もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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狂犬VS闘神鎧 その3

人族は、最強を超えられる。

それを証明するために、家族は剣を振るう。

 

「ここまで、来た」

 

剣士が剣を振るい、シルフィが回復し、赤い髪が決める。

そう、赤い髪。人族最強のお嫁さん、エリスが決める。

 

「私は、私たちは……」

 

さぁ、始めよう。

正真正銘最後の勝負を。

 

「ルーデウスを、救える」

 

『救う』という覚悟ではない。

未来を見据えた『救える』という言葉。

救うことが出来る。エリスは、そう信じて剣を振るう。

 

しかし、それほどの強さ。可能性を持ってしても、現実は無情。

 

「舐める、なよ」

 

闘神鎧。奴は、簡単な相手ではない。

 

「泥沼の予見眼と我の予測。それを使えば、貴様らの攻撃を防ぐことなど容易」

 

剣を振りかぶって、再度闘気を捻り出す。

その闘気は、恐ろしいほどの量と質。

 

「ここで死に、我の生贄になるのは……」

 

闘神鎧VSエリス。

勝負は、ここから。

 

「貴様だ」

 

物語は大きな山を登る。

闘神鎧という山に挑む、ルーデウスを愛する者たち。

愛情が支配する戦い。それは何を生み、何を成すのか。

 

 

─────────────────────────

 

 

「くっ!俺では、無理か」

 

ルイジェルド・スペルディア。

彼が、苦悶の表情を浮かべる。

 

「俺は、俺では、何も出来ない……」

 

剣神、水神、北神、そしてエリス。

これほどの神と合わせるには、彼ではあまりにも未熟。

彼では、帝級では、足りない。

 

そう、彼は、分かっていたんだ。

 

「俺は、足手纏いなのか?」

 

槍を握りしめ、唇を噛み締める。

自身の力不足を感じ、俯く。

 

しかし、違う。

 

彼の考えは、否定される。

 

「俺が、使ってやるよ」

 

多量の経験を持つ男が、帝級を使う。

 

「ルイジェルド。俺が、てめぇを使ってやる」

 

彼の名は元剣神 ガル・ファリオン。

彼もまた、闘神鎧同様に強者であった。

 

「初動を見て、予測する。合理的だが、甘ぇな」

 

隠密の剣技。

彼は、ルイジェルドの背中へと身を隠す。

 

「俺が殺す。お前の最強の防衛、予見眼。俺が、止めてやるよ」

 

笑って、剣を握る。

彼の神速が、闘神鎧へと襲いかかる。

 

バン!!!

 

爆音と同時。

闘神鎧の関節に、彼の剣が当たる。

 

「お前の予見眼。初動が見れなきゃ、ただの産廃だな」

 

「貴様ぁ……」

 

元人族最強。

彼は、ルイジェルドの背中に身を隠し、初動を見えなくしたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

闘神鎧の関節は弱い。

金の鎧を繋ぐ節目の部分である関節は脆い。

これは、確かに間違いではなかった。

 

「俺は、確かに斬った……なのに、なんでだ?」

 

今までほとんどを一撃で葬ってきたガル・ファリオン。

彼が、目を見開く。

 

「初動を隠す動きは見事だ。それによって、我は斬られた。そこは認めてやる。しかし……」

 

防衛は予見眼だけにあらず。

神と呼ばれる闘神鎧。奴の防御は、全ての人間の想像を絶する。

 

「貴様の、貴様如きの水神流では、火力不足だ」

 

闘神鎧の関節に詰まるのは『土』

そう、泥沼の恐ろしい精度を誇る土。

奴は、闘神鎧は……誰よりも、ルーデウス・グレイラットの力を使いこなしていたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

闘神鎧の考える防衛力上昇。

これは、決して予見眼だけではない。

奴もまた、自身の関節の弱さは熟知している。

 

「関節には柔らかくもクッション性のある土を詰めている」

 

まるでゴムのような、伸び縮むする土を詰めて。

 

「我と泥沼の間には、とてつもなく硬い土のプロテクトを装備している」

 

硬い、とにかく硬い。

圧巻の防御力を誇るプロテクトのような土を闘神鎧は選ぶ。

 

隙のない防御。

それを見て、剣神が叫ぶ。

 

「俺の水神流が弱い……何、言ってやがる。ふざけんじゃねぇよ」

 

自信を失った者による怒り。

それが、闘神鎧へと向けられる。

 

「防御の出力は一割未満だ!ということは防御も一割未満だろ!それに、関節が弱ぇことは変わってねぇはずだ!」

 

