もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら…   作:あえch

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5月29日 文体を大幅に変更しました。


愛情の、終わりと始まり

 

 

─シルフィ視点─

 

ボクはルディへの愛情に蓋をした。

友達になるって決めた。

 

いつか心の底から『ルーデウス君』と呼べるように。

フィッツとして、彼の友達になれるように。

 

そうやって覚悟を決めた。

 

でも、ボクの身体は言うことを聞いてくれなかった。

 

ボクはルディに後ろから抱きつかれて。

胸をふにゃふにゃと揉まれて。

 

図書館で、ルディの腕の中でビクビクと震えてしまった。

 

ボクは、愛しの人の前で……イってしまった。

 

 

─────────────────────────

 

 

きっと、お似合いの夫婦というのはこういう関係を言うのだろう。

 

エリスが魔王を斬る。

そんな彼女にルディが抱きつく。

 

二人で喜びながら夢に近付いていく。

 

そんな関係。信頼が止まらない尊い関係。

 

ボクはその姿を微笑みながら見てた。

無意識に、自然に笑いながら見てた。

 

笑うボク。

そんなボクの心に『嫉妬』は無かった。

 

 

 

あれから少しの時が経った。

ボクは校庭で剣を振るう一人の女性に話しかける。

 

「エリスさん、魔剣の調子はどう?」

 

「エリスで良いわよ!フィッツのおかげで順調よ!流石、ルーデウスが見込んだだけはあるわね!」

 

「そうだね。ルーデウス君に見込まれてたら、嬉しいなぁ」

 

ボクはエリスと仲良くなった。

今までは恋のライバルと思っていた節があったけれど、今は違う。

 

友達のお嫁さん。

そう思って接してる。

 

エリスとはすごく気が合う。

ボクと彼女が好きなルディの話題。

聞いたらなんでも答えてくれる。

 

「ルーデウス君のすごい所が聞きたいな〜」

 

「しょうがないわね!フィッツになら話してあげるわ!」

 

エリスが口を開く。

ボクも彼が好きだから。

目を輝かせて聞く準備。

 

「ルーデウスは、すっごくて、すっごいんだから!」

 

「うん。ルーデウス君はすごいよね」

 

エリスの言葉。すごくて、すごいという言葉。

彼女は興奮しながら話してくれる。

 

エピソードとかは無いけれど、ボクには理解出来た。

 

何故なら、ルディと共に生活してきてボクは毎回驚かされてばかりだから。

 

乱魔にストーンキャノン。色々な技の数々。

顔も性格もカッコよくて、逞しくて。

 

ダメだ、危ない。

またルディに恋しちゃうところだった。

 

「ふぅー」

 

ボクは感情を吐き出すように呼吸をして、心を落ち着かせる。

その姿を見たエリスが言葉を放った。

 

「でも!フィッツもすごいわよ!魔術を剣に纏わせるなんて聞いたことないもの」

 

「そうかな?ありがとう」

 

ボクはお礼を言った。でも、その時。ボクの胸に取っ掛かりができる。

嬉しいのは嘘じゃない。でも違うんだ。魔剣も、ルディがすごいんだ。

ボクはすごくない。

 

彼からスペルド族について聞いたことがある。

ラプラスが呪いを槍に移した。それをスペルド族が受け取った。

 

ボクはこの言葉を思い出しただけ。

もしも、呪いが魔術で剣に移せたら?

そう思って調べ始めただけ。

 

そう、すごいのはルディだ。

 

「フィッツ!じゃあね!」

 

「エリス、またね」

 

エリスがボクに手を振る。

ボクも振り返す。

 

天真爛漫で美しくて。

ボクなんかと違ってスタイルも抜群で。

最高の女性。

 

ボクは願う。

 

末永く幸せになってほしいな。

 

ルディと、一緒に。

 

ボクみたいな気持ちにはならないように。

二人には笑っていてほしい。

 

ボクの頭をルディとエリスの存在が支配する。

支配された頭でエリスと別れて廊下を歩いて。

下を向いて、歩く。

 

そんな時だった。前から最高の友達に声を掛けられた。

 

「あ、フィッツ先輩、探しましたよ!早く、図書館行きましょう!」

 

