリス・グレイラット!!!」
「ガル・ファリオン……」
エリスが可能にしたのは『初見殺し』
まるで、ルーデウス・グレイラットのような驚異的な初見殺し。
ルーデウスの背を追うのを辞める。
そんな彼女の捨てた選択肢が、この時、この瞬間、復活する。
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ザッ
小さな音。
同時、獣が足を開く。
「追い詰めたわよ」
人族最強を前にして、姿勢を低くする。
追う必要が無くなった獣。
狂犬が、機動力を捨てて、足を開く。
「……」
黙る剣神。
エリスを見つめる剣神。
しかし、どんなに見つめても、そこに弱点は無い。
最強の狩場。
獲物は、人族最強。
「さぁ、終わらせてください」
ニヤリと笑う水神。
彼女が、呟く。
人族最強を倒す。その事実を掴み取れと、狩場を見つめる。
最強を倒す。
この事実に乗って、エリスが剣を振りかぶった。
ガン!!!
「くっ!」
一発目。
剣神の剣を捉える。
ブン!!!
「くそがっ」
二発目。
剣神の頬を掠る。
ガン!ガン!ガン!!!
三発、四発、五発。
壁を背にした剣神に、エリスの刃が全て降り注ぐ。
機動力を捨てたエリス。追うことを必要としないこの土俵に全てを捧げて、彼女は剣を振るう。
「もう、終わりですね」
剣を振るうエリス。
防御に徹する剣神。
その姿は亀のようで、威圧など感じられない。
しかし、それは不自然ではない。
この状況は、それほどエリスの土俵。
彼女が、狂犬が、全てを賭けて引き摺り込んだ土俵。
「エリスの……」
水神。
彼女が、ニヤリと笑う。
「勝ちですね」
最強を超えるために。
ルーデウスを救うために。
全てを賭け切った狂犬。
そんな獣の勝ちを信じて、水神は笑う。
小さく、しかし力強く。
笑う、笑う。
しかし、その笑みは、次の瞬間変わる。
『絶望』へと変わる。
「楽しく、なってきやがった」
亀のように防御する剣神。
彼が、剣を持つ手に力を込める。
「光の太刀一発で終わらねぇ相手じゃなきゃ、楽しくねぇ」
嵐のようなエリスの剣。
隙など無いように見える攻撃。
しかし、剣神は、針の穴を通す。
「俺は、まだまだ強くなる」
言葉と同時、笑う剣神。
人族最強。剣神 ガル・ファリオン。
彼が、この時、この瞬間、エリス・グレイラットのように『覚醒』する。
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─エリス視点─
ずっと、ずーっと思ってた。
ルーデウスなら、どうするのかな?って。
ずっと、ずーっと考えてた。
でも、教えてくれた。
私の戦友が、教えてくれた。
「アンタは、ルーデウス・グレイラットじゃない」
その通りだと思った。
私は、ルーデウスみたいになれない。
すごいルーデウスには、私は追い付けない。
ずっと、ずーっと思ってた。
「エリス・グレイラット!!!」
剣神が叫んだ。
奴が、壁を背にして叫んだ。
この時、気付いた。
私は、追い詰めているんだって。
人族最強を、ルーデウスと同じ七大列強を。
私は、ルーデウスを助けられる。
そう思いかけてた。
「私は、アンタを倒す」
言葉と同時、私は剣を振るう。
全力で振るう私の剣。
その間に、何かが割って入る。
ブン!!!
