剣に魔術を纏う。
この技術は、決して簡単なものではない。
少女がかつて死ぬ気で習得したほど、この技術は難しい。
「エリス・グレイラット。貴様如きに出来ることが、我に出来ないと思ったか?」
炎を纏うエリスの太刀。
それに対して、闘神鎧は薄く笑い、ある物を剣に纏う。
まるで、余裕だというように、纏う。
「この剣は、我と泥沼の最高傑作」
ルーデウスの発想と魔術。
そして、それを使いこなす闘神鎧の技術。
「受けた瞬間気絶する、最高の技」
闘神鎧が剣に纏う『ある物』
それは『雷』
受けた瞬間痺れて動けなくなるほどの、最上級の魔術。
「貴様如きでは、このレベルの剣と魔術は受け切れない」
断言する闘神鎧。
奴は、確信した笑みでエリスを見つめる。
最上級の戦術眼を持つ最強の鎧。
そんな彼は、間違えない。
エリスは受け切れない。
この事実。
それを受けたエリスが、ゆっくりと言葉を放つ。
「やっぱり、ルーデウスは強いわね」
認める獣。
しかし、そんな彼女の表情は、笑っていたんだ。
「同時に受け切れない?ふふっ、笑わせないでください」
恐ろしいほどの雷剣を見て、一人の強者が笑う。
「雷と剣撃の同時攻撃ですか……それが最高傑作とは、笑わせる」
「誰だ、貴様は?」
水のように静かな殺気を纏って、一人の少女が笑う。
「私の名前は、イゾルテ・クルーエル」
「貴様の名など知らん。だが、貴様が弱いということは良く分かる。そんな貴様が、人族如きが、この技の何を知っている?何故、断言出来る?」
確かに、ただの人族。
しかし、闘神鎧の前に佇むのは、水神の名に恥じぬ強者。
基本を極めた究極の剣士。
「断言出来ますよ。だって、その技……」
復讐に燃える剣士。彼女が、笑って、笑って、声を絞り出す。
「ストーンキャノンより、弱いですよね?」
笑う水神。
睨む闘神鎧。
勝負は、滝のように美しくも綺麗な銀線を描き、始まりを迎える。
─────────────────────────
ガン!!!
闘神鎧が雷剣を振り抜く。
その剣を、少女が受ける。
「やはり、偽りではないか」
「ちょっとだけ、ビリビリしますね」
水神の言葉に偽りなし。
彼女は、神と呼ばれる技を見せつける。
雷と剣の同時攻撃。
この高等技術を、とてつもないほどの受けの基本で、捌き切る。
ガン!ガン!ガン!!!
雷剣の三連撃。
速い、確かにとてつもなく速い。
しかし、それでも、水神は貫けない。
「ちっ」
戦いは始まりへ。
ここから、全ての剣士が神速の如き踏み込みを見せる。
「やっと、戦えるな」
剣神 ガル・ファリオン
「ここから、始まりますね」
北神二世 アレックス・カールマン・ライバック
「ルーデウス。俺は、お前に恩がある」
スペルド族最強の戦士 ルイジェルド・スペルディア
そして、もう一人。
とてつもない破壊力を見せる、最強の戦士。
ブン!!!
闘神鎧に向けて、剣を振るうお嫁さんが一人。
「……終わらせるわよ」
「調子に、乗るなよ」
始まるのは死闘と呼べる集団戦。
愛情を込めて、彼らは、剣を振るう。
─────────────────────────
ガン!
剣神が攻める。
ガン!ガン!
ルイジェルドと北神が攻める。
ガン!!!