正論だと言わんばかりに叫ぶ。

自信に飢えた人間が、自信を取り戻すために叫ぶ。

 

「そして、お前は、殺す魔術は使えねぇ!」

 

剣神が叫んだ。

この言葉の意図は単純。

闘神鎧はここまでストーンキャノンを使わなかった。否、闘神鎧は使えなかった。

気絶させるための雷剣、足止めするための泥沼。

 

ルーデウスを制御しきれていない奴では、ストーンキャノンという彼の奥の手を使うことは到底不可能。

 

だから、使えない。

殺すための魔術は使えない。

 

それこそが、剣神の自信だった。

 

「殺す魔術?そうだな。『我にとっての殺し』それは出来んな」

 

言葉とは裏腹、闘神鎧が笑う。

 

───刹那、空気が変わった。

 

剣神の背中に走るゾクっとするような悪寒。

その背中を撫でるように聞こえてくるのは、優しい声。

 

「シールフィ、水遊びでもしようか」

 

闘神鎧の左の人差し指に集まるのはウォーターボール。

ただの、誰でも使える弱い初級魔術。

しかし、違う。奴が、泥沼 ルーデウス・グレイラットが使えば、その常識は変わる。

 

「そのデカさは、なんだ?」

 

剣神の困惑。

まるで地球のような、とてつもなく大きなウォーターボールが、自信を失った剣神の瞳に映る。

 

「簡単な話だ」

 

闘神鎧の、否、ルーデウス・グレイラットの魔術は、強い。

 

「我と、泥沼にとって……」

 

ウォーターボールを作って、少し笑いながら辺りを見渡す。

闘神鎧が、戦いを終わらせようと声を出す。

 

「この程度、水遊びも同義だということだ」

 

初級魔術、ウォーターボール。

泥沼が遊ぼうと扱えば、それは凶器となる。

 

 

─────────────────────────

 

 

「水遊び……みんな、みんな。水遊び、しようよ」

 

闘神鎧の内側から聞こえてくるのは、優しい声。

その声に、家族が瞳を潤ませる。

 

「ルディ、ルディ……」

 

彼の声は、小さくて弱くて細くて。

笑いながら挙げる悲痛の叫びは、家族の心を動かすことなど容易であった。

 

「ボク、もうやだよ。ルディのそんな姿、見たくないよ」

 

瞳を潤ませて、俯くのは『シルフィエット・グレイラット』

彼女が、綺麗な白い髪を靡かせる。

 

「だから……」

 

潤んだ瞳。同時に呟くのは、この言葉。

 

「もう、戦わないで」

 

彼女の願い。命を賭けた願い。

しかし、そんな願いは、叶わない。

 

「命乞いか……くだらん。ならば、貴様から殺してやろう」

 

命乞いじゃない!そう叫ぼうとする女の子の言葉が、遮られる。

 

「シルフィエット・グレイラット。そして、その足であるニナ・ファリオン……」

 

シルフィとニナ。

二人の戦士が、冷や汗をかく。

 

「貴様らから!我の生贄にしてやろう!」

 

言葉と同時。

刹那、闘神鎧がウォーターボールを整え、二人を捕捉する。

 

 

大きな声を挙げ、捕捉する闘神鎧。

ルディと叫び、愛しの人を涙目で救おうとするシルフィ。

 

この二人。しかし、足りない。

この二人だけでは、戦いは成立しない。

 

「やっと、片腕を塞いだわね」

 

ルーデウスを愛するお嫁さん。

彼女が叫ばなかったのは、単純。

 

「左腕、今のあんたは使えない」

 

ピンチはチャンス。

闘神鎧の左指に浮かぶウォーターボールは、エリス・グレイラットの術中。

 

「今、私はアンタを超える」

 

「エリス・グレイラット……」

 

刹那、闘神鎧がエリスに振り向く。

邪魔だと、我には届かないと声を挙げる。

 

しかし、居ない。厄介な奴は、居ない。

そう、そこに、厄介な獣 エリス・グレイラットの姿は無かったんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

とても、とても静かだった。

闘神鎧が振り向いた刹那の数秒。

 

ヒューという谷の風が聞こえ、サァーという木の葉が揺れる音が聞こえるほどには、とても静かだった。

 

闘神鎧が構える、全員の吐息が溢れる。

お嫁さんの涙が落ちる。

 

ポツン。

 

一滴の雫。

瞬間、物語は動き出す。

 

ドン!!!