「楽しく、なってきやがった」
私の頬を掠る剣。
見えないほど速い剣筋。
それを受けて、私は冷や汗をかく。
あぁ、そうか。
私は、ルーデウスみたいになれると思ったのに。
私は、ルーデウスみたいにすごくなれると思ったのに。
「私は、私は、ルーデウスみたいになれない」
それが、真実だった。
……でも、違う。
だからこそ、出来る。
「私は、私は……」
ルーデウスじゃない私だから出来る。
その自信を、今までの時間に込めて。
「ルーデウスを、助けられる」
言葉と同時。
私も、剣を握る腕に力を込めた。
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剣神は、本当に恐ろしい。
エリスは殺気やフェイント、基礎技術など多くの手札を切った。
しかし、剣神は違う。
剣神は、何も手札など切らない。
ただ、楽しい。
目の前に互角にやりあえる人族が居る。
それだけの、強欲と呼ぶべき合理性が剣神を互角へと導く。
「おらぁ!どうした!!!」
頬に剣を擦めながら、剣神が叫ぶ。
「ここは、てめぇの土俵なんだろ!?」
前傾姿勢の剣神が、防御を捨てる。
「やってみろ、殺してみろ!!!」
剣神は、人族最強は、強い。
「そして、証明してみろ!!!」
殺気ではない何かが、エリスへと襲いかかる。
ここに来て、ここまで来て、あのエリスが気圧される。
「俺を超えて、泥沼を救えるってなぁ!!!」
嵐のような狂犬の剣に、剣神が出した答えは打ち合い。
真正面のぶつかり合い。嵐と竜巻のような打ち合いが道場へと響き渡る。
ブン!!!
剣神の頬を、エリスの剣が掠る。
ブン!!!
エリスの頬を、剣神の剣が掠る。
ガン!!!
両者の剣が、ぶつかり合う。
剣先に血が付き、戦場に血が舞う。
クラクラするほどの濃い闘気が、戦場を支配する。
睨み付け、全てを出し切る決戦。
両者、一歩も引かない決戦。
そう、引かない。
それが意味するのは『互角』
彼らは『ここまで』確かに互角の勝負を繰り広げていた。
ここまで、確かに。
「剣神様のスピードが……」
ニナの言葉。
刹那、隣に居た水神の顔が変わる。
「上がっていく……」
水神は、この言葉に下を向いた。
ここまで、ここまでやっても無理なのかと。
人族では、剣神には勝てないのかと。
水神は絶望し、俯く。
覚醒しきった獣と、現在進行形で覚醒する剣神。
二人の差は、歴然であった。
「もう、エリス。十分です」
水神が、俯きながら呟く。
「あなたは、全てを賭けた。文字通り、全て」
心も身体も。
エリスは全てを捧げた。
もうこれ以上ないぐらい全力で。
でも、それでも、敵わない。
それなら、もう……仕方ない。
「エリス・グレイラット……もう、頑張らなくても良いんです」
人族最強は剣神。
この言葉が、全員の共通認識。
いや、違う。
全員じゃない。
本気で戦う剣士。全てを賭ける剣士は、まだ終わらない。
「ははっ!どうした!?剣でも投げるか!?この至近距離で、奇抜派でもやるか!?」
上がり続ける剣神のスピード。
それを見つめて、絶望する水神。
速い、恐ろしく速い。
北神に舐めていると言った、それほどの信頼をエリスに寄せているイゾルテの絶望。
しかし、違う。その絶望は違う。
彼女も、また間違えている。
水神 イゾルテ・クルーエルは、狂犬の実力を、エリスの執念を、舐めていたんだ。
「苛烈なる炎の精霊にして地獄に轟く黒の落とし子よ」
剣を振りながら、エリスが呟く。
刹那、剣神の背中に走る、ゾワッとする寒気。
「それは、上級炎魔術?」
エリスの代名詞、自らを犠牲にする上級炎魔術。
彼女の切り札。切ったのは、おかしいことではない。
おかしいのは、剣を振りながらという点。
そして、そのおかしさこそが、エリスの最終地点。
(魔術自体は、なんもおかしくねぇ。コイツが使うのは、なんもおかしくねぇ。おかしいのはタイミング。剣を振りながらじゃあ補足が出来ねぇはずだ)
自称覚悟の飛び道具。
それを、剣を振りながら使う。
ブラフか?そう思いながら、剣神はエリスを見つめる。
見つめる赤い瞳。その瞳は燃えるようで、嘘を吐いているようには到底見えない。
ならば、何故撃とうとする?