そして、エリスが攻める。
神級クラスの人族による集団の多段攻撃。
それを、一つの鎧が受ける。
「ちっ、やっぱりつえぇな」
「……」
「スピードは大したことはねぇ。パワーだって思ったよりも高くねぇ。でも、つえぇ」
ガルは、剣を振りながら呟く。
スピードは、せいぜい剣神より少し速い程度。
魔術は確かに強いが、種類は剣に纏った雷だけ。
パワーに至っては、エリスよりも弱い。
弱い、思っているよりも弱い。
しかし、それでも、多大な経験値を持つガルは異常を検知する。
「なんで、攻め切れねぇ……」
出力は一割未満。
しかし、それでも、闘神鎧は強い。
強い闘神鎧。奴が、言葉を放つ。
「かつてオルステッドを殺し、国を落とした男、泥沼……奴の弱点は、集団戦であった」
集団戦が弱点。
かつてアトーフェとムーアと戦った時に露呈した弱点。
その理由は、単純。
「集団戦であれば死ぬ瞳……この男の瞳『予見眼』しかし、今の我に、その弱点はない」
薄緑色の瞳を光らせて。
闘神鎧が、薄く笑う。
「全員の初動だけを予見眼に映し、後の行動は予測により対応する」
予見×予測
初動のみを予見し、あとの動きは予測で補う。
正に神業と呼べる、最高の剣技。
それを引っ提げて、闘神鎧が口を開く。
「神級の剣術による集団多段攻撃……」
何度でも言おう。
闘神鎧 泥沼のルーデウス。
奴は、強い。
「その程度で、我を超えられると思ったか?」
この言葉。驚異的な圧に、全員が畏怖する。
しかし、たった一人、違う表情を見せる。
名はイゾルテ・クルーエル。彼女は笑う。
復讐に燃える彼女は、この程度では動揺しない。
「タラタラと、無意味な言葉を並べていますが……」
「……」
「あなたでは、あなた程度のスピードでは、私の守りは貫けない」
ここに来て、遅いと断言するイゾルテ。
彼女は、攻撃を水のように受け流す。
その姿に、言葉に、息切れはない。
この戦場は、互角だった。
そう、思っていた。
「ふっ、遅いか。ならば、こうしてやろう」
闘神鎧が呟く。
刹那、水神の背中に冷や汗が浮かぶ。
目を見開き、前のめりになる。
水神を見下ろす。闘神鎧が、攻撃を変える。
「さらに、遅く……」
「最速からの最遅。かつて技神ラプラスが使った崩しの技術」
闘神鎧の攻撃。
その剣が、遅くなる。
まるでストレートから変化球になるように。
急激に遅くなる。
剣神と鍛えた受けの技術。
復讐を掲げて、死ぬ気で鍛えた技術。
それが、崩される。
「お師匠様も、こんな気持ちだったんですね」
相手は泥沼。
彼女が思い描くのは、かつての水神『レイダ・リィア』
「死んでしまったお師匠様も、こんな感じだったんだ……」
かつて、泥沼に一人時間差のストーンキャノンを喰らったレイダ。
崩しを喰らった元水神。
イゾルテは、その光景を思い描く。
そして、流れ出すのは自身の未来。
次は、自身が崩しで死ぬという事実。
「……お師匠様と同じ?私は、本当に同じなの?」
0.1秒にも満たぬ世界で、彼女は過去を振り返る。
水神になった道。復讐を選んだ道。
そして、エリスを見つめて歩んだ道。
そんな道を終えて、イゾルテは、歯を食いしばる。
(お師匠様は強かった、無敵の剥奪剣界があった)
お師匠様と同じ水神として。
自身にあるものを探す。
いや、違う。
そんなものは、探すまでもない。
エリスを見て、修行をした自身の道は、これしかない。
『基礎技術』
「ぐっ!!!」
刹那、イゾルテが踏み止まった。
崩されて前のめりになった身体を無理矢理起こし、上を向く。
バリバリと光る雷に対して突っ込み、肘の柔らかさを使って受けに行く。
ガン!!!