 

刹那、爆音が鳴った。

同時、彼女が、エリス・グレイラットが音と共に姿を現す。

 

「倒す」

 

「……」

 

全員が畏怖するほどの踏み込みは、ルイジェルドの背中から。

そう、彼女は、ルイジェルドの背中に隠れ、初動を隠していたんだ。

 

「スピードは、覆すためにある」

 

この言葉は、とてつもなく重かった。

剣神を倒した獣の、速度を覆すための技の数々。

初動を隠すという最上級のテクニック。

それを彼女は、経験ではなくセンスで可能にする。

 

奇抜派に近い動き。

 

エリスは、覚悟を決めて完遂する。

 

ガン!!!

 

爆音が鳴った。

金属音が鳴った。

 

刹那の斬り合い。

 

ガン!という金属音。それは、あり得ないことであった。

 

「なんで、不意打ち出来ないのよ……」

 

ニナが遠目から声を絞り出した。

闘神鎧を見つめて、彼女は目を見開く。

 

答え合わせは、最強の口から。

 

「剣神の猿真似。貴様では、出来るわけがない」

 

出来ない。そう言い切る。ビリビリと光る雷剣は、ウォーターボールを構えていても健在。

光る剣。映るのは、闘神鎧の佇む姿。

 

「殺気が漏れている貴様では、隠密など不可能」

 

ここに来て露呈するのは致命的な事実。

破壊力を差し込む。その事実が不可能であるという恐怖。

 

覚悟が止まる。

ニナも、シルフィも目を見開き、絶望する。

勝てない。誰もがそう思う。

しかし、こんな絶望は、彼女にとってはなんでもない。

 

「その通りね。闘神鎧、アンタの言う通り、私は隠密なんて出来ない」

 

ルーデウスみたいに、上手い騙し討ちは出来ない。

そう言いながら、エリス・グレイラットは笑う。

 

「でも、だからこそ、そんな私だから出来る」

 

二年前とは違う。

彼女は、自信と覚悟を胸に抱く。

 

「囮。私は、最上級の囮になれる」

 

エリスがニヤリと笑った。

刹那、何かが動く。

闘神鎧のゾクっとする予感を遮るように、最速が動く。

 

キーワードは『ニナへの殺気』

 

愛する者を守るために、あの男が動く。

 

「ニナは、僕が殺させない」

 

この言葉の主は、エリスではない。

イゾルテでも無ければ、自信を失い、水神流を扱う元剣神でもない。

自信に満ち溢れた天才。

最速の男『ジノ・ブリッツ』

 

「ニナは、僕が守る」

 

剣を振るった。

あの時と同じ。剣神ガルを倒した時と同じ。否、それ以上のスピードで。

エリスと同様、愛する人を守るために。

 

彼は、今までで一番、命を賭けて剣を振るった。

 

ブン!!!

 

最速の剣が、空を斬る。

 

「……なんで、そうなる?」

 

「我の水神流を、貴様ら如きの物差しで測れると思うなよ」

 

ジノが目を見開く。

鳴ったのは風切り音であった。

そう、風切り音。恐ろしい剣は、闘神鎧には当たらなかった。

奴は、そう。不意打ちを、見てから流してみせる。

 

「……エリス・グレイラット。我は、少し、貴様を侮っていたな」

 

圧倒的な力の差。

奴は、ジノのことは見ない。

空を斬った最速の男のことなど見ない。

それほど、この戦いはエリスのものであった。

二年前とは違う獣。エリス・グレイラットの驚異的な成長。

この事実に、闘神鎧は剣を振り上げる。

 

認めて、その上で殺す。

 

貴様ならば、最上級の生贄になると。

そう呟き、剣を振るう。

 

ウォーターボールと剣。

ここに来て、闘神鎧の攻撃が完成する。

 

「さぁ、終わりだ」

 

ジノが崩れる。

エリスが痺れる。

ウォーターボールと雷剣が、シルフィとエリスを捕捉する。

 

終わる……

 

誰もがそう思う。

しかし、始まった波状攻撃は、簡単には終わらない。

 

「もう、私は間違えません」

 

言葉と同時。

飛び込んでくるのは、かつての英雄。

 

「もう、私は、死なせない」

 

息子を失った男。

『アレックス・カールマン・ライバック』

北神二世が、この戦いを終わらせんと剣を抜く。

 

誰もが認める世界最強の剣。

 

王竜剣 カジャクト。

それを握る彼は、強い。

 

「戦う者を、強い人を、私が助ける!!!」

 

闘神鎧の背後から飛び込む。

エリス、ジノ。そして、アレックス。

 