「る、ルーデウス君。あのさ、その…」

 

「フィッツ先輩、どうしました?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ。図書館行こうか」

 

ボクはルディに言えなかった。

二人で幸せになってね?というボクの気持ち。

なんで言えなかったのか。自分でも分からない。

 

嫉妬はもう無いのに。

それ以外に、理由なんて無いはずなのに。

 

最低なボクは彼に手を引かれて図書館へ向かう。

彼とのいつもの時間が始まる。この時は、そう思ってた。

 

「フィッツ先輩!俺に、背中を見せてください!」

 

「え?」

 

彼の唐突な言葉。

目には気合が入ってて、少し怖い。

困惑するボク。しかし、次の言葉、彼の言葉にボクは安心することになる。

 

「俺はフィッツ先輩の味方ですから!」

 

「味方、そうだね。君に言われると安心する」

 

言葉と同時。ボクは笑って彼に背中を見せる。

何をされるのかな?ルディのすること、少し気になる。

楽しみになっていく心。次の瞬間、最高の温もりがボクの身体を支配した。

 

「フィッツ先輩、サプラーイズ!」

 

「ひゃあ!///」

 

一瞬何をされたのか分からなかった。

彼の腕が背中からボクのお腹に回っていて、彼の吐息がボクの耳を擽る。

 

どうしよう、どうしよう。

ルディの匂いがめちゃくちゃする。

 

なんか、きちゃう。

 

ふぅ、ふぅー。

 

ルディの吐息が聞こえて、ボクの身体が震えだす。

つま先を忙しなく動かして、なんとか興奮を逃して。

頑張って耐える。

 

そんなボクの行動と気持ち。

トドメは愛しの人から。

 

「あれ?フィッツ先輩の胸。え?あれ?」

 

「や、やだぁ///」

 

彼の腕がお腹から胸へ。

確認するように乱暴に揉まれる。

下から横。困惑するような手がボクの興奮を高めてくる。

 

やだ、やだ。友達になるって決めたのに。

だめ、だめなのに。なにか来ちゃう。

 

次の瞬間。ボクの耐えは虚しく散ってしまった。

彼の人差し指がボクの先端に触れる。確認するように、何度も何度も摘まれて。

 

そう、ボクはイってしまった。

 

「んっ!///」

 

ビクッ、ビクッ!

 

身体に力が入って頭が真っ白になる。

歯を食いしばって快楽に耐える。

でも、身体は震えてしまって。

 

全身から力が抜けていく。

足がガクガクする。力が入らない。

 

「あ、あぁ、ルディ」

 

目の焦点が合わない、何も考えられない。

でも、これだけは思った。

 

ルディに、こんな顔は見られたくない。

 

きっと、ボクは今すっごくだらしない顔をしてると思う。

唾液は口の端から溢れているのを感じるし、震えは未だに止まらない。

 

こんな顔を見られて、嫌われでもしたら。

 

ボクは、ボクは立ち直れない。

 

次の瞬間、ボクは必死に逃げ出した。

足腰がガクガクで立てないから。なんとか四つん這いでボクは逃げた。

 

途中、何度も身体が震えた。

そのせいで横にコテンと転んでしまったり、数秒止まったりしてしまった。

 

それでも一生懸命逃げた。

 

ルディに嫌われたくなかったから。

 

逃げ出すボクに余裕なんてなかった。

だから、彼の呟きが聞こえなかったんだと思う。

困惑して立ち止まる、彼の言葉。

 

「勃った」

 

こんな愛しの人の言葉。ボクの耳には入ってこなかった。

 

ボクの最後の勝負。

エリスと魔王みたいなカッコいい勝負じゃない。

ルディと魔王みたいな鮮やかな勝負じゃない。

 

ボクの想いと我儘。

愛情という感情に蹴りを付ける。ボクのカッコ悪い勝負が始まりを迎えるんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

「シルフィ、諦めなさい」

 

「はい」

 

ボクは、アリエル様に全てを話した。

エリスとの関係、ルディとの出来事。

 

友達になりたいのになれないというボクの気持ち。

 