「我の攻撃を、そこから切り返すか……」
バリバリと光る二種の剣。
それを受けて、イゾルテは言葉を放つ。
「あぁ、みっともない。本当にみっともない」
歯を食いしばって、力んで受ける。
その姿は、力を抜いて受け切る綺麗な水神流とは程遠い。
「あー、今の私。あの獣、エリスみたいで本当にみっともない……だけど」
少量の雷を身に纏って、前を向く。
顔が陰から姿を現し、陽にあたる。
綺麗な、綺麗な顔。
そんな顔は、イゾルテの顔は、笑っていたんだ。
「私は、あの獣のおかげで生きてる」
「……」
笑うイゾルテ。
彼女は、受け切る。
闘神鎧の崩しを、緩急が付いた攻撃を受け切る。
決して無駄ではなかった修行。
彼女は証明する。
そして、その証明は、あの闘神鎧が目を見開くほどの姿。
「最速が遅いとはいえ、あの緩急を受け切るか……」
技神の技術を受け、捌き切る。
まるで神の技。
彼女は、水神という名に誇りを持って、笑う。
それほどの自信と修行。
しかし、その笑みは、すぐに消えることになる。
「だが、浅いな」
浅いという言葉。
刹那、水神が目を見開く。
闘神鎧の力。
奴が、見せつける。
「我の狙いは、貴様ではない」
言葉と同時、奴がステップを踏む。
右にニ回のステップ。
水神から離れる。
ここに来て、露呈する水神の弱点。
追えないという致命的な弱点。
これは、基礎技術を極めたイゾルテでは、改善できない弱点であった。
「狙いは私じゃない?なら、誰が……」
「受けよりも大切な要。破壊力を持つ貴様らの希望」
ステップを踏んで水神から離れる。
そこに居るのは、一人の獣。
『エリス・グレイラット』
「終わりだ」
雷剣が赤い髪に近付いていく。
最速の速さで近付いていく。
そして、それを、獣は受け切れない。
ガン!!!
鳴るのは大きな金属音。
刹那、エリスの身体に走る雷。
「ぐっ!!!」
「痺れて、終わりだ」
歯を食いしばるエリス。
破壊力を持つ要。
そんな彼女が、終わる。
「ぐっ、ぐっ!!!」
ビリビリと光るエリスの身体。
それほどの雷。
それを受けて、彼女の身体が痺れる。
「エリス・グレイラット。まずは、貴様から殺してやる」
二発目の剣。
それを、エリスの脳天に目掛けて振り下ろす。
金色の鎧に雷を映し、エリスを殺さんと振り下ろす。
死ぬ、死んでしまう。
誰もが、そう思う。
しかし、そんな思いは、エリス・グレイラットによって簡単に裏切られる。
ドガン!!!
「まだ、終わらせないわよ」
左の掌を握りしめて、彼女は殴る。
二年前のように。否、それ以上の覚悟を込めて殴る。
「ルーデウスと一緒に……」
覚悟と愛情。
それに技術を込めて、この言葉を。
「生きるんだから」
握り拳が向かった先。
それは、エリス・グレイラットの頬であった。
─────────────────────────
『エリス・グレイラットの自傷』
これを見た闘神鎧は、何も驚かなかった。
身体の麻痺を自身の身体を殴ることで解消する。
痛みで、覚悟を証明する。
この異常に、闘神鎧は驚かなかった。
何故なら、知っていたから。
闘神鎧は、二年前に見ているのだから。
「自傷か。やはり、貴様は成長していない」
かつて、自らの足を切ったエリス。
闘神鎧は、その姿を思い出し言い切る。
「ダメージを負うという非合理性。やはり、貴様は弱い」
「……」
腫れている左の頬を見つめて、闘神鎧が呟く。
麻痺を解消したのは単なる時間稼ぎ。
そう呟きながら、再度剣を振るう。
近付く死。
この事実。
しかし、この事実は、エリスが一人だった場合。
「やっと、ボクも戦える」
エリスに近付く少女。
最速で魔術を掛ける白髪の女の子。
「ボクも、救うよ」
とてつもない速さで治す。
白髪の少女が施すのは、最上級の治癒魔術。
「ルディとエリスは、ボクが救う」
エリスの傷を治す。
最速の集団戦に合わせる。
これほどの技術。