神級による覚悟の三段攻撃。

 

この攻撃に、闘神鎧は、北神を見つけることは出来なかったんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

剣神がお手本を見せた。

しかし、火力不足で斬ることは出来なかった。

エリスが覚悟を決めて隠密をした。

しかし、殺気は隠すことは出来なかった。

ジノが愛情を込めて剣を振るった。

しかし、そのスピードが通ることはなかった。

 

何も、何も通用しなかった。

 

でも、そのどれもが無駄ではなくて、そのどれもが倒すための鍵だった。

 

だからこそ、この攻撃が、闘神鎧に通用したのだろう。

 

「私が、決める!!!」

 

アレックス・カールマン・ライバック。

彼の覚悟が、息子への想いが、この戦いを揺らす。

それほどの覚悟。闘神鎧の反応は、確かに遅れていた。

 

「狙いは、関節か」

 

剣神の水神流を喰らった関節へ。

軋む関節へ、アレックスは剣を振り下ろす。

 

当たるまで数ミリ。

 

闘神鎧は、覚悟する。

腕が斬られる……

そう考える。

 

しかし、それを、あの男は許さない。

 

「エリスを、守らないと」

 

優しい、優しい声だった。

何かを守ろうとする男の声は、とても優しかった。

 

「ルー、デウス?」

 

エリスが痺れる身体で呟いた。

この言葉に、闘神鎧でさえ目を見開いた。

奴の身体が、恐ろしい速度で180度反転する。

これを命令したのは、闘神鎧ではない。

最強の魔術師。ルーデウス・グレイラットが、闘神鎧に命令する。

 

「カジャクトから、俺が守るんだ。エリスを、シルフィを、ロキシーを……」

 

彼がボヤける頭で考えるのは、かつてルーデウス自身が負けた北神三世の姿。

彼の守りたかった者を襲い、雑魚と罵った北神三世。

彼は、あの剣を持っていた。

 

『王竜剣カジャクト』

 

この剣に、ルーデウスが反応する。

 

「俺が、みんな、みんな、守るんだ」

 

強い、とてつもなく強い意志。

そんな意思が、優しさが、ここに来て裏目に出る。

 

バン!!!

 

爆音が鳴った。

闘神鎧の腕が光を描いた。

 

誰も見えない速度。

そんな銀線が、アレックスの左腕を消滅させる。

 

「ルーデウス。ごめんなさい」

 

エリスが涙を流す。

先ほどまで戦おうとしていた戦士が、膝を崩す。

シルフィのように、瞳を潤ませる。

 

「ルーデウス、ルーデウス……」

 

先ほどとは違う涙。

それが証明するのは『想定外』

そう、エリスの戦術眼を持ってしても、ルーデウスの愛情は想定外であった。

 

「私じゃ、ルーデウスを……救えない」

 

覚悟が終わる。

その姿に、目を見開いていた英雄が叫ぶ。

 

「まだです!!!」

 

アレックスは、エリスの姿を見つめていた。

膝を落とし、絶望する強者の姿。

その姿を、彼は自身の息子の姿と重ねていた。

 

「まだ!私は戦える!!!」

 

失った左腕。部位を欠損しても、英雄の気高さは変わらない。

 

「私は!まだ……「終わりだ」

 

言葉と同時。

アレックスの左腕に入り込むのは、小さな雫。

 

「何故、無くなっている?」

 

アレックスは、再度目を見開いた。

彼の困惑。それは、簡単であった。

 

「何故、ウォーターボールが無くなっている?」

 

左指にあったはずの巨大なウォーターボール。

それが、跡形もなく消える。

 

「圧縮し、小さくしたのだ。アレックス、貴様を殺すためにな」

 

斬れた左腕に入った雫の正体。

血管の中に入り込んだ雫の恐ろしさ。

それが、明らかになる。

 

「圧縮して小さくする?そんなこと、不可能。昔でも、人外でもそんなこと出来る奴なんて居なかった……「ならば、見せてやろう」

 

食い気味に放たれた言葉。

闘神鎧が、アレックスの身体へと指を向ける。

 

「爆ぜろ」

 

ボン!!!

 

言葉と同時。

刹那、アレックスの身体が爆散した。

 

 

─────────────────────────

 

 

「あぁ、あぁ……なんで、こうなるのよ」

 

英雄の身体が爆ぜる。

ニナの言葉にピクピクと動きを見せるのは、生首だけになったアレックス。

 

「これだけ、これだけ努力して、命を賭けたのに……」

 

ニナの膝が落ちる。

それが証明する事実。

それは、恐ろしいほど単純で、恐ろしいほど苦しい事実であった。

 

「なんで、勝てないのよ」

 

勝てない、勝てない。

崩れたのは、最上級の集団戦。

 

バン!!!

