TOS-TL~妹令嬢はお兄さまを救いたい~ 作:お兄さまファンクラブ名誉会員
短いと思って文字数を増やすと遅れる。難しいところ。
では本編をどうぞ。
「セバスチャン、アルタミラに行ってくる」
「かしこまりました、ゼロスさま」
「あら、もうそんな季節でしたのね」
宿泊していた宿を神子さま権限で勝手に引き払われていたセレスは、ゼロスの邸宅から闘技場へと通っていた。そんなある日のこと、ゼロスはアルタミラへと出かけることにしたらしい。といっても今の季節はもう秋。雪嫌いの彼が冬の間は毎年そこへ向かっているのは周知の事実である。
だがセレスはまだまだ身体を鍛えるために闘技場へと通う予定なので、アルタミラへと向かうことはできない。なのでセバスチャンたちと共に彼を見送ることにした。
「私は鍛錬があるので一緒には向かえませんけど……。お兄さまはお気になさらずに楽しんできてくださいませ」
「はあ?セレス、おまえ何言ってんだ。おまえも一緒に来るんだよ」
「……私もですか?アルタミラには興味はありますけれど、ビーチに出るのはちょっと……」
しかしゼロスはセレスにおまえも来いと言う。
セレスとしては彼についていくのはやぶさかではない。しかし彼女は肉体年齢こそ13歳だが、中身はもう18歳。貴族の淑女として肌を露出することにはそれなりに抵抗がある。
「ま、そう言われると思って」
「そうですわよね」
「俺が勝手に準備しておいたんだけどな」
「えっ?」
「備えあれば嬉しいな!ってね」
じゃじゃ〜ん!とゼロスが取り出すはスクール水着。ご丁寧に『せれす』とひらがなで名前まで書いてある。
「は?……は?」
「だいたいのサイズはトクナガに頼んで合わせて貰ってるし、名前もちゃんと書いてある。これで安心だぜ!だ~っはっは!」
「……(ブチッ)」
「「……!?」」
あまりにもふざけている。18歳の淑女に向かって名前付きのスクール水着を着ろは羞恥プレイですらない。いくらブラコンのセレスといえども堪忍袋の緒はある。そして今回はそれが切れてしまったようだ。
セレスの雰囲気が変わる。身の危険を察知したセバスチャンとトクナガはササッと避難した。すると部屋に残るのはゼロスとセレスの二人だけである。
怒ったセレスの背から緑褐色の羽が現れ、彼女の足元からは白い羽を形どったマナが溢れ始めた。天使術の兆候だ。
「……その御名の下、このすけべな魂に裁きの光を降らせたまえ」
「頬を染めて恥ずかしがるセレス……イイ!それだけで飯が何杯も……ん?んなーっ!?ちょ、おまセレス!?それはマジでヤバいって!!!」
「裁きの光よ!ジャッジメント!」
「ぬわあああああっ!?」
スクール水着を着させられ、恥じらうセレスを妄想していたゼロスはそれに気づくのが遅れ……慌てて止めに入るも間に合わず。逃げ場のない狭い部屋で行使されたジャッジメントは、ゼロスに全て直撃した。
「じょ、冗談だったのに……ガクッ」
「流石におふざけが過ぎましてよ、お兄さま」
ゼロスは力尽きた。
セレスは"ジャッジメント"を習得した。
「俺さまふっかーつ!」
「はあ……。結局、来てしまいましたわね」
その数日後、アルタミラには兄妹揃っての姿があった。ゼロスに頼み込まれたセレスが割とあっけなく陥落した結果だ。大好きなお兄さまと一緒に旅行ができて内心ウッキウキなことをセバスチャンもトクナガも気づいていたが、それを指摘するなどといった野暮なことをするはずがなかった。
用意された水着に着替えたセレスがビーチに向かうと、ゼロスは既に着替え終わっており、砂浜にパラソルを立てているところだった。何故神子である彼がわざわざそんなことをやっているのかと問われれば、セレスのために自分でやりたかった、というだけの話だ。
「おう、セレス。よく似合ってるぞ」
「ありがとうございます、お兄さま。お兄さまは……」
セレスに気づいたゼロスが彼女を褒め、セレスもゼロスの姿を前から見て……固まった。後ろ姿ではわからなかったが、なんと彼はグラサンにブーメランパンツスタイルだったのだ。