そんなことが出来るのは、ただ一人。
「シルフィ、戦うわよ」
「うん、任せて」
『シルフィエット・グレイラット』
彼女の回復が、この戦いを奮い立たせる。
─────────────────────────
練りに練った集団戦。
そこに、ニナの姿はなかった。
彼女の最速と呼べるスピード。
それほどの速さは、剣技では使わなかった。
「エリス!!!これで良いんでしょ!」
コクンと頷くエリスを見つめて、ニナは得意げに笑う。
彼女の脇には、白髪の少女が一人。
「シルフィエット!私がアンタの足になるから、治癒魔術は頼んだわよ!」
「分かってる!」
脇に抱えて、走り回る。
プライドを捨てて、逃げに特化する。
しかし、そのダサさこそが、この戦いの要。
「そう、来たか」
戦闘を先読み出来る闘神鎧。
奴が、感嘆の声を挙げる。
(治癒魔術の発生が速い。唯一泥沼が出来ぬ無詠唱の治癒魔術。それを、奴は可能にしている)
シルフィはすごい。この言葉が真実だと皆が痛感する。
修行によって速くなった治癒魔術の生成スピード。
そして、その技術を最大限活用する技術こそが闘気。これを纏うことで動体視力を上げ、速い動きをする味方を確実に回復する。
これを可能にするお嫁さん。
彼女は、強い。
しかし、それだけではない。
(だが、それだけでない。鬱陶しいのは、やはり奴)
闘神鎧が見つめる先。
そこには、最速の破壊力で剣を振るう獣が一人。
(同じ自傷だが、二年前とは異なる自傷。奴は麻痺を解除し、初級治癒魔術で治せるギリギリの自傷を選んでいる)
針の穴に糸を通すほどのギリギリの塩梅。
魔術を勉強し、雷の威力を理解し、治癒魔術の回復を、愛情を受け続けてきたからこそ出来る技。
地味だが、強い。
決して、今までの道が無駄ではなかったと。そう言えるほどの覚悟の道筋。
ガン!!!
再度エリスの身体に雷が走る。
しかし、獣の表情は変わらない。
バゴン!!!
「何度でも、やってやるわよ」
剣を振るう合間に、二度の光が彼女を包む。
青白い落雷の光と、優しい緑の光。
二種類の異なる光が、彼女を形成する。
魔術の理解度を頂点に極めて。
シルフィの回復を最小限に抑える。
それにより、シルフィは、さらなる高みへと至る。
「ルディはすごいよ。ボクには、あんな魔力量はない。でもね……」
さぁ、始めよう。
救いを求める第二ラウンドを。
「初級なら、ボクでも、魔力枯渇はしないよ」
目を細める闘神鎧。
笑うエリス。
覚悟を決めるシルフィ。
物語は佳境へ。
救いと愛情が織り成す対決は、まだまだ始まったばかり。
─────────────────────────
「俺は、本当にダメだ」
速すぎる集団戦を見つめて。
一人の男が呟く。
「本当に、俺はダメな親父だ」
親父。彼の名は『パウロ・グレイラット』
彼が、シルフィとエリスを見つめて呟く。
「ルディの嫁があんなに頑張ってんのに。死ぬ気で戦ってんのに、俺は何も出来ねぇ……」
何も考えず、怒りに身を任せてヒュドラに襲いかかった過去。
彼の頭には、その光景が浮かぶ。
それと同時、浮かぶのは足手纏いという言葉。
突っ込みたい。ルディを助けたい。
そう思って、今回も突っ込むのか?
不安と悔しさ。
彼は、分かっていたんだ。
「俺じゃあ、ルディに何もしてやれねぇ……」
瞳を潤ませ、佇む。
しかし、その涙は、すぐに乾くことになる。
「いや、ちげぇだろ」
剣を握る。
彼もまた、覚悟を決める。
「出来る、出来ないじゃねぇ。やるかやらねぇかだ」
前を向いて、戦闘を見つめる。
彼は、出来ることを『探す』
「俺は、俺は……」
家族として、たった一人の親として。
彼は目を見開き、この言葉を置いて行く。
「ルディ。お前の、親父になるからな」
救いを求める最終戦。
新たな要になるのは、一体誰か。
勝敗予想 勝つのは?
-
闘神鎧ルーデウス
-
狂犬&グレイラット家