TOS-TL~妹令嬢はお兄さまを救いたい~ 作:お兄さまファンクラブ名誉会員
闘技場で連勝し、目標資金が貯まりつつあったある日のこと。謎の仮面少女ことセレスはかなりのピンチを迎えていた。
「ぐぬぬ……。遠距離から物理攻撃なんて卑怯でしてよ!」
「魔法使いに詠唱をさせないのは勝負の基本であろう」
全身を青い甲冑で固めた弓使いが現れたからだ。セレスの戦闘スタイルは、近接系にはフリーズランサーなどの遠距離魔法、魔法系には素早く接近してのスターキャノン。兄と同じくスイッチが効く柔軟な魔法剣士スタイルだったのだが……。
その青甲冑は、ひたすらに遠距離からちまちまと矢を放ち、接近すれば謎の力で背後を取られて後ろから斬られるというガン待ちスタイルだったのだ。
「豪烈!」
「きゃあっ!?」
そして今も背後から強力な矢が飛んできて、セレスは吹き飛ばされてしまった。闘技場で経験を得て本編のときよりも格段に成長しているセレスだが、彼女の体力にも限界がある。こう何度も攻撃を直撃させられてしまえば流石の彼女でも体力がもたない。
「諦めたまえ。私を相手にするには、君ではまだ力不足だ」
「くっ……。信じて送り出した金ぴかに後ろから斬られそうなお声をしていますのに……!」
「金ぴか……???私に金色の服を着た友人はいないのだが……隙ありだ」
「そんなっ!?」
接近して剣を振るうもやはり躱され、さらに後ろから斬られたセレスは……ついによろめき、ふらつき始めた。
「あう……めまいが……」
「すまないが、これで終わりだ」
そしてそれを見た青甲冑がセレスにとどめを刺そうとした瞬間だった。
「くっ、何だこの光は!」
突如としてセレスの身体が光り始め……。
「ふむ……。天使の羽とはなんと面妖な。……だがその不思議な羽を装備したところで結果は変わらぬ。覚悟せよ、空破絶掌撃」
光が収まったとき、セレスの背には緑褐色の羽が生えていた。しかしそれに構わず青甲冑は再びセレスの背後へと回り込んで剣を突き出す。
これが決まってしまえば勝負はつくだろう。絶体絶命のその瞬間、迫り来る剣先を感じながらもセレスは兄から教わっていた必殺技の名前を思い出していた。
『ロイドたちには秘密にしているが、俺には世界一かっこよくて美しい必殺技があるのよ。……だからおまえが心配しなくとも無事に帰ってきてやるさ』
すると彼女を中心として魔法陣が現れて周囲に広がっていく。何故かその力の使い方がわかったセレスは、青甲冑が魔法陣展開の衝撃を受けて怯んでいる隙をついて技の名前を叫んだ。
「……シャイニング・バインドっ!」
「ぐわああああっ!!!」
セレスから放たれた光は青甲冑を直撃して彼を吹き飛ばした。そして吹き飛ばされた彼は闘技場の壁に激突して意識を失った。地道に闘技場で経験を稼いでいた彼女のそれは、青甲冑の彼を一撃で戦闘不能に追い込むに相応しい威力だったのである。
「はあ……はあ……。危ない……ところでしたわ……」
こうして謎の仮面少女から謎の仮面天使少女へと進化(?)したセレスは、今回も無事にシングル戦上級を突破したのだった。
「セーレースー!!!」
「ひっ!?お、お兄さま!?」
なんとか青甲冑に勝利し、控え室に戻った彼女を待っていたのは……心配で激おこぷんぷん丸なゼロスであった。ズンズンと歩み寄って来るのをじりじりと後ずさって逃げるセレスだが、狭い控え室ではそれも限度がある。あっという間に壁際に追いやられてしまった。
「まったく……。セレス、おまえ、俺がおまえに預けた宝珠を勝手に装備してるだろ!」
「……え?」
「あれはおまえが直接身に着けるには危ないから持っているだけにしろ〜!ってあれほど言ったのに~……」
「え?え?お兄さまの宝珠ですか?」
そして壁ドンされたセレスは怒られると思って身構えていたのだが、出てきたのは見当違いで彼女を心配をする言葉だった。
「どこだ!どこに身に着けてる!」
「えっと……お兄さまの宝珠でしたらこちらに」
心配のあまり、周囲の微妙に生温かい視線を一切気に出来ていないゼロス。それに驚きながらも、セレスは素直に鞄からクルシスの輝石を取り出した。
「……は?」
「……え?」
鞄の中から出てきた自分のクルシスの輝石を見て目を見開くゼロス。驚くのは当然だ。天使化はクルシスの輝石を装備していないと起こらない。なのに目の前の彼女はそれ無しで天使化している。硬直するのも無理はない。
そしてそれを見て反応できずに固まるセレス。普段はヘラヘラと笑っているか、デレデレとニタついているかのどちらかの兄が、ポカーンと大口を開けて硬直しているのである。貴族としても神子としてもありえない兄を見て、こんな顔もなさるのね……と思考停止してしまったのだ。
「天使化したセレスマジ天使…………じゃなかった。なんでおまえ、クルシスの輝石着けてないのに羽が生えてるんだよ?」
「え?……あら、そういえばこの羽全然消えませんわね。というかお兄さまはこれが何なのかご存じですの?」
もちろん知っている。天使化はクルシスの輝石を装備し、それを意識すればいいのだが……こんなところでそれを話せるわけがない。
「……ある程度は知ってるが、ここでは説明できねーんだわ。まずは屋敷に戻るぞ」
「ちょ、お兄さま!?」