 

雷剣が再度走った。

その剣は、ルイジェルドを捉える。

 

「ぐっ!!!」

 

痺れた。

雷が、彼の身体を走った。

 

「二人目」

 

飛んでいった。

まるで棒切れのように。

ルイジェルドは、爆音と同時。音よりも速く岩壁にぶつかった。

 

もう、無理だった。

人族の全てを賭けても、無駄だった。

 

「嫌だ、嫌だ。負けたくない」

 

小さな言葉が響いた。

最悪の戦況に、何かが揺れた。

その正体は、白い髪。

彼女は、絶望するエリスと、そして愛する人だけを見つめていた。

 

「ルディを救えない。ルディに辛い想いをさせるなんて……」

 

拳を握りしめる。

彼女は、唇を噛み締める。

 

「嫌だ!!!」

 

刹那、彼女は走り出した。

英雄とスペルド族に向かって。

 

「まだ、ボクは魔力枯渇はしていない」

 

なんのために修行をしてきたのか。

付けた力の使い所を、証明せんと走り出す。

英雄とスペルド族を救おうと走り出す。

 

「まだ!ボクはルディを救える!!!」

 

幸せだった日々を思い出して、走る。走る。

闘気を練って、走る。

ルディと、また生きるために走る。

しかし、その走りは、覚悟は、無謀だった。

 

「焦ったな。シルフィエット・グレイラット」

 

ニナに抱えられず、独断の走り。

そして、気持ちに任せた回復。

この動きは、安直であった。

 

「逃げ場が決まっている獲物。それほど殺しやすい物はない」

 

再度、闘神鎧の左指に集まるのはウォーターボール。

奴の水遊びが、家族を捕捉する。

 

「今度こそ、終わりだ」

 

生首だけのアレックス。

ゴホッと血を吐くルイジェルド。

そして、目を見開き、立ち止まるシルフィ。

 

その全てに、水の球体が襲いかかる。

 

死ぬ……誰もがそう思う。

 

しかし、そんな時、戦いは始まりを迎えるんだ。

 

ザン!!!

 

目を閉じるシルフィ。

そんな彼女の目の前で、ウォーターボールが弾ける。

 

「お久しぶりですね。闘神鎧 泥沼のルーデウス・グレイラット」

 

「貴様は……」

 

シルフィの前に立つのは、英雄。

いや、違う。これから英雄になる男の姿。

 

「英雄に、なりにきました」

 

彼の名は『アレクサンダー・カールマン・ライバック』

北神三世が、ウォーターボールを斬った木の棒を、ただの棒切れを捨てる。

 

「父上。カジャクト、お借りしますね」

 

爆散した父 アレックス・カールマン・ライバック。

彼が涙を流し、コクンと頷く。

大切な息子を見て、彼は瞳を潤ませる。

 

英雄ではなく父としての姿。

それを見たアレクサンダーが、楽しそうに笑う。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

二年前と同じ笑顔。

しかし、違う。

彼の笑顔は、何かが違う。

 

「僕。いや、僕たちが英雄になる物語……」

 

子供のような身勝手な笑顔じゃない。

今の彼の笑顔は、正に傑物を超えた強者の風格。

 

「あなたを超える物語を、始めましょう」

 

復活した北神 アレックス・カールマン・ライバック。

彼の練り出した闘気に、戦場の空気が変わる。

 

 

─────────────────────────

 

 

ポツポツと雨が降った。

誰も気付かないほど、小さな雨だった。

 

「私には、これしかないです」

 

彼女の名は『ロキシー・ミグルディア』

治癒魔術も土魔術も、全て奪われた青い髪が呟く。

 

「私が、ルディのために出来ること。それは、これしかない」

 

戦うことは苦手かもしれない。

才能はないのかもしれない。

 

しかし、彼女は、ルーデウスの師匠は、誰よりも努力家だった。

 

「ルディ。私は、まだ戦えます」

 

絶望はしない。

奥の手は、彼女の想い。

 

「私は、私には……」

 

絶望は早い。

まだ、戦いは終わらない。

 

「この魔術があります」

 

ロキシーの言葉。

刹那、青白い何かが上空に輝きを作った。

 

 

 

 

 

 

勝敗予想 勝つのは?

  • 闘神鎧ルーデウス
  • 狂犬&グレイラット家
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