全てを聞いたアリエル様に言われた『諦めろ』という言葉。

ルディと恋人になることを諦めろ。

ボクは、そんな意味だと思ってた。

 

しかし、この言葉の真意はボクの考えている物じゃなかった。

 

「諦めといっても、あなたの考えている物ではありません。シルフィ?聞きなさい、胸を揉まれただけ。それも服の上から触られただけで絶頂してしまうのは普通ではありません」

 

「そう、なんだ」

 

「アリエル様、俺なら出来ますよ」

 

「ルーク、あなたは黙ってなさい」

 

隣に居たルークを置いて、言葉を続けるアリエル様。

 

「それほどの恋情。我慢することは難しいでしょう」

 

「……」

 

「恋情を隠すことを諦めろ。これは、あくまで私の我儘です。あなたが、友達が苦しむのを見たくない。そんな、私の我儘…」

 

「ボクが苦しんでる?」

 

その時、ボクは気付いた。

そうか、ボクは苦しんでたんだ。

アリエル様の我儘を聞いて、この時初めて気付いた。

それと同時に後悔してしまった。

 

苦しんで、苦しんで、ボクが苦しむだけなら良い。

だけど、またルディに迷惑をかけたら。

 

図書館の時みたいにルディのサプライズを無下にしたら。

 

それは嫌だと思った。

ルディを困らせるのはダメだと思った。

 

「私も色々考えました。男子寮で無理矢理襲う作戦、誘惑する作戦。でも、シルフィ?これは違うのでしょう?」

 

「うん、違う」

 

ルディもエリスも。死ぬ気で努力して頑張ってた。

 

だからボクも頑張ろう。

フィッツとして逃げるんじゃなくて。

せめて、シルフィエットとして、ルディと向き合うんだ。

 

「それに、もう学園中で噂になってますよ?」

 

「え?」

 

ボクの困惑。

アリエル様がニヤついてる。

 

「学園の番長と無言のフィッツが抱き合い。その後、荒い息でフィッツが逃げ出した、とね」

 

「……」

 

ま、まさか見られてたなんて。

そうか、図書館だったし。人が居てもおかしくないよね。

 

顔が熱くなる。

真っ赤になるボクの顔。

そんな茹蛸のようなボクにアリエル様が声を出す。

 

「それでは、作戦を開始します」

 

「は、はい!お願いします!」

 

「ふふっ、少し元気になったようで何より」

 

作戦は友達と共に。

ブエナ村の記憶。一度捨てた記憶が始まりを迎える瞬間だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─ルーデウス視点─

 

俺はエリスに土下座した。

フィッツ先輩のこと、図書館での出来事。

 

俺が女の子に抱きついたこと。

 

全て正直に話した。

先輩の絶頂、俺の興奮。

誰がどう見ても不倫の内容。

 

きっと俺は殴られるだろう。

いや、殴られるだけならいい。ボコボコにされるなら全然いい。でも、もしも…

 

『離婚』なんてことになったら。

 

俺は立ち直れないと思う。

彼女と別れたら。そう思うだけでゾッとする。

 

最低でも半殺し。俺は確信していた。

しかし、彼女の、エリスの行動は予測出来ない物だった。

 

「ルーデウス、私から離れるの?」

 

「……」

 

この時のことはよく覚えてる。

彼女が涙目で不安そうに俺を見つめてて。

 

本当に申し訳ない気持ちになった。

 

気付けば俺の口は大きな声を上げていた。

 

「離れたくないです……エリスと離れたくないです!」

 

俺の言葉が空を切る。

エリスは、どんな顔をしてるだろう。

 

分からない。

何故なら、この言葉を放ったと同時、俺は彼女から目を逸らしたから。

 

普通に聞いたら離れたくないなんて。

俺が言うのは、ただの我儘だと思ったから。

 

不安が脳を支配する。

そんな俺に彼女が口を開く。

 

「私、ルーデウスもフィッツも大好きよ。上手く言葉に出来ないけど、本当のこと」

 

「エリス……」

 

彼女の小さい言葉。俺は目を合わせた。

彼女の顔。真剣な眼差しを向けるエリスの顔と視線が合った。

 

不安そうだけど気高い瞳。

彼女は俺の思う何倍も強い。

本当に美しくて強い。

本当に手放したくない。

 