やむを得ずゼロスはセレスに上着を掛けて羽を隠しつつ腕の中に抱きかかえ……そのまま王都のど真ん中を疾走して貴族街の自分の邸宅へと向かった。
「お帰りなさいませ、ゼロスさま」
「おう、帰ったぜ」
邸宅へと駆け込んだゼロスを出迎えたのは執事であるセバスチャンである。主の突然の帰宅にも動じず、腕の中にいる少女を見てすべてを察した執事は。
「まだお昼ではありますが、ベッドの準備は整えております。いつでもどうぞ」
「違うわ!」
ベッドメイクが完了しているのを伝えるのだった。そして、
「お兄さま……ぽっ」
「おまえも乗るんじゃない!」
「あいたっ!」
セレスがそれに乗っかり、ポコンと頭を叩かれていた。二人が幼い頃のように再び仲良くなったことを知っているセバスチャンは、その光景を見て密かに心の涙を流すのだった。
「さて……とりあえずその羽のことなんだが」
「はい、お兄さま」
そのまま玄関で話すのも……ということで、二人は彼の私室に移動した。
「正直俺にもわからん」
「ええ……?」
しかし勢いで屋敷に連れ帰ったはいいものの、何故彼女の背から羽が出ているのかはわからないらしい。
「おまえが着けてるエクスフィアが何かしてるとは思うんだが……。正直マーテル教で何やってるか俺は詳しくねーからなー。だが羽を消すのに関しては、消えろ〜って思うだけでいいはずだぜ」
「そうなんですの?……あ。消えましたわ」
そこでゼロスは彼の羽の出し入れのやり方を教える。彼に言われた通りに実践してみると、あっさりとセレスの羽は消えてしまった。
「出す時は出ろ〜ってやれば出るが……、まあでも目立つからやるな」
「……?そう言われましても、出ろ〜って思っても出ませんわよ?」
「そうなのか?」
「ええ。まあ無くても困りませんし、問題ありませんけど」
「そりゃそうだ」
話がひと段落したタイミングで古時計が鳴り響く。三回鳴ったので、午後の三時になったのだろう。
「……いい時間だし、お茶でもご一緒にどうですかな、お嬢さま?」
「う~ん……三枚目っぽくてカッコ悪いので、やめたほうがいいですわね」
「んな~っ!?」
ゼロスがカッコイイキメ顔(本人談)でセレスをお茶に誘うも、カッコ悪いからやめろと一蹴、ゼロスはひっくり返った。そして二人は暫くの間、セバスチャンに用意させたお茶を楽しむのだった。
「……そろそろ暗くなってきましたわね。今日は疲れてしまいましたので、私は宿泊先に戻りますわ。お兄さま、ごきげんよう」
その後、お互いの近況を話し合ってるうちに辺りが暗くなってきた。流石の王都でも少女の一人歩きは危険が無いとは言い切れない。完全に暗くなる前にセレスは帰ることに。
「まあ待てって」
「えっと……?」
だが、前をゼロスに塞がれた。
「闘技場はしばらく禁止だ。うちに泊まってけ」
「な、何故ですの?」
「おまえ、隠してるけど身体がボロボロじゃねーか。回復魔法で傷は消せても疲れは取れねーんだぞ?今日もそうだし、この前も緑髪の格闘女にそこそこ苦戦してたし……。いくらエクスフィアを装備してるとはいえ、身体が弱いおまえに無理はさせられねーんだよ」
そう言ってゼロスはセレスを諭す。だが彼女も兄が死ぬ未来を変えたいと願っているので、そう簡単に引き下がるわけにはいかない。
「でも私……!」
「これはおまえの邪魔をするために言ってるんじゃない。……おまえが心配だから言ってるんだ。わかるな?」
「!!!……わかりましたわ」
がしかし、未来の兄と同じ言葉をかけられたセレスは黙るしかなかった。
こうして彼女はしばらくの間、闘技場通いを諦めて身体の疲れを取ることになるのだった。
「あ、そうだ。おまえの宿だけど引き払っておいたからな。荷物とかは部屋に運ぶようトクナガに言ってあるから気にしなくていいぞ」
「……えっ!?」
後日。
「ごきげんようゼロスさま」
「おお~麗しのマダム。元気にしていたかい?」
ゼロスは社交界のパーティーに出席していた。そしてそこで。
「聞きましたよゼロスさま」
「ん~?何をかな~?」
「ゼロスさまって、少女趣味だったんですってね」
「……へ?」
ゼロスはロリコン疑惑を掛けられていた。王都の社交界、そこでゴシップが流行るのは当然であり……それが神子である彼のことならば、これほど面白いものはない。
当然婦人の方もその噂は冗談で、単に妹であるセレスを抱えていただけということをわかっていて言っている。
「先日、幼い少女を腕に抱えたまま王都を走り、自宅へと連れ込んだと存じております。そしてその後しばらくその子をお屋敷から出さなかったとも。
ゼロスさまのご趣味について、私があれこれ言うのもそれはそれでどうなのかと思いますが……。そういったものはあまり褒められたものではないので、早く治したほうがよいのでは?と私は思いますわ」
「……ぐふっ」
「ふふふ。それではまた」
白目を剥いて気絶したゼロスを放って、婦人はにこやかに社交へと戻った。
今日も王都は平和だった。
「アホ神子だねえ……」←教皇の汚職の証拠を超短期間で集めさせられた腹いせにゴシップを流した犯人
Q.青甲冑の人の正体がバレバレ?
A.なに、気にすることはない。
Q.信じていた金ぴかも後ろから斬られそうなお声の人も緑髪の格闘女も全員バレバレ?
A.なに、気にすることはない。