TOS-TL~妹令嬢はお兄さまを救いたい~   作:お兄さまファンクラブ名誉会員

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目覚め

「……んっ。朝……ですわね……」

 

 

窓から入る強い朝の陽ざしでセレスは目を覚ました。気を失ったときはドアの前で倒れたので、トクナガがベッドに運んでくれたのだろう。

窓の外を見れば、見慣れた青い空に青い海。いつもと変わらない日常が始まる。

 

 

「お兄さま……」

 

 

ただ一つ変わってしまったのは、愛する兄がもうこの世にはいないこと。しかし絶望していてはいけない。兄の願いを叶えるため、この先も生き続けると決めたのだ。

何故か普段よりも低い視線に違和感を覚えつつも、慣れた動作で服を着替える。そして着替えが終わり食堂に降りると、トクナガが朝食の支度をしているところだった。

 

 

「おはようございます、セレスさま」

「ええ、おはようトクナガ」

「本日もいい朝でございますね。さて、本日のセレスさまの予定でございますが、神子さまがこちらにお見えになるとのことなので、セレスさまも準備の方をお願いいたします」

「ええわかったわ。お兄さまがこちらに来られ……。……え?お兄さまが?」

「はい、お昼ごろにお見えになるそうです」

 

 

死んだはずの兄が自分に会うために修道院に来る。そんなことはできるわけがない。聞き間違いと思って聞き直すが、トクナガから返ってきたのはゼロスがお昼に修道院を訪れるということだけだった。

 

 

「お兄さまが生きてる……?本当に……?」

「せ、セレスさま?勝手に神子さまを……」

 

 

いきなり勝手に兄を殺してしまった主を諫めようとするも、泣き崩れたその彼女が心の底から何かを喜んでいるのを察知したトクナガはそれをやめた。

 

 

「……こほん。さてトクナガ、今日は何年の何月の何日かしら?」

 

 

しばらくして何事もなかったかのように日付の確認をするセレス。目元が赤くなっているが、それを指摘するトクナガではない。

 

 

「本日の日付でございますか?XXXX年の11月1日ですな」

「……そう。ならあの日が来るまでにまだ5年はありますわね」

「セレスさま?」

「なんでもないわ。それで、お兄さまはアルタミラに行く途中でここに寄ってくださるのね?」

「そう聞いております」

「わかりましたわ」

 

 

何故セレスが日付はともかく年を気にするのかを疑問に思いつつも、彼は主の質問に答えた。そして自身の身に何かが起きて過去に戻ったことを知ったセレスは、微妙に冷めて適温になった朝食をとるのだった。

 

 

 

 

 

 

「えいっ!ええいっ!」

「ってセレスさまおやめくださいっ!?どうしていきなり剣の素振りなどをっ!?」

 

 

朝食をとり終えたセレスは、自室に戻るなり愛用の帽子と鞄を身に着けて外へ出た。そして自身の身の丈には明らかに合わない剣を持ち出して素振りを始めた。しかもゼロスから預かったクルシスの輝石を鞄に入れて勝手に持ち出している。

当然慌てるのはトクナガだ。兄が来ると知るなり泣き崩れるし、勝手にその兄を殺してしまうし、挙句の果てにいきなり剣の素振りを始めてしまう始末だ。そもそも身体があまり強くない彼女が無理をすれば、その代償は容易に彼女自身に降りかかる。

 

 

「身体を鍛えるためですわ。淑女たるもの、健康が第一。こうして汗を流すのも淑女の嗜みでしてよ」

「そんな嗜みはございませぬ!?」

 

 

クルクルと宙を舞いつつ剣を振るセレスはそれはそれは美しいものであった。が、理解不能の嗜みとやらで剣を振り回し、しかもその剣筋が微妙に型になっているため、トクナガは混乱を極めていく。彼が意識を手放すのも時間の問題であった。

 

 

「……が。トクナガ起きなさい」

「……はっ!?」

「ようやく戻ってきましたわね」

 

 

トクナガが立ったまま意識を失い、ようやく戻ってきたときには、既に太陽は真上に届くかというところであった。つまり今は正午になろうという時間ということだ。そしてその時間ということは、間もなくゼロスがセレスを尋ねに修道院を訪れる時間になってしまったということでもある。

 

 

「集中しすぎて時間を忘れてしまっていましたわね……。私は急いで身体を清めるので、もし私が出るより先にお兄さまがいらした場合は、全力で引き留めておいてくださいませ」

「かしこまりました、セレスさま」

 

 

なんとか再起動したトクナガはセレスが浴室に入るのを一礼をしつつ見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり俺には会いたくないか」

 

 

概ね予定通りの時間にゼロスは修道院を訪れた。当然、セレスは汗を流すために水浴びをしている。タイミング悪く来てしまった彼は、やはり自分は恨まれているから彼女は面会を拒否したと考える。もちろんそんなことはないのだが。

 

 

「なら嫌われ者の神子さまはさっさと撤退しますよっと」

「お待ちください神子さま!」

 

 

そして諦めて帰ろうとするゼロスだが、トクナガに前を塞がれた。怪訝な顔をしつつも、いつも通りの軽口でゼロスは口を開いた。

 

 

「ちょっとちょっと~。執事ごときが俺さまの前を塞いでいいと思ってるの?いくらセレスの執事でも、あまりこういうことされちゃうと俺さまにも考えが」

「申し訳ありません神子さま。しかしここは通せませぬ!たとえ私の身に何かあるとしても、セレスさまのためならこのトクナガ、命さえも張る覚悟にございます!」

「え……?いや、こんなことでいきなり命張られても俺さまも困るんだけど……」

 

 

ちょっとした軽口で流すはずだったのに、悲壮な覚悟を決めて立ち塞がる執事の姿に困惑するゼロス。そうこうしているうちに、セレスが水浴びから帰ってきた。

 

 

「お兄さまっ!」

「……っ!」

 

 

そして抱き着いた。

 

 

「……は?」

「お兄さまが生きていらっしゃる……っ!よかった。本当によかった……!」

「ちょ、おいセレス……?」

 

 

セレスが自分に抱き着いて泣いている。しかも何故か勝手に自分が殺されている。ゼロスは理解に苦しんだが、それよりも大事なことがあった。そう、周囲には隠してはいるがゼロスは重度のシスコンである。そしてその大事な妹が自身に縋り付いて泣いているのである。彼が怒るのも時間の問題であった。

 

 

「……どこのどいつだ。俺の可愛い妹を泣かせたやつは」

 

 

そう言ってトクナガを睨みつける。彼自身でも驚くほど低い声がでてしまったが、それどころではなかった。しかし、その声に答えたのはセレスであった。

 

 

「ぐすっ。お兄さまですわ」

「……え?」

「犯人は、お兄さま、ですのよ」

 

 

セレスを泣かせた犯人は自分だと聞かされてゼロスは混乱する。知らない間に自分で自分を殺して彼女を悲しませたのである。まるで意味がわからない。

かといって彼女のこの泣き方は、ただ夢見が悪かったとかそういう類ではないのもわかってしまった。

 

 

「ええと……俺、なんかやっちゃった感じ?」

「そうではありませんわ。ええ、そうではありませんのよ」

 

 

そう言って顔を上げたセレスは、彼女が幼かったとき以来、久しぶりに見る最高の笑顔だった。

 

 






振り回しているのはラストフェンサー。

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