彼女のことで頭がいっぱいになる。

そんな頭を空っぽにするように震える拳が俺の後頭部に乗った。

 

小さな握り拳。

そこから感じる愛情。

 

「私の所に帰ってこなかったら殴るから」

 

「はい、帰ってきます」

 

「絶対、絶対よ?」

 

「はい、約束です」

 

俺は感じていた。

口下手な彼女の帰ってこいという唐突な言葉。

それは、フィッツ先輩とケジメを付けて来いということだ。

 

フィッツ先輩の元に行って、その後何があろうと。

俺はエリスの元に帰ってくる。

 

そうやって、心に決めた瞬間だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

後日、俺はフィッツ先輩からお願い事があると呼び出された。

俺は覚悟を決めて、彼。否、彼女の元へと向かう。

 

あの日の出来事。

我ながら最悪なことをしたと思う。

 

男として生きていたのに女とバレるような行動をさせて。

女の子としての尊厳も奪った。

 

お手本のような恩を仇で返す行為。

 

エリスに半殺しに合わなかった分、先輩に殺されると思い処刑の覚悟を決めていたのだが。

 

「ルーデウス君。この前は、ごめんね?」

 

なんと謝られてしまった。

 

「ち、違うんです!謝るのは俺の方で」

 

「え?え?なんで?ボクが悪いんだよ?」

 

そこからは俺と先輩の謝り合戦だった。

俺が悪い、ボクが悪い。

 

決着の付かない戦い。

結局、仲直りも兼ねて彼女の願い事を聞くことになった。

内容は『ルーデウス君と一緒に花を取りに行きたい』ということ。

 

俺の答えは決まってる。

 

「俺で良いなら、先輩の助けになりたいです!」

 

もちろん了承だ。

断る理由が無い。

 

恩を仇で返してしまった。

取り返すなら、ここだ。

 

「良かったぁ。ルーデウス君、ありがとう」

 

「はい。こちらこそお願いします」

 

安堵するように深呼吸する先輩。

そんな姿が可愛いと思った。思ってしまった。

 

本当に俺はクズだ。

 

でも感情が止められない。

サラにも、リニアにも、プルセナにも揺らがなかったのに。

 

この人には気持ちが揺らいでしまう。

 

だけど、フィッツ先輩は男として生きてる。女の子として扱うことは誰の得にもならないだろう、

 

付き合っても、結婚しても、誰も喜ばない。

 

それが俺の考え。

しかし、俺は思い知ることになる。

 

フィッツ先輩の願いと気持ち。

彼女の正体。

 

これ以上愛情が大きくなることを、この時の俺は知らなかった。

 

 

─────────────────────────

 

 

─シルフィ視点─

 

アリエル様の作戦が始まった。

ルディとの、ブエナ村での出来事を思い出して決めた作戦。

 

雨に濡れてルディに衣服を脱がしてもらう作戦。

 

最初は順調だった。

ルディと一緒に出掛けて、お花を取りに行くフリをする。

ルディと隣で一緒に歩く。

 

後は道中で雨に濡れるだけ。その時、作戦の障壁である最大の課題がボクの前に現れる。

 

「花は崖に生えてます。足元に気を付けてください」

 

「うん、気を付けるね」

 

ルディは迷いの無い行動でボクを先導してくれる。

こう見るとカッコいいと思うと同時。本当に強い、S級冒険者なんだって感じがする。

 

これは気張らないと作戦が失敗しちゃうな。

 

「ルーデウス君、その杖握ってもいいかな?」

 

「もちろん。大丈夫ですよ」

 

彼が杖を渡してくれる。

すごく太い。名前はアクアハーティアというらしい。

満面の笑みで教えてくれた。

 

十歳の誕生日に貰ったプレゼント。

送り主はエリス。彼女の家庭教師をしてたのだそうだ。

 

彼が笑う。

あぁ、本当に二人って仲良しなんだな。

 

ルディも好きだけど、ボクは二人の関係も大好きだから。

ボクは笑いながら話を聞いてた。

 

(そろそろかな?)