「えっと……。お兄さま、何なのですか?その格好……?」
「男で海と言ったらこの水着なのよ」
「へ、へぇ……?そうなんですのね?」
ダサい。あまりにもダサすぎる。それはセレスとのデートを邪魔されないように、神子である彼に近づいてくる輩を排するためであったのだが……。
「……噂とかされたら恥ずかしいので、近づかないでくださいませ、お兄さま」
「だあーっ!?」
同じく貴族令嬢であるセレスにも受け入れられるはずはなかった。スゥ……と彼女に距離を取られ、ゼロスはひっくり返ってしまった。
「冗談はさておき、よく用意できましたわね。私に似合いつつ、ちょうどいいサイズのものを」
セレスがトクナガから渡された水着は、彼女にぴったりのサイズかつ肌の露出が非常に抑えられたものだった。彼女の要望と寸分の狂いもないそれは、いったいどこからこんなものが出てきたのかという点以外は完璧なものだった。
「ああ、それ俺が発注した一点物だから。前にも言ったようにだいたいのサイズはトクナガに聞いてたからな。それで作っておいたのよ」
「ああ、あの時の……。なるほど、そうだったんですのね」
なんと水着は一点物だった。
アルタミラのホテルのレンタル品は、下品ではないものの肌の露出が激しいものばかりであり、それを着るのはセレスが嫌がるだろうというゼロスからの配慮だ。
……実際には、そんな派手な水着のせいで妹の肌を他の野郎共には見せたくないという彼の独占欲の賜物なのだが……言わなきゃバレないし、バレなきゃ犯罪じゃないのである。
「んじゃ行こうぜ」
「はい、お兄さま」
ゼロスはセレスに手を差し出し、彼女をエスコートして海へと向かう。こうして二人は楽しくビーチでの時間を過ごしたのだった。
その夜。
「どうしてそこで滑るんだ!おかしいだろその滑り方は!?」
「……お兄さま、まだやるんですの?」
二人はカジノへと来ていた。なおこの通りゼロスは思い切りスッている。10万ガルドがあっという間に溶けてしまったようだ。
「ここで引いたら完全敗北じゃねーか!小当たりさえ来ねえとかおかしいってレベルじゃねーぞ!おまえもそう思うだろ!?」
「知りませんわよ、その小当たりとやらが何なのかも」
発狂しかけるゼロスにセレスは呆れるしかない。修道院に軟禁状態だったためにカジノのいろはのいの字もセレスにはわからないが、ゼロスが爆死したということだけはわかる。
「ええい!こうなったらヤケだ!とことん戦ってやるからな!セレス、おまえちょっとここで座っててくれ。俺は追加のコインを買ってくる!」
「ええ……?今日はもうやめたほうが」
呆れ顔のセレスの横で、ゼロスは懐から何かを取り出した。
「俺さまの本気、見せてやるよ……!くらいな!〇天カードマン!」
「あ、ちょっとお兄さま!?……もう、仕方ないお兄さまですわね」
それは禁断の魔法のカードだった。完全に茹で上がったゼロスは、それを片手に追加のコインを購入するためにフロントに向かってしまった。
放置されてしまったセレスは、仕方なくゼロスが座っていた椅子に座ると、せっかくなのでと1枚だけスロット台にコインを入れてみることにした。
「ここにコインを入れて、レバーを引けばいいのですわよね」
ゼロスがやっていた通りにコインを入れてレバーを引くと、リールがぐるぐると回転して絵柄が変わっていく。しばらくすると、中央の段の左側に7、続いて右側に7、最後に真ん中に7が揃った。
その瞬間、スロット台はギュインギュインと轟音を響かせながらギラギラと光り、そしてジャララララ!と大きな音を立てながらコインを吐き出した。ジャックポットだ。
「えっ!?ちょ、何ですのこれ!?」
当然セレスは何が起きたのかさっぱりわからない。彼女からすれば、突然機械が壊れたように音を撒き散らしながらピカピカ光っているのである。ゼロスが一度でも当たりを引いていてコインを獲得していたならそれはなかっただろうが、残念ながら今日の彼は完全にカモであった。
「んなーっ!?」
「あ、お兄さま!ごめんなさい、私が触ったらこの機械壊れてしまったみたいで……」