その答えは、間合いにある。
「剣を振りながら、至近距離での戦い……至近距離?」
誰も割って入れないほどの至近距離。
エリスの土俵だからこそ撃てる技。
「コイツ、至近距離でぶっ放す気か」
補足が出来る?いいや、違う。
補足なんて要らない。
補足が要らないほどの至近距離。
狙いなんて要らない。
ただ、詠唱に任せてぶっ放す。
それこそが、狂犬の狙い。
「今こそ大地に這い上がり拳を振り上げよ」
エリスの左手に魔力が集まる。
力が、漲っていく。
撃とうとする最強の魔術。
しかし、通用しない。
剣神流最強の剣士には通じない。
彼は得意の攻めで、魔術を崩す。
「てめぇは、やっぱり泥沼にはなれねぇよ」
前傾姿勢のさらに前。
突進する姿勢を、エリスへと向ける剣神。
「詠唱してる時点で、お前はなれねぇ」
「……」
無詠唱なら、剣神も気付けなかった。
そう言いながら、剣神はつま先に力を込める。
彼がしようとするのは、最速の突き。
突進して、超至近距離で喉元を掻っ捌く剣技。
「詠唱を終えるまでにお前を倒せば、なんの問題もねぇ」
「……」
ドン!!!
刹那、剣神が踏み込んだ。
至近距離から、超至近距離へ。
エリスの土俵を逆手に取り、自らの合理性で決めに行く。
強い剣士を、自らの手で倒す。
その欲を込めて、剣神が突っ込む。
「終わりにしてやるよ!」
「……」
「この、最高に楽しかった勝負をなぁ!」
突っ込む剣神。
彼の神速の如き踏み込みが、エリスへと向かう。
エリスが右手に握る剣を見つめて、剣神はエリスの胸を抉り取るように距離を詰める。
ゼロ距離。それほどの距離で、剣神が突く。
「さぁ、終わりだ」
バン!!!
音と同時。刹那、顔が跳ね上がる。
「……は?」
剣神の言葉。
彼の視界が、天井を映す。
「なんで、俺が……」
狂犬の執念。
迎えるのは、勝負を急いだ剣神の末路。
「上を向いてんだ?」
上を向いた剣神。
そして、彼の顎に走るのはズキズキとした痛み。
そう、彼の顎から流れるのは血。
彼は、剣以外で、攻撃されていたんだ。
「剣神。私ね、いっぱい殴っちゃったの」
「殴る……まさか、お前?」
仰け反り、佇む剣神。
彼の動きが、止まる。
「ルーデウスのこと、いっぱい殴っちゃった」
「お前、拳で、俺のことを……」
エリスは笑わない。
覚悟を決めた瞳で、未来を見つめる瞳で、剣神を見つめる。
「俺のことを、俺の顎を……」
全てを賭けたエリス。
剣神の言葉が、彼女の深い執念を証明する。
「殴ったのか?」
執念。
近距離を殺す、剣を持っていない左手による最速のショートアッパー。
それを、彼女はルーデウスを救うために、使ったんだ。
昔を思い出して、使ったんだ。
「いっぱい殴った。だから、今度は、この拳で救う」
さぁ、終わりにしよう。
狂犬と剣神。
人族最強を決める勝負を終わりにしよう。
「ルーデウスを、私の拳で救うの」
燃えるエリスの左手。
彼女が、剣神を捕捉する。
その姿を、顎を跳ね上げる剣神が見つめる。
(あぁ、そうか)
剣を、エリスの剣だけを見つめていた剣神。
彼は、最後の最後で気付く。
(コイツは、最初っから違ったんだ)
自らの弟子だと思っていた剣神。
自らのように強くなると思っていた剣神。
しかし、その思いは間違い。
エリスは、違う。
(コイツは、剣士じゃねぇ)
剣ではなく拳を使ったエリス。
そんな彼女は、根本から違ったんだ。
(コイツは、コイツは……)
考えながら。
刹那、剣神の表情が変わる。
ニヤリとした、清々しい笑みへと変わる。
(泥沼の、嫁だったんだ)
「エグゾダスフレイム」
狂犬の言葉と同時。
刹那、剣神が、大炎へと飲み込まれた。
次章 最終章
エリス修行編で一番面白かったのは?
-
ニナとの戦い
-
光の太刀習得
-
水神との戦い
-
北神二世との戦い
-
剣神との戦い