 

事前に調べた知識、この奥に洞窟があるという情報。

歩くルディとボク。彼から杖を取り上げた。よし、今がチャンスだ。

 

「赤の塔」

 

ボクは魔道具の指輪に声を出した。

短い言葉。でも大丈夫。

アリエル様から貰った物だ。きっと良い物のはず。

 

ボクの予測は当たっていた。

瞬間、次々に集まる雨雲。ボクたちから太陽を隠すように上空を覆っていく。

 

よし、そろそろ雨が降る。作戦が成功する。

ボクはそう思ってた。

でも違った。ボクはルディを侮ってたんだ。

 

「見た所、恐らく魔力干渉された雨雲ですね。この雨雲は技術で散らすのは難しいので、風魔術で強引に蹴散らしますね」

 

彼がニコッと笑う。

え、強引に蹴散らす?魔力干渉もバレてるし。ちょっと、どういうこと?

混乱するボク。ルディはそのまま言葉を続けた。

 

「敵の妨害かもしれませんが、大丈夫。フィッツ先輩は俺が守りますから」

 

「ちょ、ちょっと待って!雨雲を蹴散らす風魔術なんて聞いたことないよ!?」

 

「あぁ、龍神から瞬時に距離を取れるように修行してるんです。まだ発生は遅いですが。これだけ時間があれば余裕です」

 

「え、え?」

 

ボクは困惑の言葉を呟いて、目を見開いた。

どうしよう、ルディが強すぎる。

そうだった、ルディは龍神を目指してるんだった。

 

彼の手に魔力が集約する。

少し離れたボクの髪がユラユラと揺れる。

 

見ただけで分かるとてつもない威力。

雨雲が散らされちゃう。

 

ボクは記憶を探るように頭を動かす。

ルディの弱点、ルディに勝てる所。

 

そうだ!これなら!

 

「ルーデウス君!ボク、まだ怒ってるんだからね」

 

「ちょ、ちょっと!フィッツ先輩!?」

 

ボクは目の前のルディに抱きついて彼を押し倒した。

ボクもルディも雪の上にドサっと倒れる。

 

ルディは闘気が纏えない。

魔王から聞いたことがある。

 

なら、ボクは彼に近接戦闘を挑む!

 

「図書館のこと、ボク怒ってるんだから!」

 

「あ、すみません。怒って当然なんですが、今は雨が降っちゃいますから」

 

「ぼ、ボクを怒らせると怖いんだぞ!」

 

うつ伏せのルディ。そんな背中に倒れるボク。

彼の匂いを感じながら、ボクはジタバタと暴れる。

恥ずかしさを忘れて一生懸命腕を振る。

 

しかし、ルディはボクの暴れる腕を躱しながら身体を回して、簡単に仰向けの体勢を作ってしまった。

 

そして、その状態で彼が言葉を放つ。

 

「フィッツ先輩、触りますね?」

 

「い、良いけど、胸はダメだよ?」

 

「分かってます」

 

彼の手がボクの肩に触れる。

魔術でも力でもボクはルディに勝てない。

 

でも、作戦は諦めない。

 

(ルディ、ごめんね?)

 

ボクは心の中で謝る。

そして、一つ。我儘を口にする。

 

「や、やっぱりダメ!ルーデウス君に触られると、ポカポカしちゃうから触るの禁止!」

 

「え、いや、でも。この状態、フィッツ先輩が押し倒して密着してるんですが」

 

「そ、それはいいの!」

 

きっと、ルディは図書館の一件で迷いがあるんだと思う。

彼はすごく優しいから、ボクに気を遣う。

 

だから、ボクに無断で触ることはしない。

ボクが断ればルディは触らない。

 

良かった。思わず最初に胸以外なら触っていいって言っちゃったから。

その後に訂正出来て良かった。

 

暴れるボクと諭すルディ。

 

時間が経てば、来る物がある。

 

ポツポツ……

 

「あ、降ってきちゃいましたね」

 

「うん。降ってきちゃったね」

 

雲は雨を含めば途端に重くなる。

いくらルディでも完成された雨雲を飛ばすのは難しいだろう。

 

ボクの予想。この予想は当たっていた。

申し訳なさそうにするルディが立ち上がって、ボクの手を引く。

そして、そのままボクたちは走り出した。

 