秘奥義『〇天カードマン!』でコインを追加してきたゼロスは、セレスが座っている台から聞こえる轟音で、ジャックポットが発生したことに気づいた。ボロ負けでおかしくなっている彼は、セレスが何かを伝えようとしていることに気づくもそれどころではない。茹で上がった頭が完全に沸騰して、何が何だかわからなくなってしまった。
「よくやったぞセレス!これでマイナスどころか今日の収支はプラスだぜ!」
「えっ?えっ?」
「うひょ〜っ!ここからが俺さまの時代だぜ〜〜〜っ!!!」
「お、お兄さままで壊れてしまいましたわ……」
その後、元の席に座ったゼロスだが……スロットを回すも何故か一切当たらず。コインが尽きかけるたびに代わりにセレスが少しだけ回し、その全てジャックポット、ゼロスのマイナス分を清算するということが起きてしまう。
あまりにも酷い爆死の影響でついにゼロスがひっくり返ってしまい、その間にセレスに交代すると……あっという間にコインケースはコインで溢れかえった。
その結果。
「もうセレスなんて嫌いだ〜〜っ!!!」
「何でですの!?」
哀れゼロスは敗北者になってしまったのだった。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまう。深夜になり、カジノを閉めるとのことでゼロスは景品交換所へと寄っていた。その中の二つを迷わず選んで交換すると、片方を自分の胸ポケットへとしまい、もう片方をセレスへと渡す。
「ほらよ。……完全にセレスが稼いだコインで交換したモノだけど」
「……?なんですの、これ?」
「ひそひそうってアイテムだぜ。これがあれば遠距離でもお互いの声が届けられるんだと」
「はあ……?」
「これでおまえが夜一人で寂しくても安心だな!」
「……もう。私、そんなに子どもではありませんわよ」
言いつつもセレスは鞄の中にそれをしまいこんだ。きっと大事にされるであろう。
「さて、私も遊んでばかりではいられませんわ。まずは素振りから始めますわよ」
「まったく。我が妹さまはアルタミラまで来て真面目だねえ……」
毎日ダラダラと遊んではいられないと、翌日からはセレスは剣の素振りを再開した。
「少しはお兄さまもやったほうがよろしくてよ」
「ええ〜?俺さまそういう面倒なことはやりたくねーなー」
そして彼女はゼロスを鍛錬に誘う。ゼロスとしては彼女と楽しくダラダラと遊んで過ごす予定だったが、その彼女にはアルタミラでも鍛錬すると言われてしまった。
「……最近お腹の周りがたるんでらっしゃいますわよね」
「ぐさっ!……バレてた?」
ここで鍛錬を面倒くさがるゼロスにセレスの痛恨の一撃が入る。今までの社交シーズンではそこそこ緊張感があって油断はしなかったのだが、今はセレスが彼の帰りを待っていてくれている。そのために必然的に安心してだらけてしまっていた。そしてその部分がお腹周りに現れてしまっていたのだ。
彼の普段着はへそ出しスタイルなので、これは非常によく目立ってしまう。彼女に指摘されるのも仕方のないことだった。
「私も毎日やれとまでは言いませんが、あまりだらしないとガッカリしますのよね……」
「ぐふっ」
「私、頑張っているカッコイイお兄さまが見たいですわ」
「……だーもう!わーったよ!俺さまもやりま~す!」
「ふふふ。よろしい」
こうなってしまっては仕方ない。ゼロスはセレスのカッコイイお兄さまであるために鍛錬に付き合うことにする。そしてセレスにバレないよう、彼女の目を盗んでこっそり夜にビーチへと遊びに出かけて過ごすことになった。
なおそのような時には必ずといっていいほど、ビーチに謎の光の柱が降り注いだりしたが……、それは些細なことであった。
カジノでの幸運値
ゼロスくん
:-127
セレスちゃん
: 255
「おいおいおい!俺さま、呪われてるってレベルじゃねーぞ!」
「日頃の行いではなくて?いったい何人の女の人を泣かせたんですの?」
「おいやめろ。この話は早くも終了だな」
次回から、ようやく原作主人公が登場します。