良かった、作戦が続行出来る。

 

奥の洞窟に向かって走り出す。

彼にとっては雨宿りの場所。

でも、ボクにとっては戦いの場所。

 

寒さでガクガクと震える。

寒くて死んじゃう。そう言って彼に脱がせてもらう。

 

大丈夫。勇気を出して向き合おう。

 

「フィッツ先輩、脱がしますね?」

 

「うん、お願い」

 

彼は最後まで迷ってた。

お嫁さんを裏切れない。不倫は出来ない。

 

でも、フィッツ先輩のことを凍死させることは出来ない。

 

そう言ってくれた。

 

ルディ、大丈夫だよ?ボクはお嫁さんにはならないから。

 

上着、制服、手袋、靴下。

そして、最後にサングラス。

 

ボクとルディの髪から雫が落ちて、見つめ合う。

彼は気付いてくれた。

 

「もしかして、フィッツ先輩の本名は、シルフィエットという名前ではないですか?」

 

「うん、うん、そうだよ。ボクはブエナ村のシルフィエットだよ……」

 

ボクがシルフィエットと分かった時、ルディは興奮してくれた。

彼も同じ下着一枚。シルフィ、シルフィって言って。

 

汗を掻きながら下着にテントを張ってる。

そんな下着の中で何かをビクビクと震わせてる。

そんな興奮。

 

それでも、ボクが彼に襲われることは無かった。

 

「俺はシルフィが好きだ。すごく、すごく好きだ。フィッツ先輩も好きだったけど、それ以上に大好きになってる」

 

「うん」

 

襲われなかった理由はすごく単純だった。

 

「シルフィは好きだけど、ごめん。俺はエリスを裏切れない」

 

「うん。分かってる」

 

ボクは言葉を呟いて彼の頬に手を添えた。

彼の葛藤する顔がボクの瞳に映る。

 

うん、大丈夫。

やっと向き合える気がする。

ルディと自分自身に。

 

雨に濡れたのは襲われたかったからじゃない。

ルディと、えっちしたかったからじゃない。

 

シルフィって気付いて欲しかったから。

ブエナ村のシルフィエットを思い出して欲しかったから。

 

ただ、それだけ。だから、この時点で作戦は完了したんだ。

 

後は本音をぶつけるだけ。

 

「ねぇ、ルディ?花を取る願い事、変えてもいい?」

 

「うん、もちろん」

 

ボクはルディが好きだ。

でも、エリスも好きで二人の関係も好きだから。

 

シルフィエットとして、この選択をしよう。

 

「ボクを、メイドさんにして欲しいんだ」

 

「メイドさん?」

 

あぁ、やっと言える。

フィッツじゃなくて、シルフィエットとして。

 

大丈夫。これは我慢じゃない。

だから、もう苦しんだりしない。

 

「ボクを、グレイラット家のメイドにして欲しいんだ!」

 

お嫁さんを目指して、友達を目指して。

そしてメイドを目指す。

 

今度は失敗しない。

 

フィッツからシルフィエットになって。

初めての決意は、ボクの新たな夢の始まりだった。

 

 

─────────────────────────

 

 

シルフィエットの結末。

彼女の愛情が幕を閉じる。

 

しかし、忘れてはならない。

 

ルーデウスの目標、龍神 オルステッド。

エリスを守る、守り続ける。そんな目標。

 

学園は、あくまでその為。

その証拠に一人の神は呟いた。

 

「改造されたストーンキャノン、魔術を纏う剣。ふふっ、まさか、ここまで未来を変えるとはね」

 

神の言葉。

着実に進む歩み。

 

足りない、まだ足りない。

しかし、男は泥臭く進んでいく。

その姿は、神でさえ認めていた。

 

「オルステッド。君を殺すのは、ただの……いや、それ以下の屑人間だよ」

 

屑という言葉。反する神の笑顔。

その姿を強調するかのようにドラゴンの咆哮が響く。

 

マナタイトヒュドラ。

奴の咆哮が、未来へと響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今後の戦闘について…

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  • 普通。可もなく、不可もない
  • 分かりにくい。改善してほしい、少なくして
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